深く感銘できる傑作ドキュメンタリー

昨年話題となったドキュメンタリー映画を漸く観ることができた。深い感銘を受けた。実際に行われた三島由紀夫と東大全共闘との伝説の討論会を描いた「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」である。

これは学生運動が吹き荒れた1969年5月に東大の駒場キャンパスで行われた三島由紀夫と東大全共闘との実際に行われた白熱の討論会の全容を、当時の貴重な映像をふんだんに用いて明らかにした渾身のドキュメンタリーだ。

TBSがこの討論会の一部始終を全て撮影しており、その映像を用いている。こんな貴重なものが良くぞ丸々残っていたものだ、とTBSには感謝したい。

中々感銘深いものだった。そしてその討論会の模様だけではなく、三島由紀夫のことも、東大全共闘のこともコンパクトながらも分かりやすく伝えており、非常にレベルの高い秀逸なドキュメンタリーとなった。

紹介した映画のジャケット写真。
これがブルーレイ・DVDのジャケット写真である。

 

僕はドキュメンタリー映画も大好きで、今まで数多く観てきたが、今回のこの三島由紀夫と東大全共闘の討論会を描いた作品は、実に上手くまとまっており、第一級のドキュメンタリーとなった。

色々な意味で衝撃を受ける1時間48分となる。

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「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」の基本情報

日本映画 108分  

2020年12月4日  日本公開

監督:豊島圭介

ナレーター:東出昌大

出演:三島由紀夫
【東大全共闘】
芥正彦・木村修・橋爪大三郎
【元楯の会】

篠原裕・宮澤章友・原昭弘
【討論会場にいたマスコミ関係者】
清水寛(新潮社カメラマン)・小川邦雄(TBS記者)
【解説者】
瀬戸内寂聴・椎根和・平野啓一郎・内田樹・小熊英二

2020年 第94回キネマ旬報ベストテン:日本映画ベストテン第35位(ドキュメンタリーに順位が付くこと自体が稀なこと) 読者選出ベストテン第25位 文化映画ベストテン第4位

紹介した映画のチラシ
これはチラシである。キャッチコピーが単刀直入だ。

この討論会の意味合いと実現への経緯

集まった東大全共闘の学生約1,000人に対して、三島由紀夫は単身で乗り込み、1,000人対1人の討論大会が実現したわけだが、東大全共闘は当時の日本中で吹き荒れた学生運動の中心的存在。時の自民党政権に真っ向から挑み、連日ヘルメットと角棒を振りかざして革命の実現を目指していた左翼学生たちである。

一方の三島由紀夫は当時の文壇のスーパースター。川端康成とノーベル文学賞を競い合っていた世界でも注目の大作家である。私設軍隊「楯の会」を設立し、憲法改正はじめ日本の再軍備化を訴えるなど右翼の急先鋒でもあった。

その左翼学生と右翼の大文豪による安田講堂陥落後とはいうもののまだまだ学生運動真っ盛りのタイミングでのガチンコ討論。企画としてこれ以上面白いものはそうはない。この世界中で若者たちの反乱が起きた1969年という特別な年によくぞこんな破天荒な試みが実現したものだと感心してしまう。

東大全共闘側が安田講堂の陥落という痛手を負った後、事態を打開する方策の一つとして三島由紀夫に白羽の矢を立て、全共闘との大討論会を企画する。三島由紀夫に真夜中に電話で依頼したという当時のエピソードが生々しく明かされる。三島由紀夫は快諾したという。

三島由紀夫は三島由紀夫で、当時、学生たちとの対話を重視しており、様々な大学の学生たちとの対談を実現させていた。

とは言っても、東大全共闘は約1,000人。三島由紀夫はたった一人だ。しかも会場は全共闘側の東大の駒場キャンパス。普通なら身の危険を感じて怖気づいてしまうものだが、それが実現した。三島由紀夫が受けたのだ。

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筆者と学生運動、三島由紀夫との関わりは

この左翼学生対右翼の大文豪による討論会を紹介するにあたって、筆者の立場を書いておかないと、これから先が書きにくくなるので、最初に僕の立ち位置を表明しておきたい。

僕は1956年の生まれで、大学に入学したのは1975年。日本中に吹き荒れた学生運動のピークはこの討論会が行われた1969年とその前年だ。例の東大の安田講堂を占拠した全共闘側が、大学からの要請を受けた機動隊に排除された東大安田講堂の陥落は、この討論会に先立つこと約4ヵ月前の1969年1月18日~19日のことであった。

