某自治体病院は「暗黒の病院」だった

僕は旧社会保険病院の本部と4カ所の病院現場(3カ所で事務長職)での経験、更にJCHO発足後にフリーランスとして独立してから3カ所の民間病院での事務長職の経験を経て、約5年前に生涯初めてとなる自治体病院の事務長職を担うようになったことは詳しく説明した。

初めて地方公務員として公的病院である自治体病院に関わったわけだが、入職してみると、そこは驚くべき病院だった。

その自治体病院はかなりの病床数を誇る地域の中核病院だったが、日々の医療の提供こそちゃんと進めていたものの、事務方のマネジメントというか、事務方として把握すべきこと、院内で一丸になって進めなければならないことについては、何一つなされていない、言ってみれば「暗黒の病院」だった。

僕がお世話になったこの病院だけが特別に遅れていたのか、それともおしなべて自治体病院はこんなものなのか、それは良く分からない。僕は自治体病院の経験はここ1カ所しかないので、この病院で見聞したものが、自治体病院全体に一般論として当てはまるものなのかどうかも分からない。

想像するに、某自治体病院で僕を驚嘆させた事項は、大なり小なり全国のあらゆる自治体病院に共通するデメリットのように思われるが、中でも僕の関わった自治体病院が特別に遅れていた、大きな問題点が長きに渡って放置されてきた病院だったのだと思う。

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何も決められないという驚嘆すべき実態

入職して一番驚かされ、これは早急に何とかしなければならないと痛感させられたのは、物事を決定していくプロセスがなく、何一つ重要なことが決められないことだった。

病院の方針を決定できない。決定するシステムが決まっていない。副院長はもちろん病院長がいても、重要な病院の方針、進むべき方向性を示すことができない。

院内のありとあらゆる部署から毎日のように上がってくる現場の問題や懸案事項に対して、まともな決断と指導ができないばかりか、病院としての進むべき大きな方向性、目指すビジョンなどは何もなかったので、日々場当たり的な対応に迫られ、実際にはその場当たり対応さえできなくて、放置

全てが「なすに任せよ!」「レッセフェール」なのであった。

何も決定できずに放置

ハッキリ言ってしまえば完全な無法地帯と化していた。院内のあらゆる部署が有象無象の状態で、カオスだったと言ってもいい。

これにはまいった。早急に何とかしなければならないと考え、病院長を中心とする会議体を全て整理した。

.①議論する場と②決定、決断する場、そして③決まったことを院内に周知徹底させる場の3段階の会議体として新たにスタートさせた。

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病院長との厚い信頼関係の構築

次に、病院長とのコミュニケーションを深め、病院長の信頼を獲得することで、事務長職として病院長に対して忌憚なく様々な提案や意見を述べることができる関係を構築した。

それを前提に、病院長個人に対しても、トップとして病院長の思い描くあるべき病院像に基づいて、職員の前で遠慮なく信念や意見を述べ、職員を指導すべきだとお願いし続けた。

「それで上手く行かなかったり、何か問題が起きたときには事務長職である私が全ての責任を持つから、堂々と遠慮なく何でも決断してほしい」とお願いした。

こうして病院長との信頼関係を盤石にしたことで、この病院に足りないこと、不足しているあまりにも多くのことを改善し、新たな取り組みをドンドン導入していくことが可能となった。

ちなみに、僕は自分が事務長職として関わった7つの病院の全てで、毎日朝欠かさず病院長と膝を交えて意見交換をする場を設けていた。院長室に飛び込んで、院内のあらゆる懸案について意見交換をした。特に某自治体病院は規模が大きく、課題や問題点がどの病院よりも多かったため、毎朝短くても30分以上、平均すると45分位だっただろうか、時には1時間半以上に及ぶことも珍しくなかった。

教訓と改善策【病院長との信頼関係】

病院長とコミュニケーションを図り、厚い信頼関係を構築すること

事務長職は病院長を補佐する立場にあり、病院長とのコミュニケーションを十分に取って、厚い信頼関係を築かないと、院内の個別の改善策を構築したり、ましてや大改革などは決してできない、と肝に銘ずるべきだ。

病院長の了解を得て、毎日欠かさず病院長とマンツーマンで率直な意見交換の場を設けることが不可欠となってくる。不文律の日課と心得て取り組むべし。

これは何も自治体病院に限った話しではない。

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病院経営の基礎が何もなかった

病院として当然備わっているはずの各種貴重な資料が何もなかった。

どんな病院にも濃淡の差、中身の濃い薄い、出来不出来はあっても、必ず存在していた経営哲学や資料が何もなかった。病院経営の基礎が何もなかったのである。

月次決算が作成されていなかった

一番驚嘆させられたのは月次決算書が作られていなかったことだ。医事課の各種統計はさすがにあって、毎月の医業収益の内容は報告されていたが、人件費を筆頭に支出の方については無視されていて、月次決算書が作られていないどころか、毎月の損益状況、病院が黒字なのか赤字なのかも把握されていなかった

