目 次
シューマンのピアノ三重奏曲が素晴らしい
前回、シューマンの室内楽作品を取り上げた。ピアノ五重奏曲とピアノ四重奏曲の2曲。1842年の「室内楽の年」に3曲の弦楽四重奏曲に引き続いて作曲された曲だった。
どちらも変ホ長調で、2曲は立て続けに一気に作曲された。
この2曲はシューマンの室内楽の傑作として非常に良く知られている。特にピアノ五重奏曲作品44は、古今のピアノ五重奏曲の中でも屈指の名作として知られている。
今回はそれ以外のシューマンのほとんど知られていない室内楽の傑作を取り上げたい。
それが3曲のピアノ三重奏曲、いわゆるピアノトリオである。
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僕も聴いてこなかったピアノ三重奏曲
シューマンのピアノ三重奏曲は3曲もある。だが、一般的にはほとんど知られていない。クラシック音楽に相当詳しい人でも、シューマンのピアノトリオを聴いたことがある人は少数派だろう。
シューマンが好きな人でも、じっくり聴いたことのある人は少ないのではないか。それほど知られていない曲だ。
僕自身も実はそうだった。「シューマニアーナ」(シューマンの音楽を愛してやまない人)の僕でも、ピアノ三重奏曲と更にその後に作曲された2曲のヴァイオリンソナタをじっくり聴いたことはなかった。
以前聴いたことはあったのだが、特別感銘を受けることもなく今日に至っていた。



そんな僕が、この3曲のピアノトリオをじっくりと聴いてみようと思ったのは、直接的にはこのブログのせいである。
もう一つのきっかけは、このブログでも取り上げたシューベルトの2曲のピアノ三重奏曲だった。以前知らなかった曲を聴き始め、すっかり夢中になってしまった経験だった。
同じことがシューマンでも起きるかもしれない。ピアノトリオは僕の感性にフィットしそう。そんな期待もあった。
こうしてシューマンのほとんど知られていない3曲のピアノトリオを、最近ようやく繰り返し聴くに至った。
すると、その音楽の何と素晴らしいこと!
これは尋常ではない特別の美しさを誇る名曲である。こんな名曲の山に今まで振り向かずに過ごしてきた自分が恥ずかしくなった。シューマニアーナ失格だ。
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シューマンのピアノ三重奏曲の概要
3曲あるシューマンのピアノ三重奏曲(ピアノトリオ)の概要を、先にまとめておく。
ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 作品63 作曲:1847年6月 シューマン37歳
全4楽章 約30~35分
ピアノ三重奏曲第2番 ヘ長調 作品80 作曲:1847年10月25日完成 シューマン37歳
手直しをして1850年に出版
全4楽章 約25~30分
ピアノ三重奏曲第3番 ト短調 作品110 作曲:1851年10月 シューマン41歳
シューマンは1850年にデュッセルドルフの音楽監督に就任し、ドレスデンから移住。このデュッセルドルフで精神疾患を強め自殺未遂から精神病院での死に至る不幸な時代に突入してしまう。
全4楽章 約25~30分
3曲共に4つの楽章から構成され、時間的にも30分前後を要する大作である。
一般的にピアノトリオは3楽章構成で作曲されるが、ロマン派のピアノ三重奏曲は4楽章が多い。シューベルトの2曲もメンデルスゾーンの2曲も全て4楽章。ベートーヴェンの7曲のピアノトリオも有名な「大公」も含めて、4楽章である。
とすれば、シューマンのピアノトリオ3曲が揃って4楽章であることは珍しくはないが、それでもそれぞれ30分前後かかる大作というのはシューマンとしては異例の力の入れ方。シューマンとしては、4曲の交響曲と同じ位のモチベーションで作曲したに違いない力作だったはずだ。
にもかかわらず、このシューマンの3曲のピアノトリオは当時も今も、あまり注目されていない。
それに異を唱えたいというのが僕の強い思いである。
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なぜ聴かれない曲なのか?
ここまで冷遇されてきた力作も珍しい。
シューマンの名誉のために一応言っておくと、第1番については名作との評価の高いメンデルスゾーンが作曲したピアノ三重奏曲第1番ニ短調と共に、前期ロマン派を代表するピアノ三重奏曲と言われている。シューベルトの2曲、特に第1番を忘れてもらっては困るが。
僕は3曲いずれも素晴らしい傑作だと考えている。どうしてこんな傑作がシューマンの名作として認知され、人気を博さないのか不思議でならない。
僕のような超凝り性のシューマニア―ナでもたどり着けないシューマンの知られざる作品群。一般の音楽ファンの心を捉えることは正直難しいかもしれない。
シューマンに対する偏見と先入観
シューマンに対する偏見と先入観が要因となっているかもしれない。
シューマンは初期のピアノ独奏曲と歌曲があまりにも素晴らしく、最後は精神を病んでライン川に身投げし、精神病院で亡くなるという悲劇に見舞われた。

