目 次
シリーズ第12回目
最近、何本か直近上映の映画紹介に寄り道をしてしまい、このシリーズ、かなり滞ってしまっている現状です。今回はどうしても6本取り上げたいと思っています。ということで、エピソード=トリビアは省略させていただき、早速個別映画の紹介に突入させてもらいます。何だかいつも同じことを言っているような気がしますが。
それではスタート!
スポンサーリンク
33.2018.6.2〜6.15
ローズの秘密の頁(ページ)アイルランド映画
監督:ジム・シェリダン
出演: ルーニー・マーラ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、エリック・バナ 他
この映画には驚かざるを得なかった。いくら第二次世界大戦中の話しとはいえ、あまりにもひどい、やり切れないストーリー。どうにもいたたまれないと言った感じなのだ。
監督のジム・シェリダンはアイルランドの著名な映画監督だ。「父の祈り」や「マイケル・コリンズ」などアイルランドの歴史に厳しく斬り込んだ作品で有名だ。
今回もやはりアイルランド人の深い悲しみと憤懣に満ちた作品で、どんな苦境にあっても希望を捨てないアイルランド人の不屈の魂と信念を感じさせる感動作となっている。
今年82歳になる往年の名女優バネッサ・レッドグレープが演じる老婆がアイルランドの精神病院に何十年にも渡って閉じ込められている。生後間のない自分の赤ちゃんを殺した罪を背負いながら。
本人はその事実を認めず、そのまま幽閉状態に置かれてきた。
映画は彼女を救済しようとする弁護士が過去の事実を調査していく姿を描くのだが、その中で老婆の若き日の恋が生き生きと描き出される。ところがあろうことか神父が横恋慕し、いかにも宗教者のように振る舞いながら、実質的には彼女の恋を破綻させてしまう。何たるスキャンダル。あってはならないことだ。
アイルランド人のイギリスの宗教者に対する反感と猜疑心が強烈に描かれる。宗教の力を借りた今流に言えばパワハラとセクハラ以外の何物でもない。
この偽善者への怒りが治らない。
だが、彼女は耐え抜いた。偽善に満ちた宗教によって迫害された彼女が、唯一頼ったのがキリスト教だったというのも意味深だが、宗教によって迫害された彼女が、宗教によって救済される⁉️
この数十年間に渡ってひたすら迫害され続けた彼女に救済の日は訪れるのだろうか?
想像を絶するまさかの展開に固唾を飲んで、画面に釘付けにされるしかない。
私生活でも反体制を貫いた闘う女優のバネッサ・レッドグレープ以外にこの役を演じられる人は考えられない。若き日を演じたルーニー・マーラも、あのドラゴンタトゥーの女とは全くの別人で、絶品だ。
スポンサーリンク
ロング,ロング バケーション イタリア映画
監督:パオロ・ヴィルズィ
主演:ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド 他
これはとても印象に残った、忘れられない映画だ。最近とみに増えてきた認知症を描いた作品である。
重い認知症になった夫に運転させて、思い出の地まで2人だけの旅に立つ老夫婦の顛末。主演の老夫婦はどちらも非常に印象に残る名演で、様々なエピソードが楽しく、忘れ難い。そして全く想定外のエンディング。
重大な問題提起で、多くの方に観ていただき、議論をしてもらいたいところだ。
これは独立させて書いているので、その別稿をどうかお読みいただきたい。
スポンサーリンク
34.2018.6.16〜6.29
勝手にふるえてろ 日本映画
監督:大九明子
主演:松岡茉優、渡辺大和、石橋杏奈 他
これはとても小粒な映画だったけれど、何だかとても楽しめた。屈託のない映画で、たまにはこんなのも楽しくていい。無条件に幸せな気分になれる貴重なものだ。
松岡茉優演じるヒロインは、絶滅した動物の研究と化石収集が趣味という正に絶滅危惧種のような女の子。中学の同級生に10年間以上も一方的な片思いを貫いている。そんな彼女の前に一途に彼女を好きになる男が現れて。
人生で初めて告られたと喜ぶのも束の間、脳内片思いの同級生が気になって現実の恋に踏み込めない不器用な女の子の恋の端末は?
