【中編】からの続き
目 次
フィッシャー・ディースカウが最高
多くの著名な歌手が多くの録音を残しているが、この曲でも何度も紹介してきたあの未曾有の大歌手にして最高の芸術家であるディートリッヒ=フィッシャー・ディースカウの歌が最高で、フィッシャー・ディースカウさえ聴けば、他の歌手の歌はなくても一向に困らないと僕は断言してしまう。
どんな作曲家のどんな歌でも、ドイツリートは、全てがフィッシャー・ディースカウで決まりとなってしまうのは、あまりも脳がなくて呆れてしまうが、実際にそのとおりなのだから仕方ない。

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F・ディースカウの「冬の旅」の録音
フィッシャー・ディースカウがこの「冬の旅」を、生涯に渡って何度も録音していることは良く知られている。
2回、3回というレベルではない。一覧表を見ていただこう。

【スタジオ録音】
① 1948.1.18 伴奏:クラウス・ビリング 西ベルリンの放送局RIAS 放送録音
② 1955.1.13~14 伴奏:ジェラルド・ムーア
③ 1962.11.16~17 伴奏:ジェラルド・ムーア
④ 1965.5 伴奏:イェルク・デムス
⑤ 1972.3.7・9 伴奏:ジェラルド・ムーア
⑥ 1979.1 伴奏:ダニエル・バレンボイム
⑦ 1983.11 伴奏:アルフレッド・ブレンデル
⑧ 1991.8 伴奏:マレイ・ペライア
※青字は僕がお薦めする3種類の最高の演奏。②の55年の最初のムーアとの録音もいいが、これは一般的には入手不可能で除外した。
【ライヴ演奏等】
① 1952.12.4 伴奏:ヘルマン・ロイター
② 1955.7.4 伴奏:ジェラルド・ムーア プラド音楽祭
③ 1967.8.18 伴奏:イェルク・デムス ザルツブルク音楽祭 ※CDなし
④ 1978.8.23 伴奏:マウリツィオ・ポリーニ ザルツブルク音楽祭
⑤ 1979.1 伴奏:アルフレッド・ブレンデル ライヴ映像(DVD)
⑥ 1989.8.20 伴奏:アルフレッド・ブレンデル ザルツブルク音楽祭 ※CDなし
※④のポリーニとのライヴ演奏のCD化に狂喜したが、あまりいい演奏とは言えなかったのが残念。フィッシャー・ディースカウの声にいつもの柔らかさと美しさがなかった。こんなこともあるんだと妙に安心したのも事実。
正式なスタジオ録音が何と8回もある。最初の48年の放送録音を除いても7回のスタジオ録音というのは、クラシックの録音としては前代未聞。

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スタジオ録音を何と7回も
こんなことを想像してもらえばいい。
ある指揮者が、お気に入りの音楽、例えばある交響曲を生涯に何回録音したかっていう話しだ。
分かりやすいのカラヤンだろう。カラヤンは録音マニアで、録音技術が向上する度に、繰り返し同じ曲を録音してきたことは良く知られている。
では、ベートーヴェンの交響曲全集を生涯に何度録音したのか?全9曲ではハンディがありそうなので、5番の「運命」、あの名曲を7回も8回も繰り返し録音したのか?っていう話しだ。あり得ない。
大指揮者がお気に入りの曲を3回から4回くらい録音した例はある。
例えば、最高のバッハ指揮者のカール・リヒターがあの大作「マタイ受難曲」を3回録音、ライヴ演奏を含めれば5種類の録音があったり、僕が大好きなミッシェル・コルボがバッハの「ロ短調ミサ曲」を4回も録音している例はある。
だが、フィッシャー・ディースカウの「冬の旅」のように同じ曲を7回、ライヴ演奏まで入れたら12回も録音したなんて前代未聞、正に空前絶後である。「冬の旅」は、しかも70分超の大作。本当に大変なことだ。

ちなみにカラヤンは、ベートーヴェンの交響曲全集を何と6回も録音しているようだ。これにも唖然とさせられてしまう。
あの超人フィッシャー・ディースカウにとって、シューベルトの「冬の旅」という作品は生涯を通じて、そこまで繰り返し取り組むに値する究極の作品だったということだろう。
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名録音が片っ端から廃盤の憂き目
ところで、そのフィッシャー・ディースカウが精魂を込めて録音をし続けた名盤が現在、片っ端から廃盤となっている。
輸入盤ではまだ生きているものが多いが、国内盤はほとんど姿を消してしまって、手に入らない。
現在、フィッシャー・ディースカウの「冬の旅」のCDはほとんど入手できない現状にある。


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あまりのことに怒りが収まらない
フィッシャー・ディースカウによる7回にも及ぶスタジオでの正式な「冬の旅」の録音の中でも中核的な存在で、最高の名盤として名高いドイツグラモフォンの録音が、現在廃盤になっている。
もうビックリ仰天を通り越して、開いた口が塞がらない程の衝撃を受けている。何たるスキャンダル!
いくらフィッシャー・ディースカウが亡くなってから13年以上も経過したとはいうものの、未だにフィッシャー・ディースカウを凌ぐ歌手は出現しておらず、今でも依然としてこれらの録音が最高のものとの評価は揺るがない。
あり得ないこと。「冬の旅」がないということは、「美しき水車小屋の娘」も、僕が熱愛している「白鳥の歌」も全て廃盤になっているということだ。こんなことがあっていいのだろうか。
それだけに留まらず、その数年後に同じドイツグラモフォンに録音したバレンボイムとの録音、更にその後のブレンデルとの録音も、国内盤は全て姿を消してしまった。

