自分のスピルバーグへの屈折した評価に我ながら戸惑う

スピルバーグという映画監督は、一体全体どういう人間なんだろうと常々驚嘆している。この稀代のヒットメーカーにして、不滅の名作も量産してきたスティーヴン・スピルバーグ。僕は当然そのほとんどの作品を観てきている。ホンの数本を除いてそのほとんどを観ているはずだ。

実は、決してものすごく好きな監督というわけではない。僕の好きな直ぐに名前が上がってくる20人位の映画監督の中に、多分スピルバーグの名前はない。

と言って、彼の功績を軽く見るつもりも毛頭ない。映画史を塗り替えるエポックメーキングな作品をその都度、発表してきたことは事実だし、スピルバーグがいなければ、今日の映画はもっと違った形になっている、つまり映像的にも、様々な技術的にも今よりも数段劣っている可能性が高いという、映画そのものの在り方さえ変革してしまった革命家だったとも評価している。

特に、初期の「ジョーズ」「未知との遭遇」あたりは本当に桁外れの天才の出現を実感させたし、「E.T.」や「インディ・ジョーンズ」シリーズ。そして映画史に残るシリアスドラマとしての「シンドラーのリスト」と「プライベート・ライアン」という2大名作。
僕は「ミュンヘン」にも衝撃を受け、非常に忘れ難い作品となっている。実に辛い映画ではあったが。

ザッと上げても、素晴らしい作品が次から次へと出て来るが、それでも僕にとって、ベスト20の映画監督に入ってこないことは本当に不思議な気がする。「スピルバーグが大好きだ」と言うことに憚りがあるのは、一体どうしてなのか?どうもおかしい。

僕はこう言うべきだったのかもしれない。シネ・フィルの僕はあまりにも人口に膾炙した人気映画監督のスピルバーグは、そんなに好きではないが、いくつかの作品は非常に高く評価し、繰り返し観て感銘を受け続けてきたと。確かにそういうことなのだ。

とにかくスピルバーグへの評価は、僕の中でかなり屈折しているのである。

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もうスピルバーグの映画はいい、となってからの名作続出!

一つにはこれだけの空前のヒット作と名作を量産し、映画史の中で確固たる地位と名声を得たんだから、もうそろそろ映画作りから離れてもいいんじゃないの、という感情があるのは確かだ。スピルバーグが今日までに作った映画は、監督作品に限定しても30本を優に超えているが、そのほとんど全てが世界中で大ヒットしたか、名作として高く評価されているものばかりだ。もうこれ以上はいいじゃないかと。今更何かやり残した仕事がありますか?と言ってみたくなる。

若い、若いと言われてきたスピルバーグも今年(2021年)の12月には74歳になる。もうそろそろ創造力も演出のアイデアも枯渇してくるのではないかと。

ところが、当の本人はそんなことは全く思っていないんだろう。実は、最近のスピルバーグ監督作品が、驚くほど素晴らしい傑作が多く、名作のオンパレードとなっているのである。

才能が枯渇するどころか、全体的に小粒の映画とはなっているのであるが、内容的には素晴らしいものが多く、円熟というか、この年にしてものすごい輝きを放っているのである。一体この人はどうなっているのか?

ここまで書いてきて、ふと思い当ることがあった。

こういうタイプの人が他にもいたよな?と。

スピルバーグはあの手塚治虫にそっくりだと思い至る

そうだった。僕が愛し、尊敬して止まないあの手塚治虫だ。僕が手塚治虫を崇拝し、最高の尊敬と愛情を傾注していることはご存知のことだと思う。スピルバーグに対しては、必ずしもそうではないということは上述したとおりなのだが、冷静になって客観的な事実と功績を比べてみるとこの二人は実に良く似ている。

若いときから天才の名をほしいままにして、名作・大ヒット作を量産。誰からも愛されるトップスターとして長きに渡って業界に君臨し続け、さすがにエネルギーも尽き果て、次々と後進たちが追いつけ、追い越せで迫ってくる中、持ち前の強烈なライバル心と何時の時代にも第一人者、最高の存在であり続けたいともがき、格闘する中で、またかつての輝きを取り戻すどころか、新たな新境地を開拓して、更に円熟した新しい名作群を量産し続ける!

これって、正に手塚治虫その人のことだし、このことは全てスピルバーグにそっくりそのまま当てはまってしまう。

いやあ、驚いた。自分で書いていて思わず鳥肌が立ってしまった。

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最近のスピルバーグの充実ぶりがものすごい

そうなのだ。何回目の輝きか不明だが、このところのスピルバーグの作品は、いずれも素晴らしいものばかり。かつての大ヒット作や歴史に残るような大作、名作ではなく、確かに小粒にはなっているのだが、その内容の充実と輝き、感動の深さはむしろ深まっている。そう思えてならない。

2011年の「戦火の馬」あたりから今の充実が始まったのではないだろうか。これは本当に素晴らしい作品だった。第一次世界大戦の塹壕での悲惨さを一番体感させてくれたのは、この作品だったし、小粒なのだが実に光るもの、深い感動を残す作品となっている。一昨年、ギンレイホールで観た「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」にも大いに感動させられた。派手な要素は全くなく、小粒なのだが、観る者の心の中に迫ってくる。静かで控えめながらも、心の琴線に響いてくるのはどんな大作よりも深く、熱い。そんな作品が作られ続けている。ダニエル・デイ・ルイスの「リンカーン」もあった。

