目 次
ゴルゴのルーツ編に新しい傑作誕生
今回紹介する「Gの遺伝子」はゴルゴ13の純粋な「ルーツ編」に属するものではない。ゴルゴ13ことデューク東郷その人の出生に直接絡む話しではないからだ。
但し、ここで繰り広げられるのはスーパー少女がゴルゴ13の実の娘ではないのか、これだけの射撃の実力と並外れた未曾有の能力は、ゴルゴ13の遺伝子を受け継いだもの、つまり実の娘ではないのかという展開であり、ズバリ「ルーツ編」とは言えないものの、番外編として、本来のルーツ編に勝るとも劣らぬ魅力作となっている。
「ルーツ編」の新しい傑作の誕生と言っても決して過言ではない。
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「Gの遺伝子」の基本情報
SPコミックス第206巻収録。ページ数138ページ。ゴルゴ13シリーズの中では比較的長めの中編である。2016年5月作品。脚本協力:夏緑。
まだまださいとう・たかをがバリバリ第一線で描いていた頃の作品だ。


ちなみに続編の「ゴルゴダの少女」は136ページとほぼ同じ長さ。2019年1月作品。脚本協力は同じく夏緑である。


「Gの遺伝子」は久々のゴルゴ13のルーツ編ということもあり、かなり話題となり、評価も非常に高かった。
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改訂版リーダーズチョイスで3位の快挙
ゴルゴ13には、広辞苑並みに分厚いベスト作品チョイス集が何度か出ている。過去に4種類発刊されているのだが、その中に「改訂版 ゴルゴ13 リーダーズ・チョイス BEST13 of “G”」 という1冊がある。
出版されたのは2018年1月31日。約1,500ページもある分厚い本だ。
50年以上に渡って描き続けられた500本を超える(2018年当時)全ストーリーの中から、ゴルゴ13の熱心な愛読者が選んだベスト13作品が収められた豪華本である。
「最強の13作品」というわけだ。




その中で、「Gの遺伝子」が非常に最近の作品であるにも拘わらず、何とベスト3位に輝いた。これは大変な快挙である。


「Gの遺伝子」はそれくらい高く評価された傑作中の傑作ということになる。
僕はこの改訂版のリーダーズチョイス、ベスト13作品集は手元にあったにも拘わらず、ベスト3位に輝いた新作の「Gの遺伝子」を読んでいなかった。何とも恥ずかしい。
今回、たまたまの機会で読むことになって、一気にその魅力に惹き込まれたのだが、近年の屈指の傑作、こんな形でも読むことができて幸運だった。
下手をするとこんな貴重な大変な宝を、見失ってしまうところだった。
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どんなストーリーなのか
主人公はフランスパリ在住の14歳の中学生、ファネット・ゴベール。ライフルの腕がオリンピック級なのだが、他にも体操、柔道、テニス、スカッシュなどスポーツ万能で、あるゆるスカウトが世界中から集まってくる。知能指数は180。数学、チェス、ピアノもプロ級という文武両道のスーパー天才少女だ。

今回、美術の授業で描いた絵「ゴルゴダの呼び声」がパリ学生絵画展で金賞を受賞。その絵は死神を描いた地獄のような恐ろしい絵だったが、ファネットは毎晩のように夢に見て、それを絵にした。
恐ろしい絵なのに、絵の中の死神に実の両親よりも懐かしさを感じる自分に疑問を感じ、自らの生い立ち、ルーツを知りたいと願うようになる。

