イニャリトゥ渾身の名作「レヴェナント:蘇えりし者」

2021年のGWに観た映画の紹介から離れ、今回はイニャリトゥの「レヴェナント:蘇えりし者」を取り上げる。

とにかく感動必至、圧巻の名作なのである。

イニャリトゥと「レヴェナント」のことは前にかなり詳しく触れたことがある。

あの「トゥモロー・ワールド」を紹介したときだ。(https://www.atsutake.com/cuaron-children-of-men/)

メキシコの3人の天才・鬼才監督

今、メキシコ映画がすごいことになっていて、3人の同世代の天才・鬼才監督が凌ぎを削っていると。

今回のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと、「トゥモロー・ワールド」のアルフォンソ・キュアロン。そしてギレルモ・デル・トロの3人だ。

3人揃って50代後半の若さであり、驚くべきことに、あのアカデミー監督賞が6年間で1年だけを除いて5年間、このメキシコ出身の3人の監督たちが独占していることも紹介させてもらった。

本当にどうしてこういう驚愕すべき事態が起きるのか想像を絶するものがあるが、こんな奇跡的なことが現に起きているのである。

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イニャリトゥは早くから名作を連発

2016年のアカデミー監督賞と主演男優賞を獲得した「レヴェナント:蘇えりし者」を作った監督は、メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。

この3人は、年恰好も一緒で、いずれも甲乙つけ難い稀有の才能の持ち主であり、作り上げた作品も、それぞれに素晴らしいものばかり。本当に良き好敵手なのだが、この3人の中でも、一番早くから世界の注目を集めていたのは、今回のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥであることは間違いない。

今回紹介する「レヴェナント:蘇えりし者」は6本目の長編映画であり、その前にもいくつもの傑作、名作を世に送っているのだ。何と言っても「レヴェナント」の前年(2015年)には「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で2年連続となるアカデミー監督賞に加えて、最高名誉の作品賞まで獲得している。

オッと、この言い方は時系列的に言っても、逆である。

「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でアカデミー作品賞と監督賞を獲得したイニャリトゥが、何と翌年にも「レヴェナント:蘇えりし者」で2年連続してアカデミー監督賞を受賞して、世界を震撼させたと。

そうなのだ。そこまでは「トゥモロー・ワールド」のブログ記事で書いたのだが、イニャリトゥは実はもっと早くから有名な存在だったのだ。

先ずは「21g」。これで一躍注目されたが、その前の長編映画第1作の「アモーレス・ペロス」も傑作として有名で、熱心なファンが多い作品だ。

次に放ったのがあの「バベル」である。このタイトルは聞いたことがある人が多いのではないか。

映画ファンなら誰でも良く知っている話題作だ。

イニャリトゥ自身がこの「バベル」でカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。それだけではなく、何と言っても、その話題作のヒロインが日本人で、世界各国の映画祭でいくつもの主演女優賞を獲得したことで日本中に知れ渡ったからだ。

あの菊池凛子である。あの衝撃と言ったらなかった。演技力も凄かったが、いきなりの全裸を惜しげもなく晒し、悩める聾唖者を演じ切って絶賛を浴びた。まだまだ記憶に新しいところではないか。

あの菊池凛子の「バベル」を作ったのがアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥだったのである。

というわけで、メキシコが生んだ3人の天才監督の中でも、筆頭格のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。

その最高傑作が「レヴェナント:蘇えりし者」なのである。

ブルーレイのジャケット写真。このディカプリオの表情は中々いい。この目が雄弁だ。
ジャケット写真の裏面。ここで案内されている特典のメイキング映像は実に貴重なものだ。このメイキング映像を観れば、この映画の真のテーマがハッキリと分かるだろう。

映画の基本情報:「レヴェナント:蘇えりし者」

アメリカ映画 156分(2時間36分)  

2016年4月22日 日本公開

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

脚本:マーク・スミス、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

出演:レオナルド・ディカプリオ(アカデミー主演男優賞)、トム・ハーディ、 ウィル・ポールター、フォレスト・グッドラック他

音楽:坂本龍一、アルヴァ・ノト

アカデミー賞では監督賞、主演男優賞、撮影賞の3部門に輝いたのだが、ノミネートは作品賞を筆頭に何と12部門だったというのだから凄い。この年の話題を独占した映画だったと言っていい。

