目 次
強烈な凄まじい時代劇を観た!
白石和彌監督の「十一人の賊軍」を遂にブルーレイで観た。
発売(2025年5月)と同時に購入していたのだが、何となく観るのが怖く、中々観れずに4カ月間も放置してきたが、遂に思い切って観てみた。
凄い映画だった。実に強烈な凄まじい映画だった。



僕の心配と不安が外れてくれたことが嬉しい。
実は、「十一人の賊軍」はかなり批判されていた。僕はテレビで予告編などを見て、大いに惹きつけられたが、世評は必ずしも高くなく、キネマ旬報のベストテンからも漏れてしまっていた。
折角高価な豪華版ブルーレイまで購入したのに、期待外れだったら嫌だな、そんな不安と恐れから中々観ることができなかったのだが、全くの杞憂だった。
やっぱり自分の目と感性で、実際に見届けなければならないと猛省した次第。
実は不満もある。いくつもある。残念でならないことも非常に多い。
だが、それらの不満を補って余りある感動と見応えに、僕は十分満足することができた。
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白石和彌の「碁盤斬り」に続く時代劇
白石和彌は、現在活躍中の日本の映画監督の中で、僕が最も注目している監督の一人で、何と言ってもあの「孤狼の血」の2部作ですっかり心を奪われた。
アメリカの大手エージェンシーであるUTA(ユナイテッド・タレント・エージェンシー)と契約し、今や、白石和彌はその動向が世界中から注目されている世界屈指の実力映画監督となった。
この「熱々たけちゃんブログ」でも草彅剛が主演を務めた「碁盤斬り」を取り上げたが、今回の「十一人の賊軍」は、白石和彌が昨年(2024年)、時代劇は過去に撮ったことがなかったのに、「碁盤斬り」と「十一人の賊軍」の2本を立て続けに作ったのである。
「碁盤斬り」と「十一人の賊軍」は、同じ時代劇とはいっても、作風もテーマも全く違う。どちらも江戸時代を舞台にしているのに、似ても似つかない。
全く味わいの異なる時代劇を1年間に2本立て続けに撮った白石和彌監督には、脱帽するしかない。


一般的には「碁盤斬り」の方が評価が高く、「十一人の賊軍」には繭をひそめる人が少なくない。
良く理解できるのだが、僕はどちらも素直に楽しめばいいと思っている。実際にそうだった。
僕は「碁盤斬り」も気に入っているが、不満の多い「十一人の賊軍」の方が好きだと宣言しておこう。
僕は実際に「十一人の賊軍」に感動し、胸が熱くなったのだから。
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映画の基本情報:「十一人の賊軍」
日本映画 155分(2時間35分)
2024年11月1日 公開
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原案:笠原和夫
出演:山田孝之、仲野太賀、尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ、岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬楓、小柳涼太、本山力、駿河太郎、玉木宏、阿部サダヲ 他
第98回(2024年)キネマ旬報ベストテン 日本映画ベストテン第17位 読者選出ベストテン第11位
※ちなみに同じ白石和彌の「碁盤斬り」は、日本映画ベストテン第11位 読者選出ベストテン第9位

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どんなストーリーなのか
1868年、王政復古を経て明治新政府を樹立した新政府軍(官軍)と旧幕府軍が内戦を繰り広げた戊辰戦争の真っ只中、奥羽越列藩同盟に加盟していた越後の新発田藩は、当然、同盟に加わって新政府軍と戦わなけばならないところ、少年藩主が新政府軍に加わりたい意向もあって、板挟みになってしまう。
そこで家老が一計を案じ、死刑囚の罪人10人に、成功した暁には無罪放免とすることを約束し、砦を守るように命じる。罪人には腕の立つものはほとんどおらず、藩内一の剣術の使い手を始め、数人の若手侍も決死隊として一緒に砦に放り込まれた。


ここに新政府軍と新発田藩、奥羽越列藩同盟、そして罪人たちとの4つ巴の抗争の火蓋が切って落とされる。
果たして、罪人たちの運命や如何に?
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怒りが収まらなくなる展開
新発田藩が攻めてくる新政府軍(官軍)から城下を守るために、手前の峠で罪人たちに戦わせ、砦を守らせるという話しなら分かりやすいのだが、そんなに単純な話しではない。
新発田藩は同盟に加わっているため、同盟軍から早く戦闘に加われと督促される中、本音では新政府軍に合流したいと思っている。
罪人たちに砦を守らせるのは、新政府軍が同盟軍と城下で鉢合わせになることを避けるための、単なる時間稼ぎでしかなかった。
一方、砦の守りを命じられた罪人たちは無罪放免がかかっていただけに、必死に戦おうとするが、新政府軍を傷つけられては困るという錯綜した状況にあった。


