目 次
高坂正堯を読み続けている
高坂正堯(こうさかまさたか)の本を継続的に読み続けている。初めて読んだのは、このブログでも取り上げた新潮選書の中の1冊「歴史としての二十世紀」であった。れ
これが非常におもしろく、歴史好きな僕は思わず興奮してしまったのだった。
高坂正堯は保守の論客として知られ、僕は以前は抵抗があって、高坂正堯の本は読んだことがなかったのだが、とんでもない誤解だったと猛省、以来、ずうっと読み続けている。
今回取り上げる1冊は、「現代史の中で考える」という本だ。
これがやっぱり非常におもしろく、ワクワクさせられた。大いに勉強になった。


1年振りに丁寧に再読した
実は、本書は「歴史としての二十世紀」に感動した直後から読み始めて、2024年9月9日に読み終えていた。直ぐにブログ記事にまとめるべきところ、チャンスを逸して1年近く経過してしまった。
さすがに1年前の記憶で記事を書くことはできない。
ということで、今回のブログ記事を書くに当たって、もう一度読み直した。飛ばし読みではなく、しっかりと丁寧に読んだ。この2回目の読了が今年の9月3日だった。
1年経った段階で再度丁寧に読み込んだことで、更に理解が深まったと嬉しく思っている。
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高坂正堯を長年避けてきた愚
高坂正堯は非常に良く知られた知識人で、国際政治学者にして京都大学の教授であり、歴史家、社会科学者、思想家でもあった。
保守の大物として自民党のブレーンとなり、特に佐藤栄作以降の自民党の歴代総理大臣、具体的には佐藤栄作、三木武夫、大平正芳、中曾根康弘のブレーンとしてあの時代の自民党の政策に深く関わった人物として良く知られている。
僕は保守の論客にはあまり興味がなく、本を読むなどあり得なかったのだが、あるきっかけで「歴史としての二十世紀」を読んで、すっかり感心させられ、それ以来ずうっと高坂正堯に夢中になっている。
講演録を主に読んでいることもあって、柔らかい口調で時にジョークを交えながら、歴史の真実に迫る語り口に魅了させられる。
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高坂正堯「現代史の中で考える」の基本情報
新潮選書。1997年10月25日発行。僕の手元の本は2023年11月10日発行の8刷である。かなり継続的に読み継がれていることが分かる。
ページ数は230ページ。それなりの厚みがある。
テーマは必ずしも一貫しているものではないが、基本的にこれは様々な機会に行われた高坂正堯による講演録が中心となっている。
90年前後の様々な講演録が中心
高坂正堯は、しゃべりも超一級であったため、講演会や勉強会の依頼が引きを切らなかったようだ。本書はそんな高坂正堯の講演を、できるだけその語りのままにまとめた講演録が中心を占めている。
高坂正堯の死後の編集となったため、基本的なスタンスとしては、「明らかな誤りを正すなど最低限の修正だけを行うにとどめることとした」と解説の中西寛は書いている。
「高坂教授の独特の語り口に接する機会のあった人の多くは、その洒脱さに強い印象を受けたと思うが、活字という限界があるとはいえ、そうした語り口を残すことで、かえって高坂教授のもっていた雰囲気が伝わるのではないかとも思う」とも書いている中西のいうことは至極最もなことで、この再現を嬉しく思う。
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「現代史の中で考える」の全体構成
本書は大きく3部から構成されている。
全体構成を目次に添って示すとこうなる。
第一部 大英帝国の場合
Ⅰ 衰亡は繁栄の絶頂にはじまった NHK教育テレビ特別番組のための原稿(1985年9月)
Ⅱ イギリス病と大英帝国 ※ 新潮社主催・紀伊國屋連続講演会<文明が衰亡するとき>
第5回の講演速記録(1979.11.2)
第二部 変化の時代
Ⅰ 天安門事件直後に感じること ※ 新潮社・社内勉強会講演速記録(1989.6.21)
Ⅱ ソ連解体とこれからの世界 ※ 新潮社・社内勉強会講演速記録(1991.9.17)
Ⅲ パールハーバー五十年目の評価 ※ 新潮社・社内勉強会講演速記録(1991.11.27)
Ⅳ 世紀末から考える「世界のなかの日本」 1995年8月15~17日、読売新聞夕刊記事
第三部 日本と近代
Ⅰ 天皇 その無用の大用 「文藝春秋」<大いなる昭和>発表原稿(1989年3月)
Ⅱ 日本の宿命を見つめた眼 <Voice>発表原稿(1982年11月)
以上全部で、8本の記事の集合である。
講演録には※印を付けてある。数えてみると、ちょうど半分の4本だった。
それぞれのチャプターには細かな見出しが付けられていて、非常に読みやすい構成となっている。目次を見てもらうと一目瞭然だ。


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あの激動の時代を高坂史観はどう捉えたのか
本書に収められた講演録や記事は20世紀後半、特に東欧革命の起こった1989年から、それがソ連解体へと向かっていく1991年あたりを中心とした講演録や記事が多い。
正に激動の時代。数十年、いや数百年に一度と言っても過言ではないレベルの政治的な激動期だった。それを稀代の国際政治学者にして歴史学者、思想家の高坂正堯はどう見つめ、どう考えたのか?