その時点で僕は中学2年生。大学に入学した時にはもう既に学生運動は終わっていて、正に遅れてやってきた世代だった。

僕は京都の同志社大学に進んだが、同志社大学ではとっくに終わっていた学生運動が僕が入学した当時でもまだ色濃く残っていて、これがいわゆる「同志社ガラパゴス」と呼ばれる所以である。

僕は赤ヘルを被って角棒を振りかざす同じ大学生の仲間や、一方で民青たちの動きも身近に見ていたが、僕自身が学生運動に加わったことは、もちろん一度もない。

だが、僕はあの学生運動を担っていた学生たちにシンパシーを感じなかったわけではなく、気持ちの上では理解者だったのだ。

一方で、右翼は大嫌いだったので、「楯の会」を率いていた三島由紀夫などは論外。絶対に受け入れられない、とほとんど三島由紀夫にはアレルギーを感じていたと正直に告白する。

したがって、僕はかなりの文学青年だったにも拘らず、三島由紀夫の小説は1冊も読んだことはない。

東大の法学部を出て大蔵省に入りながら、世界的な大文豪になった異端の天才。それでいて肉体を鍛え上げ、右翼の急先鋒だった三島由紀夫は、ハッキリ言って僕の中では唾棄すべき存在だったのだ。

そして、何と言っても僕が中学3年のときに起きたあの市ヶ谷駐屯地での自決事件。

自衛隊の市ヶ谷駐屯地に押しかけて自衛隊員を前に決起を促す大演説をぶちまけるも、応じる隊員がないことを見届けると自ら子分の楯の会の隊員と共に切腹し、首を斬らせての壮絶な最期。

あの頃の僕は三島由紀夫という存在はほとんど知らず、あんな破天荒な行動を取って軍国主義と天皇制の復活を訴えた人物が、東大出の超エリートにして世界的な大文豪と知って、本当にビックリさせられたことを昨日のことのように鮮明に覚えている。

その後の僕は右翼と右寄りの思想、戦前の軍国主義と戦争そのものを何よりも憎む人間に成長し、三島由紀夫のとんでもない行動を、何をバカげたことをやったんだと大文豪の信じられない最期をかなり辛辣に捉え、今日に至っている。

そういう意味では、僕の本音は東大全共闘にはシンパシーを感じ、三島由紀夫には嫌悪感を感じるという大前提で、50年前の大討論会を目撃したわけだ。

伝説の討論会はどうな感じだったのか

東大の駒場キャンパスの900番教室といっても1,000人も収容できる大教室。今は講堂となっている。そこに集まった約1,000人の学生はみんな東大の全共闘の連中。一方で時の文壇のスーパースターの三島由紀夫は単身で、彼らの本拠地に乗り込んできたわけだ。

僕は上述のように右翼と軍国主義は大嫌いだったので、ここで文壇の寵児にしてスーパースターの三島由紀夫が、左翼の学生たちからコテンパンにやられたら気味がいいなと思って、当時の記録フィルムを興味深く見入ったのである。

TBSが残していた映像は、あの時代の空気を確実に焼き付けていて、まさにあの時代の雰囲気を如実に伝えるものだった。 

冒頭から三島由紀夫がここにやってきた意味と自分の思いを10分間に渡って訴えかけるところからスタートする。

伝説の大討論会の写真
当日の模様を捉えた貴重な写真。中々素晴らしい。学生たちがギッシリと詰めかけた様子が良く分かる。

 

映像も音声も悪くない。声もしっかりと聞き取れる。

900番教室は学生たちで溢れ返らんばかりにぎっしりと埋まっていて、これは本当に1,000人は居たんだろうと思われる。

自分と考え方を正反対にする敵対勢力である1,000人の学生を前に、堂々と持論を展開する三島由紀夫は、結構サマになっている。

そしていよいよ学生たちとの討論の幕開けだ。赤ちゃん連れで登壇して、三島由紀夫に詰め寄る学生が登場。これが芥正彦だ。当時、東大全共闘の最大の論客として知られた理論家

討論会の実際の写真
これは実際の写真である。向かって左側の赤ちゃんを肩車しているのが芥正彦だ。

 

