あの出口さんがすごい本を書いた

久々の出口さんの大作を書店で見つけた。「世界は宗教で読み解ける」というかなり厚めの新書本。これが読み応え十分な力作だった。

病気でリハビリ中の出口さんは、そんなハンディをものともせずに、その後も何冊も本を出版していることは周知のことで、このブログでも紹介してきている。

だが、今回の新刊の新書は厚みもかなりあって、自身の健康問題には一切触れることもない中身の濃厚な1冊である。

紹介した出口さんの本の表紙の写真。帯に掲載された出口さんの笑顔にホッとさせられる。
表紙の写真。帯に掲載された出口さんの笑顔にホッとさせられる。
紹介した出口さんの本の裏表紙。
裏表紙。このコメントは本文の「まえがき」からの抜粋。

 

これには驚いた。

僕はすっかり嬉しくなって、即座に購入。一気に読み終えたので、紹介させていただく。

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既刊の「哲学と宗教全史」との関係

出口さんは以前、「哲学と宗教全史」というかなり分厚なハードカバーを出版していて、僕もそれはこのブログでも直ぐに紹介している。ちょうど6年前の2019年8月に発刊された本だ。

「哲学と宗教全史」の表紙の写真。
こちらが「哲学と宗教全史」。実に立派な分厚いハードカバー。
「哲学と宗教全史」を立てて撮影。厚みが良く分かる。
立てるとこのとおり。分厚くて実に立派な本。

 

今回の新書はあの本とよく似た内容の本であり、続編と言ってもいいくらいだが、「哲学と宗教全史」は基本的に世界中の宗教と哲学の内容そのものを紹介することに主眼が置かれているのに対し、今回の新刊では、先ずは対象を基本的に宗教に限定し、哲学は除外されている。

但し、必要に応じて思想や哲学、特に時代を彩った思想についてはかなり詳細に触れられている。もしかすると出口さんにとって、今回の本で取り扱われている思想家たちは、広い意味で宗教の一部とする発想も持っているのかもしれない。

2つの本の違いの一番重要なポイントは、同じように宗教の内容に触れながらも、今回はそれが現在の世界の政治状況とどう関わっているのか?そこに力点が置かれている点にある。

出口さんの宗教に関する2冊を並べて撮影した。
2冊を並べるとこんな感じである。
2冊を立てて撮影した。
立てるとこのとおり。
2冊を立てて、横に並べた写真。
今回の新書は「哲学と宗教全史」を簡略化したように思われるかもしれないが、むしろこちらの方が詳細で内容豊富のように思われる。

 

現在の世界を取り巻く戦争や紛争は宗教を根本原因とすることが多く、それらの戦争や紛争の原因を探り、解決策を模索しようとしたら、宗教に遡るしかない

宗教が根本原因となって戦争や紛争が起きることが人類の歴史の中で、古今東西からずっと続いてきたが、現代社会でもそれは本質的に変わっていない。また直接宗教対立で紛争等が起きた場合ではなくても、その遠因、背景として宗教が絡んでいることは少なくないどころか、ほとんどの紛争に言えるわけで、どうしても宗教というものを正確に理解する必要があるのだ。

そんな狙いと趣旨で書かれたのが今回の新刊と言っていいだろう。

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「世界は宗教で読み解ける」の基本情報

2025年5月5日 初版第1刷発行。今年(2025年)の5月、つまりまだ2~3カ月前に出たばかりの新しい本である。SBクリエイティブ株式会社から出ているSB新書である。

286ページ。300ページに迫る新書としてはかなり厚い方で、かなりの力作と呼ぶべき1冊だ。

今回紹介した新書を立てて横から撮影した。
新書としてはかなり厚い方だ。

 

「宗教を知れば、世界がわかる」というサブタイトルが付けられた9ページに及ぶ「はじめに」が非常に分かり易い。

一部を引用させてもらうと
「過去にも現代においても神の名のもとに敵対勢力に対して残酷な行為をしたり、異教の文化遺産を破壊したりといった暴力を伴うようなかたちでの発露も見られてきました。これらの歴史やその背景にもまた、現代社会を生きていくうえで最低限知っておきたいことがいくつもあります」

「まさにいま、僕たちが向き合っている課題や悩みのピントになるような発想や知見、考えが、宗教や歴史のなかにもあるのです。また、宗教を知らなくては理解できない社会や政治の問題も数多く存在します」

約1万2千年前からの古今東西のありとあらゆる宗教に、一部の思想家の思想なども付け加えながら、その宗教や思想の内容と、それが現代社会に及ぼしている影響などを幅広く検証していく。

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本書の全体の構成

新書本としては厚めの方とは言っても、300ページ弱の中で、古今東西の宗教や一部の思想家を取り上げるの至難の技だが、本書には正に古今東西の宗教が網羅されている。

目次から、各章のタイトルを列挙してみる。

本書の構成ー目次から

はじめに 宗教を知れば、世界がわかる

第1章 宗教はどのように生まれたのか?

第2章 宗教がアメリカの政治で絶大な影響力を持つわけとは?

第3章 資本主義の原型をつくった予定説とは?

