幹部が巨額な赤字を「赤字」と呼ぶなと叱責

自治体病院のことを語るに当たっては、どうしてもその経営のことを取り上げないわけにはいきません。これをこの一連の「自治体病院の病巣を斬る!」シリーズで、真っ先に書かなければいけないテーマだった、と少し反省しているところです。

私がお世話になった某自治体病院は私の入職時に既に多額の赤字を抱え、赤字で推移することが多かったのですが、病院の幹部が一堂に会する重要な会議の席上で、思ってもみなかったことがありました。

それは私が民間から登用された事務長職として、当時病院内で月次決算もなかったものを早急に改善し、月次決算、つまり前月の病院の経営状況が黒字だったのか、赤字だったのかを、初めて明らかにして報告した会議に他ならなかったのですが、そこで私が前月の経営状況を報告した直後に起きました。

もちろん大きな赤字となっていましたので、私は事実をありのままに「赤字」、「大きな赤字」となっていますと報告しました。

すると、ある幹部からすかさず、拒絶されてしまったのです。

その幹部というのは、幹部も幹部、長きに渡ってトップを務めていた重鎮でした。

「赤字という言葉を使うな!」と叱責されてしまいました。

曰く、『我々のような自治体病院は周囲の民間病院が診ない不採算部門を扱っているのだから、経営が悪くても当然。赤字が出ても当然のこと。そんな状況を無視して勝手に「赤字」と言うな!』ということでした。

更に驚かされたことに、その幹部の発言を受けて、客観的な立場で病院経営に関して指導すべき立場にある公認会計士の顧問が「そうですね。今後、病院では「赤字」という言葉を使わない方がいい」と迎合する発言をしたのです。

私は耳を疑いました。驚かされたのはもちろんですが、次には怒りにも似た感情が込み上げてきたことを正直に告白します。

「これでは話しにならない。だから自治体病院はダメなんだ」と、自治体病院の経営の悪さの根本的要因と病巣の深さを思い知らされたのでした。

「赤字は赤字」。その認識から始まる

数字が示している事実を事実として認識することを否定してしまっては、もうどうにもなりません。

これは物事の基本で、明らかな「赤字」を「赤字ではない」と言い、しかも公認会計士という会計の専門家がそれを肯定し、支持することはあってはならないことだと思いました。

少し厳しい言葉でいうと、データの改ざん、隠蔽と同じことになってしまいます。

百歩譲って考えますと、元トップは『確かに赤字は赤字だろうが、それはいわば「許された赤字」であって、そのことを指摘したり、糾弾することは許さない』ということだと思われます。

果たして「許された赤字」なるものが存在するかどうかも議論があるところですが、言っている意味は分からなくはありません。

「許される赤字」と言うならまだ

ここが肝心なところです。自治体病院は小児科など不採算部門を扱っているので、赤字であってもそれはやむを得ず、その赤字は許容できると言うべきでした。

「赤字」と呼ぶな!は論外です。

赤字は赤字とて事実をしっかりと認識した上で、その赤字はやむを得ないとするなら私も許容できるのですが、「赤字」と呼ぶな、「赤字」という言葉を使うな、これはいただけません。

「許された赤字」はあり得るのか?!

私は、幹部お二人の発言を、敢えて百歩譲って受け入れる余地はないかと考えたのですが、民間から招聘された私の本音としては、そもそも「許された赤字」なるものが存在するのかどうかに対しても疑問を抱いています。

いずれこのシリーズでも触れさせてもらいますが、どこの自治体病院でも、不採算部門(医療)を扱っていることを根拠に、それぞれの自治体(都道府県・市町村)から「繰入金」と呼ばれる言ってみれば経営に対する補助金のようなものが支出されています。

それぞれの自治体の財務状況によって、額は千差万別ですが、某自治体病院でも1年間に驚く程の繰入金(補助金)をもらっていました。

つまり、自治体病院が他の民間病院が避けている不採算医療を診ることに対して、自治体がかなりの費用負担をしている、病院サイドから言えば、自治体から不採算医療を担うことのハンディを補助金としてもらっているのです。

しかもその補助金は決算における収益(医業外収益)として計上されています。

ですから、不採算医療を担っているから「赤字的なもの」が出ても仕方ないし、それを赤字と呼んでは駄目だと言っても、その不採算医療による赤字分は、自治体が担って穴埋めがされているという構図になっていることを忘れていけません。

したがって私は、それぞれの自治体から巨額の繰入金をもらっている以上、そもそも赤字を計上すること自体が病院の努力不足であり、ましてや不採算医療を担っているから赤字は出ても当然だし、それを赤字と呼ぶことを許さないという考え方は間違っているのではないかと考えています。

そもそも論理に無理があります。

「我々はこんな不採算医療を担っているんだから赤字は当然。それを赤字と呼ぶことは許されない」ということは、自分たちのデメリットばかりを強調して、実は補填されていることには目をつぶる極めて非対称な発言ちょっとした欺瞞と言われても仕方ないのではないでしょうか。開き直りと言ってもいいかもしれません。

全国の約1,000の自治体病院の多くは繰入金をもらった上で、大きな赤字を計上しているのが実態です。そこには「甘えの構造」があるとしか思えません。

自分たちが受けている恩恵を棚上げした議論にしか聞こえないのです。

幹部の意識改革が不可欠にして急務

病院の幹部が、赤字という表現そのものを受け入れようとせず、自治体病院は不採算部門を引き受けているのだから、赤字になるのは当然であり、医業損益・経常損益の収支マイナスを赤字と呼ぶことに拒否反応を示したことは、大きな問題でした。

病院の幹部がこのような姿勢では、病院の経営改善が図れるわけがありません自治体病院の経営の悪さの最大の要因を目の当たりにした感がありました。

幸い病院長を始め、多くの他の幹部は赤字黒字という表現に抵抗がないことが救いでしたが、顧問である公認会計士が「今後は赤字黒字という表現は一切使わないように封印すべきだ」と迎合してしまったことがまた別の意味で、大きな問題だと思えました。

もっともこの顧問の公認会計士とは後に理解し合えて、その後は私の善き理解者となってくれました。このことには心から感謝しています。

「赤字」と呼ぶことは受け入れられたが

その後、私も病院長も赤字を赤字と呼ぶことの理解を求め続け、それは受け入れられました。赤時を赤字として、事実をありのままに受入れ、それをどう改善していくのか、そこがスタートとなります。

これは私が某自治体病院に関わった極初期のエピソードです。

自治体病院の実態を目の当たりにした貴重な体験、この衝撃的な発想を知ったことで、いよいよこの病院の経営を何とかして立て直す必要性があると、決意も新たにすることができました。

全国の他の自治体病院は大丈夫でしょうか?

 

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