目 次
新訳で「ガリア戦記」を遂に読み終えた
カエサルの「ガリア戦記」を遂に読み終えた。あのシーザーことユリウス・カエサルが書いたあまりにも有名な古典的名著のことは、長い間ずっと気になっていたが、中々読むことができなかった。
死ぬまでに絶対に読まなければならない本の1冊にピックアップされていた名著を無事に読み切ることができたのは、偏に何から何までほぼ完璧に読めるように条件整備してくれた新訳の文庫本のおかげだった。
この新訳の文庫本は、本当に素晴らしい。


訳が非常に読み易いものに一新されたことはもちろん、この古典的名著を現代人にも読みやすいものにするための努力が隅から隅まで行き届いていて、それはほとんど感動的な作りに至っている。
ここまで読む人に寄り添ったサービス満点の本はそうはない。
読者へのサービス精神満載の文庫分
この文庫本には本当に喝采を叫びたくなる程の、読者に寄り添った最大限の配慮が隅々まで行き届いていて、感服させられる。
カエサルの「ガリア戦記」は2,000年以上前の当時も今も絶賛され続けている名著中の名著である。稀代の英雄カエサル自身が直接書いた戦場での現場レポートであり、2,000年以上に渡って不断に読み継がれてきた。
但し、描かれているのは2,000年以上前の古代ローマ。ローマ帝国にすらなっていない紀元前の話しである。あまりにも現代とかけ離れている時代が舞台、その上「ガリア戦記」はかなり長い分厚い書物である。
古今東西で2,000年以上に渡って読み続けられている名著だけに、日本語訳も岩波文庫を筆頭にいくつもあった。
だが、それらは文字が小さい上に、一昔前の文語調で書かれているものが多く、読みにくいことこの上なかったのである。
そんな不満を見事に吹っ飛ばしてしまう正に待望の新訳が出現した。これは本当に読み易い画期的な新訳。ハードカバーで出ていたものが、この度、待望の文庫本となった。

フォントの大きさは感動的だし、文章が実に見事で分かり易い。
カエサルの書いた文章そのものが簡潔にして非常に読み易いものだという評価は完全に定着しているが、僕が今言っていることは、カエサル自身の文章のことでなく、この日本語の読み易さだ。


翻訳者中倉さんの日本語訳が、非常に読み易い。曖昧な部分は全くなく、流れるような非常に分かり易い日本語で、嬉しくなってしまう。
そして冒頭に用意された100ページを優に超える解説が、これまた考えられない程、親切にして分かり易いものであり、この解説書を読むだけでも本書を購入する価値があると言ってしまいたくなる程だ。
あの出口治明さんの推薦文
本書は僕が私淑しているあの出口治明さんが帯に推薦文を寄せている。
立命館アジア太平洋大学名誉教授 学長特命補佐 出口治明氏 推薦!
「名訳で、カエサルの時代が目の前に蘇る!」
これを見ただけで読みたくなってしまうのは当然だろう。
新訳のどこが素晴らしいのか
繰り返しになるが、今回の新訳及び文庫本の素晴らしさを列挙する。
1.読み易く分かり易い素晴らしい日本語による訳であること
2.フォントの大きさが最適で、ストレスを感じさせないこと
3.100ページ超の詳細な解説が、カエサルとカエサル自身が書いた「ガリア戦記」の価値を分かりやすく伝えていること。
4.冒頭の解説だけではなく、巻末には、4ページに渡る「カエサルの言葉」の紹介が簡潔な解説と共に紹介されていること


