目 次
後味は悪いが、良くできた犯罪ミステリー
かなり衝撃的な邦画(日本映画)を観た。昨年(2022年)公開されたばかりの「さがす」というタイトルの作品だ。
「鎌倉殿の13人」の比企能員役で強烈な印象を残した佐藤二朗が、堂々の主演を務めている。
登場人物はかなり限られた小ぶりな映画なのだが、実にインパクトが強く、観終わった後もいつまでも頭を離れなくなる非常に印象の強い作品だ。
突然蒸発した父親を必死でさがそうとする娘の姿を通じて、今日の日本社会の深い闇がクローズアップされてくるという中々心憎い犯罪ミステリーである。
かなり暗く、社会の闇と登場人物の心の闇が浮かび上がり、いたたまれない気持ちにもなるのだが、妙に気になって仕方がない映画なのである。
観終わった後でも、ずっと映画のことを考え続け、脳裏から離れない。
後に糸を引く映画と言ってもいいかもしれない。
同じような犯罪ミステリーでも、昨日紹介した「罪の声」に比べると、どうしても見劣りしてしまうが、それは「罪の声」があまりにも傑出した名作だったからであり、今回の「さがす」も相当な完成度を誇る傑作と言っていい。
是非とも両方とも観ていただきたいものだ。
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映画の基本情報:「さがす」
日本映画 123分(2時間3分)
2022年1月21日 公開
監督・脚本:片山慎三
共同脚本:小寺和久・高田亮
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹、石井正太郎 他
主な受賞歴:第96回(2022年)キネマ旬報ベストテン 日本映画ベストテン第9位 読者選出ベストテン第17位
どんなストーリーなのか
映画の冒頭。中学生の女の子が小走りしながらどこかに急いでいる姿から始まる。コンビニで万引きしたとの通報を受けて、父親である原田智の元に駆けつける姿だった。
舞台は大阪。2年前に妻を亡くした原田はすっかりやる気をなくして、まともな仕事に就いていない。
その日も300万の懸賞がついた犯人の姿を見かけたと興奮気味に語る父親だったが、その翌日に突然姿を消してしまう。
以後、娘の楓は必死になって姿を消した父親をさがし始めるのだが・・・。
果たして父親をさがし出すことができるのか?そもそも父親はどこに行ってしまったのか?
原田は300万の懸賞金がかかった殺人犯をさがし出すことはできるのか?危険はないのか?
この父と娘は一体どうなってしまうのだろうか?
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誰を探すのか?幾重にも錯綜するさがす対象
「さがす」というこの映画のタイトルが実に意味深で、一筋縄ではいかないものだ。
もちろん、失踪した父親をさがすのがメインであることは言うまでもないが、そんな単純な話しではない。
実は、この映画の中のほとんど全ての登場人物が、誰かをさがしているのである。
①娘が失踪した父親を。
②その父親は300万の懸賞金がかかった殺人犯を。
③その指名手配の殺人犯もある人間を。
他の登場人物も、決まって誰かをさがしている。そうした錯綜した作りになっているのである。
その着想は悪くない。そのさがしているものが見つかった時、今の日本社会が抱えている深い病巣もまた明らかになるという構造だ。
かなり良くできている。脚本は相当に練られていると高く評価したい。
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今の日本社会の深い闇に迫る(ネタバレ注意)
やがて浮かび上がってくる衝撃的な闇。社会の闇と登場人物たちの心の闇。
その闇の深さに震撼させられる。
自殺願望のやりきれなさと悪用する人間
ここに描かれるのは、うつ病などメンタルを病んで、自殺願望に取り憑かれながら自分自身では死ぬことができない苦悩する人々である。
そしてその自殺を幇助し(手助けし)、人を救ったと自分にも仲間にも言い聞かせながら、高額な謝礼を受け取ろうとする殺人鬼の姿である。
死にたくてたまらない人々の苦悩と、それを悪用して金儲けをする偽善者。
これは近年、頻繁に起きるSNSなどを通じて自殺願望者が自分を殺してくれる人を探し出し、実際に自殺してしまう事件をモチーフにした映画なのである。
そんな恐ろしい世界に、楓の父親が近づいて行ってしまう。
親子(父娘)の絆と家族愛
映画の前半は、失踪した父親を必死でさがす娘の姿をドキュメンタリータッチで描いていく。
この楓のエネルギッシュなこと。大阪人の類い稀なバイタリティを目の当たりにする思い。
行動力に溢れた楓は、父親をさがしだすことができるのか?
そこが前半の観どころだ。かなり良くできたミステリーであり、サスペンスにもこと欠かない。
こんなダメ親父を何としてもさがし出したいと、周囲の反対を無視して危険を伴う無茶な手段でさがし続ける娘の父親への思いがたまらない。
そこには2年前に亡くなった母親のことも、深い影を落としていた。
この父と娘の絆と家族愛には、胸を締められる思い。
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佐藤二朗の際立つ存在感
この映画を観て、強烈な印象を受けるのは主演の佐藤二朗の際立つ存在感だ。
このあまり風采の上がらない、それでいて妙に味わいのある風貌の性格俳優の佐藤二朗。
そんな独特の存在感がこの映画で際立っており、最高のはまり役になったと言っていいだろう。
妻を亡くし、そこから中々立ち直れない意思の弱いダメ親父を見事に演じ切った。
根は善良でありながらも、悪の誘惑に抗しえない弱い人物を演じさせたら、佐藤二朗はピカイチなのかも知れない。
そんな弱い人間が、突如、凶暴な人間に変貌する一瞬を、佐藤二朗は狂気を孕んで演じ切る。
それが佐藤二朗の魅力に他ならない。本当に観応え十分だ。
伊東蒼が出色の出来栄え
娘を演じた伊東蒼が実にいい味わいを醸し出していて、印象に残る。その存在感は佐藤二朗に勝るとも劣らない。
元々、「湯を沸かすほどの熱い愛」や「島々清しゃ」などで注目された若手だが、決して美人でも特別かわいいというわけでもないのに、しっかりと役になり切って最高の演技を披露した。
素晴らしいと思う。
清水尋也の不気味さに震撼
何と言ってもそら恐ろしいのは、清水尋也である。この映画で見せる狂気を秘めた異常性は少しトラウマになりそうなレベル。
振幅の幅が半端ではなく、これは彼の代表作になるのではないだろうか。
彼の不気味さを確認するだけでも、この映画を観る価値があると言っても決して過言ではない。
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本当にさがしているものは何?
登場人物のほとんど全てが何かをさがしていると書いた。それぞれの人物がさがしているものはかなり明確なのだが、最後に僕はこう思う。
少なくてもこの父親と娘がさがしているものは、もっと違うもの、もっと深いものをさがしているのではないか?
具体的な人物ではなくて、そもそもさがしているものは特定の人物ではなく、もっと全く別なものではないのか?
そう考えると、この映画は実は思っているよりも遥かにずっと奥が深いのかも知れない。
父親と娘がさがしているものを見極めることがこの映画の真価を理解することになるのではないか。
果たしてそれは何なのか?
それを見極めるのは、映画を観る皆さん、お一人おひとりだ。
どうか実際に映画を観て、貴方自身で「さがして」ほしい。
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