【前編からの続き】
目 次
とっておきの稀有のCD紹介が目的
今回のシューマンとシューマンの傑作歌曲の紹介は、僕が宝物にしている素晴らしいCDを多くの人に聴いてもらうことが目的だ。
僕が現在所有している約5万枚(最近は正確に数えたことがないので実態は不明)のCDの中でも、特別に愛着を感じている1枚だ。


我が家の全てのCDからベストテンをチョイスしろと言われたら、迷わず上位に選ばれる稀有なCDである。
だが、このCDの紹介の前に、まだシューマンの歌曲を語っておく必要がある。
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「リーダークライス作品39」について
「詩人の恋」に勝るとも劣らない傑作歌曲集が作品39の「リーダークライス」である。これももちろん、「歌の年」のシューマンがクララと結婚できた1840年の作曲だ。

「リーダークライス」というのはドイツ語で「歌曲集」くらいの意味である。実は、シューマンには「歌の年」にもう1曲「リーダークライス」を作曲している。作品24だ。
作品24の「リーダークライス」も素晴らしい作品だが、何と言っても作品39の「リーダークライス」の完成度と美しさは別格だ。
全12曲から構成されているが、「詩人の恋」のようにストーリーがあるわけではなく、1曲1曲独立した歌の集合体である。
歌詞は全て、ドイツが誇る著名なロマン派の大詩人アイヒェンドルフ(1788年~1857年)による。
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「リーダークライス作品39」の個々の歌
全12曲のタイトルを以下に列挙する。
1.異国で(異郷にて)
2.間奏曲
3.森の語らい
4.しずけさ
5.月夜(月の夜)
6.美しい異国(美しき異郷)
7.古城から(城の上にて)
8.異国で(異郷にて)
9.悲しみ(憂愁)
10.たそがれどき(黄昏)
11.森の中で
12.春の夜

「詩人の恋」は16曲で30分弱。1曲当り1~2分の非常に短い歌の集合体。中には30秒足らずの歌まである。
一方の「リーダークライス作品39」は12曲からなる曲集で、演奏時間は全体で25分強。「詩人の恋」とあまり変わらない。1曲当たり平均2分だから、「詩人の恋」の1曲よりも総じて長い曲が多い。
1曲毎が独立した歌の集まりだけに、少し長めの歌が多いのが特徴だ。
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5曲目「月の夜」が息を飲む美しさ
12曲の全てが傑作だが、全体の白眉は第5曲目の「月の夜」である。
この曲は4分近くある長めの曲で、こんなに美しい歌は聴いたことがない。信じられない息を飲む美しさだ。
曲の冒頭からpを駆使したちょっと間違えば壊れてしまいそうな繊細の極致のような音楽。それでいてピアノは2度音程でぶつかって不協和音を奏でるのである。繊細の極みの「美しい不協和音」が絶妙な効果を発揮する。
宗教曲でもないのに思わず手を合わせ、慎重に耳をそばたてて、襟を正し、身を乗り出して聴いてみたくなる。
音楽の神が確かにここにいる、と実感させられる瞬間だ。

シューマンが作曲した最も美しい音楽。言語に尽くし難い妙なる美しさは、音楽上の奇跡のよう。繊細極まりない美しさに、心が打ち震えてしまう。
他にも、2番「間奏曲」、8番「異郷にて」、9番「憂愁」、10番「黄昏」。そして終曲の12番「春の夜」が、非常に短いながらも疾走するピアノに、わななくような感情の昂りがうまくマッチして曲集の最後を飾るにふさわしい感動的な歌。
12曲それぞれが甲乙付け難い素晴らしい歌ばかり。本当にほれぼれとさせられる歌曲集だ。
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かけがえのない宝物のCD
いよいよ演奏について語るところまできた。
フィッシャー・ディースカウが歌うシューマンの「詩人の恋」と「リーダークライス作品39」である。ピアノ伴奏はクリストフ・エッシェンバッハ。

この2人はCD6枚、全200曲にも及ぶシューマンが作曲した男性が歌える全ての歌曲を録音しているのだが、このCDはその中から最高傑作である2つの歌曲集をカップリングしたベストチョイスで、これこそ正真正銘、僕の宝物だ。