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F・ディースカウの最高の演奏はどれ?
僕は、数多いフィッシャー・ディースカウの録音の中でも、1972年に録音されたムーア盤と1979年に録音されたバレンボイム盤の2種類のドイツグラモフォンの録音が双璧だと思っている。それがいずれも国内盤では入手できない。
僕はいつもは国内盤には拘らず、輸入盤の推奨派だが、今回のような歌曲集はどうしても国内盤が必要不可欠。もちろん歌詞の意味を理解してもらうためだ。
「冬の旅」はどうしてもその詩の内容を理解して聴いてほしい。日本語訳は絶対に必要だ。
唯一の救いは、フィッシャー・ディースカウとムーアとによる旧EMIの録音は国内盤で入手できる。こちらは1963年にムーアと録音した2回目の3大歌曲集の録音だった。これももちろん素晴らしい出来栄えだが、その後のフィッシャー・ディースカウの絶頂期のドイツグラモフォンの録音が入手できないのは、本当に困ったことだ。

仕方がないので、先ずはEMI(現在はワーナーエレクトローラ)で聴いていただき、興味を持ったら、ドイツグラモフォンの録音を輸入盤で聴いてもらうのがいいだろう。
念のため、最後の購入欄では、ドイツグラモフォン盤の中古盤も購入できるようにしておく。クラシックの中古CDは、中古とは言ってもかなりきれいなものが多いので、問題はないだろう。
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初めて聴いたシューベルトの友人たちは
シューベルトが「冬の旅」を作曲した後、親しい友人たちの前で披露した時のエピソードが残っている。
シューベルトは「冬の旅」を作曲すると、友人たちに『今日集まってくれ。僕は君たちに一組の恐ろしいリートを聞かせたいんだ。君たちが何と言うか興味がある。この曲には、他のどんなリートよりも苦しめられたんだ』と、自ら歌って披露した。

友人たちは即座に理解できず、一様にその暗さと絶望の深さにたじろいだ。正に凍り付いた場の雰囲気に困った一人が、『一曲だけ「菩提樹」は気に入ったよ』と言うと、シューベルトは『僕にはこの歌曲集は、どの曲にも増して気に入っている。君たちもいずれは気に入ってくれるだろう』と語ったという。
しばらくして友人たちはこの歌曲集に夢中になったようだ。
どこまで本当の話しなのかは定かではないが、実に興味深い話しではある。
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どれだけ深い闇を見つめていたのか
友人たちを集めて、自ら歌って聞かせるなどのエピソードを聞かされると、シューベルト自身が孤独と絶望感にどこまで苦しめられていたのかはハッキリしないが、この「冬の旅」を聴くと、シューベルトの苦悩と絶望に本当に胸が苦しくなってしまう。
ミュラーの詩を読んで即座に作曲したことからも、シューベルトがこの詩にどれ程深く感銘を受け、共感したのかは明確だ。そのシューベルトの心情。
75分も続くこんな救いのない絶望的な音楽を作曲するには、ブレない共感が不可欠だ。

この後、ちょうど1年後にシューベルトは30歳の若さでこの世を去る。本人はそれを自覚していたのかどうか。
梅毒の悪化は承知していて、体調は悪化する一方だったが、まさか30歳で死んでしまうとは夢にも思っていなかったことだろう。
シューベルトが見つめていた闇の深さが空恐ろしい。
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失恋ではなく、社会からの疎外なのかも
この暗く絶望的な歌、厳冬の中を彷徨い続ける青年は、必ずしも失恋の痛みによるものだけではなかったのではないか。
失恋というのはあくまでもシチュエーションであって、真実は社会から疎外された若者の苦悩そのものだったということはないだろうか?そんな気がしてならない。
そう考えると、これだけ暗くて救いがない絶望的な歌がこれ程までに世界中で共感を呼んで、愛され続ける理由が良く理解できる。
社会から不要だと言われ、活躍の場を見いだせない全ての若者たちの心の叫びがここに生々しく描写されているように思われてならない。
それは正に21世紀の現代の日本のニートや就職すらままならない若者の心の叫び、そのものではないか。それが共感を呼ぶのではないか。

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全ての「人生の冬」を代弁する歌
「冬」というのも実際の季節の冬だけではないだろう。今、生きているこの社会状況そのものが「冬」なんだと。
「人生の冬」は失恋だけではなく、どんな状況でも起こりうるし、それは決して冬に限ったことでもない。
若者でなくてもいい。老若男女を問わず、この世にいるありとあらゆる恵まれない人たちの孤独と苦悩、絶望を代弁するかけがえのない音楽、それがシューベルトの「冬の旅」だと捉えるべきだと思うに至っている。
先ずは、この寒い冬にじっくりと腰を据えて聴いていただきたいものだ。
ここまで書いてきて、好きではないと言ってきた「冬の旅」にたまらない愛着を感じてきた。これはやっぱり凄い作品だと言うしかない。
☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入をお願いします。
本文で書いたように名盤中の名盤として知られているフィッシャー・ディースカウのドイツグラモフォン盤は、現在国内盤が廃盤となっています。
以下の録音は1962年の録音でかなり古い物ですが、フィッシャー・ディースカウの若々しい声は非常に魅力的です。安いのも魅力です。
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