【第5章】からの続きです。
某自治体病院ではなされていなくて、民間から事務長職として赴任した私が新たに導入した取り組みの紹介と解説の第6弾です。
いよいよ病院の顧客、利用者である患者に絡むテーマに入っていきます。
目 次
クレーム・苦情を現場に丸投げのお粗末
某自治体病院でこんなこともできていないのかと驚かされたことの一つに、クレームと苦情処理の取り扱い、いわゆる「モンスターペイシェント」への対応がありました。
最初に実態を知ったときには酷く驚かされ、情けなくて泣きたい気分に陥りました。
スポンサーリンク
事務職は部屋の奥で様子を伺う
そのクレームと苦情を繰り返す患者に対して、事務方(事務職)が前面に出ることなく、看護師を中心とする現場の医療職に丸投げしていたのです。
事務職(医事課職員等)は後ろの事務室に身を潜め、逃げていたのです。ある患者からクレームを言われていることを知らなかったわけではありません。そういうクレームが現に目の前で繰り広がられていることを承知の上で、自分は全く関わろうとせず、事務室の奥に身を潜めて、そこから様子を注視していたのです。
「見て見ぬふり」を決め込んでいたのでした。
こんな病院、未だかつて見たことも聞いたこともありません。「話しにならん」と怒りが込み上げるも、悲しくなりました・・・。

「事務職は一体どこにいるんだ!?」
「医療職に丸投げして、事務が部屋の中に逃げるようにして遠くから眺めている!?」
「こんな時に事務が貢献し、役割を発揮しなくてどうするんだ!?」
「君たちは一体、何をやっているんだ!?心が痛まないのか!?」と。
こんな場面でこそ事務職がベストを尽くす
厄介なモンスターペイシェントの対応を現場の看護師等の医療職に任せっきりにしている現状には大きな問題でした。比較的細かな日々の苦情は主にMSW(医療ソーシャルワーカー)が担当していたのですが、本格的なモンスターペイシェントはナースなどの医療職が専ら受けていました。
これを事務職が対応せずして、医療職の事務職へのリスペクトや存在感認知などあり得ないことは明白です。
こんな時にこそ、事務職が前面に出て、全面的に問題を解決させなければならないのです。
私は早急に見直すべく直ぐに対応しました。地元警察署の協力も得ながら、厄介な患者、クレームや苦情には今後は事務職が責任をもって対応する体制を構築しました。
ところが根付いてしまっている悪弊は、私が新たな仕組み、体制を導入したからといって、一朝一夕に変わるのは容易なことではありませんでした。
事務職がなぜ前面に出るべきなのか
医療職には医療職しかできない本来の医療業務や看護業務など専門業務に専念させて、医療職が嫌がる厄介な患者対応、その最たるものとしてのモンスターペイシェントの対応などは、全て事務職が引き受ける必要があります。そこに一部MSWを含めても良しとしましょう。MSWは広い意味で事務職の一員でもあります。
事務ならではのスキルと技を発揮して、問題解決させる。
これが病院のあるべき姿です。これは当然のことで、目新しい改革でも何でもありません。

そうやって病院内で唯一何の資格も持っていない私たち事務職の存在感を高めるのです。
事務職は医療職に、病院運営に関して何かと厄介な仕事や調査、業務の協力を仰がなければならないことがたくさんあります。そんな際に医療職に気持ち良く応じてもらうためにも、日頃から医療職の心労の元を取り除いておく必要があるわけです。
誤解を恐れずに、端的に分かりやすく言うと、「ここで医師や看護師に恩を売っておいて、いざという時にこちらの厄介な協力を依頼する」。「あそこでいつも助けているんだから、今度は僕らを助けてほしい」と訴えるわけです。
いい意味での「持ちつ持たれつ」の関係の構築に他なりません。
「うちの事務は本当に頼りになって、いつも助けてもらっている」と医療職から思われることが、事務職の勲章だと心得なければならないのです。
スポンサーリンク
自分の問題として真摯に向き合え
医療職に変わってクレームと苦情は全て事務職が受けると言っても、間違ってはいけないのは、医療職に恩を売るためだけに、受け入れるわけでは決してないということです。
必要なことは患者から指摘された問題そのものが、そもそも事務職が解決しなければならない問題に他ならないという認識です。
事務職が勤務先の病院の運営、経営に絡むクレーム、苦情に対して、自分自身の問題としてどこまでも真摯に向き合うことが必要なのです。
求められることはそこにあります。自分の問題、自分に直接関わる自分に課せられた問題として、当事者意識をもって向き合うことが求められているのです。
事務職の手腕と存在を示す絶好のチャンス
そうしないとクレームを訴える患者にも簡単に見透かされてしまいますし、ずばり当事者である医療スタッフからも感謝もされなければ、リスペクトされることもありません。
逆に言えば、事務職が自分の問題として当事者意識を持って真摯に対応すれば、それは相手(患者)にも伝わるし、医療職のリスペクトと心からの感謝を得られることになるのです。
事務職の手腕と存在感を示す絶好のチャンスで、事務が試される場でもあります。事務職の醍醐味がここにあると言っても過言ではありません。
教訓と改善策【クレーム対応の担当部署】
1.クレーム、苦情処理。モンスターペイシェントの対応を医療職に任せることは絶対に回避しなければならない。
2.医事課を中心とする事務職が前面に出て、全面的に解決することが必要だ。
3.その際、その問題を自分自身の問題と捉え、真摯に取り組まないと解決は困難だ。
モンスターペイシェント対応の原則
