【前編】音楽の凄さ からの続き
目 次
20世紀オペラの最高峰の一つ
この超問題作「死者の家から」は、20世紀に作曲されたありとあらゆるオペラの中でも屈指の作品で、最高峰の一つだ。
これに並ぶ作品は、ベルクの「ヴォツェック」と「ルル」。そしてショスタコーヴィッチの「ムチェンスク群のマクベス夫人」くらいしか思いつかない。それとシェーンベルクの「モーゼとアロン」を抜かすわけにはいかないか。
いずれにしても、死を目前に控えた73歳の老人が、こんな凄いオペラをよくぞ作曲したものだと感嘆するしかない。そして心から感謝せずにはいられない。
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ブーレーズ&シェローによる最高の舞台上演
これは世界中で絶賛された実際のオペラ上演を記録したライヴ映像である。
2007年7月20日 エクサンプロヴァンス での上演をそっくりそのまま収録したものだ。
この上演が誠に素晴らしい。実に感動的なオペラ上演だ。


指揮はピエール・ブーレーズ、舞台監督(演出)はパトリス・シェローと言えば、クラシック音楽ファン、オペラファンなら誰だって知っているに違いない。
この2人がタッグを組んだ歴史に残るオペラ上演があった。
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ブーレーズとシェローのタッグと言えば
ヴァーグナーの聖地バイロイトで上演された「ニーベルングの指環」だ。これはもう伝説的なオペラ上映として非常に有名だ。
あの「指環」の世界を現代劇に置き換えて、全く新しい視点から「指環」を再構築した。それが何と伝統的な上演を一族で守り続けてきたヴァーグナーの聖地であるバイロイト音楽祭でやってのけた。
これは当時、クラシック音楽界の「事件」となり、当時は賛否両論の嵐が巻き起こったが、今となっては歴史的な上演として非常に高く評価されており、ブーレーズとシェローの名前を世に広く知らしめたどころか、伝説のオペラ上演と称えられている。
あのブーレーズとシェローのバイロイト音楽祭での「指環」上演は、1976年のことだった。
この伝説の2人がちょうど30年後に再びタッグを組んだのが、この「死者の家から」だったというわけだ。
この天才作曲家にして今では世界最高の指揮者にもなったピエール・ブーレーズと、天才舞台演出家にして後には映画監督もやって傑作を撮り続けたパトリス・シェロー。
この2人の天才が強力タッグを組んだ以上、凄いオペラ上演になることは目に見えている。
期待を裏切らない傑出した上演に感動
本当に凄い上演となった。このオペラは上述したとおりオペラらしいストーリー展開があるわけでもなく、聴く人を圧倒する超絶的なアリアが出てくるわけでもない。
そもそも全編を通じて女性は端役の娼婦がちょっと出てくるだけで、後はひたすら流刑地の暗い監獄の中での薄汚い囚人たちが互いに罵り合ったり、傷つけ合ったりするだけのやり切れない話しである。
そんな色気も素っ気もない暗くて重い舞台なのに、最初から最後まで全く目が離せなくなり、画面に釘付けになってしまう。
これはひとえにヤナーチェクの有無を言わせぬ強烈な音楽と、その超絶的な難解な音楽を正確無比かつ情熱的に演奏したブーレーズの指揮と、目に焼き付いて離れなくなるシェローの舞台演出のせいである。

本当に言葉を失ってしまうような強烈なオペラ上演。ヤナーチェクの音楽が持つ圧倒的な力とそれを見事に演奏し切ったブーレーズの指揮、そしてそれを見事に可視化しシェローの舞台演出。
この天才3人による奇跡のコラボレーションの成果であった。何とも幸運な結び付きだった。
これはどんなに絶賛しても絶賛し過ぎということはないだろう。
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歌手陣の奮闘と見事なアンサンブル
このオペラ上演は本当に傑出している。その全ては指揮者のブーレーズと舞台演出のシェローの魅力に尽きるのだが、舞台の上で実際に歌って演技をした歌手陣の奮闘に触れないわけにはいかない。
先ずは歌手のこと。歌手陣の素晴らしさは言うまでもない。オラフ・ベーアを始め、著名な男性歌手が次々と登場してきて壮観だ。
歌の素晴らしさはもちろんなのだが、彼らは囚人であり、汚い衣装に身を包んで、虐待を受け、暴力を振るわれ、厳しい労働を強制されている。
しょっちゅう服を脱がされて、パンツ一枚になって演技をするシーンも多い。

囚人たちが演じる劇中劇も見どころの一つ。パントマイムや女装しての演技など、これは本当に大変な舞台だった。
更に、複数の囚人たちによる重唱も聴きどころの一つだ。激しい罵り合いや徒党を組む様子など、超一流の歌手たちが繰り広げる無尽蔵の声のアンサンブルに心が鷲掴みにされる。