5.5ページに渡る「ローマ史」年表もありがたいこと
6.最後の索引が非常に充実していて、これにはリスペクト。索引がない本が増えている中で、この8ページに及ぶ詳細な索引が本書の価値を否が応でも引き上げていること。
[新訳]カエサル「ガリア戦記」の基本情報
PHP文庫(株式会社PHP研究所発行)。2024年12月16日第1版第1刷。この文庫版はちょうど1年前に出版されたことになる。
本書は、2013年5月にPHP研究所より刊行された『[新訳]ガリア戦記〈普及版〉(上・下)』を改題し、加筆修正されたものである。
文庫化に際し、新たに「カエサルの言葉」を巻末に掲載している。
と巻末に書かれている。
訳したのは翻訳家の中倉玄喜(げんき)。この中倉玄喜の訳が素晴らしい。
かなり分厚い文庫本だ。全体で596ページ。約600ページもある。この厚みに圧倒されてしまうが、中を広げると、非常に読みやすい大きなフォントが目に飛び込んでくる。これなら読めそうだと、直ぐに安心感を与えてくれる。
全体的に非常に丁寧な本作りがなされていて、痒いところに手が届くような万全の作りとなっている。
先ずは「文庫版はしがき」、続いて「はしがき」、目次に続いてガリア全図の地図があって、次に例の100ページ超の詳細な解説がある。
カエサルの「ガリア戦記」本文は第8巻まであって、この本文部分だけで429ページもある。
本文の後に「あとがき」「文庫本あとがき」があって、その後に、前述の「カエサルの言葉」「ローマ史年表」、「索引」と続いて596ページが閉じられる。
訳者の中倉玄喜さんのこと
これは例によって、本書の最終ページの「訳者略歴」から転載させてもらう。
1948年、長崎県平戸市生まれ。高知大学理学部化学科卒。
翻訳家。本書のほか、エドワード・ギボン著『〈新訳〉ローマ帝国衰亡史』、ルイジ・コルナド著『無病法』(共にPHP研究所)などの訳書がある。
ユリウス・カエサルのこと
今回は、あくまでもカエサルが著した「ガリア戦記」の紹介で、カエサル自身のことを詳しく紹介したり、書いたりすることは考えていない。
そうは言っても、カエサルの業績と人となりはざっと押えておきたい。僕の言葉で、できるだけ簡潔に紹介しておく。
ユリウス・カエサルは世界史上の最大の英雄の一人で、多分、古今東西のありとあらゆる歴史を通じて最高の英雄と称えられ、その後に絶大の影響を与えた。歴史上最高の業績と栄誉を獲得した人物だ。
古代ローマの共和制末期に産まれ、後に数百年間継続する帝政ローマの基礎を築き上げた人物だ。共和制末期にマリウスとスッラという両巨頭が平民派と閥族派として熾烈な権力争いを繰り広げる中、マリウスの流れを継ぐ平民派の代表として、徐々に頭角を現し、ガリアを征服するなどの軍事的成功を背景に貴族中心の古い共和制を維持しようと元老院と対立し、かつての仲間でもあった一方の雄ポンペイウスと争い(「内乱の時代」)、勝利して権力を手中に収める。
ところが、それも束の間、独裁を怖れた共和派の若手議員たちに議場で暗殺されてしまう。
紀元前100年~紀元前44年。享年66歳。

ローマは再び混乱に陥るが、甥のオクタヴィアヌスが最終的に勝利し、初代皇帝アウグストゥスとしてカエサルが構想した帝政を樹立し、パクス・ロマーナ(「ローマの平和」)をもたらし、以後カエサルは崇拝され続け、現代にまで及んでいる。

ちなみにカエサルという名前は、ドイツのカイザー、ロシアのツァ―リなど20世紀でも使われた皇帝を表す言葉の語源となっている。
共感を覚える残酷さのない凄い英雄
僕もカエサルのことは大好きで、これだけの人物は古今東西、ほとんどいないと思っている。正に稀有の人物だ。
平民派の代表として、権力を得た後は、貧民共済など善政に尽力した。特にカエサルに魅力を感じる点は、とにかく度量の大きさ、人間としての器の大きさだ。寛容な人物で、残酷性とはほとんど無縁の英雄だった。
「賽は投げられた」として元老院に挑み、かつての仲間でありながらも宿敵ポンペイウスを倒した後は、「ノーサイド」とばかりにポンペイウス派の将軍、兵士たちを全て許し、受け入れた。
これがカエサルならでは人道的な英雄の真骨頂で、「クレメンティア(Clementia)」と呼ばれるものだ。ラテン語で「寛容」「慈悲」の意味で、カエサルは反対派をもクレメンティアの精神で受け入れた。
それでいて、権力掌握後も、ローマ市内を全く護衛等も付けずに着流しで歩き回っていたという。まるで西郷隆盛を2,000年も前に実行していた大人物である。

