我が愛するギンレイホールで前から楽しみにしていたクリント・イーストウッドの「運び屋」を観た。

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イーストウッドの活躍振りは今更あらためて言うまでもない。

この20年ほどの監督としての名声は驚くべきほどだ。

監督作品は毎年、キネマ旬報ベストテンのベストワンを指定席にしてきたかのよう。トップ3に入らなかった作品はほとんどない。

現在、何と89歳という。この最新作の運び屋を作ったのは88歳だいうから驚嘆するしかない。

それでもさすがに俳優として主役を演ずることはなくなってきていた。最後の監督主演は、ちょうど10年前のこれまた類まれな名作とされた「グラン・トリノ」以来のこと。あれから10年。

90歳目前のイーストウッドが監督することすら信じられないのに、まさか主演するとは⁉️

本当に信じられないことだ。
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88歳の老監督が、自ら主演して90歳の実在の運び屋を演じた。すごいことだ。

そして、その出来栄え。

これが傑出している。素晴らしい映画に仕上がっていて嬉しくて、嬉しくてたまらない。

観始めた時、さすがにイーストウッドの老いが強烈で、これはさすがに無理じゃないか、主演を張るのはどうだろう?と思ったものだ。

顔つきには何の不満もなくて、あの細いながらも眼光鋭い眼は相変わらずイーストウッドのものだし、惚れ惚れさせられる。僕が気になって困ったのは、あの背中。

背中がすっかりまるくなってしまったこと。さすがに老けたなと辛かった。これは切ない。

背中が丸くなると、もうおじいちゃんそのものだ。

さすがのイーストウッドも歳を取ったな。もちろんそれは仕方ないことだけど、僕がたまらなかったのは、あの背中の丸みと歩き方が、78歳になる先日まで身近にいたとある人物にそっくりだったからだ。僕はその人物と最後は非常に残念な関係となっただけに、思い出したくない記憶が蘇り何とも複雑な気分であった。

大好きなイーストウッドが、あの人と、特に後ろ姿がそっくりに見えただったのは衝撃的だった。

もうやっぱり主役は張れないよ、しばらくそう思って見ていたのだが、それは全くの杞憂であった。

90歳の実在の運び屋をモデルにしているわけで、88歳のイーストウッドが演じても全く違和感はないのは当たり前だが、こんな元気で精悍な魅力的な88歳はどこにいるだろうと喝采を叫びたくなる。

しばらくすると、余計な心配は吹っ飛んでしまって、彼の生き様に一喜一憂、ハラハラドキドキさせられることになる。

その存在感たるや、大変なものだ。

歳を取ったものの、エネルギーと闘争心は若い日のままで、老いについて誇りをもっている姿には応援したくなってしまう。でも、所詮、悪の片棒を担ぐダメ老人なのだが、あまりの身勝手さに妻や娘、家族から見放された孤独な偏屈ジジイなのである。

でも、彼はその自責の念を忘れたことがない。

その一方で大金を手にして、羽振りが良くなり、ズルズルと悪の道に染まっていく。運び屋稼業から抜け出せない。

その辺りの苦渋の表情が半端じゃない。

そして、決して深刻にならずにどこまでも陽気で能天気なイーストウッドが微笑ましくもある。

カーステレオから流れる音楽を大きな声で口ずさみながら、陽気に歌いながらハンドルを握るイーストウッドの姿に、悪いことをしているのに、妙に感情移入させられて、応援したくなってしまうのは、やっぱりあのイーストウッドの味わい、演技の力だろう。

実に魅力的で、悪の道に突き進みながらも、応援したくなる88歳を、他の誰が演じることができるだろうか。

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最後は愛。愛に尽きる。

そして、最後は愛。愛に尽きる。家族愛なのだ。最後の30分は泣きっぱなし。いい映画。こんな風な救いのある映画は近年稀ではないだろうか。

ブラッドリー・クーパーが素晴らしい。

イーストウッドが傑出しているのはもちろんだが、彼を追い続ける警部役のブラッドリー・クーパーが素晴らしい。この警部、妙にカッコ良くて、心を惹きつけられるが、誰だっけ?どこかで見たような気がするがと、ずっと気になっていた。

そうだ、あの「アリー スター誕生」の愛すべきロックミュージシャンを実にカッコ良く演じたブラッドリー・クーパーだった。

随分とイメージが異なるが、あの人の心を惹きつける容姿と表情は一緒だな。

イーストウッドとはあの「アメリカン・スナイパー」でタッグを組んだ関係だ。

この警部は本当にいい味を出していて、彼を見るだけでもこの映画は価値があるというものだ。

そして、思わぬ拾い物は麻薬組織のボスにアンディ・ガルシアが出ていること。すっかり見かけなくなってしまっていたが、健在で嬉しい。
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これは傑作。絶対に観なければいけない映画。

これだけ名作を量産しているイーストウッドの中でもこの運び屋は特別な位置を占めるかけがえのない傑作と言うべきだろう。

実にいい映画だった。犯罪を描きながら、観終わった後で幸せな気持ちになれる映画なんて、滅多にあるものでない。

88歳のクリント・イーストウッド、おそるべし。

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