脳卒中で倒れた出口さんの貴重な闘病記

前回取り上げたばかりの出口さんの「知的生産の考え方」の紹介記事の終盤にも触れたことだが、出口さんは2021年の1月に脳卒中(脳出血)で倒れた。

右半身に麻痺が残り、重度の失語症となって再起が危ぶまれたところろだが、懸命なリハビリを続け、奇跡的にAPU(立命館アジア・太平洋大学)の学長に復職されたことは既にお伝えしたとおり。

本当にこれは信じがたいことであり、益々出口さんをリスペクトしてしまうのだが、この驚異の復帰劇をご自身がまとめたいわば闘病記が出版されているので、今回はこれを紹介する。

この本はもちろん出口さんが突然病魔に襲われて倒れた後の最初の著作であり、復帰第1号の記念すべき1冊である。

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出口治明「復帰への底力」の基本情報

これは出版された直後の本ではない。僕が見逃していて、この記念すべき1冊は2022年7月20日に発行されている。今から(2024年1月)約1年半前に出ていた本である。

講談社現代新書の1冊。ページ数は213ページ。フォントはかなり大きめなので、約200ページという新書は直ぐに読めてしまう。

フォントがかなり大きいこともあって、1ページ当たりの行数は14行。1行当たりの文字数も36文字しかなくて、本当に直ぐに読めてしまう。

これは数多い新書本の中でも相当文字数な少ない方で、出口さんが同じ講談社現代新書から出している他の本と比べてもかなり読みやすい。

本書のページ数は200ページ強だが、普通の大きさのフォントを用いていれば、120〜130ページ足らずのかなり薄めの本になったものと思われる。

これは一つには同じような障害を持った読者にも苦労せずに読んでもらうための出口さんと出版社の配慮ではないかと思っている。

紹介した本の表紙の写真

これが本書の表紙だが、本来の新書にはこのインパクトの強い写真はなく、帯として巻かれているものである。見事にAPU学長に復帰を果たした後の電動車椅子に乗る出口さん。

紹介した本の裏表紙の写真

こちらが裏表紙。幅広の帯に出口さんが見事に復活できたポイントが箇条書きにされている。分かりやすくて貴重なもの。

フォントの大きさなどを知ってもらうために、本書の中の1ページを写真で取り上げた

フォントの大きさなどを知ってもらうために、本書の中の1ページを写真で取り上げた。非常に大きなフォントとそれ故に行数も文字数もかなり少なめになっているのが分かるだろう。

本書の全体の構成・目次

はじめに 運命を受け入れ、前向きに生きる
第1章 突然の発症から転院へ
第2章 僕が復職を目指した理由
第3章 リハビリ開始と折れない心
第4章 言葉を一から取り戻す
第5章 入院生活とリハビリの「自主トレ」
第6章 リハビリ入院の折り返し
第7章 自宅への帰還とAPU学長復職まで
第8章 チャレンジは終わらない

紹介した本を立てて撮影した写真

立てるとこんな感じ。薄い新書である。本当に直ぐに読める。

 

もうこの目次の各章のタイトルを見ただけで、本書には何が書かれているのか。
出口さんの身に何が起きて、病魔に倒れてからどうような取り組みをして、その結果どうなったのか、そして現在はどうなっているのか、そのあたりの経緯は一目瞭然である。

正にこの目次に書かれているような経緯を辿って、病魔に襲われた出口さん自身が掲げた目標だった「APUの学長への復職」を見事に果たしたわけだが、その経緯のポイントと、そんなある種の「奇跡」が起きた要因など、特に印象的な部分を紹介していきたい。

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出口治明のことを再度紹介しておく

ここであらためて著者の出口治明(でぐちはるあき)さんのことを確認しておきたい。

本書の扉に掲げられているプロフィールをそのまま掲載させていただくのが一番適切だろう。前回紹介した「知的生産術」に掲載されていたプロフィールとは若干表現や言い回しが異なっているので、留意してほしい。

1948年三重県に生まれる。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。ライフネット生命保険株式会社創始者。
京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年上場。社長、会長を10年務めたのち、2018年より現職。