やがて、ファネットの幼少時に凄惨な事件があって、彼女はその時の奇跡的な生き残りだったことが分かってくる。
一方で、ゴルゴ13を調査しているNSA(アメリカ国家安全保障局)は、これだけの並外れた能力を持つファネットに注目し、もしかしたらゴルゴ13の娘なのではないかと調査を開始。ファネットを誘拐して採血し、DNA鑑定を行う。
何と、一致。ファネットがゴルゴ13の娘だと確信したNSAは、ゴルゴの核心に迫り、弱みを握れたと勇み立つのだが、ファネットに危機が迫っていた。
ファネットは本当にゴルゴ13の娘なのか。ファネットの幼少時の凄惨な殺戮事件とゴルゴの関係、なぜファネットが恐ろしい死神に親近感を感じるのか、想像を絶する怒涛の展開が待ち受ける。果たして真相は?ファネットの運命は?
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脚本の夏緑とは何者か
素晴らしいストーリー展開に夢中になってしまう。そのミステリー仕立てのアクション展開が最高だ。
天才少女の自分探しの過激な旅。その未曾有な能力はどうして身に付いたのか。ハラハラドキドキの展開に、時の経つのを忘れてしまう。
この脚本を書いたのは夏緑という女流作家。小説家にして漫画原作者。この夏緑が大変な才媛で、彼女がいたからこそ、ここまでの素晴らしいストーリーが出来上がったことは間違いない。
さいとう・たかをが、この「Gの遺伝子」に関するインタビューの中で、夏緑について語っているので、引用する。
「脚本を書いてくれた夏緑氏は大学院を出た「リケ女(理系女子)」で、本格的な生命科学ものを得意としています。『Gの遺伝子』はタイトル通り、最先端の遺伝子サイエンスが出てくるのですが、一方で芹沢家や東研作に連なるゴルゴのルーツ編に仕上がっています。ゴルゴだって人の子ですから、体毛だったり汗だったり煙草の吸い殻だったり、何らかの痕跡を残すはずなんです。それを端緒に、ゴルゴの親族関係を調べていく人物が登場するという展開は斬新で、実際に居ても不思議ではない」云々
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ゴルゴ13とは異なる誠実なヒューマニスト
このあまりにも天才過ぎる文武両道の美少女は、何をやらせても飛びぬけた才能を発揮する万能の天才で、魅力を感じるどころか、むしろ嫌な存在、僕の好みからすると毛嫌いしたくなるようなキャラクターなのだが、作品を読む限り、そんな感触は皆無で、僕はこのファネット・ゴベールにたまらない魅力を感じている。
何と言っても人間性が素晴らしい。実にいい娘(こ)なのである。14歳だ。
あれだけのあらゆる方面でのずば抜けた才能を持ちながら、偉ぶったところは微塵もなく、優しくて、親切。非常に誠実で、正義感に強く熱い人情家でもある。



ゴルゴ13並みの派手なアクションを展開し、敵をバタバタと倒していくが、それでいて、ゴルゴ13=デューク東郷とは似ても似つかぬヒューマニストなのである。
そんなファネットが自らのかすかな記憶をたどって、命の危険もかえりみずに自分探しを始める展開は、第一級の文学作品のようだ。
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ゴルゴ13が助けた少女の正体と真相は
この作品では、ゴルゴ13もいつもの残酷極まりない冷酷無比の殺人マシーンとは別の顔を見せてくれる。妙に人情味のあるこんなゴルゴが居るのかな、といった思わぬ姿を見せてくれる。
ファネットを再三に渡って助けるのである。これは普通ではあり得ない展開。だから、我々読者も、ファネット自身も、ゴルゴ13はファネットの真の父親であり、実の娘だから助けている、そう思ってしまっても当然だ。


真相は藪の中である。
だが、14歳の少女を助けようとするゴルゴ、ネタバレになるので、詳しく書けないが、もっと本質的な意味でこの少女を助けたゴルゴに、胸が熱くなる。
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ゴルゴ13と少女が助け合う信じ難い展開
それだけではない。続編の「ゴルゴダの少女」では、珍しく危機的な危険な状況に陥ったゴルゴ13を、ファネットが助けるという目を疑うような展開が待っている。
あのゴルゴ13が14歳の少女ファネットに助けられ、重症のゴルゴが少女の肩を貸りて歩く。全く有り得ない展開だ。

だが、このシーンには涙を禁じ得ない。胸が熱くなってくる。
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これぞ「ゴルゴ13」の新境地
これぞゴルゴ13の新境地と言うべきだろう。
射撃の技術を磨き抜き、確実にターゲットを射殺することにエネルギーを使うよりも、人を助け、今度は助けた少女から助けられ、彼女に肩を借りながら歩くゴルゴ、こんな展開があってもいい。
何とも人間的なストーリー展開。
これで新たなゴルゴ13ファンを獲得していくのは間違いない、と思ってしまう。
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ファネットのスピンオフまで展開
14歳のスーパー女子中学生が、その未曾有な能力を駆使して悪と対峙して、派手なアクションを繰り広げるファネットシリーズ(全部で3作ある)は大変な人気を呼んで、何とファネット・ゴベールを完全な主役に据えたスピンオフが作られるに至っている。
「Gの遺伝子 少女ファネット」というシリーズだ。単行本で2冊もある。しかも今後も続くらしい。
脚本はいずれも夏緑。読み応えのある素晴らしい作品だかりだ。
これらもいずれ紹介していきたい。
「Gの遺伝子」と「ゴルゴダの少女」。ファネット・ゴベールを描く作品は、今までのゴルゴ13に新風を吹き込んだ。もちろんゴルゴ13ならではのアクションシーンや国際情勢、政治ドラマも健在だ。
ゴルゴ13を良く知っている人にも、全く興味がなかった人にも、これは非常におもしろく、感動できるドラマであることを約束する。
少しでも関心を持たれた方は、是非とも実際に手に取って読んでほしい。
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