濱口竜介の最新作「悪は存在しない」を観た

濱口竜介の最新作「悪は存在しない」を漸く最近観た。昨年(2024年)公開された新作で、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)に輝き、かなり話題になった作品だ。

濱口竜介は、このブログでも取り上げた「ドライブ・マイ・カー」で国際的に非常に高く評価された注目度ナンバーワンの若手映画監督。

僕は昔からお気に入り監督だったので、「悪は存在しない」のブルーレイが発売されると同時に購入していたのだが、今まで観る機会を逸していて、漸く観た次第。

豪華版ブルーレイのアウターケースの表紙
豪華版ブルーレイのアウターケースの表紙
豪華版ブルーレイのアウターケースの裏表紙。裏ジャケットには当り障りのないことしか書いてない。
豪華版ブルーレイのアウターケースの裏表紙。裏ジャケットには当り障りのないことしか書いてない。

 

これがちょっと特殊な、とんでもない映画だった。

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「悪は存在しない」の基本情報

日本映画 106分(1時間46分) 

公開日 2023年9月4日(第80回ヴェネツィア国際映画祭) イギリス2024年4月5日 日本2024年4月26日 アメリカ2024年5月3日 

企画・監督・脚本・編集:濱口竜介

出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、深谷采郁、田村泰二郎 他

企画・音楽:石橋英子

撮影:北川喜雄 

主な受賞歴:ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞(審査員大賞)・国際映画批評家連盟賞、BFIロンドン映画祭最優秀作品賞、アジア・フィルム・アワード最優秀作品賞・最優秀音楽賞(石橋英子)他

キネマ旬報ベストテン 2024年日本映画ベストテン第3位 読者選出日本映画ベストテン第3位 キネマ旬報ベストテンで読者選出も含めていずれも3位というのは極めて高い評価である。

 

ブルーレイのディスク本体
ブルーレイのディスク本体
アウターケースとブルーレイのケースのジャケット写真
アウターケースとブルーレイのケースのジャケット写真

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どんなストーリーなのか?

長野県の八ヶ岳や蓼科山の麓の水挽町(架空の町、実際には富士見町を舞台に撮影)の大自然の中で暮らす父親と娘の姿。都会の喧騒からはかけ離れた大自然で、不便ながらも自然との共生を図りながら生活する父娘と善良な周囲の町の人たち。

映画の中の1シーン①
映画の中の1シーン①
映画の中の1シーン②
映画の中の1シーン②

 

そんな町にグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍で経営が行き詰まった芸能事務所が政府からの補助金頼みで開発に乗り出して来たのだ。当然、自然、特に美しい水を守り抜こうとする地元住民との軋轢が深まる中、物語は思わぬ方向に展開していく。

豪華版ブルーレイにはかなり立派な別冊解説書が添付されている。その中のⅠページ。
豪華版ブルーレイにはかなり立派な別冊解説書が添付されている。その中のⅠページ。

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音楽家の石橋英子とのコラボレーション

この映画、元々の企画は、「ドライブ・マイ・カー」で音楽を担当した石橋英子が、その後も濱口竜介と交友を深める中で、石橋英子が自身のソロライブ「GIFT」で上映するための映像の製作を濱口にオファー。

濱口が製作した映像を、石橋はベルギーやニューヨークのライブで用いたが、濱口はこの石橋の音楽と自身が撮影した映像を膨らませ、一本の劇映画を作ることになった。

こうしてでき上がったのが「悪は存在しない」というわけだ。

音楽から生まれた映画。音楽家・石橋英子と映画作家・濱口竜介とのコラボレーションが思わぬ問題作を世に送ることになった。

非常に印象的な音楽と映像

僕は石橋英子のことは何も知らないが、この映画の音楽を聴く限り、大変な能力を持った作曲家だと感じた。

現代音楽そのもの。バルトークをもっと現代的にし、まるでリゲティのようにも聴こえる。一度耳にすると忘れ難い響きに心を鷲づかみにされそうだ。

非常に美しいながらも、不安をあおる不気味な音楽で、いかにも深刻な響きが支配している。石橋英子という人は、シンガーソングライターであり、電子音楽やボラム、ピアノ、フルート、パーカッションなどの楽器を演奏するマルチプレイヤーのようだが、この映画の音楽を聴くかぎり、純然たるクラシック音楽の作曲家、現代音楽の牽引者のように思える。

映画の冒頭の10分間ほどは、人間は誰も登場せず、信州の大自然の森林の木々の姿と石橋英子の精妙な音楽が延々と続く実験映画のような趣きだ。

だが、この冒頭シーンが息を飲むほどに美しい

映画の中のⅠシーン③。冒頭の木々の姿。印象的な石橋英子の音楽が被さっている。
映画の中のⅠシーン③。冒頭の木々の姿。印象的な石橋英子の音楽が被さっている。

美しい信州の大自然

八ヶ岳の山麓が本当に美しい。長回しの映像は、石橋英子の音楽で緊張感を伴いながら静謐な美しさで光り輝いている。

信州(長野県)の諏訪郡富士見町と原村でロケが行われた。その時の様子が地元の信濃毎日新聞に掲載された。エキストラが100人も集められたという。

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「寝ても覚めても」が大好きだった

僕は濱口竜介のあの「寝ても覚めても」が大好きだった。2018年の公開なので、もう7年前の作品だ。

「あの」という枕詞を付けてしまうのは、もちろん主演を演じた東出昌大と唐田えりかのスキャンダルがあって、映画界がこの映画のことは話題にしたくない、と封印しているからだ。

