ナワリヌイ「パトリオット」を読み終えた

ナワリヌイの「パトリオット」を漸く読み終えた。ロシアの反体制派の政治家、いや反プーチンの急先鋒と言った方がいいだろうか。あのアレクセイ・ナワリヌイの自伝にして獄中記である。

ご存知のように、アレクセイ・ナワリヌイは殺されている。ロシア当局はもちろん認めていないが、プーチンによって極北の地にある収容所で殺されたのは明らかとされている。

その結局は殺されてしまったナワリヌイによる驚くべき書が「パトリオット」である。

これは凄い本だった。

「パトリオット」が日本で出版されたときには、既にナワリヌイは殺されていた。世界中が悲嘆に暮れ、憤怒の思いが抑えられなかった段階での出版だった。

中身が非常に充実した読み応え十分な本だった。読み終わって感無量深い感慨に陥っている。

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ドキュメンタリー「ナワリヌイ」の後で読む

ナワリヌイには出色のドキュメンタリー映画「ナワリヌイ」があった。

僕はこの貴重なドキュメンタリーは、国内でブルーレイが出た直後に直ぐに観た。その紹介は既にこのブログでも取り上げている。これがその記事だ。

このドキュメンタリー映画はアメリカのアカデミー賞において長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、見事オスカーを獲得。既にウクライナに対して侵略戦争を初めていた(2022.2.24)ロシアとプーチンを非難するという政治的な配慮があったのだろうと思われがちだが、決してそうではない。

ドキュメンタリー映画として、傑出した完成度を誇る素晴らしい第一級品だった。

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ドキュメンタリー映画で描かれたのは

あのドキュメンタリーで描かれたのは、ナワリヌイがロシア国内の飛行機の中で、ロシア工作員によって猛毒のノビチョクを盛られ、生死の境をさまよったあの有名な衝撃的なエピソードが中心となっている。

妻のユリアと仲間たちの尽力によって、治療と療養のために何とかドイツの病院に移送され、九死に一生を得て、奇跡の生還を果たした。

ドキュメンタリーは、その後、自分に猛毒を盛った真犯人を突き止めるというちょっと信じがたい内容だった。

ドキュメンタリー映画の中で、実際に実行犯が暴かれていくスリルとサスペンスに富んだ驚異のノンフィクションだった。

で、ドイツの病院で快復したナワリヌイは、晴れて祖国ロシアに帰ろうとする。当時のドイツ首相であったあのメルケル始め、心配する多くの周囲の声を遮って、ナワリヌイはモスクワ行き飛行機に乗り込んで、空港に着陸する。

そこで待ち構えていたロシア当局に、妻や関係者の目の前で逮捕されるところまでが描かれていた。

その後で、結局ナワリヌイがどうなったのか、その悲劇的な最後はもう世界中の人々が良く知っているとおりだ。

「パトリオット」は映画の続き

「パトリオット」で描かれるのは、逮捕後のナワリヌイの獄中記が中心となる。

つまりこの本は、ドキュメンタリー映画の中で、ナワリヌイがモスクワ空港で逮捕された後の記録が中心となる。

そういう意味では、先ずは猛毒によるナワリヌイの暗殺未遂の実態と実行犯を突き止めた後で、ロシアに帰国して逮捕されるまでのナワリヌイ自身の姿をしっかりと実写映画で観てもらって、その後で、本書「パトリオット」を読んでもらうことをお薦めしたい。

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ナワリヌイ「パトリオット」の基本情報

本書「パトリオット」には副題がある。「プーチンを追い詰めた男 最後の手記」という。

講談社から発行されているソフトカバーの単行本。日本では2024年10月22日に第1刷が発行されている。本書が出版されてからもう1年近く経とうとしている。

ナワリヌイがロシア当局によって極北の収容所で殺されたのは、2024年2月16日とされているので、本書はナワリヌイ殺害後、8カ月後に出版されたことになる。

本書の帯には「暗殺未遂直後から獄中死直前まで綴られた闘いの記録」と銘打たれている。正にそのとおりだ。

紹介したナワリヌイの「パトリオット」の表紙の写真。ナワリヌイの凝視する目が極めて印象的な表紙。
表紙の写真。ナワリヌイの凝視する目が極めて印象的な表紙。
紹介したナワリヌイの「パトリオット」の裏表紙
裏表紙

