ギンレイで観た全映画を語る3

シリーズ第3回目。

なお、その都度書かせてもらいますが、この企画は、ギンレイホールでの上映を振り返るだけではなく、ここで紹介させてもらう映画をまだ観ていらっしゃらないという方は、今では映画のソフトをレンタルしたり、購入したりすることで、自宅でも自由に楽しんでもらうことができるわけですから、読者の皆様のそんな映画ライフの一助になればとの思いもあります。

映画ファンの一つの道しるべになってもらえると嬉しいですね。

 

ドンドン紹介とコメントを発信していきたいと思います。まだ13本。今までギンレイホールでは約100本は観ているので、まだ先は長いですね。

久保田支配人、お読みいただいているでしょうか?そろそろ何か簡単なコメントをいただけると嬉しいのですが。

 

さて、お約束のトリヴィアから。

【エピソード2】

前回の1で映画本編に入る前の予告編やギンレイホールのPRについて少し触れましたが、その関連です。

これもまた、偶然一緒になって隣りで鑑賞した語る会の仲間にも話したことですが、ギンレイホールのPRが終わり、本編開映直前に、いつ頃からか、昨日も触れたとおり映画鑑賞に当たってのマナーというか注意喚起のアニメが流れるようになったんです。これは本当にいつ頃から始まったのか?まだ1年足らずかなと思いますが、これが結構おもしろい。

 

これはギンレイホールのオリジナルのものなのか、どこの映画館でも上映されているものなのか全く不明ですが、毎回必ず観ることになるわけです。

映画上映中のおしゃべり禁止、ガサガサ音を立てての食事禁止、後ろから前の座席を蹴ったりつついたりすることの禁止、とごく当たり前のことを呼びかけているのですが、これが動物を模したアニメでできていて、結構おもしろいんです。客席に座ってスクリーンに見入っている動物たちがいて、いつも問題行動を起こすのは小柄なゾウ。被害を受けるのはあれはバクでしょうか。

おしゃべり禁止を呼びかけるときに、スクリーンから映画の音声が外国語で流れています。男女の会話。何を話しているのか僕にはトント分かりませんが、一瞬、男の声で「ゆったりするニャン」と明確に聞こえてくるんです。

これがもう可愛くってたまらない。外国語がたまたまそんな日本語に聞こえるのか、意識的にそう言っているのか、何度聞いても判読できないのですが、どう聞いてもゆったりするニャンです。本当にマッタリしていていいですね。

このアニメ、最後に少しエピローグが付くものと2種類。こちらも楽しんでほしいです。

 

では、スタートします。

 

8 2017.6.10〜6.23

 ◯ はじまりへの旅   アメリカ映画

  監督:マット・ロス

  主演:ヴィゴ・モーテンセン

 

これは実に興味深い映画だった。アメリカの山中、深い森の中で父親が学校での教育を一切拒否して6人の子供たちを男手一つで育て上げている。問題はその育て方。これがとにかくメチャクチャすごい。自給自足の生活を徹底的に教えこみ、狩猟から格闘技、様々なサバイバルまでまるで特訓道場。それだけではなく、極めて高度な学問も父親が一人で教えこむ。そのレベルの高さは半端ではなく、高等数学から物理・化学。文学歴史、哲学まで何でもござれだ。この「英才教育」の甲斐があって特に一人息子の成長が著しい。

でも、超ワンマンの父親は自分以外の教育は頑なに拒否し、親族始め周囲の意見には一切耳を貸さない。

こんなことが長く続くわけもない。子供たちも外部との交わりを求め始め、この周囲から隔絶した森の中での生活が保てなくなるとき、何が起きるのか。この一家はどうなってしまうのか。そもそもどうしてこの父親はこんな殻に閉じこもることになったのか。少しずつ明らかになっていくのだが。

 

僕はこの映画をとても気に入ったのだが、世評は決して高くはなかった。キネマ旬報ベストテンでは何と完全に無視されていて、100位にも上がってこない。それが信じられない。

パンフレットが売り切れてしまっていたのが返す返すも残念だった僕にとっては忘れ難い映画。

 

 

 ◯ マギーズ・プラン

          幸せのあとしまつ  アメリカ映画

  監督:レベッカ・ミラー

  主演:グレタ・ガーウィグ、イーサン・

             ホーク、ジュリアン・ムーア

 

これは正直言って、よく分からない映画だった。

結婚を諦めていたマギーが思わぬ出会いで小説家と恋に落ちて結婚するのだが、その夫の前妻に仕えているマギーは、夫と別れ、前妻とのよりを戻そうと計画を立てる、これがまさしくマギーズプランというわけだ。