本当に不幸な話し。

二人はこの映画での共演がきっかけとなって恋仲となり、東出には杏との間に三人の子供がいたにも拘らず、結局は離婚し、今に至っていることを知らない人はいない。

あの問題の映画「寝ても覚めても」は、濱口竜介が監督したものだった。

不幸な顛末を呼び込んだ映画だったが、この映画は素晴らしい作品で、僕はギンレイホールで観るなり、忽ち心を奪われた。

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改めて監督・脚本の濱口竜介のこと

濱口竜介は1978年12月16日生まれ。まだ46歳の若さであるが、「ドライブ・マイ・カー」で世界中から注目される前から、既に注目されていた。

お気に入りの「寝ても覚めても」は濱口竜介の商業映画の第1作だある。

先ずは略歴を紹介しておく。東大の文三、文学部の卒業。

2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作作品である『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得た。

その後も東日本大震災の被害者へのインタヴュー『なみのおと』、『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』などのドキュメンタリーを作る一方、4時間を超える長編『親密さ』、染谷将太主演の『不気味なものの肌に触れる』を監督。

2015年には『ハッピーアワー』が来る。5時間17分の長編だ。映像ワークショップに参加した演技未経験の女性4人を主演に起用した作品だったが、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞し、一躍、世界に名前がとどろいた。

この後に商業映画第1作『寝ても覚めても』が作られた。

濱口竜介の写真。ネットから転載させてもらった。
濱口竜介の写真。ネットから転載させてもらった。

 

2021年に公開された『偶然と想像』は、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)受賞。

その『偶然と想像』と同じ年に作られたのが、世界中で大絶賛された『ドライブ・マイ・カー』というわけだ。商業長編映画の第2作目であり、濱口竜介自身が村上春樹の原作に惚れ込み、自ら映画化を熱望、脚本も手掛けた。

そして、今回の「悪は存在しない」に至る。

ヴェネツィア国際映画祭での授賞式の様子。向かって左側が主演の大美賀均。当初は運転手というスタッフの一員だったが、濱口から主役に抜擢された。
ヴェネツィア国際映画祭での授賞式の様子。向かって左側が主演の大美賀均。当初は運転手というスタッフの一員だったが、濱口から主役に抜擢された。

世界3大映画祭とアカデミー賞を制覇

世界3大映画祭(カンヌ、ヴェネツィア、ベルリン)とアメリカのアカデミー賞の主要部門で受賞を成し遂げた初めての日本人となる。

濱口竜介が作る脚本と監督作なら絶対に間違いないという確信を抱かせてくれる数少ない映画作家の一人である。

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思わず、大声で叫んでしまった!

さて、今回の「悪は存在しない」。この映画を前にしては、僕は沈黙を貫くことになりそうだ。

感想ではなく、体験談を伝えておく。

まさか、それはないよね?と悪い予感に不安になっていると・・・。

「ええっ!?ホントにか!マジか!?」と思わず大声で叫んでしまった。

映画に描かれた出来事にではなく、映画の作りに仰天。

訳の分からない映画なのである。

謎、謎、謎!

タイトルの「悪は存在しない」を筆頭に、何もかも分からない映画。

ストーリーが分からないわけでは決してない。むしろ非常に分かりやすい話しである。

映画の中のⅠシーン④
映画の中のⅠシーン④

 

だが、なぜこういう展開になるのか?何が起きたのか?何を言おうとしているのか?

全てが深い謎の中。謎のまま、放り出されるように終わってしまう映画。

観ている観客は、謎に包まれて途方に暮れるばかりだ。

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内容については一切語れない!

ちょっと語っても、全てがネタバレになりかねない極めてデリケートな映画なのである。だから内容については、一切語れない。いや、語るべきではない。

この映画は、事前情報やストーリーなどを一切知らないで観た方がいい。

映画の中のⅠシーン⑤
映画の中のⅠシーン⑤

 

何も知らずに、ただ、黙って観るだけ。
僕がストーリーで紹介した部分は、許容範囲内。そこまではいいのだが、それ以上に踏み込むのは一切ご法度だ。

僕もこれ以上は語らない。

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観る人の感性と想像力を試す映画

但し、これだけは言っておこう。

映画で直接には描かれない裏のストーリーがあると考えるしかない。それは観る人の想像力で補うしかない

映画で描かれない部分に何があるのか?

注意深く、棒読みの会話と映像、画面を見つめていると、真実に近づけるかもしれない。丁寧に映像を凝視し、会話をしっかりと咀嚼する。それに逞しい想像力が加われば、答えが導き出せるかもしれない。

映画ファンなら、是非とも観ておくべき大問題作である。

 

☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入をお願いします。

この作品のブルーレイ(もちろんDVDも)が発売されています。ところが僕が推薦する楽天には何故かその商品の取り扱いがない模様。断腸の思い。

アマゾンや店頭で購入してください。4,000~4,500円程度のはずです。

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