しばらくぶりの投稿となります。

第7回目

ギンレイホールで観た全ての映画を語り、紹介するこのシリーズもいつのまにか第7回目となりました。これまでに紹介した映画の数は39本。上映期間は去年の年明けあたりですから、ちょうど一年半前。まだまだ先は長いし、実にたくさんの映画が待ち構えています。

それでは、今回はギンレイホールのエピソード、トリヴィアも除いて、いきなり本題に入って行きましょう。

ちなみに予告をさせていただきます。具体的な映画を紹介する各論編とは別に、例のエピソード=トリヴィアを番外編として独立してまた取り上げたいと思います。

次回は、何と言ってもあの「ギンレイ通信」についてです。ギンレイホールに通う映画ファンにとっての宝物、あのオシャレなスケジュール表です。

どうぞお楽しみに。近日、公開!

それでは、個別映画の紹介のはじまり、はじまり。
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23.2018.1.13〜1.26

 エル ELLE  フランス映画

監督:ポール・ヴァーホーヴェン

主演:イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット他

これは中々衝撃的な映画であった。監督はポール・ヴァーホーヴェンなので、当然と言えば当然なのだが。

監督のヴァーホーヴェンのことは映画ファンなら誰でもある程度はご存知だろう。元々オランダ出身の鬼才だったヴァーホーヴェンは、ハリウッドに進出してあの度肝を抜かされた「ロボコップ」で一躍注目された。それ以降も「トータル・リコール」や「スターシップ・トゥルーパーズ」などのバイオレンスに満ち溢れたSFもので大ヒットを連発する。そしてシャロン・ストーンを一躍トップ女優に押し上げた「氷の微笑」まで話題作に事欠かない。

僕は何と言ってもあのダークで妥協を知らない壮絶な暴力描写が凄まじかった「ロボコップ」の衝撃からまだ目覚めていないと言ってもいいほど、あの「ロボコップ」にぶちのめされてしまった人間だ。ヴァーホーヴェンと聞いただけで、血が騒ぐ。

このところ、しばらくなりを潜めていたかと思ったら、数年前にナチスと闘う女兵士を描いた「ブラックブック」で相変わらずのエネルギッシュなところを示したかと思っていた矢先、この「ELLE」である。ELLEはフランス語の「彼女」の強調形。彼女‼️みたいなイメージだ。

その強烈なキャラクターのヒロインをあのイザベル・ユペールが演じる。以前、ここで紹介した「未来よ、こんにちは」の彼女である。このヒロインの造形がすごい。実に強烈なキャラクターである。ゲーム会社の社長である彼女はある日、覆面を被った男に自宅で襲われる。犯人は身近な人物だと思われ、周囲の反対を押し切って、警察に届出もせずに、自力で犯人探しを進めるのだが。やがて、犯人以上に恐ろしい彼女のキャラクターが浮き彫りになってくる。

齢80歳になるヴァーホーヴェンの演出力が一向に衰えないことに感嘆する。この異様な世界とヒロインをそのままためらわずに直球勝負し、観るものを夢中にさせてしまう豪腕ぶりに圧倒される。

この映画ではこれ以上、ストーリーや解説をすることはヤボとなる。まあ、とにかく観てほしい。好き嫌いはハッキリと分かれるだろうが、こんな刺激的な映画も時にはいい。

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 セールスマン  イラン・フランス合作映画

監督:アスガー・ファルハディ

主演:ジャハブ・ホセイニ、タラネ・アリドゥスティ他

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こちらも「エル ELLE」と同様に、ヒロインが突然、住居侵入され暴行を受けるというシチュエーションを扱いながら、全く趣きの異なる作品となっている。

監督は知る人ぞ知るイランの名匠アスガー・ファルハディ。皆さんはイランという国が、映画作りが非常に盛んな国で、素晴らしい映画監督が大勢いることをご存知だろうか?

一番良く知られている監督はアッバス・キアロスタミ。この人は「友だちの家はどこ?」「それでも人生は続く」など、日本でも早くから非常に有名な監督だった。カンヌ国際映画祭で「胡桃の味」がパルムドールに輝いた。惜しくも3年前に亡くなってしまったが。

随分と話題になった「赤い運動靴と金魚」のマジッド・マジティもイランの監督だ。イランは誠に映画大国なのである。そんな中でも現在、一番注目されている監督がアスガー・ファルハディであることは誰にも異存はないだろう。

ファルハディは、「別離」で一躍有名になった監督。この別離はベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞と主演女優、主演男優と二つの銀熊賞と主要部門を独占し、更にアカデミー賞でも外国語作品賞に輝いた名作。

今回の「セールスマン」は引き続き、アカデミー外国語映画賞を受賞し、カンヌ国際映画祭でも脚本賞と男優賞に輝いた問題作だ。そのアカデミー賞、トランプ大統領のイランを含む特定7ヵ国の入国制限命令に抗議し、監督のファルハディと主演女優のタラネ・アリドゥスティが授賞式へのボイコットを表明し、かなり話題になったことが記憶に新しい。

