考えられない経営判断ミスがあった

某自治体病院には僕が事務長職を務めた病院の他にも2つの病院(施設)を抱えていたが、そのうちの一つの施設の経営が極端に悪化し、紆余曲折の結果、その施設は廃院とすることが決まった。

この件に関して、僕は自治体当局と病院幹部は重大な判断ミスを2つ犯してしまったと考えている。

1.経営不振に陥った施設を廃院にしてしまったこと。これは何としても経営悪化を食い止め、再生させる必要があった。廃院とした施設がなくなってしまった今こそ、その存在意義が明確になっている。

2.百歩譲って、その廃院がやむを得なかったとして、自治体と病院のトップ、及び幹部職員は廃院に当たって、とんでもないことを決定してしまった。その施設で働いていた全職員を、僕が事務長職を務めていたもう一つの大きい病院の方で無条件に受け入れることにしてしまった

これは全くあり得ない狂気の判断、ハッキリいうと僕が勤務していた某病院の自殺行為そのものに違いなかった。

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その決定で、受け入れ病院は経営破綻目前に

その結果どうなったのか。それが某病院の今の姿、経営状況に如実に現れている。

職員受け入れ以降、人件費が爆発的に増加し、経営破綻目前に至っている。民間でいうデフォルトへのカウントダウンが始まっている状況だ。

それは偏に、廃院した病院職員を無条件で受け入れたせいである。

病院経営の基本はどこにあるのか!?

僕は当初からこうなることを予測していた。僕だから予測できたなんて偉そうなことを言うつもりはない。

僕でなくても病院経営の心得が多少なりともある者なら、誰だってあんなクレージーな決断はしない。

病院経営の肝は、「入りを増やして出を制すること」(「入りを量りて出(いずる)を制す」)に尽きる。これは病院に限った話しではなく、どんな企業体、事業所でも当たり前の経営の基本中の基本である。

つまり入院や外来の医業収益を拡大させて、一方で人件費を中心に材料費や経費の支出を減らすこと、これしかない。

現実的にはどこの病院でも、この医業収益を1円でも多くするために知恵を絞って苦労を重ね、その一方でできるだけ人件費を膨らまさないように細心の注意で臨んでいるわけだ。

分かり易いところでは、超過勤務手当の支給を少なくするために残業を減らす取り組みなどを展開する。その最たるものとして、コトと場合によっては職員のリストラなども検討していかなければならない。

重大事項としては、ボーナス(勤勉手当等)の支給をどうするのか?そうやって、少しでも人件費が嵩むことのないように日々格闘していくわけだ。

薬品費や材料費を如何に少なくするかも重大な課題となる。

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閉院病院の職員全員を受け入れる愚

そんな病院経営の基本を踏まえれば、経営悪化して閉院に追い込まれた病院の職員を全員無条件で受け入れることが、如何に常軌を逸した決断であったのか、誰にだって分かる。

ところが、その当時の自治体や病院のトップにも、また彼らを支える幹部職員にも、そんなことが全く理解できなかったのだ。

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重大決定から排除された事務長

そんな重大決定に、僕は会議出席の声すらかからず、「現場の事務長さんには関係ない」として完全に排除された。

こんな重大決定が一度や二度の会議で決まるはずもなく、この検討期間中に事務長は完全に排除され、無視され続けた決定内容すら聞かされていなかった

僕がその会議に出席していたなら、廃院すること自体に反対したことは明らかだ。だが、仮にその廃院はどうしても避けられないとするならば、その事後処理としての廃院病院の職員全員の、もう一つの病院への無条件受け入れは、断固反対しただろう。

民間の発想ではそれはあり得ない。これではこっちの病院まで潰れてしまう。「それでは二つとも潰れてしまうことになる!」と身体を張って猛反対したはずだ。

本当にそれは自殺行為だった。

他院への就職斡旋があるべき対応

ではどうすれば良かったのか?

それはまた明確である。廃院病院で働いていた職員に対して、その者に相応しい他施設(病院や診療所、施設など)を紹介し、就職の斡旋をするしかない。

自治体で専門の紹介業者やエージェントを雇い入れ、最後の一人に至るまで、転職の世話を見るのである。

僕は旧社会保険病院でそういうことは経験してきている。

この話しをすると、自治体や病院に出向している事務の幹部職員は、「我々は公務員で身分が保障されているのでそんなことはできない」と言い張るのだが、もしそれができないと判断するなら、絶対にその施設を廃院にしてはいけなかったのである。ここが重要なポイントだ。

僕が思うに、「その施設を廃院にしてもそこで働く職員の雇用はもう一つの大きい方で必ず守るから心配はいらない」として十分な検討もせずに、その施設の廃院を決断してしまったと踏んでいる。

