さて、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲の紹介だ。これが2曲あって、甲乙付け難い非常に素晴らしい作品である。
一般的な素晴らしいという評価には、我ながら多少の違和感がある。
これはあまりにも刺激的かつ挑発的な音楽だからである。凄い!というのが一番シックリするように思う。
2曲とも僕が熱愛してやまない「とんでもない凄い音楽」だ。
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目 次
2曲の弦楽四重奏曲があまりにも凄すぎる
前回のスメタナの「わが生涯より」の記事の中で、もう1曲熱愛している曲があって、ベストとは言い切れないと言ったのは、もちろんこのヤナーチェクのことだ。
2曲とも大好きだが、特に第1番の「クロイツェル・ソナタ」に夢中になっている。


ここにはヤナーチェクの音楽の特徴がしっかりと刻印されているばかりか、弦楽四重奏という究極のアンサンブルの中で、ヤナーチェクの極めて独創的な音楽の本質が、如実に浮かび上がってくる。



弦楽四重奏曲は作曲者の「鏡」だと書いたが、それが最も鮮明に理解できるのが、このヤナーチェクの2つの作品と言っていいだろう。
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ヤナーチェクの音楽の独創性(ポイント)
個別の曲の紹介に入る前に、再度、ヤナーチェクの音楽の他にはない独創性のポイントを確認しておきたい。
ヤナーチェクの音楽語法である。

他のどんな作曲家とも似ても似つかないヤナーチェク独自の超個性的な、恐ろしいまでの独創性。
モラヴィアの伝統音楽、民謡などの独特の節回しが、その音楽の根底に脈々と流れているのだが、そこに流れて来る音楽はそんなのんびりとしたイメージとは全く異なる刺激的な音のカオスである。
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「ソナタ形式」が全くない
メロディは奇天烈なもので、そもそもメロディはないと言ってもいいこと。
最大の特徴は、ヨーロッパ200年の音楽史を通じて途切れることなく用いられてきた「ソナタ形式」が存在しないこと。
メロディなり動機があって、それを次々に展開するに当たって、細かな違いや差異はあっても、どんな作曲家でも、ソナタ形式あるいはそれに近い何らかのルールに基づいて展開されていく。
そんなヨーロッパ音楽の鉄則を、ヤナーチェクは軽々と飛び超えてしまったこと。
一度生まれた動機やメロディはそれ自体が勝手に、自由気ままに増殖したり、何のルールもなしにドンドン姿を変えていく変幻自在の音楽だということ。
刺激的かつ挑発的な音楽のオンパレード
刺激的かつ挑発的な音楽のオンパレード。
耳障りな同じ音型を延々と繰り返したり(スル・ポンティチェロという特殊奏法)、全く別の類の音楽が同時に鳴り響くこと。
調和を取る発想は全くなく、それぞれがやりたい放題に好きな音楽を奏でて、最後にはそれが大きなうねりの中で一体となっていく。中には別の音楽のまま、放り出されてしまうこともあること。
分かりやすく共感できる音楽
それでいて、典型的な現代音楽のような訳の分からない難解な音楽ではないこと。
取っつきにくさや難解さ、冷たさはまるでないばかりか、非常に親しみやすく、共感を覚える音楽であること。
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第1番「クロイツェル・ソナタ」
作曲は1923年。ヤナーチェクはちょうど70歳になる年だ。演奏時間は15分から17分程度。
タイトルは「クロイツェル・ソナタ」と呼ばれているが、「トルストイのクロイツェル・ソナタに霊感を受けて」というのが正式名称だ。
タイトルの由来
ということで、この作品はトルストイの有名な小説「クロイツェル・ソナタ」を読んでのヤナーチェクの音楽による感想、いやトルストイへの抗議の音楽なのである。
トルストイの「クロイツェル・ソナタ」は、ベートヴェンのあの有名なヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」を演奏するヴァイオリニストと不倫に陥った妻を、嫉妬に狂った夫が殺害するという短編小説だ。

