組織とリーダーシップをスポーツから学ぼうとしたら、野村克也の本は外せない

組織論とリーダーシップ論。特にメンバーの意識改革を推進してダメな組織を再生させることを、具体的な実践の場を通じて学ぼうと思ったら、どうしても野村克也の一連の著作は外せない。僕も以前から何冊も読んできた。

スポーツの世界で組織を立て直し、チームや選手を育成し成功に導いた指導者の本は結構おもしろく、スポーツの世界を離れても色々な側面でかなり役に立つことが多いと感じており、僕は昔からスポーツ界の様々な一流指導者の本を読んできた。

スポーツ界の指導者の本はかなりおもしろく、役に立つ

一番集中的に読んだのはあの箱根駅伝に彗星の如く登場した青山学院大学の陸上部を一変させた原晋さんの本。営業活動に活躍していた第一線の一流サラリーマンによる陸上と駅伝の大改革の本は本当におもしろく、その原監督の著作は片っ端から読んだ。

シンクロナイズドスイミング(今ではアーティスティックスイミングと改名されたそうだが)のスーパー指導者の井原雅代コーチの本もおもしろかった。

先日、このブログで紹介させてもらったサッカーの川淵三郎の本も、言葉は少なめであったが、興味深く読ませてもらったことは書いたとおりだ。

野球ではどうしても野村克也、あのID野球とボヤキの野村監督の本を読まないわけにはいかない。僕は野村克也とも色々な縁が深かった星野仙一が個人的には大好きで、その星野仙一の本も愛読しているが、自分の性格と感性が星野仙一に非常に良く似ているように思われ、あまり深入りしないようにしている。やはり野村克也の存在が圧倒的に大きい。

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野村克也の本はザッと150冊あるようだが

膨大な本が出版されている。正確に把握できていないが、約150冊。本を積み重ねると野村さんの身長を超えるほどの本を書いてきたらしい。今回、僕が一気に読み終えたのは、2020年の4月に出版された創刊されたばかりのMdN新書の「ヤクルトスワローズ論」。約1年程前に出版された本である。

この胴上げ写真は本の帯。「追悼 野村監督、最後の言葉」に胸が詰まる。
裏帯の掲げられた宮本慎也の素直な言葉が嬉しい。

 

野村克也が惜しまれつつ急逝されたのは2020年2月11日のこと。ちょうど1周忌が過ぎたばかりというのが今のタイミングである。享年84歳。この「ヤクルトスワローズ論」は正に亡くなった直後に野村克也を追悼する本として出版されたものだ。

僕は直ぐに購入したものの、そのままずっと部屋に積んであったのだが、今回、野村克也の組織論やリーダーシップ論にあらためて触れてみたいと思い、引っ張り出してきた。それがちょうど1周忌に当たる時期だったというのも偶然には違いないが、さすがに何とも感慨深い。

膨大の量の野村克也の本の中でも、この1冊は野村の野球理論の中核であるID野球やデータ論にはあまり触れられておらず、311ページという新書としては比較的厚目とは言うものの、極々限られた分量の中で、野村克也の波乱万丈の人生の全体像を覆うような内容となっていることが特徴だ。

タイトルのとおり野村監督が9年間も監督を務めたヤクルトスワローズでのことが多く語られていることはもちろんだ。

亡くなる直前、約3カ月前のインタビューと、約2カ月前に行われたヤクルトの生え抜きにしてヘッドコーチを退任したばかりの教え子の宮本慎也との対談という、野村さんの2つの亡くなる直前の生の語り口を聞くことができる特集記事も興味深いものだが、僕がこの本の中で一番興味深く読んだのは、「反骨の原点」と題された第2章だった。

全体像はこんな感じである。野村監督の紹介部分は読めるだろうか。
311ページ。新書としては厚い方だ。

「野村克也」誕生までの若き日の母子家庭での苦労話に感動

野村克也がプロ野球の選手そのものとしても巨人の王と長嶋に匹敵する歴史的な大打者であったことを知らない人はいないだろう。その野村克也が王・長嶋とは全く対照的に甲子園とは縁もゆかりもない京都府丹後の地方高校からテスト生として南海に入団し、長い下積みを経験してようやくプロ野球選手として頭角を現すそこまでの「野村克也」誕生秘話と言うか、若き日の「野村克也自伝」が読み応え十分だった。

僕はとりたててプロ野球に通じているわけでもなく、特別好きなわけでもないので、僕が知らないだけなのかもしれないが、野村克也が苦労してテスト生として南海ホークスに入団するまでの若き日のことは、実際にはほとんど知らなかったことばかり。

この「反骨の原点」という自伝部分を読んで、分かっていたつもりでいた野村克也の若き日の悲惨と呼んでもいい程の貧困物語と、テスト生としてプロ野球に入団することの想像を絶する大変さ、更にテスト生としてプロ野球のチームに何とか入団できたとしても、そこから一流選手になるまでには言語を絶する大変な世界、ほぼ絶望的な世界であったということが、痛いほど良く伝わってくる。

そうやって底辺から這い上がってくることの想像を絶する困難さと、逆にそれを達成できたからこそ、これだけの傑出した野球理論の構築と優れた指導者になることができたんだなとの感慨を禁じ得ない。