そんなそれぞれの思惑の食い違いから、不測の事態が次々に起きて、砦は悪夢の戦場になるのだが、罪人たちの真の敵が新政府軍ではないと分かってからはいよいよ地獄図と化す。
目を覆いたくなる悲惨な地獄図に怒りが収まらなくなる。観ていて本当に辛い展開だ。
この怒りとやり切れなさをどこにぶつけたらいいのか、最後はそんな展開となっていく。
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原案:笠原和夫の意味するところ
この映画の注目点の一つは、原案に上げられている脚本家の笠原和夫の存在だ。笠原和夫はあの「仁義なき戦い」シリーズのシナリオを書いた往年の名脚本家。もう亡くなってから20有余年が経過している(2002年没)。
実は、「十一人の賊軍」は、笠原和夫が1964年(今から60年以上前!)にプロットと脚本が書かれ、映画化を進めようとしたところ、内容のあまりの過激さに撮影所の所長が却下。怒った笠原は完成していた脚本を破り捨て、プロットだけが残ったという。
白石和彌はこのエピソードを知っていて、自身で企画をもちかけ、東映が映画化を決めるに至ったのである。
笠原のシナリオは存在しないので、細かい部分はプロットの改変も含め、現代の世相も踏まえ、今日の観客に合うように自由に作り込んだようである。
60年前の映画人の信念と執念が、若き俊英白石和彌の手を借りてどこまで甦るのか。
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集団抗争時代劇とは何か?
笠原和夫が第一線で活躍していた頃、日本映画では集団抗争時代劇というジャンルが誕生し、非常に高く評価されていた。工藤栄一監督が撮った「十三人の刺客」、「十一人の侍」、「大殺陣」などが有名だ。
僕も熱愛している素晴らしい映画である。
「十三人の刺客」といえば、2010年に作られて大ヒットした作品(三池崇史監督)があったが、あれは工藤栄一作品の完全のリメイクであった。
あのリメイクもそれなりに見応えのある作品だったが、最初に作られた工藤栄一の「十三人の刺客」には遠く及ばない。
笠原和夫がシナリオを書いた「仁義なき戦い」シリーズそのものも現代劇による集団抗争そのものだったが、「十一人の賊軍」のシナリオを書くことで、その路線に繋がりたかったのだろう。
こうして「十三人の刺客」といい、今回の「十一人の賊軍」といい、かつて一世を風靡した集団抗争時代劇がこうして復活してくれるのは、映画ファンとしてこれ以上嬉しいことはない。
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ド派手なアクションの連続
「十一人の賊軍」にはド派手なアクションシーンが満載だ。爆弾が飛び交って、破壊に次ぐ破壊。最初から最後までこの爆弾の威力に、観ている方もやられっ放しになる。
もちろん派手なチャンバラにも事欠かない。力の籠った殺陣の威力は賞賛されていい。
大砲による砲撃、手作り爆弾による爆弾、鉄砲の数々。そして剣術と槍。それらが混然一体となって映像の中で暴れ回る。
アクションというよりも、これでもかと続く、実に激しいバイオレンスの嵐である。
それだけではない。山田孝之はとにかく走る。走り抜く。そして立場の違いと思惑が交差して、激しくぶつかり合う人間たち。
アクション映画として見どころ満載だ。
前半の夜の戦闘シーンは分かりにくい
但し、頻繁に出てくる夜の戦闘シーン、特に前半は全体的に映像が暗過ぎて、かなり分かりにくい。
加えて、前半では罪人たちが必死になって戦っているのが、どういう状況で何を狙っているのか、判然としないシーンがかなり出てくる。
何を狙って、何をやろうとしているのか?必死にやっているだけに、観ている方は置いてきぼりにされて、ちょっとシラケてくる。
応援もできないし、上手く行ったとしても、喝采も叫べない。もう一回観れば分かるのかもしれないが、アクション映画というのは理屈抜き、映像を観ただけで本能的にシチュエーションが分かるのが鉄則だ。
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後半からは、一気に引き込まれる
それが後半からはガラッと一転、非常に分かりやすいアクションシーンのオンパレードとなる。必死で戦う賊軍(罪人)たちが何をやろうとしているのか、非常に分かりやすくなる。
派手なアクションで何を狙っているのか手に取るように分かるのと、ストーリー展開そのものも一気に分かりやすくなって、異様な盛り上がりを見せてくる。
話しの筋が入り組んで来ても、決して分かりにくくはない。
怒涛の展開を見せる後半は、手に汗握る熱いアクションシーンの連続で、グングン映画に引き込まれてしまう。
目を覆う過激な残酷描写が多過ぎる
この映画の最大の不満は、あまりにも過激な残酷描写が頻出すること、これに尽きる。この映画を観たほぼ全ての人がそれを口にするだろう。
目を覆いたくなる、正視できないような残酷、残虐シーンが所かまわず出てくる。
生首が切り落とされるシーンを筆頭に、腕が切り落とされる、指が切り落とされるなどのシーンがこれでもか、と出てくる。
いくら何でもやり過ぎだろうという常軌を逸したシーンに、正直言って気分が悪くなる。
直前に撮った「碁盤斬り」ではそんなシーンは全く出てこない。あの「孤狼の血」の乗りである。どうしてここまで映さなければならなかったのか。
残虐シーンがもっと抑えられていれば、よっぽどいい映画になったと思う。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉を白石監督に伝えたくなる。
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仲野太賀の凄みと熱演に感動
出演者はそれぞれいい味を出しているが、圧倒的に印象に残り、感動させられたのは、新発田藩の純粋無垢な剣客鷲尾兵士郎を演じた仲野太賀である。仲野太賀がこんな凄みのある演技をする俳優だとは思っていなかった。