この芥正彦と三島由紀夫とのやりとりがこの討論会のメインとなる。芥はズッと三島由紀夫の隣に陣取ってかなり激しいやり取りを展開する。

最大の論客芥正彦との議論はあまり面白くない

ただ、これは僕には期待外れだった。それなりに興味深いやり取りもあるのだが、所詮、小難しい観念論のぶつかり合いで、ほとんど無意味。あの時代はあんな抽象的な屁理屈合戦が満ち溢れていたものだ。今の視点で見ると、ただの机上の空論。

同じ机上の空論なら空論で、方向性が真逆な極左と極右とで、その目指すべき世界観をトコトンぶつけ合って欲しかった。

三島由紀夫ももちろん東大法学部卒の超エリートだ。どっちもどっちで一般人には訳の分からない空論のやりとりに終始するのは残念だった。

討論会の写真
当日の討論会の写真。三島由紀夫vs芥正彦。

 

さすがに途中で、会場から横槍が入る。芥に対してだ。「そんな空論ばかり振りかざすのは東大全共闘の恥だ」と。そしてそれに対して激しく反論する芥。この二人のやり取りはかなりエスカレートして過激だ。何と東大全共闘同士の仲間割れ。

僕としては、ここが一番面白かったと思った次第。

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三島由紀夫の誠実な対応に敬服させられた

芥正彦が抽象的な議論をけしかけるせいもあって、ハッキリ言ってどうでもいい抽象論の応酬が続くが、この大討論会を見て強く感じるのは、三島由紀夫の実に誠実な対応ぶりだ。

冒頭から最後の最後まで、一貫して紳士的な物言いをしており、一度として声を荒げたり、学生を小馬鹿にしたような態度は微塵たりとも示さない。

極めて誠実な対応に終始し、この点は非常に好感が持てたどころか、この討論会の様子を見て、三島由紀夫をうっかり好きになってしまいそうな自分に気がついて、「いかんいかん。それだけはダメだ」と自分の感情をセーブする始末。

抽象論をふっかけられたり、芥から存在を頭ごなしに否定されるような厳しい発言を受けても、怒ったり、威嚇したり、あるいは逆に無視したり、見下したりする態度は全くない。

これにはビックリさせられた。

三島由紀夫は、あのような体育会系のイカツイ身体をした偉丈夫で、後輩の学生たちに対して粗野な対応をしても、いかにもそれらしい筈なのだが(実は元々は虚弱体質であり、そのコンプレックスを打ち破るために肉体改造をした)、実際には全くそうではなく、実に丁寧な対応で終始する。

三島由紀夫のこの鍛え上げられた肉体を見よ!

 

東大全共闘の学生たちはみんな、実は三島の東大の後輩で、年齢的にも20才以上離れている。極端に言えば、親子ほど歳が離れているわけだ。しかも一方は全共闘の学生であり、方や世界に名の知られた大文豪。スーパースターである。

にも拘らず偉ぶった点は皆無で、学生たちに対して終始丁寧な言葉遣いに徹し、優しい柔和な笑顔を浮かべながら誠実な対応を貫いている。これは想定外で本当に驚かされた。

討論会における三島由紀夫の柔和な笑顔の写真
討論会における三島由紀夫の非常に印象的な柔和な笑顔。

 

敬服に値すると心底感じ、三島由紀夫嫌いが、一転好きになってしまいそうで困った。

このドキュメンタリーが成功した理由

映画は当日の実際の討論会の映像を映しながら、ポイント毎に、学生運動の様子や東大の安田講堂の陥落など、当時のニュース映像を織り交ぜながら、現代の視点から解説が加えられるのが秀逸だ。当時の討論会で実際に発言をして三島由紀夫と渡り合った芥正彦を含めて東大全共闘の面々、この中には後に著名な社会学者となった橋爪大三郎もいる。また不慮の事態に備えて三島由紀夫を守るべく最前列に陣取っていた楯の会のメンバー。TBS始めとするマスコミ関係者。そして現在第一線で活躍中の作家や三島由紀夫と親交のあった著名人たちの解説や回想が適宜挿入される点だ。

これが非常に参考になる。肝心要の三島由紀夫は死んでしまったが、その他の当事者はほとんど全員が存命で、50年前の真実をありのままに語る一方で、著名人や三島由紀夫と親交があった人物たちの解説や回想が加えられるという構成である。