その割には、実際にはあまり観られていないのではないかと思われるのだが、僕の認識誤りだろうか。

何と言っても究極のサバイバルアクションだし、この映画には女性がほとんど出て来ないのだ。それでいて2時間半以上のかなりの長編でもある。

まだご覧になっていないという方は、是非とも観ていただきたいと思う。さすがにアカデミー賞で12部門にノミネートされ、主要3部門でオスカーを獲得した名作だと納得できるはずだ。

ブルーレイ本体の写真はジャケット写真と同じものが使われることが多いが、本作では全く別の写真で嬉しい。

どんなストーリー

実話の映画化だという。

19世紀初頭のアメリカ北西部の厳寒地帯。毛皮ハンターたちの一団は地元先住民の襲撃を受けて、命からがらに逃走する。その際に一団の案内役を務めていた主人公のグラスは巨大なヒグマ(グリズリー)に襲われて瀕死の重傷を負ってしまう。

その主人公グラスを演じるのがこの作品で念願のオスカーを獲得したレオナルド・ディカプリオである。グラスは先住民の妻との間に生まれた大切な息子を引き連れていたが、隊長は瀕死となったグラスの看取りと埋葬をフィッツジェラルドと若い男に任せて逃走を急ぐ。

元々フィッツジェラルドはグラス父子を毛嫌いしており、この機会にグラスを殺そうとするが、息子に目撃され、グラスの目の前で息子を殺してしまう。身動きできない中で、一部始終を見ていたグラスは、奇跡的に一命を取り留め、復讐のために一向を追うのだが、重篤な身体を引きずりながらこの危険から逃れ、復讐を果たすことができるのだろうか?

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観ている方が辛くなる究極のサバイバルと復讐劇

実話だと言うが、本当に想像を絶する過酷な状況で、このどん底から抜け出せるかのかという究極のサバイバルが描かれる。

極寒の中、グリズリーに襲われて瀕死の重傷を負い、身動きも取れない状態なのに、食べるものは何もなく、先住民がいつ襲いかかってくるか分からないという危険と隣り合わせという究極のサバイバル。どう考えたってここから脱出し、しかも復讐を遂げるなんて不可能なことに思えてしまう。

描写は徹底している。良くぞここまで撮ったなあという過酷な状況に、観ている方が本当に苦しくなってくる。

映像の類い稀な美しさに息を呑む

そんな過酷な状況なのに、その映像は信じられないほどの美しさ。類い稀な美しい映像の連続に息を呑む。

荒寥たる過酷な景色だが、その美しさは他に例がないほど。特に白樺林や凍てつく原野と雪原。降りしきる雪。そして寒々とした清流が何とも印象的だ。

自然描写が凄いのだが、ここには心癒され森や林、草原などの緑は全くなく、あくまでも荒寥たる凍てつく原野と雪原が広がるばかり。そして周りを取り囲む雪で覆われたロッキーの山々。極限の過酷な自然だ。どこまでも寒々としているのだが、その美しさは格別だ。

水の流れが頻繁に映し出されるが、その雰囲気はあの僕が愛してやまないタルコフスキーの世界だ。「惑星ソラリス」や「ストーカー」を彷彿させずにはおかない。

それだけではなく、冒頭の先住民が襲い掛かってくるシーンの凄まじさも、緊張感に満ちたすごい迫力で圧倒される。

更に、もう一つ非常に印象に残るのは、乗馬シーン。馬が人を乗せて闊歩するシーンが独特のリズムで何とも優雅で美しく、これは他の映画では全く観ることができない幻想的な美しさで、ため息がこぼれてしまう程だ。

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ルベツキという驚嘆すべきカメラマン

その類い稀な映像でアカデミー撮影賞を受賞したカメラマンは、エマニュエル・ルベツキ。このルベツキこそ正に大変な存在なのだ。

驚くなかれ。「レヴェナント」を含め、何と3年連続してアカデミー撮影賞を獲得した現在、世界最高のカメラマンの一人である。

その3年連続の受賞作品を見るとアッと驚くことになる。

2013年『ゼロ・グラビティ』
2014年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
2015年『レヴェナント: 蘇えりし者』

イニャリトゥが2年連続でアカデミー監督賞を輝いた作品はいずれも撮影はルベツキであることは当然だとしても、2013年の「ゼロ・グラビティ」はキュアラン監督作品だ。

驚嘆すべきはそれだけではない。

前に取り上げたキュアロンのあの「トゥモロー・ワールド」( https://www.atsutake.com/cuaron-children-of-men/ ‎)もルベツキの撮影なのである。そのブログ記事の中では直接カメラマンのことには触れなかったが、信じられない驚異的な長回し(ワンカット)シーンを中心に、その撮影の素晴らしさを絶賛した。そのカメラマンもルベツキだったということだ。

