ギンレイホールで観た貴重な一本。

元々は職場の広報誌に掲載されたものだが、新たに一部加筆修正した。

 

監督:パオロ・ヴィルズィ

出演:ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド 他

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「ロング・ロングバケーション」。実はそんなに期待していなかったのだが、非常に楽しめ、最後は深く考えされた。こういうとき程嬉しいことはない。いつものことながら、ギンレイホールに心から感謝したくなる瞬間だ。

この映画を取り上げるに当たっては、医療との関係を少しは意識した。僕は仮にも病院で働く人間なのだ。もちろん医者ではないのだが。

 

かつては大学の教員として文学を教えていた主人公。ところが今では重いアルツハイマーを患っていて認知能力は衰える一方だ。その主人公に40年も連れ添った老妻は、ある日、突然、子供たちにも何も告げずに、キャンピングカーで旅行に出かけてしまう。おんぼろのキャンピングカーを運転するのは重い認知症の夫。彼が愛してやまないヘミングウェイの故郷フロリダを訪ねる1,000キロの大旅行。日本の九州から北海道までより遥かに遠い。

それを知って仰天し、怒りが収まらないのは親の面倒を看てきた長男。どうやっても両親と連絡が取れず、漸く連絡が取れた後も、直ぐに戻って来てという子供たちの願いを全く聞き入れず、はるかかなたのフロリダまでの大旅行に突入。認知症の夫が運転するキャンピングカーには次々と災難が降りかかり、この老夫婦の珍道中は先が思いやられる。

でも何とかこなして、久々の二人だけの旅行に酔いしれるのだが、ことはそう簡単ではない。

そして、実はしっかりしているように見えた老妻も余命いくばくもない末期のがん患者だと分かってくる。認知症の夫と末期がんの妻との二人だけでの大旅行。この老夫婦は一体どうなってしまうのか。

こんなことが実際に実現できたら、何と素晴らしいことだろう。僕も憧れてしまう。

これは実際にはありえない一つの夢物語だが、認知症に陥った高齢者と家族が、どう過ごすのが一番幸せなのか、答えを導き出すのは極めて困難だ。答えは、ほとんどないのではないか。

それでいて、その問題そのものには、誰でもいつも直面している。

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この映画はその一つの可能性を探っているのだが、これが現実にできるとはとても思えない。本当にどうしたらいいのだろう?悩ましい問題である。

 

身体はしっかりしているのに、認知症で物事の判断ができない年寄りと、意識はしっかりしているが、末期がんで余命いくばくもない年寄り。そんな老夫婦のこの未曾有の大旅行はこの先、どうなってしまうのか。

映画では驚きの結末が待っているのだが、その是非も大いに議論を呼びそうだ。

 

それにしてもこのありえない老夫婦の珍道中が滅法楽しい。夫役のドナルド・サザーランドは往年の名俳優。

何と言っても「M★A★S★H マッシュ」で一世を風靡した個性派の名優だが、あの大ヒットテレビドラマ「24」のキーファー・サザーランドのお父さんと言った方が今の若い映画ファンには通じるのだろう。

認知症の老人役を淡々とこなしているが、自ずからかもし出るユーモア感が絶妙。そして妻役はヘレン・ミレン。これまた名女優だ。

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完全なアメリカの映画なのに、監督はイタリアの名匠パオロ・ヴィルジィというのもおもしろい。いかにもイタリアの人情喜劇の雰囲気がアメリカを舞台に立ち上るのは観ていて本当に感動を呼ぶ。

とっても楽しく、ちょっぴり切なくて、最後には大いに考えさせられる絶品だ。

超高齢社会が急速に進むこんな時代だからこそ、一人でも多くの方に観ていただきたいものだ。

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