第4章 原理主義台頭の背景にあるユースバルジとは?

第5章 ヒンドゥ・ナショナリズムとムスリムの緊張関係とは?

第6章 東南アジアにおける社会運動と仏教の関係とは?

第7章 中国共産党と儒教の関係とは?

第8章 世界の宗教勢力図はどのように変わっていくのか?

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出口さん渾身の一冊と呼ぶべき大作

本書は現代の知の巨人と呼ぶべき出口治明さんの凄まじいばかりの知識と教養を総動員させた渾身の一冊である。

宗教、思想哲学、歴史そして現代社会。それらを融合させて縦横無尽に語り尽くす様に唖然とさせられる。「知の巨人」出口さんだからこそものにすることができた労作だ。

その知のレベルが半端ではない。300ページ弱の中に良くここまで詰め込んだと感嘆するしかない情報量。あまりにも豊富な知識と教養に驚嘆させられる。

その情報量は、かなり宗教や歴史に詳しいと自負している人にとっても、多分追いつけないレベル。僕なんかも全く聞いたことのない固有名詞が山のように出てきて、舌を巻くしかなかった。

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大きな障害を負いながらよくぞここまで

しかも、改めていうまでもないことだが、出口治明さんは、数年前(2021年1月)に脳卒中(脳出血)で倒れ、右半身まひと重い失語症に陥り、かなり改善したとはいうものの、今でもリハビリを続けている身である。

その出口さんが、これだけの内容豊富な力作を出版したことは、ただならぬことである。筆舌に尽くし難い苦労があったであろうことは想像に難くない。

本当に脱帽してしまう。心からのリスペクトを捧げたい。

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中国共産党のくだりに目から鱗が落ちた

本書には、出口さんの個人的な発想や評価、意見が随所に現れていて、それが僕のような以前から出口さんの本をたくさん読んできた者にとっては、実に興味深いものがある。

単に知識をフル動員して読者に情報を提供するだけではなく、傾聴に値する出口論が展開されている。

その中には、ハッとさせられるような全くユニークな考えがあって、僕は読んでいて思わず膝を打ってしまった程だ。

目から鱗が落ちる瞬間だ。

それが第7章の中国共産党と儒教のくだりだった。ちょっと長くなるが、非常に興味深いテーマなので、引用させてもらう。

諸子百家の思想を色々と紹介してきた後で、こう始まる。

「法家を重視し、法治主義を完成させた始皇帝の考えは「一君万民」でした。皇帝ひとりが特別、あとはみんな法のもとでは平等だと。日本や欧州のように各地を任せる領主、諸侯のような中間層が育たない制度です。始皇帝は法治主義ですが、「人民の細かいところにまでは立ち入らんでええ」と泳がせておいたのです。皇帝ひとりで慣習や文化が異なる人たちを丁寧にケアするのは難しいですからね。

でものちの時代には儒教や仏教が国教化されます。なぜそうなるのか。先ほども言いましたが、支配者を権威付け、民衆を支配する、あるいは民衆が自発的に従うようになるには、生き方、死生観に関わる規範を人々に提供してくれるものがあったほうがいいからです。仕事の進め方は法家的なスタイルがやりやすい、でも儒教という価値観があるとなお統治がしやすい。

現代の中国共産党はどうでしょうか。広い領土を支配するのに使っているのは法治主義的なシステム、巨大な官僚機構です。無神論を標榜する一方で、人民には「政府に抵抗的なヤバい奴を除けば、どんな宗教を信じてもかまへん」というのが基本的なスタンスです。そして近年では儒教を推奨しています。もうわかりましたね。これはルーツを求めていけば秦の始皇帝が描いたグランドデザインにいきつくのです。

中央がすべてを取り仕切って、官僚を送って文書行政で統一的に支配するという法家的なスタンスが国の基盤にある。でも政府は人民に対してはきれいごと、儒家的な高度成長を謳う。それを真に受けて従順に生きる人もいれば、墨家ように左派的なことを言って批判する人もひる。対して、それらのいずれからも距離を取っている知識人は、中国共産党のことも商売人のことも冷ややかに見つめる老荘(道家)であるーこうみると中国社会の構図は基本的には昔から不変だという気がします」

なお、これに先立って、こういう下りもあるので、参考までに。

「断っておけば、中国共産党が言う「無神論」「社会主義」はタテマエです。中国は中国共産党という名のエリートたちが実権を握っているだけで、共産主義など信じていません。市場経済を積極的に導入し、(後略)」

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最新の世界情勢も踏まえた内容豊富な力作

これは読み応えのある一冊だった。宗教の中身や歴史もさることながら、世界を取り巻く最新の政治情勢を踏まえながら、それと宗教との関りを非常に分かりやすい平易な言葉で語り尽くした大変な労作だと評価したい。

非常に勉強になる。目から鱗の連続で、読んでいてしばしば興奮を抑えられなかった位だ。

宗教に興味がある方はもちろん、今日の世界のいたるところで勃発している戦争や紛争に関心のある方にはきっと満足できる本となるはずだ。貴重な労作。是非とも読んでいただきたい。

 

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