初期のピアノ独奏曲と歌曲が名作の宝庫ということもあって、これらを聴けばシューマンの魅力は十分に分かるというのが一点。
もう一つは梅毒によって精神に異常を来たしていったシューマンの創作力が加齢と共にドンドン低下し、30代後半以降の作品には問題が少なくない、との先入観が強い点。
この2つが絡み合って、シューマンの晩年(と言ってもまだ若い。シューマンは46歳で死去)の作品は聴かなくてもいいと思われてしまった。
だが、これも不思議な話しで、あの有名な交響曲「ライン」(第3番)や第4交響曲はしっかり愛され、演奏もされるのに、ピアノ三重奏曲ときたらサッパリなのである。
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3曲共に素晴らしい名曲ばかり
3曲全てが素晴らしい。

僕は特に第2番を愛するが、第1番も、クララが「独創的で、どこをとっても情熱に満ちている」と称えた第3番も気に入っている。聴き込むと3曲共に甲乙付け難い名曲であることが分かってくる。
三者三様の魅力を誇るが、3曲には共通点も多い。それがすなわちシューマンの魅力に他ならない。
ロマン派音楽の魅力が凝縮
シューマンの魅力は単純明快なロマンティックさだけが売り物ではない。錯綜した複雑な心情に裏打ちされたロマンティシズムが持ち味だ。
この3曲のピアノトリオにロマン派音楽の魅力が凝縮された感がある。ロマン派の奥深い魅力をタップリと味わえる。
その奥深さは後期ロマン派のブルックナーやヴァーグナーのように熟れ切っていないのがいい。爽やかさが決して破綻することはない。
ピアノトリオ、すなわちヴァイオリンとチェロとピアノという組み合わせは、シューマンにフィットしているように感じる。
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第1番 ニ短調 作品63 の魅力
3曲の中では比較的良く知られた曲で、演奏される機会も多い。3曲の中で一番バランスが取れ、ロマン派音楽の魅力を一身に担う優等生的な魅力を感じさせる。
シューマンのロマンティシズムをトコトン味わうことができる名曲だ。
明暗が錯綜する第1楽章
シューマンの音楽の本質を味わえるのが第1楽章だ。
ニ短調のほの暗い秘めたる情熱がうごめくような暗さと、一転して人懐っこいチャーミングな音楽が同居する非常に錯綜した音楽。このあたりがシューマンの真骨頂だ。
シューマンの音楽は、明暗が背中合わせとなっている。明るい音楽に憂いがあり、暗い音楽にも希望の明かりが差し込む。明るい音楽が暗さを秘めていたり、暗い音楽が実は明るかったりすることは通例で、明と暗は常に表裏一体で混在している。
これは移ろいゆく微妙な色彩感と言い換えてもいいのかもしれない。シューマン独特の錯綜した複雑な音楽のなせる技というしかない。
白眉の第3楽章
白眉は第3楽章。ひんやりとするような静かな音楽で、チェロがずっと歌い続ける。そこにそっと寄り添うピアノ。3つの楽器が柔らかく絡み合っての心情告白。
最後は消え入るように音がなくなっていく。このフェイドアウトがまた素晴らしい。

一転して明るく流麗な第4楽章
一転して明るく良く歌う第4楽章。甘いメロディが朗々と歌われ、幸福感をありったけ訴えるかのようだ。ピアノも流麗で思わずウットリさせられる。
第1楽章のメロディが何度か現れながら、最後は燃え盛るような音楽となって、堂々たるエンディングを迎える。
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第2番 ヘ長調 作品80 が大変な名曲
胸が疼いて苦しくなるような濃厚なロマンティシズムに溢れている第2番。最高にロマンティックな音楽で、シューマンの最高傑作の一つと評価されるべきだ。
気持ちの高まり、昂じ方を音で表現しようとしたらシューマン以上の作曲家を思いつかない。その一方で、デリカシーの極致で、大切に扱わないと壊れてしまいそうな繊細さを併せ持つ。それもシューマンならではの魅力だ。
この曲はもっと広く知られさえすれば、必ず人気を博する名曲だと信じて疑わない。
第1楽章の魅力
聴いたことのある非常に懐かしい素敵なメロディが対位法的に現れる。先ずはヴァイオリン、それがチェロに受け継がれていく。以前紹介した傑出した歌曲集「リーダークライス」作品39の第2番「間奏曲」のメロディの一節だ。ヴァイオリンとチェロとの生き生きとした掛け合いが聴き物。
このメロディが再度現れては消えていく。