残りの病院では、経営的に絶対に廃院職員の受け入れはできないとして、軽々にその施設の廃院を決めてはいけなかったのだ。

しかもその施設は重大な役割を担っており、今後更に必要性が高まる一方なので、絶対に廃院にしてはいけなかった。

行政(自治体)と病院の幹部は、二重に重大な致命的決断をしてしまったのである。

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その場に事務長がいれば

その決断の場に僕が参加できなかったこと以上に残念なことはない。今もって断腸の思いである。

僕は某自治体病院を止めた後も、時々、その時のことを夢にまで見る。僕が参加できなかった会議の場で、某自治体病院の経営破綻も決まってしまったということだ。

【教訓と改善策】

民間人を登用した以上、民間的発想をもっと大切に

民間の発想と経験が重大だとして事務長職を登用した以上、病院の経営に抜本的に関わる重大な会議に参加させないことは愚の骨頂。

民間から幹部職員として登用を認めた以上、もっと民間の発想に耳を傾けるべきだった。

これだけで話しは終らなかった~更なる悲劇

この愚かな決断はこれだけで終わらなかった。この経緯だけを聞けば、受入れ病院の経営が悪化して経営破綻目前といいながらも、廃院病院の職員は今でも自治体病院で働いており、仮に経営面に目をつぶれば、それはそれで家族的でいいんじゃないか。

某自治体病院は廃院病院職員の雇用を守り、立派な役割を果たしたじゃないか。自治体病院なのだからこっちの病院まで潰れることはないし、みんなにとってベターな決断だったと。

それは全く違っている。その後、最悪の事態が起きた。

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受け入れ職員ほぼ全員が退職

廃院病院からの受入れ職員は記憶は定かではないが、看護師を中心に150人から200人近くいたはずである。

一部の医師や薬剤師などを除いて、それらの職員はほぼ全員が、あれから退職し、あるいは退職に追い込まれ、誰もいなくなった

職員を受け入れられない他の重大理由

病院の経営を考えれば某自治体病院側で必要な人材以外は一人として受け入れていかなかったのだが、そういう経営面の問題以外にも、受け入れることがまずい決定的な要因があった。

それが分かっていたのだから、本当に絶対に受入れを拒否しなかればならなかったのだ。そうしないと、その来てもらったスタッフも不幸になってしまうことがどうして分からなかったのか!

両施設は担う医療が全く別物だった

それは担っている医療が全く別物だったということに尽きる。

僕がお世話になった某自治体病院は高度の医療を担う急性期病院であり、廃院した施設は急性期も多少扱ったが、高齢者のための慢性期や療養型を中心とする施設だった。

廃院病院で働いていたスタッフが某病院にきても、戦力にならない。

これはいい悪いではない。どっちがレベルが高いとか低いという問題でもない。担っている医療の質が全く別物だったということだけだ。

廃院病院から移ってきたナースは、某病院の看護業務をこなすことができず、役割を発揮できないので、某病院サイドからみると、お荷物になってしまう。教えたからって一朝一夕に身に付く物ではない。

やがて、メンタルに不調を訴えて休職や退職に追い込まれる者が続出した。

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現場ではもっと酷い対応があった

それだけならまだやむを得なかった、これは仕方なかったんだと言って後ろめたさに蓋をすることができたかもしれない。

そんな美談では決してなく、看護局長を筆頭に看護局の幹部が、廃院病院から来たナースを敢えて全く業務内容の異なるとりわけ高い医療レベルが必要となる部署に配属させ、できないことをさせて、低く評価して追い詰めていった。

そんな風にして辞職に追い込まれたと思われるケースが何件も見受けられた。

これは極めてパワハラ的な扱いであり、職場における弱い者いじめ、ハッキリ言えば「いじめ」が組織ぐるみで行われたといっても過言ではない。そんな疑惑さえある。

但し、これについては僕は看護局も被害者だったと思っている。看護局もこんな受入れは決して望んでおらず、民間事務長職の僕と同様に、相談を受けていなかったようだ。

いわば看護局も嫌々この無謀で愚かな決断を無理強いされた被害者だったのである。

病院と全ての職員が不幸になった愚の決断

つまりこの愚かな決断によって、廃院となった施設はもちろん受け入れた某病院も経営破綻に追い込まれ、働く職員は関係者全てが不幸になった。

こんな決断は決してしてはいけなかったのである。

これを決定した当時、僕はギリギリのタイミングで重なっていた。僕の入職前からその施設の廃院はある程度決まっていたようだが、廃院施設の職員の某病院への無条件受け入れは、僕が事務長職に就いている時に、僕を排除して密室で決まったようである。

そのことに今でも悔いが残る。その決定だけは僕は自分の身分を失ってでも阻止すべきだったと、今でも悔やまれる。

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【教訓と改善策】

自治体が医療施設などを廃院にする際、絶対に避けなければならないこと

1.同じ自治体で複数の医療施設を経営して場合、ある施設を廃院とせざるをえない場合でも、そこで働く職員を他施設で受け入れてはならない。

2.自治体として腹を括って、エージェント、紹介業者などを使って、その職員の転職を斡旋しなければならない。それができないなら、施設を廃院にする決断はしてはならない。民間譲渡なり他の方策を考えるべきなのだ。

3.医療の現場を理解していない自治体の幹部や病院のトップだけでこのような重大決定をせずに、事務長職、看護局長(部長)などの意見を良く聞いて、最終判断をしなければならない

 

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