シリーズ第13回目

「ギンレイホールで観た全映画を語る」シリーズ、第12回まで書き進めたが、このところ少し足踏みが続いている。
恒例のギンレイトリビアは省略して、具体的な映画の紹介をドンドン進めたていきたい。今回は特にお気に入りの映画が待ち構えているのだ。

ではスタート!
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36.2018.7.14〜7.27

 スリー・ビルボード イギリス・アメリカ合作映画

 監督:マーティン・マクドナー

 出演:フランシス・マクドーマント、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル 他

さあ、『スリー・ビルボード』だ。本当に感動させられた大好きな映画。この映画を褒め称える文章なら、延々と書いていられそう。ありとあらゆる面から深い感銘を受けた2018年のブッチギリのベストワン。それどころかこれは10年いや20年に一本あるかどうかの超弩級の傑作だと断言したい。

ギンレイホールで観た映画にはいくつも忘れ難い名作や感動作があるが、その中でこの「スリー・ビルボード」は『タレンタイム』と勝るとも劣らない最高の一本

この作品は、職場の広報誌に掲載された文章があるので、それを大幅に加筆修正し、別立てで紹介させていただく。是非、そちらをお読みください。

ここで、蛇足を承知の上で一つだけ補足させていただくことがある。

僕のブログを熱心に読んでくれている古くからの友人が、僕の大絶賛を受けてこの映画を観たものの、何だか良く分からなかったと。ストーリーが理解できないということではなく、どこがいいのか良く分からなかったという予想外の感想をもらって、蒼ざめたことがあった。

どうも彼女はあの主人公の女が素晴らしい人間、警察の不甲斐なさと無能さを告発した立派な人物として映画を観始めたのに、どうしても主人公に感情移入できなかったようなのである。

誰がどう見たってあのミルドレッドがいい人間であるはずはないでしょう⁉️どうしようもない不完全な人間ばかりが登場する中で、そんな人間同士でも分かり合えることは可能だし、変容することも可能だという一縷の望み。そこをどう捉えるか。

あのミルドレッドの攻撃的な荒んだ心の奥底には、計り知れない孤独感と罪の意識、自己嫌悪があることを読み取れないと、あの映画は確かに訳の分からないものになってしまう恐れはある。まあ、それも観る者の感性ではある。

とにかく一人でも多くの方に観ていただきたい稀有の名作だ。

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 15時17分、パリ行き アメリカ映画

 監督:クリント・イーストウッド

 出演:スペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラー 他 

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これまたクリント・イーストウッド監督による話題の新作だ。老境に入ったイーストウッドが仕掛ける新たな試みがあるということでかなり話題になった。テロ事件に巻き込まれたアメリカ人学生3人の実話を基にした映画を作るに当たって、何と実際の事件の当事者を映画に本人自身として出演させるという前代未聞の映画作りを行ったという。僕もこれには興味深々だった。よくぞそんな発想を持てるなと驚くばかり

当事者の中の一人を映画に出演させるというレベルではなく、3人の主人公が全員揃いも揃って本人自身って、本当に考えられない。これじゃ映画ではなくて、ドキュメンタリーじゃないか⁉️

本当にイーストウッドには驚かされるばかりである。

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が、これは僕としてはつまらない映画だった。全く共感できず、興奮もせず、映画的満足度も全くなく、ひたすらつまらないものを観させられたいう不満だけが残った。

イーストウッドの試みは悪くなかったと思う。3人の素人というか、本人自身は実にいい味を出していて、好感を持てた。その中の一人二人は、そのまま映画俳優に転身してもいいんじゃないかと思わせる程、それなりにイケメンだし、存在感があった。

じゃあ、何がいけなかったんだ?

はい。映画に描かれた実際のテロ事件がショボ過ぎて映画にはならない、それに尽きるんです。

テロ事件が深刻な結果にならなかったことは実にありがたいことだけど、こんなショボい事件を映画にして、延々と付き合わさせないでください!って、そう言いたいんです。

3人のアメリカ人学生がヨーロッパ旅行に出て、あっちこっちの観光地を巡り、その旅の最後に乗り込んだアムステルダムからパリ行きの高速列車でたまたまテロ事件に遭遇し、彼らの活躍でテロは大事に至らずに済んだ、ただそれだけのお話。

映画は延々と彼らのヨーロッパで寛ぐ姿を描写。観光プロモーションビデオじゃないんだから、いい加減にしてくれよ、と言いたくなる。ヨーロッパのんびり旅行を描きながら、彼らの少年時代の人間形成なんかのエピソードが入ってくる。

テロ事件に絡むのは、最後のホンの15分程度じゃないだろうか。

3人の活躍でことなきを得て、彼らは一躍時の人、ヨーロッパでも、帰国後のアメリカでも称賛されて正に英雄となる、めでたしめでたし。やってらんない。観てらんない。

これではアメリカの国威発揚映画じゃないか。あのテロリストが何が原因でテロ行為に至るとか、そんな描写は皆無である。アメリカ称賛の映画。それにしてもパッとしない哀れなテロリストだった。