現場の医療職に任せっきりという最悪の対応を改め、事務職が前面(全面)的に受けて立つことは当然として、実際にはかなり厄介な患者がいるのも事実です。まさしくモンスターペイシェントの存在です。
それに対応する原理原則は、一口で言えばこういうことになります。
患者最優先に徹するも、理不尽なことには毅然とした態度を取り、ターゲットになった職員を守る。
もう少し具体的に分解すると、以下の4つの対応になると考えています。
1.病院側に落ち度やまずい点がある場合には、とにかく非を認めて真摯に謝罪する。
2.病院側に落ち度等がないときには、毅然とした態度で臨み、非難対象となっている病院職員、スタッフを徹底して守り抜く。
3.病院側に多少の落ち度等があって、非を認め謝罪しているにも拘わらず、執拗にクレームを繰り返し、病院職員の人格否定にまで至る場合は、謝罪と説得を繰り返した上で、最後は職員を守ることを優先させる。
4.最後は躊躇なく警察の力を求めるしかない。
スポンサーリンク
クレーム対応は見極めが難しい
問題は、その4つのパターンの見極めです。多くの場合が3になると思われます。病院側に非があるのですが、そこまで執拗に非難されることではない場合、謝罪をしても執拗に攻撃を繰り返す場合です。
真摯に謝罪しなければならない場合(①)
断固として職員を守らなければならない場合(②)
謝罪しつつも職員も守らなければならない場合(③)
実際にはかなり難しい判断が求められることになります。
線引きが難しいことはもちろん、
ア 謝罪の仕方
イ 職員の守り方
ウ 患者にどこまで強く出るか
など理論的に整理することは可能であっても、実際にはケースバイケースで困難を伴うことが多いのです。
マニュアルに頼っていても駄目
モンスターペイシェントへの対応に「マニュアル」の整備は不可欠なのですが、いよいよとなったらマニュアルなんか何の役にも立たないと思い知るべきです。
これはクレームや苦情処理だけではなく、あらゆるマニュアルについて言えること。私はマニュアル至上主義に異を唱えたいと常々思ってきました。
マニュアルの整備は当然として、「マニュアルを作ったからもう大丈夫」などとは決して思わないことが肝心です。マニュアルは、物事を解決するための一つの手段にしか過ぎないと心得るべきです。
事務長以前で解決させる必要
私は法律の知識がそれなりにあった(旧司法試験浪人上がり)こともあって、若い頃からクレーム対応をかなりやってきました。
クレームやモンスターペイシェント問題の責任者は事務長職です。
ですが、事務長職の後には、もう病院長しかくなりますので、事務長職の登場はできるだけ最後にするのが鉄則となっています。したがって、事務長職が対応するケースは、職員ではもうギブアップという厄介なケースに限られるのが実際です。
事務長以前の段階で解決する必要があるわけですが、実際にはかなり大変なことです。「対応マニュアル」なんかでは太刀打ちできません。事務長職がしっかりと支える体制の構築が必要となってきます。
私は、病院として厄介な患者に対してどのようなスタンスで対応すべきか、予め事務長が関係職員と十分に意見交換した上で決定し、それに基づいて対応させる仕組みを構築させました。
非常に厄介で奥の深い問題
とは言っても、だからこの問題は解決した、そんな単純なものではないのです。
現に新たな仕組みを決定した後も、現場の医療職を苦境に立たせる事案がいくつか起こり、抜本的な意識改革と問題解決はかなり難しいと痛感させられました。
心して臨まないと、明らかに患者側の主張に非があるのに、病院職員、スタッフを犠牲にしてひたすら頭を下げるなんていう愚かなことにもなりかねないので細心にして最大の注意が必要です。
スポンサーリンク
最後はこちらの人間力が問われる
的確な対応には、見極めのための動物的な勘さえ必要になってきます。それには数多くの経験と知識が必須条件となりますが、最後は「人間力」が必要になってくると考えています。「人間力」で勝負するしかないのです。
様々な経験と勉強を通じて、人間力を深めることが必要となります。それが事務ならではのスキルと技の向上に直結すればしめたものです。
その基本は、真摯に、真心をもって対応すること。若い事務職員の人間力向上に向けての尽力に期待したいところです。
担当事務職に求められる対応の神髄
担当事務職には様々なスキルと能力が必要となってきます。「ここは真摯に謝罪か、それとも職員を守るべきか」、臨機応変にその場で、次々とジャッジし、即座に判断していく能力が必要です。
観察力、相手の人間を見抜く力。もちろん話術と説得力。交渉力。
情熱も不可欠です。総合的な判断が刻一刻求められ、それが人間力に他ならないのです。
まだ経験の浅い若い事務職に求めることは酷かもしれませんが、これができるのは病院内広しといえども、事務職しかいません。必要に応じて医師に同席などをしてもらうことも当然ですが、責任を持つのは事務職です。
ここは医療職の向こうを張って、とにかく勉強し、経験を重ねて、スキルと技を磨くことが必要です。そして人間力を高めてほしいと切に望みます。
教訓と改善策【クレーム対応の神髄】
1.事務職が厄介な患者の対応を全面的に受け入れるといっても、実際の対応は困難を極めることが多い。
2.具体的な事案でどう対応すべきかの見極めが難しい。事務長職が前面に出ることはできるだけ回避するが、担当する事務職を事務長職がバックで全面的に支えることが不可欠だ。
3.担当事務職は当事者意識をもって、真摯に真心をもって対応すること。
4.これぞ事務職にしかできない醍醐味、重大業務と心得て、スキルと技、様々な能力の獲得に尽力すべし。最後は人間力が問われる事務職の正念場となる。
【第7章】に続きます。

