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「調定額」を話題にしたが
この「自治体病院の病巣を斬る!」シリーズの第5回(⑤)で、月次決算の報告を某自治体病院に取り入れた経緯を詳しく報告させてもらいました。
某病院では毎月の医業収益を「調定額」で計上しており、それでは毎月の病院の実力を正確に把握できないため、当該月に病院が稼いだ(こういう表現をかなりの医師が毛嫌いするのが病院の実態です)金額を正確につかめるよう「稼働額」で計上するよう改めたという報告も併せてさせていただきました。
その際、この自治体病院ならではの「調定額」なるものについては、後日改めて説明しますと断り書きを入れておりましたので、今回は「調定額」について書かせていただきます。
「調定」とはどういうものなのか?
⑤の記事でも書かせていただいたとおり、私は「調定」あるいは「調定額」という言葉は全く知りませんでした。病院というところに関わって35年以上、全社連という全国60以上あった社会保険病院を指導監督する本部にいた際も、実際に7カ所の病院の現場で勤務した際にも、全く耳にしたことのない言葉でした。
正に「調定」「調定額」というのは、自治体病院ならではの独自の概念だったのです。
調定の意義
「調定」とは、地方公共団体の歳入を徴収しようとする場合に、長が自治法第231条の規定に基づき、その歳入の内容を調査して収入金額を決定する行為、すなわち、徴収に関する地方公共団体の内部的な意思決定の行為を言うとされています。
【自治法】(歳入の収入の方法)
第231条 普通地方公共団体の歳入を収入するときは、政令の定めるところにより、これを調定し、納入義務者に対して納入の通知をしなければならない。
これを受けて、具体的には、
①歳入を調定しようとするときは、その前提として、法令、契約などに基づく合法的に発生した権利がなければならない。
②歳入徴収者は、徴収すべき金額が確定したときは、その歳入に係る法令、契約書その他の関係書類に基づいて、所属年度、歳入科目、納入すべき金額、納入義務者などを具体的に調査決定しなければならない。
これらを踏まえて、病院を有する各自治体では、病院事業に関する特例など様々な規則を定めているのが一般的です。
診療報酬の請求と調定との関係
ここまでは良しとして、その調定という概念が、実際の病院の診療報酬請求との絡みでどうなっているのか、そこが一番問題になってきます。
診療報酬の請求(レセプト請求)と調定との関係、その実際の具体的な運用などはこうなります。
札幌市が出しているある資料からの引用です。あいにく出典についての細かいデータがありませんので、ご承知おきください。
「調定は患者ごとの医療費を計算して、各審査支払機関への診療報酬の請求額の確定を行うことである。委託業者の職員は、医事会計システムから患者ごとの医療費(診療報酬)について、サマリ照会を行って、審査支払機関へ請求するか、請求保留するかを確認した後、請求保留とする場合には、当該データについて保留フラグをたてる処理を行う。(中略)
請求保留とは、診療行為が終了しているが、何らかの理由で保険者に請求できないことを言う。生活保護受給者の受診資格である医療券が各福祉事務所から病院へ送付されてくるのを待つケース、保険資格の確認が必要なケースが多いが、様々なケースがある。(後略)」
何のことはありません。自治体病院独自の「調定額」と言ってきましたが、これを読んでいただくとお分かりのように、実際には、調定額というのは、レセプト請求そのもので、他の民間病院と何ら変わらないことが分かります。
某病院では「調定額」と稼働額に大きな乖離
ところが、某自治体病院では私や病院長が必要としていた当該月の実際の請求分である「稼働額」と、医事課が計上してくる「調定額」とに大きな乖離が毎月発生していたのです。
つまり前月に医師を中心に医療職が提供した医療行為などが、翌月に正確に請求されていない、そんな乖離が大幅に発生していました。
当該月に提供した医療費が翌月に請求されなければ、その当該月の病院の実力(稼ぎ)が分かりません。
逆にこんなことも頻繁に起きていました。ある月にかなり大きな医業収益が計上されたのですが、その請求額は前月のものではなく、かなり以前のものだったというケースです。
点検作業、福祉事務所からの文書が届いたなどの理由で漸く請求が可能になったと医業収益が計上されるのですが、その遅れが2~3カ月どころか半年も、場合によっては1年近くズレることも珍しくありませんでした。
つまり、本来翌月に請求されるべき診療報酬が保留となり、その保留がいつ解除されたのか担当者しか分からないことで、入ってくる報酬がいつの医療行為のものなのか分からない。こんなことが日常化していたのです。
札幌市の解説にある「請求保留」が当たり前のように横行していたことを意味します。請求保留が出るのは当然のことですが、あまりにも多量になっては、病院の月毎の実力が分からなくなってしまいます。
役所、行政にとって「調定額」の概念が重要であることは理解できますが、それを元に月次の収益を計上しても該当月の売り上げ、実力は全く反映できず、それでは月次決算を作る意味がありません。
稼働額で月次決算を作るよう改善
そこで私が経理担当者と何度も打合せを行い、漸く調定額から離れ、稼働額で決算を作ってもらえることになったことは、⑤の記事で報告させていただいたとおりです。
それが実現するまでに1年近くかかったことも問題でしたが、とにかく調定額に拠らずに月次決算を作ることができるようになって、病院の毎月の実力を判断し、経営分析ができるようになりました。
真相は別のところにあった!?
この記事をここまで書いていて、思わぬことが判明しました!
どうやら「調定」が問題なのではなく、請求の在り方そのものに根本的な問題があったのでないか、的確に運用すれば、「調定額」と「稼働額」は限りなくイコール、同じものになるはずです。
某自治体病院では調定額で請求額を確定させないといけないことを盾にとって、レセプト請求を適時的確に行っていなかった隠れ蓑にしたのではないか、そんな気がしてきました。
自治体病院として調定が求められたとしても、他の民間病院と同様に普通に診療報酬は請求できるはずです。
「請求保留」になるケースが、自治体病院の患者には多い可能性は確かにありますが、請求保留は自治体病院だけに発生することでは決してありません。
同じことは民間病院でも起こり得るのです。民間ではそれを「調定額」とは呼んでいない、ただそれだけのことではないでしょうか?
つまり、「調定額」と「稼働率」は限りなく同じ金額にならなければいけないのです。それが大きく乖離しているとすれば、請求する医事課、つまりその自治体病院のレベルが低い、レセプトの請求スキルに問題があったのではないか、そう思います。
自治体病院では調定額が求められるが故に稼働額との差異は必ず発生するという話しではなく、単なる診療報酬請求のスキルの問題だったと言うしかありません。
今、真相に気づき忸怩たる思い
自分たちの請求作業が遅れ、滞ってしまったこと。本来は当然、翌月までに請求しなければならないのに、能力的にそれが間に合わないときに、調定額を隠れ蓑にして責任逃れをしていたというのが真相でしょう。
これは迂闊でした。
私が強く求めたこともあって、医事課は調定額と稼働額との差異をできるだけ小さくしようと努力していたことは確かでしたので、今更責める気もありませんが、私も病院長も「調定額」という分からない言葉を持ち出されることで、体よく丸め込まれていたのでしょう。
彼らの理屈を真に受けていたことを猛省しています。私の責任、不勉強。対応が甘かったと痛感させられました。忸怩たる思いです。
稼働額で月次決算を作ることが定着したことで、病院の月々の実力は正確に把握できるようになったことは事実です。