出口治明の「哲学と宗教全史」を読み終えた

購入して直ぐに読み始めたのだが、驚くくらいにスラスラと簡単に読めたものの、最後の50ページ位を残して中断してしまい、漸く完読した。

これは驚くほど立派な装丁の本であり、普通この装丁の本だと読み終えるのに相当時間がかかりそうなイメージが強いのだが、何のことはない。この本は本当にスラスラと簡単に読めてしまう。集中して読むことができれば、ホンの2~3日で読めてしまいそうな本なのである。

このことがこの本の特徴を的確に捉えることになりそうだ。

これが表紙。実に立派な装丁で、名著たるにふさわしい見栄えだが。

立ててみるとこのとおり。かなりの厚みのある堂々たるハードカバー。

この本の特徴は

哲学と宗教という、ともすれば非常に難解な内容を、本当にどんな初心者、内容をあまり知らない人にとっても分かりやすく、簡単に説明されていること。

宗教はともかく哲学は、著名な哲学者の思想や考え方を説明することはかなり困難で、読んでいても一体何を言いたいのかまるで分らないということになりがちだ。ところが、この本では難解な記述はほとんどなく、極めて分かりやすい。哲学や宗教に今まで興味のなかった人にも、非常に分かりやすく書いてあって、これなら途中で挫折することなく最後まで読み終えることができそうだ。

一方で、そのことは元々哲学や宗教に興味があって少なからず学んできた人にとっては、食い足りない、これではとても満足できないということになってしまう。

哲学や宗教を解説した本は数多(あまた)ある中でこの本は、初心者向けの概説書、きわめて基本的なことを簡単に解説した本だと最初から分かって購入するのなら良いのだが、どうしてもこの「哲学と宗教全史」というタイトルと、このあまりにも立派な分厚いハードカバーは、初心者向けの概説書とは様相を異にしているのである。やはりタイトルか本の表紙のどこかに「入門書」「初心者用」というような説明書きが欲しいところだ。

ある程度の知識が備わっている人には不満があるが

僕は、元々哲学にも宗教にも強い興味があって、それなりに勉強もしてきたので、正直言って、この本から得られた情報は非常に少ない。僕はもっともっと本格的な詳しい本だと思って、そのタイトルと立派な装丁の厚いハードカバーに魅せられて(騙されて)、あまり内容も確認せずにいわば衝動買いしてしまったのだが、実際に読んでみて少しガッカリさせられた。

僕は世界史が趣味のような人間で、世界史では政治的な事件などを扱うだけではなく、文化も大きな要素。それぞれの時代と地域に出てきた宗教の内容は大きなテーマだし、文化史として各時代、各地域の哲学ももちろん詳しく学んできた。

そういう人間から見ると、この本の情報は、高校で学ぶ世界史と倫理社会(倫社)の教科書や参考書のレベルを、少しだけ詳しくしたというだけのレベルに留まっている。この分厚い本の中で紹介された哲学者や思想家の中で僕が聞いたことのなかった人物名はホンの数人だけで、全て知っている内容ばかりであったことは本当に残念だった。

「竜頭蛇尾」のような本。僕が本音で言うと、少なくとも僕にとってはそうなってしまうのだが、だからこの本はダメ、読むに値しないのか、と言われれば決してそんなことはない。極めて貴重な本という評価もあり得るわけで、誤解をしないでほしい。

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入門書・概説書として読むには最適だ

要は、最初から哲学と宗教に関する入門書、概説書として読むには、これほど最適なものはない。読んでもらう対象となる読者を、明確に示してほしい。その旨をちゃんと示してさえくれれば、この本のニーズは非常に高いものとなり、満足する読書も大勢いることは間違いないだろう。僕が一番望む点はこの1点だ。

ここまで書いたので、不満を全て書いてしまう。

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不満はこんなところにも

こんな分厚い立派な装丁の本であるにも拘わらず、本を広げてもらうと、とにかくやたらと余白が多いことにビックリしてしまう。もともと余白スペースが広い上に、行間が広くて、1ページがあっという間に読めてしまう。時代とテーマが変わる度に、丸々白紙のページを何枚も用いて、文字のないページがやたらと目立つ。これなら、もっと行間を詰めて、余白は極力切り詰めて、全体のページ数を減らすべきではないだろうか。全体で500ページ近く(465ページ)あるのだが、普通に作ればこの3分の2以下の厚さに収まっているはずである。本が増え過ぎて置き場所に困る人間としては、いかにも罪な本なのである。

この余計な余白が僕には許せないのだが。別の評価もあるだろう。

こんな無駄なというか贅沢な余白が「章」が変わる都度、ほとんどこうなっている。右余白に文章がある章も中にはあるが。

だが、このことも初心者用のあくまでも入門書だと捉えれば、この難しい内容の頭が痛くなってくるような難解な哲学を理解するにあたって、余白を広くとって詰め過ぎずに、見た目にも読みやすくする工夫は貴重なものかもしれない。そうすることで哲学アレルギーを少しでも払拭することができれば、著者の目的はもう半分以上達成したと言えるかもしれないのだ。

ある人々というかグループにとってのデメリットは、違う人々、グループにとってはむしろ大きなメリットになる。そんなことを実証するのがこの本とも言えそうだ。哲学や宗教に興味があるけれど難しいのは困る、基本が分かっていないど素人にもとにかく分かりやすく、読みやすく解説してほしい。そんな本を読んでみたい。あるいは、かつて高校時代に世界史で多くの哲学者や宗教者を勉強したが、もうすっかり忘れてしまった、もう一度勉強し直して、知識の整理をしたいという方にとっては、これ以上ふさわしい本はないかもしれない。そういう方々にとっては最適だ。

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著者の出口治明について

著者の出口治明は立命館アジア太平洋大学学長である。出口は元々は日本生命に長く勤務し、ロンドン現地法人社長、国際業務部長を歴任して、その後独立。ライフネット企画株式会社を設立し、社長に就任。その後、ライフネット生命保険に社名を変更し、上場させ、会長を10年務めた後に現職。

日本で初めてインターネットによる生命保険会社を設立した人物として有名な方。ここで肝心なことは、この本の著者は学者でも研究者でも評論家でもなく、ずっと民間のサラリーマン生活をしていた人だということだ。その業績が認められ、あの注目の立命館アジア太平洋大学の学長に収まった実にユニークな経歴の持ち主なのである。

したがって出口はこの世界の専門家でも研究者でもなく、いわばアマチュアということになる。こういう経歴の持ち主が哲学と宗教について、入門書、概説者とはいうものの、これだけの立派な書籍を著した意義は実に大きなものがある。これは何だかとっても嬉しい。

「知恵泉」での平清盛大絶賛にいたく共感

最近はテレビでも引っ張りだこで色々な番組に出ているが、僕が出口にものすごく興味を持って共感したのは、NHKのEテレの歴史番組「先人たちの底力 知恵泉」の平清盛の特集に出演していたときのことだ。

僕は元々平清盛と平家一門が好きでたまらない人間なのだが、出口はこの番組の中で平清盛を絶賛し、日本でも三本の指に入る不世出のリーダーだと讃えていたことが忘れられない。ベスト3に入るかどうかは別として、これは我が意を得たり、と嬉しくてたまらなかったことを忘れられない。この人が書いた本なら信用できる。僕の中にはそういう思いがある。

著者の狙いと思いはどこに

出口はこの本を書いた狙いを以下のように書いている。

人間が抱き続けてきた、2つの素朴な問い。「世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?」、「人間はどこからきてどこへ行くのか、何のために生きているのか?」この問いに対して答えてきたのが、宗教であり哲学であり、更に哲学から派生した自然科学でした。

「過去から現在まで、人間はどのような哲学や宗教で世界を理解し、人間が生きる意味を考えてきたのか。時代を追って順に見ていきたいと思います」

「人間が何千年という長い時間の中で、よりよく生きるために、また死の恐怖から逃れるために、必死に考えてきたことの結晶が哲学と宗教の歴史でもあります。もしかすると、どこかに明日への扉を開く重大なヒントが隠されているかもしれません。
 少なくとも僕はそう信じて、この本を書きました。」

この著者の言葉に惹きつけられた方は、どうかこの本を手に取って読んでほしい。

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内容的に魅力を感じたのは

色々と不満も多いのだが、イスラム教についてはかなり丁寧に詳しく書かれていて、これには好感を持てた。

だが、やはりもう少し、突っ込んで書いてほしいという思いは否めない。

特に現代哲学。20世紀以降の哲学の紹介はあまりにも薄過ぎる。これで「全史」はないだろうと毒づきたくなってしまう。このことは出口治明自身が認めている。ここではあまりにも乱暴に現代哲学者を5人だけに絞り込んでいるのだが、出口自身が「20世紀の哲学の世界を語るには、5人か30人ぐらいかという選択肢と僕は考えています」云々。

いくらなんでもそれはないだろう。残りの25人についてもせめて2ページ程でポイントというか、主張の核心部分を紹介してほしかった。そもそも構造主義を紹介しながらポストモダンについては、一言もない。完全に無視していることはありえない。これは残念でならない。

そんな不満は色々とある。とにかくこの本から僕が新たな情報をインプットされることはあまりなかったが、今までの知識を整理してあらためて再認識する上では、非常に有意義であったことは間違いない。

コロナ禍で読むには最適だ(こんな人は是非とも読んで)

この人生を生きてきて、特にこのコロナ禍で人との接触を制限しながら生きてきて、壁にぶつかってしまった人、これから先、どうやって生きていくべきなのか悩んでいる方、そしてこの世界に興味を持ちながらも曖昧な認識で済ませてきて、再度認識をあらためたいと願っている方にとっては、こんなに貴重な1冊はない。ところどころに挟み込まれた哲学者等の肖像画を交えて表した図表が、非常に分かりやすく、極めて貴重なものだ。

非常に分かりやすい図表で好感が持てる。

分かりやすくていいのだが、本当に高校の世界史の図表とあまり変わらないとも言える。

とにかく分かりやすく書かれているので、興味のある方は是非とも読んでいただきたい。

本当に直ぐに読み切ることができる。難しい哲学と宗教の初心者向けの解説書としてはこれ以上のものはないかもしれない。

初心者向けとは言っても出口の強い思いもあって、それぞれの哲学者と宗教者に対する思いは意外なほどに熱く、その本質を的確に捉えていて示唆されることが非常に多いだろう。

 

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