第9回目

ギンレイホールで観た全ての映画を語るシリーズの第9回目です。

ドンドン進めて行こうと思います。上映時期を見てもらうと分かりますが、今回紹介する映画は去年の3月〜4月にかけてギンレイホールで上映された映画です。今からちょうど1年半前ということになります。まだまだ道のりは遠いですね。紹介作品数もまだ半分にも到達していません。

急ぎましょう。
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27.2018.3.10〜3.23

久々の邦画の2本立てとなった。前にも言ったが、ギンレイホールでの邦画の上映は、およそ3ヶ月から4ヶ月に一回程度のサイクルで回ってくるが、選りすぐりの名作、話題作が多く、お客さんの入りも概して多い。邦画が上映されているときはかなり混んでると覚悟が必要だ。

この時の2本も、いずれも非常に世評の高かった作品で、ほぼ満席に近かった記憶がある。

 幼な子われらに生まれ  日本映画

監督:三島有紀子

主演:浅野忠信、田中麗奈、宮藤官九郎他

これは再婚した夫婦と妻の連れ子の家庭ドラマ。今の日本の世相を反映した映画なのだろう。中々切実で感情移入しやすい良心作だった。

妻の連れ子と一家3人で暮らしているバツイチ同士のカップルに待望の赤ちゃんができた。ところがそんな状況の中、血の繋がらない連れ子の娘が、「この家は嫌だ、本当の父親に会いたい」と言い出す。どう接するのか?実の父親に会わせるのか?この血の繋がらない父娘はどうやって幸せな家庭を築いていくのだろうか。

直木賞作家、重松清原作の待望の映画化らしい。

俳優が何とも豪華でこの顔ぶれを観るだけでも一見の価値がある。

浅野忠信は最近では非常にエクセントリックな役柄が多く、例の「淵に立つ」など、その存在そのものが恐怖=畏敬の対象になるほどだが、ここでは悩みつつも極めて家庭的な優しい夫と父親役を演じる。こういう役柄でもちゃんといい味を出すあたり、浅野忠信は本当に大したものだと思う。

田中麗奈は難しい役どころだが、複雑な感情をうまく表現していて、僕はかなり好感を持った。絶賛に値する。

特筆すべきはあの有名な脚本家のクドカンこと宮藤官九郎が大事な役で出ていることだ。

田中麗奈の別れた前の亭主。仕事にも就かず、遊び呆けているどうしようもない男。連れ子の父親な訳だが、このクドカンのダメ男ぶりがいい。全く違和感がなく、正に地でやっている感じ。

ごくありふれた普通の家庭を築くことがどれだけ大変なことなのかを思い知らされる一本。

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 映画  夜空はいつでも最高密度の青色だ 日本映画

監督:石井裕也

主演:石橋静河、池松壮亮、松田龍平他

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これはこの年のキネマ旬報ベストテンのベストワンに輝いた話題作。2017年に公開された全ての日本映画の中の最高傑作と評価されたわけで、期待するなと言う方が無理。しかも主人公は看護師だと言う。病院勤務の僕としては否が応にもボルテージは上がるばかりであった。

タイトルが変わっている。「夜空は最高密度の青色だ」という名前にわざわざ「映画」と付くのである。元々、夜空は最高密度の青色だという詩集があって、それの映画版だということらしい。原作が存在するものはみんなそうじゃないかと言ってみたくなるが、この映画のタイトルには、冒頭に映画と付けなければならない。

都会の病院で働く看護師の青春模様を淡々と描く。仕事への不満や悩みがあって、恋人ができて、親しい人の死に直面して。少し障害を抱えた恋人との恋愛模様が中心となるが、言ってみればそれだけのこと。

繊細な描写が続き、悪くはないのだが、このヒロインのナースがどうにも煮え切らず、僕は最初から最後まであまり好感を持てなかった。
大体、ナースというのは元気な人が多く、そうでないとこんなハードな仕事はこなせない。元気でエネルギッシュな人が多い。
ところが、この映画のヒロインは、どうして自分がナースになったのか、夢も希望もなく毎日ジクジク、ウジウジしっぱなし。

そういうナースの生き様に却って共感を感じるナースもいることだろう。でも、僕には違和感があった。

ウジウジ、ジクジクする背景とか精神状況、彼女の孤独の闇をじっくりと描いてくれれば、それはそれで見応えのあるものになったと思うが、そのあたりが描かれない不満が最後まで残ってしまう。察して欲しいということかもしれないが、僕は勝手にいじけてればいいよ!と思ってしまうのだ。冷た過ぎるだろうか。

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僕が親しくしている映画仲間のナースも、共感できなかったとの厳しいお言葉。こういう映画があってもいいのだが、これがベストワンはないというのが率直な感想。

パターソン同様に、どなたか、それは見方が浅過ぎる。全く映画の本質を理解していないとアドバイスしてもらえないだろうか。

思わぬ拾い物は、この映画のパンフレットが実に作りのいい素晴らしい代物だったことだ。とにかく分厚くて、色々な情報が満載だ。ところが、皮肉なことにあまり読む気にもならない。珍しいこと。誰か怒ってほしい。
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28.2018.3.24〜4.6

