目 次
人材確保困難を理由に氏名を隠しているのか
僕は、今回のネームプレートの完全撤廃が、てっきり運転する車内に自らのネームプレートを掲げ、名前を明らかにすることが、運転士にとって大きなプレッシャーとなり、唯でさえ運転士のなり手が減る一方の路線バスの運転士をこれ以上減らさないための、苦肉の策だと思ったのである。
そして、もしそのとおりだとしたら、それは筋違い。本末転倒も甚だしい。
プライドを持って一生懸命に働いている運転士に対するある意味での冒涜だと思い、どうしてこんな変なことをするのだろうと訝しく思ったのだが、実質的な真相はともかくとして、表面的には今回の名前表示の撤廃は、人材の確保困難とは直接的には関係ないことが判明した。
実は行政による指導、国交省が定めた規定に則った対応だったことが分かったのだ。
こういうことだった。
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国交省が個人情報を理由に氏名掲示の義務化を解除した
個人情報を理由に国交省が決めたことだったのだ。
理由は何とも驚くべきものだったが、極めて明快だった。
Webで読んだ日本経済新聞の記事を以下に引用する。2023年8月1日の記事である。
国土交通省は1日、タクシーやバスの運転手を対象とした車内での氏名掲示義務を廃止した。道路交通法などに基づく省令を同日に改正した。運転手のプライバシーに配慮し、安心して働ける職場環境を整え、人手不足の解消を狙う。
現行の法令はタクシーやバスの運転手の氏名を、乗客に見やすいように掲示しなければならないと定める。トラブルが起きた際の運転手の特定や、乱暴な運転の防止などにつなげる狙いがある。タクシーの場合は運転手の顔写真の掲示も求めている。
1日からは氏名や顔写真の乗客から見やすい場所への掲示義務がなくなった。運転手は必要に応じて提示する。
タクシーに関しては引き続き、運転手個人の割り振っている登録番号やタクシー事業者名をみえる場所に掲示しなければならない。忘れ物などで車を特定したい場合に活用できる。
氏名掲示を巡っては、乗客がスマホで撮影した運転者証をSNS(交流サイト)に投稿するといった迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」につながる懸念が指摘されていた。
国土交通省が出した通知文そのものを確認してほしい。
これに目を通してくれればかなり詳しく今回の改正内容は理解してもらえるだろう。
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実際のところどうなのか?個人情報保護は隠れ蓑ではないか?
何でもかんでも個人情報の保護。プライバシーへの配慮。これは伝家の宝刀のごとく、何かにつけ顔を出してくる。そしてこれが掲げられると何も言えなくなってしまう。
個人情報とプライバシーに配慮して接客業に携わるプロフェッショナルが、顧客に対して名前を表示しなくなる。いや、表示できなくなる。
もちろん今度の省令の改正は、あくまでも氏名の表示を掲げないように「できる」規定なので、自ら望んで掲げることはできるという建付けにはなっている。
だが、実態としては、職場近くの千葉県のバス会社も神奈中バスも、10.1以降、全ての運転士のネームプレートが撤廃されている。
会社が組織としての方針を決めてしまっている。その中に所属している一個人がネームプレートの掲載を希望しても、通ることはないのだろう。いかにも日本社会の縮図を見るようだ。
実質はなり手のない運転士の人材確保ではないか?
個人情報とプライバシーを隠れ蓑にした人材確保困難職種への配慮としか思えないのだが、どうだろうか?
現に路線バスの運転士の人材確保が困難の状況がある。現在就労中のバス運転士の高齢化と若い運転士のなり手が少ない。そんな人材確保困難を少しでも解消するためにネームプレートを外すのだとしたら、その是非については多方面からもっと議論する必要がありそうだ。
ここはどうしても拘ってしまう。
こういう事態が路線バスを巡って起きているということなのだろうか。
①自ら運転するバスの車内にネームプレートを掲げることで、運転士の氏名が明らかとなる
②顧客である乗客がバスに乗った際に、運転の上手い下手、接遇面の善し悪しを氏名で確認できる
③運転が下手(乱暴)、接遇面などで問題がある(感じが悪い)運転士に、運転士の氏名を把握した乗客がクレームなどを会社に伝える
④クレームを受けた会社は、運転士を呼び出して注意や指導を行う
⑤注意や指導を受けた運転士がプレッシャーを感じて、メンタルを病んだり、退職してしまう
⑥こうして現在就労中の運転士が廃業に追い込まれ、バス会社も運転士不足に陥る
⑦新たな運転士を募集するも、名前を表示し、顧客から指摘を受けるような仕事は嫌われ、応募がない
⑧こうして運転士が確保できないバス会社が経営破綻に陥る
この①~⑧が負のスパイラルとなるのを回避するために、運転士の氏名表示の義務付けを廃止した。
こういうことなのだろうか?