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全体の区分けと構成

本書はかなり分厚い本である。538ページもある。全体は大きく4つのパートに分けられている。

本書の全体の構成と内容(目次から)

Part1 NEAR DEATH 死の縁
    2020年 航空機内での毒殺未遂事件からドイツ療養まで

Part2 FORMATION 原体験
    群の町で育った青年が政治に目覚め政治に失望するまで

Part3 WORK 目覚め
    無神論者が父となり、プーチン体制の罪と嘘を暴くまで

Part4 PRISON 獄中記
    2021年 帰国直後の逮捕から2024年 殺害まで 

 

4つのパートは内容が明確に区分されている。サブタイトルを読めば内容の想像はつくと思うが、念のため解説しておこう。

先ずPart1の死の縁は、ズバリ飛行機の中で猛毒のノビチョクを盛られ、重体となりドイツの病院で奇跡の生還を果たして、モスクワに戻るまで。

実はこの部分は26ページしかない非常に短いものだ。ところが飛行機内で体調を崩し、意識を失って倒れるまでの経緯が克明に描写、更に長い昏睡状態から漸く意識が戻る際の状況も、危うい記憶を辿りながら、細部まで緻密かつ詳細に描写されている。

いずれも非常に切迫感溢れたスリルに富む描写で、ハラハラドキドキさせられ、読み応え十分だ。

本書を立てて撮影した。
立てるとこんな感じだ。
かなりの厚みがある。
かなりの厚みがある。

 

モスクワ行きを決意して実際に飛行機に乗り込んで、到着したモスクワの空港内で逮捕されてしまうので、26ページのPart1は、そのままPart4の獄中記に繋がっていくという構成になっている。218ページに及ぶ長いもので、本書全体の3分の1を占めている。

サンドウィッチになった真ん中のPart2とPar3は、ナワリヌイの自伝部分である。

暗殺未遂そのものから、療養後にモスクワに戻って逮捕され殺害されるという衝撃的かつ悲劇的な部分を前後において、中盤はナワリヌイの過去の生き様というか、プーチン政権に果敢に挑む反体制派の政治リーダー「ナワリヌイの誕生物語」が、本人の口から直接語られるという構成となっている。

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巻頭の写真アルバムがありがたい

本書には巻頭にナワリヌイに関する貴重なカラー写真が多数掲載されている。このカラーアルバムが嬉しい。

オールカラー全16ページ。生まれたばかりの赤ちゃんの写真から始まって、年代順に掲載されている。全てカラー写真で、写真の数は38枚に及んでいる。

本書巻頭のカラーアルバムから①。貴重な写真と丁寧な解説が嬉しい。
本書巻頭のカラーアルバムから①。貴重な写真と丁寧な解説が嬉しい。
本書巻頭のカラーアルバムから②。非常に丁寧かつ詳細な解説が貴重だ。
本書巻頭のカラーアルバムから②。非常に丁寧かつ詳細な解説が貴重だ。

 

ナワリヌイの生涯を彩るエポックメーキング的な写真が多く、丁寧な解説共々、非常に貴重なものばかり。

ご本人は既に死んでしまっているだけに、追悼の意味もあってこれはありがたかった。

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本の装丁には難あり

約550ページ近い分厚い単行本でありながら、ソフトカバーに問題があったのか、紙質も比較的厚めなこともあって、読んでいるうちに、ほぼ真ん中辺りで、パックリと割れてしまった