決算はあくまでも年に一回、年度の決算を出すだけで、月次単位では報告されず、誰も認識していなかった。

そもそも月単位での損益状況、黒字なのか赤字なのかを確認することが完全に欠落していた。

これでは経営改善もへったくりもない。

そこで僕は早急に月次決算書を作成させた。様式はどうでもいい。毎月の収益の合計と支出の合計を出して、その差額を求めるだけのことだ。逆にいうとこんな基本的なことがなされていなかったのだ。

経理担当者はしばらく後にちゃんと対応してくれたが、実はその月次決算書(月次損益)には致命的な欠陥があることが分かった。

これは正に自治体病院ならではの、エッ!?と驚かされるものだった。

それが「調定額」というものだった。

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「調定額」にトコトン拘る官僚たち

僕はこの自治体病院に入職したことで、病院経営に関わるようになって実に35年目にして初めて「調定額」なる言葉を知った。

月次決算、月々の損益状態が何故か正確に掴めないので、その原因を突き止めていたところ、職員が盛んに「調定額」と言うのである。僕は35年間、一度も聞いたことのない言葉で、さっぱり理解できない。

まるで言葉の通じない外国人と話しているようだった(笑)。病院の職員の方もきっと同じように感じていたはずだ、どうしてこの事務長は「調定額」が理解できないのかと。

役所、行政にとって「調定額」の概念が重要であることは理解したが、それで月次の収益を計上してもその該当月の売り上げ、実力は全く反映できない。それでは月次決算を作る意味がない

調定額ではなく、つまり債権債務関係が確定していなくても、実際に当該月で医業収益でカウントできるものはその月にもれなく計上しなければならない。

その月に患者に対してどれだけの医療行為を提供して、その結果いくら医業収益が発生したのか、それが把握できないと月の損益状況を知ることができない。診療行為が行われた以上、発生主義に基づいてそれを把握できないと月次決算の意味がない。

病院長はそのカラクリに以前から疑問を感じており、何としても毎月の医業収益を発生額で算定することに拘ってくれた。

当初は調定額で決算を作ることは役所のルールで、これでなければ決算書は作成できないの一点張りだった経理担当者が、最後は受け入れた。

病院長と事務長が、病院の経営上、どうしても発生額でなければ月々の成果、実力を把握できないから改めてほしいとの強い要望を理解して、発生額で月次決算を出してくれることになった。

これには何と、ほぼ1年かかっている。

※ この「調定額」のことについては、後日、改めて書かせてもらう。

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教訓と改善策【月次決算は不可欠】

月次決算(損益)の重要性と「調定額」の排除

1.万が一、月次決算を作っていない病院があるなら、他のどんな業務にも優先して月次決算書を作成する必要がある。

2.自治体病院では「調定額」に拘って、収益は調定額でなければ計上できないとする厳格なルールと文化と存在するかもしれないが、病院として月々の実力と成果を見極めようとしたら、発生額で計上するしかない。くれぐれも注意してほしい。

調定額でなければ決算書には上げられないというなら、「決算書」に拘る必要はない。要は、病院の真の実力と成果を知る必要があるのだ。医師を中心にありとあらゆる医療職が、その当該月にどれだけ売り上げたのか(稼いだのか)、その額を知りたいだけだ。

それさえ把握できるなら、決算書には拘らない。管理会計に徹して、病院としての実利に貢献する必要がある。

月次決算を院内に完全オープンに

某自治体病院で困ったことは、そもそも病院幹部ですら毎月の損益状況を把握しておらず、その中途半端なデータや病院の基礎資料ですら、一部の幹部職員のみが把握しており、一般職員にはもちろん中間管理者(技師長・師長クラス)に対しても、何も報告されていなかったことだ。

僕はそれを早急に改めた。「経営の見える化と透明化」だ。

新しく作成した月次決算者は正式な会議で病院の幹部、中間管理者に詳しく説明され、決算書そのものも配付された。当初は中間管理者止まりだったが、やがて院内の全職員が把握できるように完全オープンとした。病院の毎月の経営状況が院内で完全にガラス張りとなった。

病院の経営状況を改善し、病院の抜本的な改革を進めようとしたら、今、病院が置かれている経営状況を全職員に知ってもらう必要があることは言うまでもない。

これだけは絶対に必要不可欠である。

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教訓と改善策【ガラス張りの経営】

経営状況のオープン化(ガラス張りの経営)

作成された月次決算書は、院内にオープンとし、経営状況をガラス張りにすることが必要だ。

職員に汗をかいてもらおうとしたら、病院の置かれた現在の経営状況をガラス張りにして、「見える化と透明化」の徹底を目指さなければならない。

 

【第2章】に続く

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