暗めの邦画2本立ての後のハリウッドの大作2本が嬉しかった。この2本には満喫させられた。どちらも超話題作だったので、ご覧になられた方が多いのではないだろうか。

 ドリーム  アメリカ映画

監督:セオドア・メルフィ

主演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンシー、ジャネール・モネイ、ケビン・コスナー他

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1950年代、米ソが宇宙開拓の凌ぎを削っていた時代の、今まであまり語られることのなかった黒人女性スタッフ達の活躍振りを描いた感動作。

これは誰からも愛される素晴らしい作品だ。あの黒人への蔑視が当たり前の時代にあって、しかも女性。二重の差別の中で、NASAという時代の最先端の科学技術を求められる職場で、激しい偏見と闘いながらも、立派な功績を残した黒人女性たち。素直に感動できる。

天才的な才能に恵まれた3人のヒロインはいずれも素晴らしいが、上司役を務める久々の銀幕登場のケビン・コスナーが最高だ。彼のリーダーシップに熱くなる。

それともう一人、出番こそ少ないが、アメリカで初めての有人飛行を成し遂げたあのジョン・グレン役にゾッコン。彼が偏見を持たずにヒロインを高く評価する姿があまりにもカッコよくて、惚れ惚れする。

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人種差別と女性差別を声高に叫ばなくても、そんな偏見を捨てなくてどうするんだということがヒシヒシと伝わってくる実にいい映画。

 ダンケルク  アメリカ映画

監督:クリストファー・ノーラン

主演:フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン・=カーニー、ジャック・ロウデン他

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いよいよダンケルクの登場だ。クリストファー・ノーランのダンケルク‼️

これはすごい映画だった。僕は度肝を抜かれたというか、その見事な語り口と想定外の強烈な映像に完全に圧倒されてしまった。

今回は監督のクリストファー・ノーランのことを強調しなければならない。ノーランは現在、世界で最も期待される最高の映画監督の1人。僕も大好きだ。

イギリス出身のノーランは今はハリウッドで映画を作り続けているが、ハリウッド映画の中で唯一、作家性を保った稀有な存在と呼ばれる。

ノーランを一躍世界のトップ監督に押し上げたのはあの「ダークナイト」。このダークナイトを熱愛している映画ファンがどれだけいることか。かく言う僕もその一人。

あのバットマンの新シリーズで、世界の映画ファンの度肝を抜いた。

ヒース・レジャーのジョーカーの造形が尋常じゃない。あのダークでいて妥協を許さない徹底的な描写。驚異の映像美。みんなこのダークナイトを観て、ノーランに心を奪われた

その後も「インセプション」や最近の「インターステラー」まで、全ての映画が問題作にして名作ばかり。正に天才と呼ぶべき存在だ。

その天才ノーランが作ったダンケルク。第二次世界大戦のあの特殊なエピソードを如何に描くのか!?

皆さん、ダンケルクのことをどこまでご存知だろうか。いかにもカッコいい名前もあって、そこで大激戦が繰り広げられたと想像しているかもしれないが、そうではない。これは連合国の負け戦、ひたすら逃げまくった戦いなのである。激しい戦闘シーンを期待してもダメ。そんなものは元々なかったのだ。

フランスのダンケルクに集結した全く勝ち目のない40万の英仏連合軍を、迫りつつあるドイツ軍から如何に救出するか。それはズバリどうやって逃げたのかということだ。だからダンケルクを描いた映画は過去に何本もあるが、いずれもえっ!何これは?という期待外れの映画となってしまう。それでも繰り返し繰り返し、描かれのはどうしてなのだろうか?

それを明らかにして、新たなダンケルクを描き切ったのが、このノーランのダンケルクというわけだ。

激しい戦闘場面など皆無の、不安と焦りだけの救出劇をどうやって描くのか、どうやって緊張感に満ち溢れた映画にまとめ上げるのか。ノーランの答えがここにある。その力量たるや、感嘆するしかない。それほど、この映画には独特の語り口と創意工夫、そして何よりも映画的興奮に満ち溢れている。

普通に描いても盛り上がるはずがない逃走劇をノーランは天才的な発想で描く。ダンケルクを空と海と陸の三ヶ所からの別々の視点から描くのだ。ほとんど会話は出てこない。ひたすら映像と音と音楽だけで、この緊迫した状況を描いていく。すごい。僕は圧倒された。これは本当の天才でないと作れない稀に見る傑作。

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一切の先入観を捨てて、ただひたすらこの映像と音の世界に身を委ねて欲しい。後はそれをどう感じるかというに尽きる。

これは問答無用の体験する映画である。黙ってこの世界に身を委ねるべきだ。

これで通算51本。ちょうど半分くらいだろう。まだまだ続く。請う、ご期待。

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