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どう考える?接客業と氏名表示
接客業が業務を遂行するに当たって、顧客に分かるように名札を付けたり、ネームプレートを首から下げることは、僕にとっては当然なことだと思われるが、どうだろうか?
どんな業界にあっても、接客業、顧客と直接対面するスタッフは、必ず名前が分かるように名札などを付けているが、それらも今後はなくなっていく。いや、なくしていく。
その先行事例として、今回のタクシーとバスのネームプレートの撤廃が行われた。これがきっかけとなって、今後はこのような接客業の氏名表示がなくなっていくのだろうか?
もしそうだとしたら、接客業の氏名表示は何のために行われているのだろうか?
ホテルマンや飛行機のキャビンアテンダントなども、今後は名前表示がなくなっていくのだろうか。
そもそも名前を表示するから、その職種は嫌われてしまうのだろうか?
翻って私たちの職場である病院はどうなんだ?
僕の職場は病院である。40年来、ずっとこの業界に身を置いている。
病院では、日本全国どんな病院でも多分みな名札を付けている。胸に名札を付けるよりは、最近はほとんどの病院で名札を首から下げている例が多いのではなかろうか。
いずれにしても医療スタッフの名前が分かるように名札を身に付けている。
これはあまりにも当たり前すぎるので、その是非をあらためて話題にするのも憚られるところだ。それくらい院内では完全に定着しているスタイルである。
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医療人が名前を明示して働くことの意味
我々医療人(医療職)はどうしていつも名札を付けて仕事をしているのであろうか?あまりにも当たり前すぎるので、そんなことを普段は考えたこともないというのが、実際のところだろう。
逆にいうと、病院で働くスタッフの中に、できれば名札を外して仕事をしたいと考えているスタッフがいるのだろうか?
僕には想定ができない。
病院という職場は、驚くほどの多職種が共通の目的のために一種に仕事をしている滅多にない変わった職場である。
医師を始め薬剤師、各種コメディカル、看護師、事務員、技術職など本当にたくさんの職種が混在していて、しかもそのほとんどが国家資格を持っている。
それら多職種が医師を中心に病気を治して患者を救うという共通の目的のために、チームを組んで仕事を進めているというのが、病院という職場の姿である。
病院で名札を明示しないことはあり得ない
そのチームを組んで病気を治して患者を救う、というチーム医療の実践にとって互いの名前を知るということは絶対に不可欠だし、それは治療を受ける患者や家族サイドから見ても、不可欠なことであると信じて日々の仕事を推進している。
それは国家資格を持つ者の誇りでもあり、プロフェッショナルとしての矜持ではないだろうか。
僕のような事務職でも、病院で働く医療職には違いないのだが、もちろん我々事務職は何の国家資格も持ち合わせていない。
だが、医師を筆頭とする国家資格を持った医療職とチームを組んで、一緒に病院内で働いている。資格の有無、資格の種類による貴賎は基本的には存在しない。と、僕は固く信じている。
その意味では、我々のような事務職でも病院で働く医療職として、病気を治し、患者を救う業務に従事しているものと考えることができる。
そのためには堂々と名札を身に付けて、自らの氏名を公開して患者と家族に対峙している。これはどうしても欠かせない、絶対に必要な大前提だと思われるのだが、どうだろうか?
我々医療人(医療職)は、名札を下げて患者や家族と向き合うことは、医療人としての責任と誇りじゃないのかと考えているのだが、それはおかしいことだろうか?
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病院で個人情報を理由に名札なしで働けるのか
逆に、病院という職場で、氏名表示なしで、患者の前で名前を掲げないで、医療行為を行うことはできるだろうか?僕には大いに疑問なのだ。
患者は病院では、極端に言うと医療スタッフに命を預けていると言っても過言ではないだろう。そんな患者に対して対応する医療スタッフ側も、氏名や職種、役割などを全てオープンにして、真正面から向き合うのである。
そのためには、どうしても対応するスタッフの氏名の公開は必要不可欠だと考える。
医師も看護師も確保困難だが、名札なしで働けるのか?
