半藤一利が亡くなってしまった

あの半藤一利さんが突然、亡くなってしまわれた。先月12日のことだ。2021年(令和3年)1月12日のこと。享年何と90歳。お亡くなりになって、まだ2カ月も経っていない。僕にとって半藤一利は最も重要な大切な作家の一人であったので、大変な衝撃と喪失感に見舞われたのだが、僕はその当時、自身のこれからのことで重大な局面を迎えていたため、すぐにでも何かコメントをブログに書きたい、何かメッセージを寄せなければ気が済まないと思いながらも、2カ月近くが経過してしまった。

そんな中で、願ってもみない素晴らしい書籍(雑誌)が発売されたので、これを契機にこの雑誌を紹介させていただき、半藤一利の偉大な功績を少し振り返ってみたい。

僕が夢中になって読み込んでいる作家は、一部の小説家を除いて(「絶対に感動できる6人の小説家」https://www.atsutake.com/2020-02-08-004347/)ノンフィクションや評論家が多いのだが、立花隆や米原万里を筆頭に何人かいるのだが(ブログ記事をお読みください「小説なんか止めて、ノンフィクションを読め!これがお奨め‼️https://www.atsutake.com/2020-02-12-134522/‎)、その中の一人が半藤一利だった。90歳を迎えるという大変な高齢であるにも拘わらず、「歴史探偵(半藤自身の自称)」として特に、昭和史を探り続け、あの悲惨な戦争がどうして起きてしまったのか、二度と戦争を起こさないためにはどうしたらいいのか、という究極の課題を幕末にまで遡って、膨大な書物の中で繰り返し、問い続けてきた。正に実際の戦争を知っている貴重な生き証人をまた一人失ってしまった。まだまだ大変な矍鑠(かくしゃく)ぶりで、お元気そうに見えていただけに残念でならない。合掌。

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著書は膨大な量があるが

半藤一利の著書は膨大なものがある。どれを読んでも非常に中身の濃い、読み応えのあるものばかり。僕も立花隆や米原万里の作品のようにその全てを徹底的に読むというところまでとてもいっていないのだが、相当読んできたつもりだ。膨大な作品の中でも特に名著として名高い必読の書としては、以下のものがあげられそうだ。ちなみに全てを読んでいるわけではない僕がチョイスするのも憚られるが、世評も含めて掲げてみると、およそ以下のとおりだろうか。必ずしもベストテンというわけではないが、10冊ほど列挙させてもらう。

〇日本のいちばん長い日
〇原爆が落とされた日
〇ノモンハンの夏
〇遠い島ガダルカナル
〇昭和史1926→1945
〇昭和史1945→1989 戦後篇
〇B面昭和史
〇世界史の中の昭和史
〇幕末史
〇それからの海舟
〇漱石先生ぞな、もし などなど。

これらの特に著名な作品については、今後、個別に紹介していきたいと思っている。
まだ一度も半藤一利の作品を実際に読んだことがないという方に、一番最初にお勧めしたいのは、やっぱりベストセラーになった非常に有名な「昭和史」ということになろうか。前篇・後篇合わせると軽く1,200ページにも及ぶという分厚い大著だが、良く知られているようにこの作品は、前編が語り言葉で書かれていて、目の前で半藤一利が話しをしてくれるような体裁なので、驚くほどどんどんページが進み、直ぐに読める。これが非常に好評を得たこともあって、その後、半藤の作品はこの語り口調が中心となる。「幕末史」も「世界史の中の昭和史」も、この語り言葉だ。この誰でも簡単に読むことができる親しみやすさということが極めて重要だったのだ。

ちなみに、僕は現在「戦う石橋甚山」と「墨子よみがえる」の2冊を同時並行で読み進めている。これも素晴らしい本で、いずれ紹介させてもらう予定である。

「文春ムック」の「半藤一利の昭和史」という素晴らしい追悼特集が出た

先ずは「昭和史」前後2巻を読んでいただきたいところだが、いくら話し言葉で読みやすいとは言っても前後2巻1,200ページはそう易々と読めるのもではない。つい先日、追悼特集として、「文春ムック」として「半藤一利の昭和史」という願ってもない本(雑誌)が出版されたので、これを紹介させていただく。

まだ半藤一利の本を実際に読んだことがない、あるいは既に「昭和史」を始め半藤一利の本を何冊か読んだことがある人にとっても、この「半藤一利の昭和史」は貴重な1冊となるはずだ。

この文春ムック「半藤一利の昭和史」は、実は、もう10年以上も前の「くりま」2009年の9月号「半藤一利が見た昭和」の再発行というのが真相だ。何だ、そうだったのか。著者が亡くなったことをいいことに、昔の本をそのまま出し直したのか!?と言うなかれ。