「野村克也誕生」が本人によって語られる

この新書は、そんな「野村克也誕生」に本人自身の言葉によって立ち会うことのできる貴重な本だ。

それにしても野村克也が高校3年生の時に南海ホークスのテスト生の試験を受けるまでの苦労話しは、僕の想像を遙かに超えていて、本当に苦労したんだなと驚きと感動を隠し切れない。この部分はページ数にして30ページだけなのだが、これが野村克也の原点であり、これは非常に貴重な読みものだ。

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必読の野村克也の「生い立ち」

この30ページは本当に驚きのドラマの連続。

野村克也は京都府の網野町(現・京丹後市)の食料品店の次男として生まれた。父親は克也が3歳の時に出征先の中国で戦病死。看護師の資格を持っていた母親の手一つで育てられるが、母親はがんを病み、幼い兄弟は幼少の時から、家計を助けるために様々な仕事をした。野村克也は王・長嶋に対して自らを月見草と例えたが、そのいわれもこの幼少期の苦労話から来ていると知ってビックリさせられる。畑仕事に加えて小学3年生から新聞配達を始めた。
克也が野球を始めたのは中学に進んでから。生真面目な勉強家だった兄が自分の大学進学を諦めて、中学卒業後、丁稚奉公に出ることが決まっていた克也を、高校にやってくれと何度も母を説得。こうして甲子園など夢のまた夢という田舎の府立高校に進学。克也は本書の中で「野球人としての私があるのは、兄のお蔭である」と明言している。
その府立峰山高校では野球部を廃部にしようとする動きがあり、その急先鋒だった生活指導部長の清水先生との出会いが野村克也の運命を決定付けた。野球部を廃部にしようとする清水先生との出会いが、やがて克也がプロ野球に進むチャンスとなるあたりはかなり感動的だ。野村克也の「この清水先生との出会いが、私をプロ野球にすすませるきっかけになったのだから、人の縁とは不思議なものだ」と書いている。全てはこの清水先生が、一面識もない南海ホークスの鶴岡一人監督に「我が高校に野村という素晴らしい選手がいる。一度その目でご覧になってほしい」という内容の手紙を送ったことから、野村克也のプロ野球選手としての人生が開けて来る。

晴れてテスト生の試験に合格してからのエピソードにまた感動させられてしまう。入団した後の新人時代。安い給料から母親に毎月仕送りをしていたが、母親の没後に預金通帳が出てきて、克也からの仕送りは一切手を付けずに貯金されていた。球団を首になって故郷に帰ってきたときに、生活に困らないようにという配慮だったという。

18歳の時の「解雇通告」のエピソードがすごい!

人一倍の努力を重ねた野村だったが、テスト生で入団したプロ野球選手への球団の扱いは非常に厳しいもので、新人時代一年目のシーズンオフにいきなり解雇通告を受けてしまう。

このときの野村克也の対応はかなり有名なものらしいが、僕は本書を読むまで全く知らず、仰天させられた。
「給料はいりません。もう一年だけ、自分が納得できるまで野球をやらせてください。どうかお願いします。もしクビなら、帰りに南海電車に飛び込んで、自殺します」と球団マネージャーに哀願する。野村克也18歳の時のこと。このエピソードを本書の「はじめに」のはじめに(冒頭に)紹介している。野村自身が、野球への凄まじい執念を持ち続けたという自負と語り、「私が唯一誇れること」だと書き記している。あの野村克也18歳の挫折とそこからの死に物狂いの這い上がりが圧巻だ。

この決して諦めない粘着質の粘りと、それに裏付けられた「人の3倍も4倍も努力しよう」との決意。そしてそれを実践し続けたことが、やがて球界を代表する屈指の大打者と名捕手になり、ID野球とデータ野球で野球界に大変革をもたらした名監督の誕生に繋がっていく。

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名監督がたどり着いた究極の野球論と人生論が熱い

残りは、野村克也がヤクルトスワローズの9年間の監督時代を通じて、「弱者の戦法」という野球観がヤクルトスワローズに浸透した球史の一端をしめしたものだと謙遜気味に書いているが、ここに書いてあるものは、野村克也という不世出の名監督が最後にたどり着いた究極の野球論と人生論である。

野球論と人生論と書いたが、ここにあるのは低迷を続けるダメ組織をいかに立て直し、意識改革を進め、強靭な組織を作り上げていくのか。リーダーシップを発揮し、メンバーをいかにやる気にさせるのかという組織の活性化について書かれた極めて貴重な言葉と実践の数々が紹介されている。

タイトルだけ紹介しておこう。

「適材適所と意識改革」
「捕手革命」
「チームの鑑」
「監督とは説得業である」
「一流が一流を育てる」
「私の人生訓」

非常に読みやすく、直ぐに読み切れてしまうが、野村克也の言葉は非常に含蓄に富んでおり、しみじみと納得させられることばかりである。
組織のマネジメントで悩んでいる人、仕事の実績が中々上げられず、壁にぶつかっている人など、この本から貴重なアドバイスとヒントをもらえる人はいくらでもいるだろう。是非読んでみてほしい。

 


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