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合唱の素晴らしさ
個別の歌手に加えて、合唱団の素晴らしさも強調しないわけにはいかない。女性が全くといってもいいほど出てこない囚人たちの群像劇ということで、ここでは囚人たちの怒りや叫びが男声合唱として演奏される。
ポイントは多くの男性陣が声を合わせて一緒に歌を歌うというシチュエーションでは、決してないことだ。あくまでも群像劇の中で、囚人や看守たちが声を出し合う、叫び合う。それが合唱曲になっているわけだ。
アンサンブルの質の高さが傑出していて、実に素晴らしい。

終盤、囚人たちが感極まって「自由万歳!」と叫ぶシーンなど、その迫力といい迫真性といい、申し分ない。
アルノルト・シェーンベルク合唱団のレベルの高さに驚嘆させられてしまう。
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カメラワークの傑出さ
もう一つ触れておかなければならないのは、カメラワークの素晴らしさである。この感動的な舞台上演を実に見事に映像に収めた。これは特筆すべき大業績だ。
撮影監督のステファージ・メッジの力量には舌を巻く。
アップと引きとのバランスがこれ以上ない最高の出来栄えだ。これはライヴのオペラ上演を収録したというよりも、映画を観ているようなちょっと考えられない映像編集なのである。
ありとあらゆる面からみて、全く非の打ちどころがない奇跡的な上演と、映像収録。こんなに満足できるオペラ上演を観るのは本当に久々のことだ。
ブルーレイにならないのが唯一の不満
惜しむらくはこんなに素晴らしいものをどうしてブルーレイにしてくれないのか。それだけが不満だ。
ブルーレイの高画質で楽しめたら更に感動が深まると思うが、何故かブルーレイにならない。残念だ。
とは言っても、このDVDの画質はそれほど悪くもない。かなり上質の方で、十分に許容範囲内ではある。
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素晴らしいメイキング映像に驚嘆と感動
最後にもう一つ、触れておかなければならないことは、このDVDに付いているメイキング映像のことだ。
映画を収めたブルーレイやDVDなら、メイキング映像が付いていることは決して珍しくない。僕もそれを楽しみにしていて、かなり熱心にメイキング映像を観ている。
だが、オペラのライヴ上演を収めたDVDにメイキング映像が収められているというのは、聞いたことも観たこともない。
それがこのDVDには付いている。しかも約50分間にも及ぶ長いメイキングで、嬉しいことにそのメイキングにもしっかりと日本語字幕があるのが最高だ。
このメイキング映像が、絶賛に値する優れもの。
総時間50分にも及ぶメイキングは、5つのチャプターに分かれている。
これを観て最もビックリするのは、演出のシェローの存在の大きさ。舞台演出家というのは、そこまでやるのかと、正直腰を抜かさんばかりに驚かされた。演技指導や動き、登場人物の心理の解釈など、大きな構成から細部に至るまで、全く妥協せずにトコトン突き詰めていく。その熱心な指導姿が圧巻。

ブーレーズがマーラー・チェンバー・オーケストラを指導する様子も極めて貴重なものだ。上演当時、既に80歳を超えていた高齢のブーレーズがあんなに細かい指示を出し、繰り返し練習をする姿にも驚かされた。
このメイキング映像には本当に驚かされた。驚嘆と感動が収まらない。
本編のオペラ上演にも勝るとも劣らない衝撃があると言ったら、言い過ぎだろうか。
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傑出した空前のディスク。必見、必聴!
このDVDは本当に素晴らしいものだ。
ヤナーチェクが死の直前に執念で完成させた最高傑作のこれ以上は望めない傑出した演奏と舞台。それを見事なカメラで収録した映像。
そして滅多に観ることのできない貴重極まりない1時間近いメイキング映像。
そして何と言っても嬉しいのが、日本語による立派な解説書が付いていること。この日本語の解説書が非常にレベルの高い素晴らしいものだ。

16ページもあって、実際にこのオペラ上演をヨーロッパで観たという東条碩夫の解説が読み応え十分だ。それに加えてシェローの「《死者の家から》を演出して」という詳細にしてこれまた読み応え十分の記事、更にブーレーズの内容豊富な記事まである。
もちろんあらすじの紹介もある。ここまで良心的な解説書が同封されているDVDも珍しい。
それでいて、何と定価でも1,980円という信じ難い廉価。
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ヤナーチェクをもっと知ってほしい
こんな全てに満足できるディスクは滅多にない。クラシック音楽ファン、オペラファン、ドストエフスキーに興味のある方はもちろん、今までクラシックにもオペラにも興味がなかった人も、この74歳にして、38歳も年下の人妻を深く愛して才能を爆発させたヤナーチェクという特異な作曲家の執念の最高傑作に触れてもらうのはどうだろうか。
ヤナーチェクのことをもっと知ってほしい。このDVDを観てヤナーチェクを体験してほしい。
人生観が根底から覆されるかもしれない。未知の世界に思い切って足を踏み入れてほしい。
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