さて、その映画だが、少し構成が錯綜しているので、注意が必要だ。

近代化が急速に進むイランで住宅開発が激しくなる中、国語教師の夫と妻のアパートが倒壊の危機にさらされ一斉避難する羽目に。夫婦は劇団でも活躍しており、上演が間近く住まいがないことは大変な事態。幸い劇団仲間が紹介してくれた物件に移ることになるだが、その新居で奥さんが得体の知れない男に襲われてしまう。

妻は事件のことを忘れようとするのだが、夫は犯人を必死に探しだそうとし、その真相を解明しようとする過程で、妻との考え方の相違が次々と浮かび上がってくる。やがて犯人にたどり着くように見えたが。

劇団で上演されている演目はアメリカ社会の歪みを描き出したアーサー・ミラーの「セールスマンの死」である。このアメリカの現代劇のストーリーと現実の中でのイランでの犯人探しが錯綜し、やがて浮かび上がって来るイラン社会のひずみと歪みが、期せずしてオーバーラップしてくるあたり、唸らせられる。

イランとアメリカは正しく犬猿の仲で、この原稿を書いている今も激しく対立し合い、正に一触即発状態にあるわけだが、近代化が進むイランの社会は、実はだんだんとアメリカに似てきているようで、社会の歪みには相通ずるものがあるという構造。その辺りがこの映画の眼目になってくる。そもそもイランで、アメリカの演劇を上映すると言うシチュエーションがそれを物語る。このすれ違い夫婦は果たして幸せになれるのだろうか?

それにしても、イラン人は美しい。元々は大繁栄を誇ったペルシャ帝国の末裔たち。妻も夫も、哀しみと苦悩を湛えた陰影に満ちた表情が素晴らしく、胸を締め付けられる。

24.2018.1.27〜2.9

オランダ出身のハリウッドの鬼才ヴァーホーヴェンとイランの名匠ファルハディによる、女性が得体の知れない男に襲われるというセンセーショナルな問題作2本の後は、ガラッと雰囲気を変えて、一見、いかにも小粒な軽い映画となった。だが、それぞれ心の琴線に触れるものがあり、こんな2本もまたいいものだ。

 ボブという名の猫 幸せのハイタッチ イギリス映画

監督:ロジャー・スポティスウッド

主演:ルーク・トレッダウェイ、ジョアンヌ・フロガット他

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実話のようだが、俄かに信じられないような驚きの話し。スランプに陥っていたミュージシャンが捨て猫を拾ったところ、その捨て猫が離れようとせず、仕方なしに猫を肩において演奏したところ、それが話題を呼んで大成功を収めるというたわいのない話し。そうは言いながらも、実は主人公のミュージシャンは、ホームレスのような状態で、その上、重度のコカイン中毒に蝕まれているのだ。そこからどう抜け出すのかというギリギリの苦しみの中で、野良猫と出会う。

歪んだ現代のお伽話と言っていいのかもしれない。そんなに軽い映画ではないことには注意を喚起しておく。

映画の中に出てくる猫が、実際の本物のボブだというのが驚きだ。確かにかわいい。そんな「上げ猫」にあやかりたいものだが、そうそう世の中は甘くないのではと思ってしまう。

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 ブランカとギター弾き  イタリア映画

監督:長谷井宏紀

主演:サイデル・ガブテロ、ピーター・ミラリ他

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イタリア映画なのだが、監督は日本人の長谷井宏紀。77分と非常に短い、小粒な映画ではあるが、中々好感が持てる作品だ。

舞台はフィリピンのマニラ。いわゆるストリート・チルドレンのブランカは窃盗や物乞いをしながらの路上暮らし。仲間のストリート・チルドレンからもいじめられる辛い日々だか、たまたま金持ちが孤児を養子に迎え入れたというニュースを見て、逆に母親を買おうと思いつく。自分が養子として立派な親に迎え入れてもらうという発想ではなく、自分の方で母親を買おうという発想が中々ユニークだ。

そんな生活の中で、お金なんて無いに等しいが、仲間の目を盗んでコツコツと大切に貯めている。そんなブランカが路上で歌う年老いた盲目のギター弾きと知り合って、一緒に母親を探す旅に出るのだが。

彼女は美しい声の持ち主で、ギター弾きと一緒に歌う歌は人気を集めてそれなりの報酬も得られるようになるが、彼女には危険が迫りつつあった。この哀れな女の子を重い障害の年寄りギター弾きは救うことができるのか?

社会の底辺で生きる子供たちと障害者を見る目が優しくて心が温まるが、そんな呑気なことを言っていられない社会の歪みがここにはある。本当に何とかしなければならないのだ。拡大する一方の貧富の差。格差の拡大

これはフィリピンの話しだが、似たような状況は世界中のあちこちに溢れかえっている。世界はもっと真剣にこの現実と向き合う必要があると、静かに訴えかけるようだ。

ブログを読んでくれている息子から、ズバリ長過ぎる!との指摘を受けた。半分の長さにしなきゃと。

確かにそうだ。返す言葉がない。ということで、今回は4本で終わり。何とか一本あたりの紹介を短くしたいのだが、一本の映画を真剣に紹介しようとすると、どうしてもあれにも触れたい、これにも触れたいとなってしまう。そこで紹介映画の数を減らすという奥の手に。

今後、対策を検討します。今回はこれにて。

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