2021年1月に脳卒中を発症、約1年の休職ののち、公務に復帰を果たす

主な著書に・・・(後略)。

出口さんの発症とその後の経緯の概略

APU(立命館アジア太平洋大学)学長として最前線で働いていた出口さんを突然襲った病魔。

先ずはその発症経緯を本書から説明しておこう。

1.2021年1月9日朝 福岡にて脳出血の発作を起こし、救急搬送
「左被殻出血」意識障害・右半身麻痺・失語症 手術をしない方針が取られた

2.2021年2月12日 原宿リハビリテーション病院(東京)【回復期リハビリテーション病棟】転院

3.2021年8月10日 東京の自宅に退院 訪問リハビリテーションを利用

4.2022年1月~  APU東京キャンパスに出勤開始

5.2022年3月下旬 別府のAPUキャンパスに復帰

6.2022年4月1日  2022年春入学式出席 祝辞  

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信じられないメンタルの強さ

本書を読んで、とにかく一番強く感じることは著者の出口さん、すなわち重い脳卒中(脳出血)で倒れ、右半身不随、重篤な失語症に陥った重い疾患を抱えた1患者の前向きな姿勢、こんな苦境に陥っても決して挫けることも落ち込むこともなく、新たな高い目標を設定してあくまでにポジティブに頑張っていく出口さんの途方もないメンタルの強さ、その類まれな強靭な精神の在り方に圧倒されてしまったということだ。

これはすごい。常人の到底真似のできることではないというのが率直な感想だった。

そして、こういう特別なメンタルを持った強靭な精神力の持ち主だから、こんな困難を克服し、見事に目標を達成してAPUの学長に復帰することができたんだろう、と思ってしまう。

それだけではない。そもそもこういう資質の持ち主なので、ライフネットという新たなベンチャー企業を立ち上げ、成功させ、更にこのような起業家が立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任し、大活躍ができたんだ、と思ってしまう。

つまり、出口さんという方は、特別なメンタリティの持ち主なんだろうと。普通の人ならとてもこうはいかないだろう、と思ってしまいたくなる。

出口さんを特別な人扱いすることは本人も望まない

だが、そうやって出口さんを特別な人間扱いすること。出口さんは特別なスーパースターなので、こんなことが可能になった、と考えてしまうことは、出口さんは決して望んでいないのではないか

本書は、出口さんの「僕はこんな重病に罹って再起不能と言われたけれど、不屈の闘病で見事に復活したぞ!」という、自慢話では絶対にない。

そんな本なら、読む人は決して多くないだろう。

強靭な精神力と類まれな資質を持った特別な人間だから復活できたということではなく、どんな人だって、重度な疾患に罹っても、前向きな気持ちで医療スタッフという専門家を信じて努力をすれば病気を克服することもできるという実例を示し、一つの実際にあったモデルケースとして、他の人たちも頑張ってほしいという気に罹った人たちへの励ましと、具体的な取り組み方を示した本」だと言うべきだ。

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右半身麻痺で話せないのに学長復帰を目指す

先ず驚かされるのは、これだけの重度の障害が残ったにも拘らず、出口さんがそれにひるむことなく、目標をAPUの学長に復帰と定めたことだ。この目標設定がなければ何も先には進まない。

回リハ転院当時の出口さんの状況

脳卒中の発作で倒れ、約1カ月後に東京の原宿リハビリテーション病院に転院された当時の出口さんの状況は、本書の中でこう書かれている。

『一人で歩行はできない状態で、病院内の移動には介助が必要でした。言葉については「はい」くらいしか言えず、あとは「あー」といった言葉くらいで、意味のある言葉はほぼ出せない状態でした。文字を書くのも利き手が麻痺していることもあり、まだ難しかった』

リハビリで学長への復職を目指す

こんな酷い状態だったにも拘らず、出口さんはAPUの学長の仕事に復帰したいと強く望んだ

リハビリ専門病院への転院に当たっても、将来的な目標として「以前と同じように別府へ単身赴任して一人で自立した生活を送れるようになりたい」「聴衆の前に立って講演できるようになりたい」と医師とリハビリのスタッフに伝えている。

なぜAPUの学長への復職を目指すのかというと、まだやり残した仕事があったからという。

『学長に就任して以来取り組んできた、新しい学部の設立。そして新型コロナウイルスの感染拡大で大きな影響を受けた学生の支援。そして国際学生の入国をサポートし、以前のように多様な学生が対面で交流できるキャンパスを、できるだけ早く取り戻したい。』

そのためにこれだけの重篤な障害があっても、単身赴任で別府に戻り、学長に復職することを目指すというのである。

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不可能だと思われた復職を見事にやってのけた

結果的には、出口さんはこの無謀とも言える不可能に近い目標を、実際に達成した。

本書には、その実際の細かいリハビリ取り組みの状況と経緯が、非常に分かりやすくかつ丁寧に記録されている。

詳細はどうか本書を実際に読んでいただければと思う。出口さんご自身のリハビリに取り組む姿の写真も多数掲載されていて、非常に興味深い。

以下の3枚の写真は、本書の冒頭に載っているものである。ここで引用させていただいた。それぞれの写真に出口さんご自身が詳しく解説してくれている。

傾聴したい。

リハビリスタッフのコメントが読み応え十分

出口さんがリハビリに取り組んだいわば戦場は、東京の原宿にある原宿リハビリテーション病院である。いわゆる回復期リハビリテーション病棟である。

本書では、そこで実際に出口さんのリハビリに関わったセラピスト(リハビリスタッフ)が、固有名詞(本名)で頻繁に登場してくる。

リハビリのスタッフには3職種がいることはまだまだ一般的には知られていないかもしれない。説明しておこう。解説は本書から引用。

理学療法士(PT)座る、立つ、歩くなど基本動作能力の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する、医学的リハビリテーションの専門職