その一方で、医師や看護師を始め、多くの医療職は人材の確保が極めて困難だ。多くの病院が優秀な医師や看護師などを確保するために四苦八苦している。
だが、だからと言って今回のタクシーやバスの運転士のように、個人情報の保護を理由に、名札なしで働くことができるだろうか。どう考えてもそうは思えない。
だとすると、今回の国交省が出したタクシーとバス運転士のネームプレートの撤廃は、妥当な政策だったのか、極めて疑問になってくる。
もちろん、タクシーとバスの運転士と医療職とを一緒に語るなかれという意見もあるだろう。
だが、それだって僕に言わせれば、何の違いもない。
タクシーに乗ることも、路線バスに乗ることも、乗客はこれらの運転士に文字どおり命を預けているのでないだろうか?
医療職には実はこんな特殊な事情もあるのだが・・・。
我々医療人は患者の氏名をしつこく確認する職場
病院というところは、信じられない位に、院内のあっちこっちで繰り返し、しつこい位に相手の患者の指名を確認する、具体的には患者本人にフルネームを名乗ってもらう職場なのである。実はフルネームだけではなく生年月日まで伝えてもらっている。
これは偏に患者誤認・患者間違いによる医療事故を防止する観点からの要請なのだが、それは徹底していて、何度も何度も繰り返される。
担当する医療スタッフが変わる度に氏名と生年月日を伝えてもらうのだ。
そんなことを頻繁に行っている医療の現場において、顧客である患者からは繰り返し名前を名乗らせられ、生年月日まで答えさせるのに、それを求める側の医療スタッフは自分の氏名を明らかにしない、などというのは到底許されることではない。
この話しは医療現場の特殊性だろうが、氏名の公開は接客業である限り、どんな業界であっても当然なことではないだろうか?
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余計な忖度はするな!プロのプライドを重んじてほしい
個人情報の保護やプライバシーに配慮して、接客業のサービス提供者側が氏名の公開を放棄してしまっていいのだろうか。
それは余計な忖度ではないのか。どんな業種であれ、それでサラリーをもらっている人間はプロフェッショナルである。プロとしてのプライドを捨ててほしくない。
人材確保困難な状況や一部の少数者に忖度して、プロのプライドをかなぐり捨ててどうするのか。
国交省と厚労省は別という行政の縦割り理論が横行しそう
今回の省令改定はあくまでも国交省がタクシーとバスの運転士に限ってネームプレートの義務付けを見直しただけであり、他の接客業やサービス業のスタッフに対して、何か言っているわけではもちろんない。
可能ならこういう問題は、全ての業界で足並みを揃えてもらいたいところだが、国交省と厚労省は別という行政の縦割り理論が横行しそうだ。
今回は足並みが揃わないことが良かったと思われる事案だが、このことが変な形で多方面に影響を及ぼすことがないことを祈りたい。
フルネーム表示を改め、名字だけにする動きがある
実は、医療業界でもフルネームのスタッフの氏名表示を改めようとする動きが一部にある。
フルネームを改めて、名字だけの表示にするなどの動きである。
患者や家族、すなわち顧客サイドが医療スタッフの氏名を悪用する、SNSなどで氏名を公開したりするなどの迷惑行為が起きているらしい。
表示された名前を悪用する輩がいるとすれば、困った問題ではある。
僕自身は今回の国交省の決定は、個人情報とプライバシー保護を人質に取った困った動きだと考えているが、思っているよりは根が深い問題なのかもしれない。現代社会の病理というか、闇が少し影を落としていることは否めない。
それが理由で、接客業が名前を表示できなくなるということは、どう考えても容認しえない。
どうしてこんな生きづらい社会になってしまったのだろうか。
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読者の皆さんの職場での氏名表示の状況を教えて
読者の皆さんの職場では、氏名の表示がどのように取り扱われているのか、非常に興味がある。
どうか色々な実態を上げていただき、この問題をもう少し社会全体の問題として捉えたい、もっと様々な場面で国を挙げて議論してもらえないかというのが僕の本音である。
どんな情報でもいいので、教えていただけるとありがたい。
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