日本の織田信長が天下統一を果たすのに、反対勢力を女子供を含めて根絶やしにする容赦ない大殺戮を繰り広げたことや、豊臣秀吉が親族に対して行った情け容赦ない徹底的な殺戮、朝鮮半島での残酷な殺戮などの残虐行為と、ほとんど無縁で古代ローマを統一したことが、大変な魅力だった。
残酷な手段を取らずにかなり平和裏に大ローマ帝国を統一し、最高権力を獲得した歴史上、滅多にいない英雄の中の英雄。
あの塩野七生が熱烈なカエサルの信奉者であることは広く知られている。塩野七生の畢生の大作「ローマ人の物語」全15巻(ハードカバー)の中で、カエサルだけで分厚い上下2巻を費やし、「男の中の男」と呼んで憚らない。ちなみに現在は新潮文庫となっており、カエサルだけで6冊を要している。
確かに魅力満点の人物で、僕もこの人のことを悪く言う気には全くなれず、大した人物がいたものだと、尊敬の念を抱いている。
カエサル「ガリア戦記」のこと
「ガリア戦記」はカエサルが執政官、更に3属州の総督として、紀元前58年から51年までの8年間に渡って、当地で征戦した際のカエサル自身による陣中での戦争レポートだ。
概略を紹介するに当たって、中倉さんの「はしがき」から一部を引用させてもらう。
当初、カエサルがガリアへ赴いたのは、遠征のためではなかった。以前から以前から既にローマの植民地であった、とりわけ「ガリア・トランサルビナ」に総督として赴任するためだった。
ところが、到着するや、周辺部族の不穏な動きや彼らの間の争いを知り、またそのことで弱小部族からの嘆願などもあって、事態の平定が総督カエサルにとって主たる任務となり、それをきっかけに彼らの征服事業がガリア全土へと及ぶことになった。
ローマ人によるガリアの征服は、以後その地域に顕著な開花と発展とをもたらした。ラテン語は当地においても行政のための言葉となった。また、ローマから書物や習うべき風習が入ったことによって、属州民の文化的レベルは著しく上がった。そしてなにより、それまで盤族同士の争いが絶えなかったガリアに平和が生まれた。このことは特筆に値する。
「ガリア戦記」の価値
何と言っても「ガリア戦記」の最大の価値は、この戦記を書いた著者があの稀代の英雄であるユリウス・カエサル自身だったということに尽きるだろう。
古今東西の数千年に渡る人類の歴史において、時の権力者、統治者、英雄が直々書いた書物というものは存在しない。「ガリア戦記」はカエサル自身が直々に書いた本だ。こんな本は歴史上、唯一無二のもので、他にはない。
そして、それだけでも多大な価値があるのに、そのカエサルが書いたものは、歴史的資料としても第一級のもので、しかも文章力が半端じゃなかったことが、「ガリア戦記」を不滅なものとした。
「ガリア戦記」は文学的な古典としても、非常に高く評価されているのである。
カエサルが書いた文章そのものが非常に魅力的なものだった。これが「ガリア戦記」が2,000年を超えて読み継がれている最大の理由である。
【後編】に続く
☟ 興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入をお願いします。
1,540円(税込)。送料無料。
![]()
[新訳]ガリア戦記 (PHP文庫) [ ユリウス・カエサル ]