言うまでもなく、38歳年下の人妻と恋に落ちていたヤナーチェクは、このトルストイの小説に憤慨して、音楽で抗議したわけである。
錯綜した複雑な構成に注意
4つの楽章から構成されるが、トルストイの小説のストーリーを音楽で表現したと言われている。そこに、トルストイへの猛烈な批判が加わるという仕掛けである。
不倫に燃え盛る恋情と、それを知った夫の嫉妬心。最後には妻の殺害に至る経緯が音で表現されるのだが、この中にはいくつかの錯綜した異質の怒りが渦巻いていることに注意だ。
二重構造、いや、味方によっては三重構造になっていることを見逃してはならない。
不倫した妻への夫の怒り。
夫が妻を殺してしまったことへの怒り。
それを美徳とするトルストイの道徳観への怒
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凄まじい音楽に圧倒される
それだけ錯綜した複雑な内容が僅か15分の音楽の中に表現されている。その濃厚さは尋常ではない。15分間の音楽とは到底思えない。
極めて挑発的な音楽で、刺激に満ち溢れている。狂気を孕んだ凄まじい音楽と言うべきか。
同音を刺激的に繰り返すスル・ポンティチェロがこれでもかとばかりに執拗に繰り返され、聴く者の神経を逆なでる。
嫉妬心の高まりと殺人に至る葛藤を、刺激的な音だけではなく、まるで劇を見ているかのように視覚に訴える音楽でもある。
不条理を描く現代劇のようにも
僕は、この音楽のあまりにも独創的な響きを聴いていると、トルストイとの経緯も忘れて、現代的な不条理劇を見ているように感じてくる。
4人の登場人物による対話。会話劇だと思ってもらうと分かりやすいかもしれない。
4人の話しがまるで噛み合わず、それぞれ別々のことを勝手に話し
その中の1人は、ずっと大声で同じ言葉を繰り返し叫び続けている。
1人がまじめな話しを喋り出そうとすると、それにチャチャを入
すれ違いと決して交わることのない理不尽さ。
現代の不条理。全く理解し合えず、噛み合わない4人を描いた音楽のようにも受け取れる。
ところが、その嚙み合わなさが結果的には、めちゃくちゃ面白い響きになる。この奇想天外と奇天烈さが最高の聴き物だ。
そして最後は狂気乱舞の音の饗宴に突入する。この絶頂感とでも呼ぶべき音のカオスがとんでもない。
とにかく異様な音楽としか言いようがないが、この異様さが最高なのである。
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第2番「ないしょの手紙」
作曲は1928年。ヤナーチェクはちょうど74歳、つまり亡くなる年の作品だ。
この作品を作曲した後、半年後にヤナーチェクは死を迎えることになる。
演奏時間は25分から30分。第1番「クロイツェル・ソナタ」の倍くらいの長さがある。
タイトルの由来
タイトルの「ないしょの手紙」がカミラへの600通を超えるラブレターであることは、言うまでもない。
この曲は当初はズバリ「ラブレター」だったという。
音によるカミラへの愛の告白だ。


特に、第2楽章と第3楽章は、カミラの讃歌とカミラへの思いが痛切に伝わってくる。
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厳粛な美しさと崇高感
「クロイツェル・ソナタ」から、一転して崇高な美が支配する。随分と雰囲気が違う曲だ。
音楽語法はもちろん一緒で、まさにヤナーチェクならではの
4本の弦楽器を十分に響かせるオルガンのような響きが頻出する。ヤナーチェクにはどちらかという珍しいハーモニーというか和声がかなり前面に出てくる。
削ぎ澄まされた厳粛な美しさと崇高感に満ちている。
ヤナーチェクの音楽語法も顕著
それだけに、ところどころにヤナーチェクならではの挑発するか
1番の「クロイツェル・ソナタ」と比べて、一聴して直ぐに取り憑かれてしまうような音楽ではな
聴く度に戦慄が走って、唖然となる
この2曲を聴く度に、僕は全身に戦慄が走って、鳥肌が収まらなくなる。特に第1番の「クロイツェル・ソナタ」の衝撃性には、唖然とさせられてしまう。
本当に凄い音楽だ。
ヤナーチェクの凄さを体験してほしい
これは体験する音楽と呼ぶべきかもしれない。
まだヤナーチェクを知らない、彼の音楽を聴いたことがないという方は、とにかくこの2つの弦楽四重奏曲を聴いて、ヤナーチェクを体験してほしい。
衝撃を受けずにはいられなくなる。そして、その直後にはこの音楽に夢中になっているに違いない。
騙されたと思って聴いていただきたいものだ。
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お勧めの演奏は2種類
演奏は、ヤナーチェクの音楽そのものが凄いだけに、どんな弦楽四重奏団の演奏でも素晴らしい音楽体験をできることは間違いない。
僕も色々な演奏を聴いてきたが、失望させられるものは一つもない。
だが、やっぱり次の2つの演奏が圧倒的な素晴らしさで、強くお勧めしたい。
先ずは、この曲を十八番にしていたスメタナ弦楽四重奏団のプラハライブがものすごい演奏で必聴。

だが、遂にそれに勝るとも劣らないビックリする名演が誕生した。
こちらもライブ演奏。世界最高の弦楽四重奏団であるアルバン・ベルク弦楽四重奏団の超名演である。

これは本当に大変な聴き物である。ヤナーチェクの音楽がどこまでも刺激的に、そしてどこまでも美しく鳴り響く。
圧巻だ。
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① 981円(税込)。送料548円。合計1,529円(税込)。
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