これが良かった。

三島由紀夫と一番意見を交わしたのは芥正彦だったが、この前衛芸術家として名を成した芥は、討論会当時の方がまだましで、年を取って、随分憎々しくなってきたというのが正直な感想。今の方が当時よりも攻撃的で三島由紀夫を上から目線で一方的に否定するのは印象が悪かった。

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タバコの煙がもうもうで時代を感じさせる

妙に印象に残るのはタバコの量だ。とにかく三島由紀夫も芥正彦も二人揃って、競い合うようにショートピースを吸いまくっている。

芥はまだ一歳にもならない様子の赤ちゃん連れで登壇しており、その赤ちゃんを抱きながら、タバコを吸いまくっているのには呆れ果てた。これが時代か。

三島由紀夫と芥が、壇上で手を差し出してタバコの火を点けあうシーンが妙に微笑ましい。いい感じなのである。

回想の中でも芥はショートピースを「俺は2つ(箱)持っていって、向こう(三島由紀夫)は4つ持ってきた。俺は2箱吸い終わったので三島のを1箱取って、俺は3箱、あいつも3箱吸った。三島に1箱返さなければならなかったが、返せなかった」などと嘯いている。

それにしてもよく吸う。今日の視点で見ると隔世の感があって、ビックリしてしまう。これはこれでドキュメンタリーならではの貴重な時代の記録である。

討論会で笑いながらタバコを吸う三島由紀夫の写真
討論会で柔和な笑顔を浮かべながらタバコを吹かす三島由紀夫。

 

討論の最後に質問に答える形で三島由紀夫が学生たちに語りかけたいくつかの言葉が忘れられない。危うく心が動いてしまいそうになる。

何と語ったのかは、どうか実際に映画を見て確認してほしい。必見だ。

本当にこのドキュメンタリーを見ると、結局は三島由紀夫のオーラというか、特別な魅力が周囲を圧倒してしまうことが良く分かる。

最後に思わぬ真実が浮上して戦慄を隠せない

そして左翼と右翼という正反対の思想の持主なのにも拘らず、最終的に両者が目指していたものは、そうは変わらない、方向性は一緒なのではないかと思えてくるのである。全共闘の学生たちも、三島由紀夫もあの時代を変えたかった。もっといい社会にしたかった。目指していた理想社会は異なっても、時代を変えようとする思い、しかもそれを実現するに当たっては、非合法で行くしかないという手段は変わらなかったという思わぬ真実が浮かび上がってくる。

そして、もしかしたら両者は正反対のようでいて、実は共通の敵と戦っていたのかもしれないと。

ここは思わず戦慄が走る瞬間だ。すごいものを見せてもらった。

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討論会だけで終わらないのが素晴らしい

このドキュメンタリーが秀逸なものになった最大の要因は、討論会が終わった後の両者のその後を、しっかりと描いてくれたことだ。

三島由紀夫の市ヶ谷駐屯地でのあの最後をキッチリと描いてくれた。

有名な三島由紀夫の市ヶ谷駐屯地での演説シーンの写真
いわずと知れた市ヶ谷駐屯地で自衛隊員を前に演説をする三島由紀夫。

 

あの驚嘆すべき自決は、1970年11月25日のこと。この討論会の1年5カ月後のことだった。何よりもビックリさせられるのは、この討論会の中で、学生たちにあの自決事件を暗に予告しているのである。

あの時点で具体的な計画があったとは思えないが、覚悟は決めていたんだなと痛いほど良く分かり、思わず衝撃を受ける。

一方で、全共闘の成れの果ても描かれる。あの後、学生運動は下火になる一方で、活動を続けた学生たちは分裂を繰り返し、激しい内ゲバを展開し、やがて追い込まれ、あの有名なあさま山荘事件(1972年2月19日~28日)を引き起こす。こちらは討論会の約3年後のことであった。その前に群馬の山中で仲間同士で殺し合った悲惨な事件も発覚し、ここに学生運動は終焉を迎えることになる。

あさま山荘事件の写真
あさま山荘事件の写真。

 

これは第一級のドキュメンタリーと称賛されていい。

あの時代を知るための極めて貴重なものだ。一人でも多くの日本人に観てほしいと切に願う。

 

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