目 次
ラモーはフランスが生んだ最大の作曲家
今回はラモーの序曲集を取り上げる。ラモーが作曲したオペラの冒頭の序曲集だ。
ラモーと聞いてすぐにピンとくる人は、バッハ以前の古い音楽がこんなに盛んに聴かれるようになった今日でも、まだそうはいないかもしれない。
フランスのバロック音楽(フランスでは「古典音楽」と呼んでいる)最大の巨匠である。
「ベルサイユ楽派」と呼ばれるフランスのベルボン王朝時代の音楽だ。フランス革命によって打倒されるベルサイユの宮殿に鳴り響いていた音楽で、時代は17~18世紀、正にバロック音楽の最盛期である。
彼らは長いフランス史を通じ、ドビュッシー、ラヴェルに唯一対抗しうるフランスならではの独自の音楽を築き上げた。優れた作曲家がきら星の如く存在するこの楽派の中で、特に有名なのは大クープランことフランソワ・クープランとラモーである。
ドビュッシー、ラヴェルもこの200年も前の大先輩に敬意を表し、それぞれ「ラモー讃」、「クープランの墓」という傑作を残していることは周知のとおり。

ラモーこそこの楽派の最大にして最高の音楽家であり、「もしラモーがドイツに生まれていたのならバッハを上回る作曲家になったであろう」という評価が、その真価をなによりも雄弁に物語っている。
あの大バッハ(ヨハン・セバスティアン・バッハ)より2年年上なだけの完全な同時代人であり、音楽的にもバッハに勝るとも劣らない天才だ。

僕は常々長いフランス音楽史を通じて、最大、最高の作曲家だと思っている。あえて匹敵できるのはドビュッシーただ一人だけではないだろうか。

そんなラモーを僕はドビュッシーと並んで熱愛しており、我が家にはラモーの膨大なCDやDVD、ブルーレイが揃っている。古今東西、最も好きな作曲家の一人である。


そのドビュッシーがラモーが崇拝し、フランス音楽の範としたことは余りにも有名である。
ドビュッシーの名作として良く知られたピアノ作品「映像 第1集」の第2曲めが「ラモー讃」(ラモーをたたえて)。天才は天才を良く知る好例だ。
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ラモーは非常に長命だった
ラモーの正式な名前はジャン=フィリップ・ラモー。1683年9月25日に生まれ、1764年9月12日に亡くなった。極めて長命、亡くなったのは81歳の誕生日直前だった。

音楽家は短命というイメージがあるが、それはモーツァルトやシューベルト、ショパンのイメージが強過ぎるからで、バロック音楽の大作曲家たちは、16~18世紀という大昔ながら、天寿を全うした長命な作曲家が珍しくない。
バッハのちょうど100年前に生誕した「ドイツ音楽の父」シュッツはドイツ三十年戦争という未曾有な不幸な時代を体験しながらも87歳で亡くなるまで作曲し続けた。我が愛するモンテヴェルディも享年76歳。テレマンも86歳だ。
そのいずれもが、単に長生きしただけではなく、死の直前までバリバリ作曲を続けていたのだから、頭が下がる。あの時代にあって信じ難いことだ。現代の感覚で言えば、軽く100歳を超えて活躍し続けた感覚ではなかろうか。
シュッツ 87歳
テレマン 86歳
ラモー 80歳
モンテヴェルディ 76歳
ヘンデル 74歳
ドメニコ・スカルラッティ 71歳
【参考までに近現代の作曲家で長命だった人は】
リスト 75歳
ワーグナー 70歳
ヴェルディ 88歳 最後の大傑作「ファルスタッフ」は80歳の作品
ブルックナー 72歳
ヤナーチェク 74歳
サン=サーンス 86歳
フォーレ 79歳
リヒャルト・シュトラウス 85歳
ストラヴィンスキー 89歳
※ ロッシーニ 76歳 但し、37歳で作曲を中止。これは音楽史最大の謎だ。
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フランスバロック音楽の最後を飾る大天才
ラモーに話しを戻す。
亡くなった1764年に注目だ。フランス革命勃発の25年前である。
ラモーはフランスバロック音楽の大巨匠であるが、やがてフランスでは大革命が起こり、国王や貴族のための音楽は排斥され、フランスバロック音楽は衰退していくので、ラモーはフランスバロック音楽の最後を飾った作曲家という位置付けになる。その最後に空前の天才が現れたわけだ。


クラヴサン(チェンバロ)の大家として魅力この上ない珠玉の作品を多数残しているが、ラモーの本領はオペラにある。
ところが初期の4作品(「イポリトとアリシ」「カストールとポリュックス」「ダルダニュス」、そしてオペラ=バレの「優雅なインドの国々」)ばかりが知られ、生涯を通じ29曲ものオペラを作曲したことは意外と知られていない。

古楽隆盛の頂点を極めた今日、ラモーのオペラが続々とCD化、あるいはりはDVDやブルーレイで映像化されているが、そのいずれの作品も初期4部作に勝るとも劣らぬ傑作ばかりだと、実際に耳や目で確認できるようになった。この20年余りのラモーの復活と演奏の向上ぶりには驚嘆させられる。
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恐るべき大器晩成の作曲家
初期のオペラ4作品というが、これはオペラを作曲し始めての初期という意味であり、作曲家としてのそれではない。
ラモーが最初のオペラ「イポリトとアリシ」を作曲したのは何と50歳。その音楽は当時、大変な衝撃と驚愕を与えたという。