「詩人の恋」も「リーダークライス作品39」も、他に例のない歌そのものの美しさと、息を飲む演奏の素晴らしさで聴く人の心を洗い清め、それだけで幸せになれる。
何はともあれ、この傑出した歌と演奏に耳を傾けてほしいというのが、僕の切なる願いである。
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フィッシャー・ディースカウのこと
フィッシャー・ディースカウの歌唱の見事さについては、人の声はここまで美しく、かつ知的なものか、という感嘆の一語に尽きる。
本当に美しい声。どんな楽器のどんな演奏も彼の歌にはかなわないと思えてくる。彼の歌こそ、最も美しく、感情豊かな楽器そのものだ。
フィッシャー・ディースカウはバリトン(男声の低い方の声)だが、下手なテノール歌手も真っ青な高音も極めてスムーズに美しく歌ってのけた。しかもソットヴォ―チェという弱音をビックリするほど美しく歌うことができた。
それだけではない。フィッシャー・ディースカウを語って強調しておきたいことは、単に声が美しいというだけではなく、その歌はどこまでも知的にコントロールされ、表現は精緻さを極めていることだ。



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全クラシック演奏家の中の頂点
決して大袈裟ではなく、フィッシャー・ディースカウは20世紀から今日に至るまでの間に出現したありとあらゆるジャンルのクラシック音楽の演奏家の中の、最高の音楽家である。
先ずは録音した量が比較にならない。ピアノ伴奏付きの歌曲だけで100枚以上。これはドイツリートだけではなく古今の作曲家のほぼ全歌曲を網羅するものなのだから、空恐ろしい。それ以外に数え切れない程の声楽曲とオペラの数々。とても一人の人間の仕事とは信じられない。



そして真に驚くべきことは、そのライヴ演奏を含めて全ての録音が、質的に空前の出来栄えに到達していることだ。
ただ1枚だけ残しても永遠に語り継がれるような名盤が山のように残されており、これには呆れ返るしかない。全く途方もないお化けのような存在である。
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シューマン全集録音時がピークだった
そんな膨大な量のフィッシャー・ディースカウの全録音の中でも、このエッシェンバッハとタッグを組んだシューマンの歌曲集は、とりわけ素晴らしい最高のものだと断言したい。
僕が個人的に言っているだけではなく、その評価が完全に定着している名盤中の名盤だ。


これほどあらゆる面から最高の条件が揃ったのは稀だ。
フィッシャー・ディースカウの声はこのシューマン歌曲全集を録音した頃(3年がかりで録音しており、ちょうど50歳前後)が最も美しく、知的な解釈と声の美しさが最も深いところで合致している。

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ピアニスト、エッシェンバッハのこと
そして何と言っても讃えられるべきは、ピアノのクリストフ・エッシェンバッハの息を飲む見事さである。
ロマン派音楽の権化(化身)のようなシューマン。ロマン派音楽と言えば抒情的なだけと思われがちだが、シューマンという作曲家は極めて複雑な錯綜した人物で、その音楽は耳に美しく響くだけのロマンティックこの上ない音楽のようでいて、実は驚くべき多面性と複雑さを秘めており、一筋縄ではいかない。
そんな陰影に富んだシューマンの深層心理を、エッシェンバッハは水もしたたる美音を用いて、これ以上考えられない精度で表現し尽くした。


さすがのフィッシャー・ディースカウもエッシェンバッハから大いに刺激を受け、その影響を受けたことは間違いない。

そしてこの最高の歌唱とピアノの音を完璧に捉えた録音を含めて、これは奇跡的な高みに到達した稀有のCDである。それがシューマンの歌曲でなされたことが何よりも嬉しい。
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傑作「ミルテの花」からの名曲も嬉しい
このシューマン歌曲の選りすぐりの1枚には、最高傑作の「詩人の恋」と「リーダークライス作品39」の全曲に加えて、歌曲集「ミルテの花」作品25から飛び切りの名曲が7曲も併録されているのが嬉しい。
これも「歌の年」に作曲されたシューマンの代表的な歌曲集。ずばりクララに献呈された歌曲集だ。
その中から「献呈」、「くるみの木」、「蓮の花」など有名どころが収められている。まさしくシューマネネスクな名曲ばかりである。。
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これ以上はない空前絶後の名盤
こんなに美しい魅力的な歌の数々を、僕は他に知らない。
シューマンの「詩人の恋」も「リーダークライス作品39」も、メロディといい、ピアン伴奏といい、一聴して人の心を虜にするい美しさに満ち溢れている。
短い歌の全てに音楽の神が乗り移ったとしか思えないような霊感が宿っているのだが、それはこの音楽に、単に美しいという次元を通り越えて、ほとんど狂気寸前の美しさを孕ませているかのようだ。この美しさと完成度は尋常なものではない。
一度聴いてもらえれば、シューマンの曲の美しさとフィッシャー・ディースカウの声の美しさに心を奪われ、ひたすら酔いしれることになるだろう。
そればかりか、2人の真の天才の能力が合致すると、どれだけの高さと深みに到達しうるのか、まざまざと思い知らされることになる。
どうしても聴いていただきたい必聴の名盤だ。
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シューマン:歌曲集≪詩人の恋≫≪リーダークライス≫≪ミルテの花≫より [ ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ ]