リドリー・スコットらしからぬ埋もれた傑作

再びリドリー・スコットの監督作品を紹介する。今回は「マッチスティック・メン」だ。

リドリー・スコット監督のことについては、「ワールド・オブ・ライズ」の紹介のブログの中でかなり詳しく書かせてもらったので、そちらをご覧いただけるとありがたい。

映画史に残る名作・傑作が目白押しのリドリー・スコットの監督作品の中にあって、この「マッチスティック・メン」はあまり目立たない、埋もれた作品かもしれない。最もリドリー・スコットらしくない作品と言っていい。

ところが、これがめちゃくちゃおもしろいのである。

ニコラス・ケイジが主演した映画でもあり、それなりに話題にはなった知る人ぞ知る傑作なのだが、これがリドリー・スコットの監督作品とは認識していない人が多いのではないだろうか。

本当にどこからどう見てもリドリー・スコットらしからぬ映画なのである。

これがジャケット写真。主人公の詐欺師とその相棒、そして娘。

裏ジャケット写真。特典映像の内容が掲載されている。この特典映像は凄い。

映画の基本情報:「マッチスティック・メン」

アメリカ映画 116分  

2003年10月4日  日本公開

監督:リドリー・スコット

脚本:ニコラス・グリフィン、   テッド・グリフィン

原作:エリック・ガルシア 

主演:ニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル、アリソン・ローマン、ブルース・アルトマン、ブルース・マッギル 他 

音楽:ハンス・ジマー 

こんなタイトルだけの単純なディスクは勘弁してほしい。これでは邦画並みだ(笑)。

大作に挟まれた目立たない作品

この「マッチスティック・メン」。リドリー・スコットが製作した順番で言うと、「グラディエーター」「ハンニバル」「ブラックホーク・ダウン」と歴史に残る大作や傑作が続いた後の作品で、この次には3時間の大作「キングダム・オブ・ヘブン」がくるということで、大作と大作との間に挟まれた小振りなあまり目立たない作品となっている。

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どんなストーリーなのか?

これはプロの詐欺師を描いた映画である。タイトルのマッチスティック・メンとはずばりペテン師・イカサマ師のことだ。

今回はストーリーの紹介は最低限に留めたい。ちょっと踏み込んで書けば、直ぐにネタバレになってしまいそう。

本当にほとんど何も書けない!と悲鳴を上げたくなってしまうが、必要最低限の紹介だけはしておく。

主人公のロイ(ニコラス・ケイジ)は、詐欺アーティストと自称する程の凄腕の詐欺師なのだが、重度の強迫性障害を患っており、ひどい潔癖症に日々苦しんでいる。

相棒のフランク(サム・ロックウェル)と詐欺を繰り返しているが、ひょんなことから、14歳になる自分の娘アンジェラ(アリソン・ローマン)の面倒を見ることになる。部屋が汚れ、生活リズムも崩れると閉口しつつも、少しずつ心を通わせ始める娘との生活に生き甲斐も感じ始める。

やがてロイの正体が娘にバレてしまう。ところが何と、娘は詐欺のやり方を教えてほしいと懇願してくるのだった。やむなくロイは娘に詐欺の哲学を教え込むのだが・・・。

第一級のコメディにしてホームドラマ

異常なまでの潔癖症であるロイが、突然現れた実の娘に戸惑いながらも、ぎこちない父娘の関係が少しずつ打ち解け始め、二人の間に心の交流が芽生えてくるあたり、結構微笑ましく、観ていて楽しい。これは良くできたホームドラマと言ってもいい。

リドリー・スコットがコメディを作った!?

あの「エイリアン」や「ブレードランナー」、「グラディエーター」や「ブラック・レイン」など、容赦のない過激な暴力描写満載の骨太のハードな作品やサスペンスに満ち溢れた映画ばかりを、独自の映像美を駆使して描いてきたリドリー・スコット。

そんな彼が、まさかこんな軽いノリのコメディを作るなんて、本当に信じられない。

暴力描写や過激なシーンは皆無

リドリー・スコットが監督した映画だというのに、暴力シーンが出てこない。ほぼ皆無と言っていい。

またSEXシーンなどエロい場面も全く出てこない。正に家族揃って安心して楽しめる貴重なホームドラマといった様相なのだ。

リドリー・スコットがこんなものを撮れるとは本当に驚いた。新境地と呼ぶにはあまりにも手慣れていて、洗練されている。

非常にセンスが良くて、お洒落。実に粋な映画なのである。

リドリー・スコットという監督は、こんなものまで傑作としてしまうあたり、ちょっと信じられない特別に恵まれた稀有な才能の持ち主だと、あらためて唸らされてしまう。思わず脱帽だ。

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後半は一転して盛り上がるサスペンス

ロイは詐欺師。暴力を用いて人を傷つけたり、脅したりは決してしないことをモットーにしているが、詐欺はもちろん重大な犯罪だ。いつまでも平穏に娘とのホームドラマが続いて行くわけがない。まして14歳の実の娘に詐欺を教える父親が、許されていいわけもないのだ。

やがてジワジワと、少しずつだが危険な雰囲気が立ち込めてくる。

相棒のフランクと時間をかけて進めてきた詐欺の計画が失敗し、遂に絶体絶命の窮地に追い込まれてしまう。

そして最後に待ち構えるアッと驚かされる衝撃のどんでん返し

この辺りのサスペンスの盛り上げ方はさすがにリドリー・スコットの本領発揮だ。

それでも、無駄な暴力描写や過激なシーンはほとんど出てこない。徹底している。

潔癖症のロイが窮地に落ち込み、苦しむ様は見応え十分だ。

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愛すべき本当にいい映画

これは本当に愛すべき映画。僕はかなり気に入っている。好きにならずにはいられない。

詐欺師を描いた映画には名作が多い

古くは何と言ってもポール・ニューマンとロバート・レッドフォードによるあの「スティング」だろう。思わず拍手喝采してしまいたくなるような実に小気味良い映画だった。

そしてライアン・オニールとテータムという実の父娘による「ペーパー・ムーン」。これは小さな女の子が絡むあたり、「マッチスティック・メン」は良く似た雰囲気が漂っている。

「ペーパー・ムーン」を意識したと言うか、この映画は「ペーパー・ムーンに捧げるオマージュ」なのではないかと思われるほど。

心温まる特別な犯罪映画

犯罪映画であり、人を騙し相手の金を盗むというひどい話しだというのに、観終わって感じるのは、爽やかな幸福感。幸せな気分になれる。

心温まる特別な犯罪映画。こんな映画は滅多にない。

ニコラス・ケイジが絶品

ニコラス・ケイジはイケメンでもなく、クセが強くて個性が強烈なので、苦手な人も多いだろうが、この映画では実にいい味を出している。

「薬に頼らないと生きていけない異常な潔癖症のペテン師」という一筋縄ではいかない難しい役を見事に演じ切ったと高く評価したい。

しかもそんな男が14歳になった娘との生活を突然余儀なくされる。難しい役柄だ。

相棒のサム・ロックウェルももちろんいい。僕のお気に入りの俳優の一人。愛して止まない「スリー・ビルボード」のあの悪徳警官役だ。あの「スリー・ビルボード」で一挙に才能を開花させる以前の映画だけに、まだそれほど強烈な印象は残さないが、いかにも頼りなげでいて、正体の捉えどころのない怪しげな雰囲気をうまく醸し出すあたり、後の実力派の片鱗をのぞかせ、さすがだ。

ヴォーカルと音楽も最高だ

冒頭とエンディングに流れる男声ヴォーカルがいかにも粋で、お洒落で軽く、これを聴いているだけで幸せな気分になれる。

映画の世界に見事にマッチしていて、何といいセンスだと心が浮き立ってしまう。

ハンス・ジマーの音楽も本当に素敵。

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リドリー・スコットの代表作に割り込む快作

確かにこの映画には、リドリー・スコットならではのヴィジュアルや圧倒的な映像美、類い稀な緊迫感は不足しているが、独特のリズムを持った印象的な編集(繋ぎ)やセンス抜群の映像美は健在で、従来の作品とは作風を大きく変えながらも、ここには紛うことなきリドリー・スコットの世界がある。

これは名作・傑作群の中にあって埋もれた目立たない作品と言いながらも、リドリー・スコットの代表作に割り込む快作と言えるのかもしれない。

「騙された」と思って是非とも観てほしい 

リドリー・スコットがバイオレンスや過激な戦闘シーンなどお得意の映像を完全に封印して作った、ダメ男への優しい眼差しに満ち溢れた映画

どうかカラクリやどんでん返し、結末の予測や推測などは一切せずに、この映画の世界に身を任せ切って、没頭してほしい。虚心で観てもらうのが一番いい。

こういう映画は観る方もスッカリ騙される方がいいと決まっている。

後味がたまらなくいい。どうか「騙された」と思って観ていただきたい。

きっと気に入ってもらえて、もしかしたら生涯の忘れ難い一本になるかもしれない、これはそんな映画なのである。

 

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