それ以降80歳で死ぬ直前まで、ラモーはひたすらオペラを作曲し続けた。老齢期に入ってからの30年間で約30本のオペラを残し、その全てが傑作なのだから、恐れ入る。
これは長い音楽史を通じても極めて稀なことだ。比肩すべきは、晩年になって一挙に創作力を爆発させ、屈指の名作オペラをいくつも残したわが愛するヤナーチェクぐらいなものか。

大器晩成だったのだが、長寿を全うしたことで、かなりの量の作品が残されたわけだ。この幸運に我々も感謝しなければならない。
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驚嘆すべき音楽ばかりが凝縮されたCD
ラモーの数々のオペラの中でも特に聴き惚れてしまうのは、その中にちりばめられた管弦楽部分である。
今回取り上げたCDは、今やフランス最高のクラヴサン奏者にして指揮者、古楽演奏の泰斗となったルセが、ラモーがオペラために作曲した管弦楽曲の中でも、冒頭を飾る大曲にして意欲作揃いの序曲ばかりを集めて録音したものだ。


実に素晴らしい出来栄えで、この1枚のCDの中にラモーの美質の全てがつぎ込まれているといっても過言ではない。

収録されたオペラの序曲他
収録された序曲、他にもオペラの中の管弦楽曲が数曲含まれているが、中々壮観だ。初期の4大傑作は全て納められ、他にも有名な曲はほとんど収録されている。
演奏総時間は69分48秒。70分だ。この70分の中にラモーの素晴らしさが全て凝縮されている。これを聴かない手はないだろう。
1.詩神ポリムニの祭典
2.優雅なインドの国々
3.ザイス
4.カストールとポリュクス
5.ナイス
6.プラテ
7.オペラの才能(エベの祭典)
8.ゾロアストル
9.ダルダニュス
10.遍歴の騎士 ①序曲 ②メヌエット ➂陽気なエール-最初の反復-第2の反復
11.イポリトとアリシ
12.栄光の神殿
13.ピグマリオン
14.愛神の驚き-プロローグ(アストレの帰還)
15.結婚の女神と愛神の祭典
16.愛の驚き-第1幕(アドニスの誘拐) ①序曲 ②アダージョ ➂ー
17.アカントとセフィーズ-国民の願い-トスカナ-花火-ファンファーレ
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ラモーの音楽の稀有な魅力はどこに
一聴してラモーの天才ぶりがお分かりいただけるだろう。
一曲一曲に信じ難いまでの斬新な趣向を盛り込み、彫琢の限りを尽くす。聴く者はその度に新鮮な驚き、いや衝撃に見舞われてしまう。それでいて作為的な部分はまるでなく、どこまでも自然に淀みなく流れていく。
その曲想の豊かさ、天才的な独創性はとても老人の手によるものとは思えない。特に個々の楽器の特性を存分に活かしきった、活力に満ちあふれた音楽にはただただ驚嘆するばかり。
一曲一曲がこれほどまでに別の光で輝いているのに、全てはラモーの音楽と化している。
超絶的な技巧と芸術的な完成度の高さがすべての曲の根底にあり、思わず身を乗り出したくなる強烈なリズムの饗宴など、聴く者を圧倒して止まない。
どの序曲でも感じさせるが、3曲目の「ザイス」などを聴くと、本当に一体何が始まるんだろうとワクワクドキドキしてしまう。次から次へと思いがけない音楽が繰り出されてくる。天才的な仕掛けに満ちた音楽で、驚くしかない。それくらい想定できない独創性に富んだものだ。
8曲目の「ゾロアストル」なんかも開いた口が塞がらなくなるような音楽だ。
とにかく生気に富んだ、快活な音楽だ。その音楽は生命力に満ち溢れ、エネルギーを眩いばかりに発散する。それでいて、美しいメロディにも事欠かず、いかにもフランス的な絶妙かつ斬新な和声に全体が彩られているのだからたまらない。
一度その音楽の魅力を知ると、まさに「はまってしまう」ことになる。
個々の楽器の持ち味を最大限に発揮する管弦楽法も驚嘆に値する。200年後のラヴェルはオーケストラの魔術師と呼ばれ、そのオーケストレーションが高く評価されるが、ラモーを聴けばもっと驚かされる。
そして最後に何よりも強調したいのは、これが限りなく美しい音楽だということだ。
これは真の天才だけが創りうる驚異の音楽である。
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ルセとレ・タラン・リリクの傑出した演奏
ラモーが活躍した当時のフランスのオーケストラには、ラモーの要求どおりに演奏できる者はほとんどいなかったらしい。
そこで例の「もしラモーがドイツに生まれていれば、バッハよりも云々」という言葉が飛び出すのである。
そんな難曲をルセと「レ・タラン・リリク」が完璧に再現する。実に小気味よい演奏で、見事の一言。思わず惚れ惚れする。
曲によってはもうちょっと迫力が欲しいと思わなくもないが、最大級の賛辞を捧げたい。ラモーを聴く楽しみ、ここに極まれりの感がある。
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ラモーをもっと聴いてほしい
18世紀に花開いた、何とも魅力的な音楽。音楽ファンでいながらラモーの音楽を知らずに過ごすのは、あまりにももったいない。
どうか騙されたと思って、聴いてほしい。聴いてさえもらえれば、誰だってラモーの音楽に心を奪われ、夢中になってしまうこと必定だ。
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このルセの名盤は、日本語の解説書付きの国内盤が廉価で発売されていて、嬉しい限りである。
但し、いつもの楽天ブックスからは購入できず、以下の各店舗を紹介させていただく。いずれも全く同一のCDであるが、以下の4つの店舗では、いずれも送料無料となるので、是非ともこちらのいずれかからご注文願いたい。
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