最高の美しさを誇る第2楽章
この楽章が絶品で、最高のシューマンだ。シューマンはこの楽章に「心からの表現でもって」と指定している。
冒頭の静かに優しく入ってくるチェロが絶妙で、その美しいメロディがヴァイオリンに引き継がれていく。高貴な美しさを感じさせるメロディが、聴く者の感性を優しく刺激する。
やがておとなしかったピアノが本領を発揮して主役に躍り出てくる。ヴァイオリンとピアノとの絡みが何とも美しく、心が清々しくなる。
この魅力は僕が愛してやまないあの「ピアノ四重奏曲」の第2楽章に引け劣らない。優雅で類い稀な気品がある。
第3楽章の魅力も引け劣らず
第3楽章も第2楽章に勝るとも劣らない魅力的な音楽だ。これまた気品に満ち溢れた音楽で、少し愁いを秘めているのが魅力。ヴァイオリンが実に良く歌う。
第4楽章は3つの楽器がいずれも良く歌う軽快な曲。非常に人懐っこい曲で、心の弾む楽しい曲でもある。
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第3番 ト短調 作品110 の魅力
これこそほとんど聴かれない曲だ。隠れた名曲というより滅多に聴かれない秘曲と言った方がいいだろう。
ところが、これがまた素晴らしい。あのクララが絶賛したのも当然だ。
第1楽章の突然の衝撃
冒頭はト短調の暗く陰鬱な雰囲気で始まる。ほの暗い情熱は第1番の冒頭と似ている。それが何時の間にか妙にメロンコリーを感じさせる優しい響きが垣間見えて来る。
と、突然。エッ!?と耳を疑うようなリズムとメロディが現れる。これはロマン派の音楽とは思えない異次元の響きで、衝撃を受ける。
まさかのポップス調というかジャズ風の音楽が、突然降って湧いたかのよう。スケルツォなのだが、いかにも新鮮で驚かされる。シューマンにこんな音が現れるとは!?いかにも現代的な新しい音だ。
明暗混在の第2楽章が聴きどころ
これも第2楽章が聴きどころ。いかにもシューマネスクな素晴らしい音楽で、嬉しくなる。
優しいピアノに導かれてヴァイオリンが半音階的なメロディを奏で始める。それをチェロが引き継がれ、ピアノも歌い始める。ピアノの美しさが際立つ。その美しさはやがて打ち破られ、激しい音楽に支配されるが、また優しい音が戻ってくる。

終盤、ピアノが非常に印象的な美しい旋律を奏で消えていく。
第3楽章はちょっと風変わりな音楽で聴く者に挑んでくるかのよう。
非常に快活な第4楽章
非常に快活で生き生きとした音楽。全体が歌に満ち溢れ、特にヴァイオリンの説得力、訴えかける力が印象的だ。有名なシューマンの歌曲「二人の擲弾兵」の調べが流れて来る。
目まぐるしく曲想を展開させながら、最後は堂々と結ばれる。
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トリオ・ヴァンダラーの演奏が絶品
僕の手元には、3曲が揃っているCDは3種類ある。
約50年間の長きに渡って第一線で活躍し続けた著名な「ボザール・トリオ」による演奏と、フランスの円熟の実力者たちによる演奏。そして新進気鋭の3人組「トリオ・ヴァンダラー」の演奏だ。

いずれも素晴らしい演奏を聴かせてくれるが、僕は最新のトリオ・ヴァンダラーの演奏に心を奪われてしまった。本当に素晴らしい。何度聴いても感動が薄れないどころか、聴く程に感銘が深まる稀有の名演だ。
3人それぞれの卓越さはもちろんだが、3人がアンサンブルするにしたがって、ドンドン音楽が昂じていくあたりの呼吸の取り方というか、3人が一体となって音楽にのめり込んでいく熱量が感動的だ。
これを聴けば、トリオ・ヴァンダラーの素晴らしさはもちろんだが、シューマン作品の奥深い魅力がヒシヒシと伝わってくる。



ピアノトリオの演奏史をひっくり返してしまいそうな恐るべき演奏。それぞれの楽器の音も美しさを極めており、この3つの楽器が重なったときの魂を引き抜かれてしまいそうな美しさと感動は半端じゃない。
どうかこの演奏を聴いて、シューマンのピアノトリオの魅力を知ってほしい。


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現在、シューマンのピアノトリオ3曲が揃った購入可能なCDは非常に限られている状況で嘆かわしい限りですが、この1枚(3枚組)があればもう他は要りません。
このCDは実は3枚組で、シューマンのピアノトリオ3曲だけではなく、シューマンと同時期の大作曲家メンデルスゾーンの名作2曲と、ブラームスの3曲の傑作ピアノトリオも全て収録されている素晴らしいセットなのです。

ドイツロマン派の名作ピアノトリオを全て収めた夢のようなCD。但し、輸入盤で日本語解説がないのが残念ですが、本文中にも書いたとおり、圧倒的に素晴らしい感動的な演奏で、これ以上のものは考えられない名盤です。
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