その中でも、とりわけ深い感動を味わえる傑作が、「ブリッジ・オブ・スパイ」というわけだ。

ブルーレイのジャケット写真。トム・ハンクスの遠くを見つめるようなこの表情は悪くない。

ジャケット写真の裏側。この解説はうまくまとまっていると感心する。

映画の基本情報:「ブリッジ・オブ・スパイ」

アメリカ映画 141分  2016年1月8日 日本公開

監督:スティーヴン・スピルバーグ

脚本:マット・チャーマン、コーエン兄弟

主演:トム・ハンクス、マーク・ライランス(アカデミー助演男優賞受賞)、エイミー・ライアン、アラン・アルダ他

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どんなストーリーなのか

時は1950年代から60年代。終戦後、東西冷戦が高まる中で、ソ連側もアメリカ側もそれぞれ相手の陣営にスパイを送り込んで、互いに監視し合っていた時代。アメリカでソ連のスパイが逮捕される。当時、スパイは極めて重罪とされており、有罪と確定されれば電気椅子送り、つまり死刑を免れないという厳しいものだった。そんなソ連側スパイにも一応弁護士が付くのだが、その弁護士ドノヴァン役がトム・ハンクスというわけだ。

ソ連のスパイを弁護することはアメリカの全国民を敵に回すようようなもので、本人はもちろん、家族まで白い目で見られ、実際に危険が迫る中、ドノヴァンは正々堂々と弁護を展開し、次第にソ連スパイと心が通ってくる。裁判の行方も注目される中、今度はソ連側に潜り込ませたアメリカ側のスパイがソ連に逮捕されてしまう。そこでドノヴァンに内密に下ったミッションが、双方のスパイ同士の交換だった。実は、そんなことがいずれ起きるだろう、そのときのためにもスパイを死刑にするべきではないと主張していたのがドノヴァン本人だったのだ。自らの信念とソ連スパイに人間としての魅力を感じていたドノヴァンは、交渉のためにベルリンに向かう。彼はこの困難なミッションをやり遂げることができるのか。奇しくもこのタイミングでベルリンの壁が建設され、そこでアメリカ人大学生が逮捕されるという事件まで勃発し、問題解決はいよいよ混迷を深めて来る。果たして無事に解決できるのか?

これは実際に起きた実話の映画化だという。手に汗握るハラハラドキドキが一瞬たりとも途切れることはない。

素晴らしい名作だと絶賛したい

これは本当に素晴らしい作品。映画の冒頭から最後の最後まで、緊張の糸が途切れることなく、じわじわと盛り上げていく手腕は、往年のスピルバーグそのものというよりも、更にどっしりと風格を増しているような気がする。

見事なサスペンスの盛り上がりと、何と言っても感動させられるのは、登場人物の掘り下げ方、人間描写が素晴らしいことだ。

ドノヴァン弁護士役のトム・ハンクスが絶品で、素晴らしい!トム・ハンクスはあらためて言うまでもなく、大変な名優なわけだが、スピルバーグと組んだ時が最高にいい演技と類まれな存在感を出してくれるように思う。「プライベート・ライアン」が最高だったし、最新作の「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」でも、素晴らしい役作りで、感動的だった。
この「ブリッジ・オブ・スパイ」でのドノヴァン役は、本当に忘れ難い味わいを出しており、惚れ惚れさせられる。

そして、ソ連スパイ役のマーク・ライアンスが寡黙なスパイ役を静かに演じきって、感動を呼ぶ。アカデミー助演男優賞でオスカーを獲得したのも納得だ。

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ベルリンの壁の建設シーンとその後の描写に鳥肌が

映画の中では、ベルリンの壁の建設が描かれるのだが、不思議なことに初めて映画でお目にかかった。東西ベルリンと壁の建設は、中々イメージできにくかったのだが、この映画を観て、なるほどそういうことか、と得心がいった。建築時に運悪く巻き込まれ、逮捕されてしまったアメリカ人大学生の命運と、壁の完成後のベルリン市民の悲劇も、映画の中で見せられて、胸が詰まる。

当初、「東西スパイの橋の上での交換劇」というストーリーには、世界史マニアの僕でも、実はそれほど食指を動かされなかったのだが、猛省。この作品はそんな簡単な一言で片付けられる映画ではない。

冷戦という馬鹿げた対立と、その中でそれを象徴するかのように誕生したベルリンの壁。個人同士では理解し合える人間が、国家間の対立の中で、やむなく敵と味方に区分けされてしまう救い難い構図。スパイという存在の空しさ。あの冷戦構造の本質的な愚かさ。そんな中にあっても、自らの危険を顧みずに信念を貫き通す一人の弁護士の生き様に胸が熱くなる。

コーエン兄弟も加わった秀逸なシナリオがこの名作を生んだ

現代アメリカを代表する脚本家にして映画監督のコーエン兄弟がシナリオに加わっていると知って、ビックリしてしまった。コーエン兄弟の映画には一本の駄作もなく、全てが稀有な傑作ばかりである。このコーエン兄弟のシナリオ参加で、この映画が実に奥の深い感動的な作品に仕上がったことは間違いない。このことがこの映画の価値を更に高めた。

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これを観逃してはならない!

本当に素晴らしいものを観させてもらった。最後には涙が込み上げて止まらなくなるシーンも用意されており、全ての映画ファンと歴史ファンは必見だ。

スピルバーグの老練の手腕と名脚本家の集結、トム・ハンクスを筆頭とする素晴らしい俳優陣。アメリカ映画界の全ての才能がここに結集して超一級の名作が作り上げられた。本当にこれはいい映画だった。一人でも多くの方に観ていただき、人間の愚かな所業とその中でも信念を貫き通すことの高貴さを体験してほしい。しっかりと味わってほしい。

ブルーレイの画質の素晴らしさは特筆に値する。メイキング映像も実に観応えのあるものばかり。今はブルーレイも信じられないくらい安くなった。レンタルもいいが、こんな名作は1枚購入して是非とも手元に置いておきたいものだ。

 

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