ルベツキはメキシコ出身の57歳のカメラマン。今やアカデミー賞を独占しているかの感のあるメキシコ出身監督の超話題作はほとんどルベツキが撮影しているという事実に唖然となる。

イニャリトゥとキュアロンという2人の監督の撮影を彼が担当しているというわけだ。恐るべし。

本当にどうして今、メキシコからこんなに凄い、天才映画人が続出しているのか、これは大きな謎であり、興味が尽きない。監督、脚本だけではなく、カメラマンまで。

というわけで、このルベツキが撮った息を呑む美しい映像にも、酔いしれてもらいたいところである。

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レオナルド・ディカプリオのこと

ここでのディカプリオには、良くぞ頑張ったと心から労ってやりたくなる。本当に大変な役柄だったと思う。グリズリーに襲われるシーンはどうやって撮ったのだろうか。

その後の言葉を失う過酷なサバイバルシーンに、かつての美少年の面影はない。正に汚れ役。そしてほとんどセリフがない中での体当たりの演技、肉体の動きと顔の表情だけで表現する様は壮絶という他はない。

ディカプリオが出演した映画について

僕はディカプリオの映画はかなり昔からたくさん観てきた。

彼が一躍注目され、一挙にスターダムに押し上げたのはジョニー・デップ主演、ラッセ・ハレストレム監督の名作「ギルバート・グレイプ」だった。あれは本当に少年ディカプリオが繊細そのもので素晴らしかった。

その後の大活躍はここで書くまでもない。元々演技力には定評があり、あの甘いマスクなのだから、人気が出ないわけはないのだが、キャメロンの大作「タイタニック」の主演を張り、完全に大スターの仲間入りを果たす。

ディカプリオを決定的に大スター、名俳優にしたのは、何といってもあのマーティン・スコセッシ監督の存在が大きい。

黒澤明と三船敏郎、フェリーニとマストロヤンニのような関係がスコセッシとディカプリオにはある。スコセッシは何と言ってもロバート・デ・ニーロと組んだ名作が多いのだが、ディカプリオはデ・ニーロに次ぐ存在だ。

そこまでディカプリオを使いたいのかと思ってしまう程、彼を主役に多くの傑作を作っている。

「ギャング・オブ・ニューヨーク」「アビエーター」「ディパーデット」「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」は全てディカプリオの主演。

僕はその中でも全編に渡って白いスーツに身を包んだ「シャッター・アイランド」が殊の外、気に入っている。あれはディカプリオの最高傑作ではないだろうか。

そんなディカプリオだったのだが、何故かオスカーには無縁だったのだ。

遂に念願のアカデミー主演男優賞を獲得

そんなディカプリオがこの「レヴェナント」で遂にオスカー獲得。見事に主演男優賞に輝いた。これは納得の受賞。本人も本当に溜飲が下がったことだろう。何と5回目のノミネートでの受賞であった。

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この映画に潜む真のテーマとは

この映画はさすがにイニャリトゥだけあって、単なるサバイバル劇と復讐劇ではない。この刺激的にして強烈な映像に隠されたその真のテーマに思いを馳せることができて、初めてこの映画の真価が分かる。

ここでは書けないが、観終わってから、ハタと真のテーマに気づいてもらえれば、これ以上はない幸せな映画体験となる。

その隠された真のテーマをどう理解するかによって、この映画はまるで様相を変えてしまうものになるだろう。

真のテーマを理解できたときに、感動はピークを迎え、涙が止まらなくなるはずだ。

その意味では、この映画は観る人間の知性と理性を試す映画でもある。

単なるサバイバルと復讐劇だと思っていると、一番大切なもの見失うことになってしまう。

坂本龍一の音楽も素晴らしい

チェロを中心とした弦楽器による低音が不気味に鳴り響くテーマ音楽。それほど雄弁ではないのだが、妙に印象に残るこの音楽は、何とあの坂本龍一だ。「バベル」でも坂本龍一の音楽が使われていたのだが。素晴らしいことだと嬉しくなる。

とにかく観どころ満載の素晴らしい映画。これは実際に観てもらって体験してもらうしかない。

様々な面から感動を受けること必至で、どうかメキシコの天才たちの凄い力量と熱い思いをしっかりと感じ取ってほしい。

絶対に観てもらわなきゃ。

 

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