この時代を高坂史観はどう捉えているのだろうか?
1989年は本当に大変な年だった。東欧革命としてソ連の衛星国家となっていた東ヨーロッパのほとんどの国、具体的には東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニア、ブルガリアで共産主義の支配に対する抵抗運動が勃発し、共産党政権が雪崩を打つように崩壊した。11月9日にはあのベルリンの壁も崩壊した。
ソ連にゴルバチョフが登場し、ペレストロイカが進められる中での東ヨーロッパ全域を巻き込んだ革命であり、その本家本元のソ連までもが、2年後の1991年に崩壊に至ってしまう。
これ以上の激動を知らない。一口でいうと20世紀に起きた共産主義というとてつもない実験が最終的に失敗に終わった歴史的大事件だった。
それが1989年だったわけだが、忘れてならないことは、この同じ年に中国ではあの忌まわしい天安門事件が起きていることだ。
これが何とも興味深い。1989年の東欧革命によって、結局は共産主義は崩壊するに至るのに、同じ年に中国共産党では天安門事件を引き起こし、自由を求めた人民(国民・市民)を大量虐殺した。
東ヨーロッパで雪崩をうったように革命が勃発し始めるのは、天安門事件の後である。
それにしても、同じ共産党による一党独裁の国で、全く正反対のことが同じ年に起きたわけである。本当に1989年は歴史の大きなエポックメーキングだった。
そのあたりを、高坂正堯がどう捉えているのか、興味は尽きない。本書の最大の読みものがこの第二部、共産主義諸国の顛末にあることは間違いない。
楽観主義・合理主義の極致であった共産主義という捉え方、権力を持った共産主義の権力欲は使命感と同一と断言され、思わずドキッとさせられる。
凄い分析で、背筋が凍り付いてくる。
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イギリスの没落論が抜群に興味深い
もう一つ本書の注目は、冒頭第一部のイギリス論にあることは言うを待たない。
この2本の記事のおもしろさは格別だ。
タイトルからして実に刺激的じゃないか。「衰亡は繁栄の絶頂にはじまった」。
これはたまらない。イギリスは本当にそのとおりの経緯を辿って衰退していったのだが、これはイギリスだけの話しではないし、この記事が書かれてちょうど40年経つ今日(2025年)、ここに書かれていることは、今の日本そのものだ。
読んでいて、空恐ろしくなってくる。
しかも、必ずしも国のことだけにとどまらない。会社、団体、様々な組織。全てに当てはまってしまいそうだ。
あらゆる組織が、繁栄の頂点を極めているときに、衰亡が始まる。予言としてこれ以上恐ろしいものはない。
決して予言ではなく、実際にこの世の中で頻繁に起きていることだ、ということを示す事例にこと欠かない。
「勝って兜の緒を締めよ」ではないが、絶頂期に衰退が始まるという実態は本当に恐ろしい。
本書の中で、繁栄の絶頂を誇った大英帝国がどのようにして、頂点から衰亡が始まっていったのかを、様々な視点から分析していく。これが大変な読み物だ。
高坂正堯は自他共に認めるイギリスびいきだったということだが、そのイギリス好きの高坂正堯による分析と考証だけに興味が尽きない。
本当にワクワクさせられる。
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最後の和辻哲郎の日本論に深く感銘
日本の歴史について語られる数編が、いずれもまた感慨深いものばかりで強く惹きつけられる。
僕が特に深い感銘を受けたのは最後の「日本の宿命を見つめた眼」である。
これは日本が世界に誇る哲学者・倫理学者・日本思想家の和辻哲郎の著作を通じての日本と日本人論である。28ページの小論であるが、その内容の濃密さと思索の深さに心を揺さぶられる1編だ。
「一方で日本はダメかなと思いながら、他方では日本を愛するが故に、なんとかならぬものかと思索する」という和辻哲郎の態度に、高坂正堯は共感する。
「日本に対する愛着と、その欠点を知るが故の迷い」。それに高坂は共感すると書く。
そんな高坂正堯に、今度は我々が共感することになる。
ここには高坂正堯の青春時代の葛藤であるとか、かなり赤裸々な個人的な思いも吐露されていて、高坂の人となり、高坂という超一級の人物の人物形成を窺い知ることのできる貴重な論文ともなっている。
じっくりと読んでほしい28ページだ。
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平易な言葉で歴史の核心と本質に切り込む
本書は内容は高度でありながら、非常に親しみやすく、読みやすいものばかりだ。
分かりやすい言葉と丁寧な説明を用いながらも、内容的には決して手を抜かず、激動の現代史の核心と本質に鋭く切り込んでいく。
平易な言葉を用いながら、歴史の本質に迫るのが高坂正堯の神髄だ。初心者から専門家までどのようなレベルの人が読んでも満足できるに違いない。
非常に勉強になるかけがえのない1冊。歴史と現代社会に興味のある人にとって、必読書と言っていいだろう。
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