まかり間違えればかなり深刻な映画となるところだが、ここには全く深刻さとは無縁の世界が広がり、むしろ戸惑ってしまう。

屈託のない現代の恋愛模様だろうか。 

イーサン・ホークジュリアン・ムーアという実力も人気もある大物俳優を使いながらも、少しインパクトに欠けた感がある。

 

9 2017.6.24〜7.7

 ◯ 淵に立つ  日本映画

  監督:深田晃司

  主演:浅野忠信筒井真理子古舘寛治

 

さあ、遂に来た。これこれ、淵に立つである。

これはものすごい映画。これを観た時の衝撃は今も忘れることができず、僕はこれを作った深田晃司監督を天才と信じて疑わない。

空恐ろしいまでの破格の傑作。ストーリーそのものが先ず空恐ろしい。登場人物はほんの数人しかいないのに、よくぞここまで濃密な映画を作ったものだ。工場経営をする零細企業の一家。一人娘を抱え、特別仲がいいわけでもないけれど、ごくありふれた普通の一家。そこにある日突然、浅野忠信がやってきて、主人はそのまま住み込みで面倒をみることになる。彼は礼儀正しく誠実な人柄で、当初は抵抗を示していた妻も、やがて彼にどんどん惹かれて行くことになる。誤って人を殺してしまったと告白する浅野にも却って好感を持つほどの妻だったのだが・・・。

ところが、ある日突然、想像を絶する悲劇が起きて、浅野は一家の前から姿を消してしまう。残された家族にはどうしようもない苦しみが覆い被さるのだが、浅野の消息は不明。やがて浅野を探し出そうということになり、家族が事の真相と向き合うことを余儀なくされる。

あの時、一体何が起きたのか。それぞれが後ろめたさを感じながらも口に出せない疑心暗鬼。

本当に恐ろしい映画だ。

重要な役回りの浅野忠信は冒頭の15分程度しか出てこないのだが、その強烈なインパクトは後々までのトラウマになりそう。

何でもないワンシーンワンシーン、登場人物の一言一言に背筋が凍りつくかのような衝撃が走る恐るべき映画。こんな映画は観たことがない。下手なホラーなど足元に及ばない傑作スリラー。天才にしか作れない作品だ。

以来、僕はこの深田晃司に大いに注目している。

現在、「よこがお」公開中。これも大変な傑作の予感。観なければ。

 

 ◯ 沈黙 サイエンス  アメリカ映画

  監督:マーティン・スコセッシ

  主演:アンドリュー・ガーフィールド

             アダム・ドライバー浅野忠信

 

これはあの遠藤周作の有名な小説の映画化としてかなり話題となり、傑作との誉れが高かったのでご存知の方が多いだろう。さすがは名匠スコセッシ。素晴らしい出来栄えとなっている。スコセッシが持てる力の全てを出し切った渾身の傑作と言っていい。

 

江戸時代初期、キリスト教が禁止され厳しい弾圧が繰り広げられる長崎を舞台に、そこで布教を進める宣教師と信者たちの過酷な運命を描く。本当に酷い弾圧をしたものだ。目を背けたくなるシーンが続出する。弾圧に屈して信仰を捨てるのか、それが問われることになるのだが。

 

映像の美しさと豪華俳優陣の渾身の演技が観るものを圧倒する。これはどうしても観なければならない作品。映画を観る側の生き様と心の持ちようを問われることになるので、まかり間違っても、決して軽い気持ちで観てはならない。

 

10 2017.7.8〜7.21

 ◯ わたしは、ダニエル・ブレイク

         イギリス・フランス・ベルギー合作映画

  監督:ケン・ローチ

  主演:デイヴ・ジョーンズ他

 

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名作が続々と続く。これはキネマ旬報ベストテンのベストワンに輝いた文句なしの傑作。

ケン・ローチは言わずと知れたイギリスの大監督。これまでも多くの名作を世に送り出してきた。最近のものでは、アイルランドの独立闘争を扱った「麦の穂を揺らす風」が忘れられない。

元々政治色の強い社会派の作品を作り続けてきたケン・ローチだが、今回の「わたしは、ダニエル・ブレイク」もその延長線上にある。

だが、政治色、社会派とは言っても、これはもっと普通に社会で働いている一般市民を描いたもので、問題を大上段に構えたりしないところにとても好感が持てる。

 

ごくごくありふれたどこにでもいる初老の大工を描いているだけだ。パソコンも携帯もまともに使えない一世代前の働き手。心臓の病に襲われて医師から働くことを禁止されている。

彼らにとって現代の社会はいかに理不尽で生きづらく、冷たいものなのかを淡々と描いていくのだが、一々頷けることばかり。この社会で大切に扱われない初老の男が同じように社会に溶け込めないシングルマザーの家族に寄せる優しさに胸が詰まる。