これにはまいった。こういうことは本当に興醒めさせられる。これはハードカバーにしてもっと堅牢な作りにしてもらいたかった。

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改めてナワリヌイのこと

アレクセイ・ナワリヌイのことはある程度は知っている人がほとんどだと思うが、ここでは念のため、いつものように本書に掲載されているプロフィールを転載させてもらう。

これが簡潔ながらもポイントを掴んだ的確な紹介となっている。これを読めばナワリヌイのことはおおよそ理解できるだろう。

「1976年、ロシア・モスクワ州生まれ。「プーチンが最も恐れた男」として知られる。「主権は国民にある」と訴え続け、世界的評価を受けた反体制派リーダー、人権活動家、政治活動家。

2011年のロシア下院選挙における不正疑惑に抗議、選挙のやり直しを求め、モスクワで大規模なプーチン抗議集会を行い、一躍注目を集める。

「半汚職基金」を立ち上げ、SNSを駆使して不正選挙の実態、政権中枢幹部および国営企業の腐敗と富の独占を告発し、国内外で大反響を呼ぶ。国際的評価も高く、欧州議会が人権擁護に貢献した人に贈る「サハロフ賞」、人権と民主主義のためのジュネーブ・サミット「勇気賞」(ともに2021年)、「ドレスデン平和賞」(2024年)など、多くの賞を得ている。米国『タイム』誌の「世界で最も影響力のある100人(2012年)」「インターネット上で最も影響力のある25人(2017年)」に選出。

2020年、ロシア国内線の航空機内で新経済ノビチョクによる毒殺未遂に遭い、2021年1月、療養先のドイツから帰国直後に過去の経済事件を理由に逮捕、収監。

2023年、彼の活動を描いたドキュメンタリー映画『ナワリヌイ』が米国アカデミー賞・長編ドキュメンタリー賞を受賞。2024年に死亡。」

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ユーモアに溢れた非常に読みやすい文章

このナワリヌイが書いた自伝と獄中でのレポート(日記とSNS)が非常に読みやすい親近感のある分かりやすいもので、ナワリヌイの人となりが良く伝わってくる。

プーチンとロシアの権力中枢を敵に回す政治活動を繰り広げる中で、何度も逮捕され続け、挙句の果てにノビチョクという猛毒によって、生死の縁をさまよう重体に陥りながらも奇跡的に復活し、帰国直後に逮捕されてから3年間も収容所で過酷な虐待を受け続け、最後は47歳の若さで殺害されてしまったナワリヌイ。

信じ難いことだが、結局は殺されてしまったわけだ。

プーチンとロシアの深い闇に慄然となる。そして憤怒の思いが抑えられない

意外にも暗さ・絶望とは程遠い文章

ナワリヌイのあまりにも残酷で悲劇的な生涯壮絶な生き様としか言いようがないが、実はノビチョクによる襲撃の際のレポートも、3年以上に及んだ過酷な獄中生活を生々しく描いた獄中記も、決して暗くない全くジメジメしていないのである。

ナワリヌイという人は非常にユーモアと茶目っ気があった人のようで、どんなに傷つき、怒りに身を任せて当然の場面でも、怒り狂ったり、絶望したりすることのない天真爛漫といってもいいくらいの明るいキャラクターなのである。

皮肉を交えながらも、とにかくどのページにもユーモアと笑いが満載なことに心底驚いてしまう。

あれだけの迫害を受ければ、本書の中にはプーチンを筆頭にロシアの権力中枢に居座る権力者たちと刑務官などに対して、怒り、憤怒の感情、更に絶望感で覆い尽くされていて当然なのだが、実際にはそんなことはない

24日間に及ぶ命が危ぶまれる過酷なハンガーストライキを実践、電話も面会も許されない独房(懲罰房)に295日も入れられ、虐待を受け続けた収監の実態。

収監中に背中と脚の痛みが酷く、医師による診察を求め続けたが、医療はほとんど受けられなかった。例のハンガーストライキは、それに対しての抵抗だった。

ところが少しも暗くないのである。

【後編】に続く

 

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