という次第。つまらない映画。でも、こんなものが、この年のキネマ旬報ベストテンでは6位につけていることに驚愕。読者選出でも同じく6位。う〜ん。もういい加減、イーストウッドの監督作品というだけで無条件に持ち上げることはやめてほしい。彼の作品はあまりにも高く評価され過ぎることに、僕は心を痛めている

誤解のないように言っておくが、僕は熱心なイーストウッドファンで彼の映画を極めて高く評価しているものだ。だが、ダメなものはダメ。そこは一切の忖度はしない

どうでもいいアメリカの学生3人がのんびりとヨーロッパの名所を巡る姿と、そのヨーロッパの名所を見たいという方は、是非どうぞ。
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37.2018.7.28〜8.10

 グレイテスト・ショーマン アメリカ映画

 監督:マイケル・グレイシー

 出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムズ 他

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これはとってもいい映画で本当に楽しませてもらった。

この映画の触れ込みでは、あの大ヒットした『ラ・ラ・ランド』のスタッフによる第2弾みたいなことを前面に出していたが、そういうのはどうかなって思う。これは明らかなミス・リード。ミュージカルの音楽の歌詞が同一人というだけ。歌詞です、歌詞。

作曲者も映画監督も編集者も、俳優達も全く別だ。先ずはこれを言っておかないと。それでいて、とってもいい映画、素晴らしいミュージカルなのだ。それを堂々と正面から訴えてほしい。

実在のサーカス興行師バーナムの一代記をノリのいい音楽で固めた実にできのいいミュージカル。主演は大人気のヒュー・ジャックマン。実際に本人が歌も歌っているということだが、これがまた実に上手くて、惚れ惚れさせられる。いい役者だ。サーカスではこの時代を反映して、数多くの様々なフリークスが登場するのだが、それを肯定的に描いており、素晴らしい。フリークスとは奇形、異形。今流に言えば身体障害者に入るのだろうが、この映画が彼らや彼女達の応援歌になっていることも共感を呼ぶ

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僕がこの映画で最も感動させられたのは主人公が聞き惚れて、熱を上げることになるスウェーデン人の歌姫の歌、「ネバー・イナフ」。これには鳥肌が立った。実に感動的な素晴らしい歌。聴くものの心を鷲掴みにして離さない。映画の中であの歌に惚れ込んで夢中になる主人公の気持ちが痛いほど良く分かる。圧巻と言うしかない圧倒的な熱唱に、魂を揺り動かされるが、実は女優が歌っているのではなく、アフレコとのこと。残念!何度観ても本人が歌っているようにしか見えず、今どきの映像処理能力はすごいなあと妙なことに感心してしまう。

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いずれにしてもこれは聴く者、観る者に勇気と希望を惜しみなく与えてくれる貴重なミュージカルで、観ないと損します!

パンフレットが近年稀な実に立派なもので、更にハッピーな気分になる。

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 しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス   カナダ・アイルランド合作映画

 監督:アシュリング・ウォルシュ

 出演:サリー・ホーキンス、イーサン・ハーク、カリ・マチェット 他

これはカナダで最も愛されていると言われる画家モード・ルイスの実話。偉大な大画家という存在ではなく、全くの素人が描いた絵が周囲から評判を呼んで、ドンドン人気画家になったという現代のドリームを体現した画家の物語だ。

身体に障害を抱えた主人公は生活のために横暴な男の家に住み込みとして家事の仕事を引き受ける。イーサン・ハーク扮する家主は如何にも横暴で無口な男だったが、ルイスも人付き合いが不器用で、愛想もないため、ある意味で似合いのカップルだったのかもしれない。

やがて二人は結婚に至るのだが、甘い恋とかそんなものとは程遠い。

重度のリューマチで手が不自由ながらも、孤独を紛らわせるために描いた絵が、ある人の目に留まって、次代に人気が出てくる。ルイスの絵はどうなっていくのか?この不釣り合いな不器用同士のカップルの愛の行方は?

ルイスに扮するサリー・ホーキンスの独壇場。この頃、サリー・ホーキンスは乗りに乗っていて、あの話題の傑作『シェイプ・オブ・ウォーター』のヒロイン役をこの直後に射止めることになる。

決して美人でも何でもないのだが、独特の存在感があって非常に印象に残る。ここでもルイスになり切って、この特殊な画家を完璧に演じた。イーサン・ハークは本当に名優で、これまた素晴らしい。

ああ、実質3本しか紹介していないのに、4,000字とは。長いなあ。今回はお気に入りと批判したい映画と色々言いたいことがあり過ぎた。ごめんなさい。

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