これが表紙。半藤さんの笑顔が素晴らしい。この表紙を読むとおよその内容が理解できるだろう。

実質的に再発行でも、内容が素晴らしいので大歓迎

この新しい文春ムックの約7割強は、かつての2009年のくりまと全く同じ内容だ。だが、その内容というのが実に素晴らしい貴重なもので、もう入手できない今となっては、半藤一利ファンにとっては垂涎の的であったばかりか、一人でも多くの方に、このかけがえない半藤一利という傑出した人物の全体像を知ってもらうのに、これ以上の特集雑誌はないということが、先ずはある。

これが裏扉。2009年に発行された「くりま」の写真も掲載。編集後記の中に今回のムックのことがありのまま書かれている。

新たに加わった記事が、実に素晴らしいものばかり

もちろん、今回の再発行に際して、新たな記事を追加で載せていることはもちろんだ。この新しい記事がこれまた素晴らしいのである。特に亡くなった追討を込めて半藤一利とも縁の深かった著名言論人による「半藤さんから受けとったもの」と題された特別寄稿が、読み応え十分だ。何という錚々たる顔ぶれ。9名が寄稿しているのだが、その顔ぶれが凄すぎる。保阪正康、池上彰、佐藤優、加藤陽子、宮部みゆき、磯田道史などなど。この顔ぶれを見ただけで、どうしても読みたくなってしまう。よくぞ第一線級の著名人ばかりを集めてくれたと思わず感涙もの。

そして実際に読んでみると、本当にどの方が書かれたものを読んでも、実に読み応え十分の素晴らしい追悼文となっている。これを読むだけでも購入する価値がある。特に磯田道史と、生涯に渡って50回以上の対談を行い、共著が17冊もあるという保阪正康の追悼文に感動させられた。他の方のものも実に含蓄に富むものばかりだ。

それ以外にも、東大の立花隆ゼミの学生たちと語り合った「東大生が半藤さんに聞いた昭和の歴史」と、「半藤さんの90冊」という記事が、非常に貴重なものでありがたかった。となみに享年の90歳にちなんで90冊の紹介となっている。

半藤一利のことを少しだけ掘り下げてみたい。

目次の1ページ目。巻頭に掲載された「なぜ明治は勝利し昭和は敗れたのか」が読み応え十分だ。
目次の2ページ目。このタイトルを読めば、どうしても読みたくなってしまうだろう。正に半藤一利のエッセンスが味わえる。

どうして語り言葉で歴史を書くようになったのか

これは実は極めて明確な理由があって、どうしても何もない。話しは単純だ。いずれも実際に聴き手を前にして、半藤一利が実際に語った語りを収録したものなのである。それはそのとおりなのだが、そもそもどうして、そんな語りを始めたのかという点と、実際に本を出版する段階になっても、その語りの収録そのもので納得したのかという点は考えてみる必要はありそうだ。

半藤一利はとにかく、一人でも多くの人に昭和史を知ってもらいたかった。その一言に尽きたことは間違いないだろう。戦争を知らない世代がどんどん増えて、あの戦争のことが忘れ去られ、そんな世代がまた再び、戦争を引き起こすことを何よりも恐れた。そのためには戦争を知らない若い世代に、どうしてもあの戦争の実態と、そもそもどうしてあの戦争に国を挙げて突入していってしまったのか、それを一人でも多くの日本人に知ってほしかった。その一念だったと思う。

とにかくいくら大切な話しだからといって、難しいことで難しく書かれている本なら、戦争を全く知らない世代が読んでくれるはずがない。とにかくこの話し言葉で、語り部として優しく、分かりやすく歴史を語ることで、多くの日本人がこの「昭和史」を手に取り、大ベストセラーとなったのである。半藤の思惑と狙いは見事に的を得たというべきだろう。

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90歳の半藤さんの活躍ぶりに、奮い立たされる

90歳まで書き続けた。僕も現在60代半ばに差し掛かろうとする年となった。半藤さんの享年年齢まではまだ25年以上もある。とてもそこまで元気でいられるとは夢にも思わないが、享年年齢が高いというだけではなく、その90歳直前まで本を書き続け、第一線に立ち続けていたということに感嘆する他はない。

とても真似ができないまでも、ともすれば自らの年齢が気になってきた今、まだまだ老け込む年じゃない、半藤さんから見れば、まだまだ若造だ。優しい𠮟咤激励を背中に受け続けながら、もっともっと頑張らなくては、まだまだやれると奮い立たされている。

一家に一冊。家宝ともいうべき貴重な雑誌

そんな半藤一利の全体像を把握できるこの本(雑誌)は極めて貴重なものだ。一家に一冊。家宝にもなりうる貴重な雑誌を是非とも手に取っていただきたい。

そして更に、実際に半藤一利の作品を一冊でも多く読んでいただきたいと切に願わずにいられない。

 

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こんな雑誌なのに、電子書籍があることにビックリ。

 


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