芥川賞作家の綿谷りさの同名小説の映画化。
まあ観ていて理屈抜きで楽しめる罪のない映画。松岡茉優のコメディアンヌぶりが何ともキュートで魅力を放つ。たまにはこんな屈託のない映画も悪くない。
スポンサーリンク
彼女がその名を知らない鳥たち 日本映画
監督:白石和彌
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李 他
さあ、遂にこの映画だ。彼女がその名を知らない鳥たち。
ギンレイホールで観た映画は本当に素晴らしい作品ばかりで、今まで百数十本の映画を観てきて、気に入らなかった映画にはほとんど出逢ったことがないのだが、ほんの数本だけ、嫌な映画、不愉快な映画があった。
その筆頭格がこれ。
この映画は色々な意味で本当に不愉快極まりないものだった。シネフィルの僕が映画を観てこんな気分になることは本当に珍しいこと。ましてや、ギンレイホールで上映された映画で。
この映画のことは、かなりの分量を使ってどうしても不満を述べ、批判するしかないので、独立させることにした。別稿をお読みいただきたい。
35.2018.6.30〜7.13
あなたの旅立ち、綴ります アメリカ映画
監督:マーク・ペリントン
出演:シャーリー・マクレーン、アマンダ・セイフライド、アン・ヘッシュ 他
これも小粒な映画ながらも妙に心に残る忘れがたい一本である。往年の名女優のシャーリー・マクレーン扮するヒロインが、そろそろ自らの死期を悟って、今風に言えば「終活」を始める話しなのだが、元々バリバリのキャリアウーマンである彼女は一筋縄では行かない。自分が死んだ際に新聞に掲載される死亡通知に、どうしても立派な功績を書いてほしいという欲求に駆られてしまう。
どうやったら、自分を評価してもらう賛美の追悼文を書いてもらえるのか?
仕事一筋で周囲との軋轢や争いも全く気にせずに生きてきた彼女は、周りから賛美される自信が全くないのだ。そこで新聞記者を呼んで立派な訃報記事を書くように迫るのだが、呼ばれた新進気鋭のライターは、そう簡単に引き受けてはくれない。
では、どうしたら自分は死後、認めてもらえるのかと、全くバカバカしい話しが始まり、ドタバタに近い展開が待ち受けている。
でも、これが結構面白いのだ。僕はかなり好感を持った。
それは何と言っても今年で85歳にもなるシャーリー・マクレーンの貫禄のある持ち味と若手ライター役のアマンダ・セイフライドとの絶妙な共演のなせる技だろうか。
元々癖のある周囲には敵だらけというヒロインが、当初は訃報通知欄に立派な功績を残すためには先ず周囲との人間関係を修復する必要があるとのアドバイスを受けて、外形上だけの関係修復に乗り出すのだが、やがて・・・。
先の見えてしまう話しではあるのだが、想定外のことも起きて、これは中々退屈させない。
人生って悪くないなとしみじみ思わせられる。そして死を間近に控えたヒロインの話が、いつの間にか比重が若いライターに移っていくあたり、心憎い展開だ。語り口がうまいのだ。
観終わってとてもハッピーな気分になれる捨てがたい一本。お勧めだ。
ベロニカとの記憶 イギリス映画
監督:リテーシュ・バトラ
出演:ジム・バラードベント、シャーロット・ランプリング、ミシェル・ドッコリード 他
この映画は中々難しい。映画のストーリーが先ずは難しい。そして何と評したらいいのか、実は、その評価も中々難しい。
正直言って、観終わった後で、気分が滅入ってくる映画なのだ。人生の極めて重要な部分を描いた貴重なものではあるのだが。
ちょうど、あの芥川龍之介の小説を読んで、なるほどそういうことか、確かにそういう側面はあって、こんな人間観察はすごいな、着眼点が飛び抜けてるな、と思いながらも、自分の心の中の一番痛いところ、触れてもらいたくないところに触れられて深く絶望に陥る、あの読後感に似ているような気がする。
一旦は落ち込み、絶望しながらも、やはりすごい作品だと芥川龍之介の人間の本質を鋭くえぐる世界に結局はどっぷりとハマってしまうように、この映画にも気分が滅入ってしまいそうだが、深く心を揺さぶられ、唸らざるを得なくなる。
一線を退き悠々自適の引退生活を送っている主人公のもとに、ある遺言に基づいて、今は亡きかつての親友の日記が届く。40年以上も前の初恋の相手ベロニカを巡る思い出が蘇ってくるが、日記を読み進めると、そこには思いがけないことが書かれていた。
若き日の過ち。自分ではそれは過ちとは思っていなかったが、実はとんでもないことを引き起こしていて、そのことを知らなかったのは自分一人だけだったのか?いや、そうではない。当時は真相を知っていたはずなのに、いつの間にかその真相を・・・?真相を検証する記憶の旅の行き着く先は。
恐ろしい。そしてとてつもなく悲しく、辛い。
この映画にも往年の名女優が登場。こちらはチャーラット・ランプリング。あの強烈な問題作、「愛の嵐」のヒロインだ。愛の嵐は1974の制作なので、あれから約45年も経過したことになる。シャーロット・ランプリングも随分と歳を取った。今年74歳だという。
今回たまたま往年のベテラン大女優ばかりを紹介しているが、シャーリー・マクレーン85歳、バネッサ・レッドグレイブ82歳に比べれば、シャーロット・ランプリング74歳はまだまだ若いということになりそうだが、あの一世を風靡した名女優達がこの歳になり、完全におばあちゃんの域に入りながら、かくしゃくとして優れた映画に出演する姿には頭が下がる。
もちろん女優だけではない。ドナルド・サザーランドは84歳だし、例のクリント・イーストウッド。あの最新作「運び屋」は、88歳の時の作品。主演だけではなく監督もこなしているんだから、驚くしかない。イーストウッドはもう別格か。
素晴らしいことじゃないか!恐るべし、老人パワー。