作業療法士(OT)食事や入浴、買い物など日常生活に関わるすべての活動を作業といい、障害などで作業が難しくなっている人を対象に、作業そのものの練習をしたり、心身の機能の回復や維持の手段として作業を行ったりする作業療法の専門職

言語聴覚士(ST)脳卒中後の言語障害や聴覚障害、言葉の発達の遅れ、声や発音の障害など、多岐にわたる言葉によるコミュニケーションの問題の本質や発現メカニズムを明らかにし、対処法を見出すために検査と評価を実施し、必要に応じて訓練や指導、助言を行う専門職。嚥下訓練や人工内耳の調整も行う。

原宿リハビリテーション病院の回復期リハビリテーション病棟で約半年に及ぶリハビリでは、これらも3種類のセラピストによるリハビリを受け続けた。

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リハビリスタッフによる貴重なコメントが盛りだくさん

本書の中には出口さんのリハビリを実際に担当したセラピストの様々なコメントや評価が引用されていて、これが非常に参考になる貴重なもの

リハビリの専門家としてのコメントそのものが貴重であることはもちろんだが、これらのコメントを読ませていただくことで、出口さんが実際に取り組んだリハビリの様子が非常にリアルかつ立体的に浮かび上がってくる

そればかりか、これらをとおして不屈の精神の持ち主である出口さんの人柄とキャラクターが第三者による客観的な評価としてクローズアップされてくる。

これが何とも興味深く、貴重なのである。

特に出口さんにとって最大の関門であった「話せるようになること」に関わったOTの瀬尾さんの随所に出てくるコメントが読み応え十分だ。

瀬尾さん自身も苦労しながら全体構造法というレベルの高い訓練を取り入れ、その手法を習得し、それを出口さんと二人三脚のようにして模索しながら出口さんの話す機能を向上させていくくだりは、感動的だ。

復職に当たっての苦渋の選択を迫られる

この闘病記の中で、非常にインパクトの強い部分は、APU学長の復職を目指す出口さんにいよいよタイムリミットが迫ってくる部分だ。

リハビリ時間(期間)に上限があるため、「トレードオフ」が発生するためだ。時間的に猶予がなくなってくるのである。

出口さんの課題は大きく2つあった。歩行ができるようになることと話せるようになること。限られた期間内にこの2つもどちらもクリアすることは困難になってくる。そこで苦渋の選択を迫られることになる。

話すことを優先して歩行は諦める決断

そこで、3人のリハビリスタッフと主治医と相談して結論を出すのだが、相談して結論を出すというよりも、出口さんの立派な点は、医師とリハビリスタッフの提案に一切異を唱えずに、素直に受け入れたことだ。

自力で歩くことは諦めて、話すことを優先させるという決断だった。

その方針が決まってからは、電動車椅子の操作が始まる。そして中々実現できない発語訓練

その苦闘の詳細も、実際に本書を読んでいただこう。

非常に興味深くも涙ぐましい内容である。

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あらゆる病人に勇気を与える感動的な闘病記

繰り返しになるが、これは出口さんの自慢話でもなければ、この特別に強靭な精神力を持った出口さんだからできたという英雄譚でもない。

このポジティブな発想を見習いたい

出口さんの決してくじけない前向きな姿勢と強靭な精神力、言ってみればどこまでもポジティブな発想と姿勢にはただただ頭が下がる。

今回本書を読んで本当にすごい方だと、あらためて痛感させられた次第。

何とか少しでも出口さんのこのポジティブな発想と姿勢を少しでも身に付けたいと自分に言い聞かせているところである。

本書を読む全ての読者が、きっとその気持ちを共有してくれることだろう。

感動を呼ぶかけがえのない1冊

そうなってくれれば出口さんとしても、復帰後の大変に忙しく、障害を抱えたしんどい身体状況の中で、本書を執筆してくれた甲斐もあるというものだ。

病気に罹って苦しんでいる人、不安に駆られている人、途方に暮れている人、そして深い絶望に打ちひしがれている人。

そんなありとあらゆる病人と、それを心配し、支え続ける全ての家族と友人たちに感動と勇気を与えてくれるのが本書。それら全ての人に是非とも読んでいただきたいものだ。

とてつもない勇気と感動を与えてくれることをお約束する。

 

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