正直ビックリした。凄い。カッコ良過ぎる。鬼気迫る姿に感動させられた。この映画のいいところを全部持っていってしまった感すらある。
この仲野太賀の奮戦ぶりを観るだけでも価値があるというもんだ。
老剣士を演じた本山力も強烈
もう一人、非常に印象に残って、目の奥に焼き付くのが、老剣士を演じた本山力。元々罪人の中には剣の腕の立つ者など誰もいないのだが、唯一恐るべき剣の達人がいた。罪人仲間から「爺っつぁん」と呼ばれている老人だ。


この彼が仲野太賀と甲乙付け難い破格の活躍を見せて、爽快な気分になる。そして歳を取って老人になるもの悪くないなと思ってしまうのである。
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阿部サダヲという傑出した役者が不気味
家老の溝口内匠を演じる阿部サダヲは白石映画の常連だ。傑出した俳優で、僕も大のお気に入りなのだが、この映画でも圧倒的な存在感を見せる。
貫禄があるとか堂々としているということではなく、むしろ逆で、妙な高音で女々しく話す様子などいかにも頼りなさげ、善人のように見えて、実は策士で、残酷極まりない側面を持っていて、その不気味さで周囲を圧倒する。影の主役は阿部サダヲで決まり。


この家老は実際にどういう人間なのか、彼がやったことをどう評価したらいいのか、この映画に深遠さを与えるとしたら阿部サダヲ演じる溝口しかいない。
彼をどう評価するかで、この映画のテーマは決定的に違ったものになるかもしれない。最大のキーマンであることは間違いない。
素直に感動すればいい
かなり賛否両論に分かれる癖の強い映画だが、僕はかなり満足した。欠点も目立つが、難しいことは考えずに、気楽に観て、素直に感動すればいい。
同じ頃に上映され、かなり話題になった大泉洋が主役を演じた「室町無頼」があったが、あちらは期待が高過ぎたのか、少しガッカリさせられた。時代も背景も全くことなるが、雰囲気としては同じような臭いのする映画。
どちらもアクションシーン満載のバッタバッタと人を切り倒していく映画だが、僕は「十一人の賊軍」の方が遥かにおもしろかった。何倍も楽しめた。
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メイキング映像が見応え十分
ブルーレイの豪華版には、特典映像の別ディスク(DVD)がある。特にメイキングは非常に丁寧に作られた見応え十分なもので、1時間以上もある。
白石監督の演出シーンを中心に出演者たちのインタビューも織り交ぜた非常に貴重なものだ。こんな質の高いメイキング映像を見せられると、本当に嬉しくなってしまう。


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不満もあるが、魂が震える感動巨編
幾つかの不満は確かにある。だが、それらに目をつぶれば、これは日本映画としては近年稀にみる力作だと思う。
素直に映画に没入できればこれは大変見応えのある魂が打ち震える感動巨編である。
60年前の笠原和夫が断念させられた激烈な集団抗争時代劇が、白石和彌という傑出した力量を持った監督の下で、見事に蘇ったことを嬉しく思う。
この映画を観て感じる深い怒りは、60年前に笠原が抱いていた思いに他ならない。それを現代の観客にも納得できる完成度で作り上げた意味は大きい。
無心で観て、熱くなってほしい。こんな熱い映画は久々に観た。賊軍たちの凄まじい生き様を最後までしっかりと正視してほしい。
☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入をお願いします。
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