本当にいい映画。主人公はただの被害者的な弱者として描かれるのではなく、反骨精神旺盛な骨のある人物に描かれており、思わず感情移入してしまう。

ここに描かれるのはまさに人間の尊厳と優しさだ。さすがにカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いただけのことはある。必見‼️

 

 ◯ 未来を花束にして  イギリス映画

  監督:サラ・ガヴロン

  主演:キャリー・マリガン

 

これも理不尽な社会と闘った人々の話し。

同じようなテーマで2本を揃えてくるのがギンレイホールなのだ。

イギリスで婦人の参政権を求めて闘った女たちの物語。ちょうど100年程前の実話である。どの時代にもどこの世界にでも、理不尽なことは社会に溢れていて、それに最初に異議を申し立てる人間は必ずや国家権力や周囲の人々から叩かれる。いや、身近な家族からも。

でもそうやってこの社会は前進を続けてきたわけで、やはり胸を打たれないわけにいかない。

女優たちはみんないい味を出していて、声援を送りたくなる。

メリル・ストリープの存在感はさすがだ。

 

11 2017.7.22〜8.4

 ◯ たかが世界の終わり カナダ・フランス合作

  監督:グザヴィエ・ドラン

  主演:ギャスパー・ウリエル

 

これまた興味深い作品だった。観終わった後も妙に心に引っかかり、この映画の持つ雰囲気にいつまでも身を任せているかのような独特の浮遊感みたいな作風に不思議な魅力を感じてしまう。

監督のグザヴィエ・ドランはフランス期待の若手のエース。何とまだ27歳。

確かに新しい感性の持ち主だということは伝わってくる。

仰々しいタイトルの割には、ほとんどまともなストーリーもないような家族の描写。

ガンで余命いくばくもない若い息子が、そのことを家族に告げるために、12年ぶりに実家に帰ってくる。そこでの家族模様が描かれる、ただそれだけの話し。愛し合い、求め合いながらも面と向かえば互いに傷つけ合うしかない一筋縄ではいかないこの複雑な家族のあり方が問われるのだが。

これはもう才気煥発な演出と独特のカメラワークの勝利と言うしかない。登場人物の顔の極端なズームアップが頻繁に出てくる。心のうちをこのズームアップで表現するかのよう。何だか心に引っかかる。確かに新しい力を感じさせる何かがここにはある。

次回作が楽しみだ。

 

 ◯ エリザのために  

         ルーマニア・フランス・ベルギー合作

  監督:クリスティアン・ムンジウ

  主演:アドリアン・ティティエニ他

 

これは何と東欧のルーマニアの映画。ムンジウはルーマニアを代表する世界的な映画監督でカンヌ国際映画祭での受賞の常連。この作品でも監督賞を受賞している。

東欧でもポーランドのように非常に映画作りが盛んで、著名な監督をたくさん排出している国もあるが、さすがにルーマニアの映画というのは僕もあまり知らない。

僕はこのムンジウの最新作を本当に楽しみにしていた。

ルーマニアの医師の主人公には一人娘がいて、父親はこの娘をどうしてもイギリスに留学させたがっている。それはルーマニアから脱出させたいという思いの裏返しだ。元々成績優秀でこのまま普通に行けばイギリス留学は確定なのだが、そんな矢先に悲劇が起きて、娘エリザは最終試験を受けられなくなってしまう。

それを何とか受けさせて、どのような手段を講じても娘をイギリスに送るために孤軍奮闘する父親。それはやがて果てしなくエスカレートして行き、最後には第一線を超えてしまう。そして、遂に司直の手が伸びるのだが。

これは長きに渡って独裁体制を続けてきたチャウシェスクが、例の1989年の東欧革命で殺された後のルーマニアの社会と人々の暮らしぶりが如実に伝わってくる貴重な一本。チャウシェスクの独裁体制が崩壊した後も、社会の閉塞感は如何ともしがたく、どうしようもなく歪んだ社会の現実にやり切れなさがこみ上げる。社会主義というか共産主義負の遺産に今も人々が苦しんでいる様に言葉を失ってしまいそう。

 

ムンジウの演出とカメラワークは愚直なまでの正攻法。登場人物を真っ正面から淡々と映し出すだけ。もう少しカメラを動かすとか何とかできないのかな、と少し苛立ちさせ感じてしまうが、このリズムに慣れてくると、これが中々悪くないのだ。映像技術に頼るのではなく、あくまでも描かれる内容そのものと演技の力で訴えていく。その潔さに好感を抱かないわけにいかない。

 

今回も8本の紹介で何と5,000字を突破してしまった。これでもできるだけ簡潔に書いているつもりだが、感銘を受けた映画、思い入れのある映画はどうしても言葉が多くなってしまう。

ようやく21本の紹介が終わった。全体の5分の1程度。まだまだ先は長い。

引き続きどうかよろしくお付き合いをお願いしたい。

 

続く。