あのギンレイホールが閉館してしまった! 

僕が一時期熱心に通い詰めていたあのギンレイホールが今年(2022年)11月27日(日)に閉館してしまった。こんな残念なことはない。

僕はこの名画座を愛して止まず、職場が御茶ノ水にあった時には、頻繁に通い詰めていたものだ。

その後、勤務先が変わり、飯田橋から離れてしまった後は、御茶ノ水時代のように足繁く通うことはできなくなったが、新型コロナの感染状況を睨みながら、月に1〜2度は通っていた。

それが閉館してしまったのだ。

ビルの建直しに伴う閉館で、潰れたわけじゃない

名画座が閉館したと聞くと、どうしても観客数が減ったことによって経営面から営業が成り立たなくなり、潰れてしまったと思われがちだが、今回のギンレイホールの閉館は決してそういうことではない。

これだけはギンレイホールの名誉のためにも声を大にしてハッキリさせておきたい。

経営難により潰れたわけではなく、やむを得ない事情による一時的な閉館である。

ギンレイホールが入っているビルが老朽化したことによって建て替えることになり、それに伴う移転というのが、事の真相である。

したがって、ギンレイホールは、他の場所に移ってそこで新しく映画館を建設する予定なのである。

その移転先を現在、探している真っ最中とのことだが、現時点において移転先の情報は発表されていない。

ここは、一日も早く移転先を決定し、発表していただきたいものだ。多くのファンが首を長くして待っている。

いずれにしても、移転先を決定した後、映画館を新たに作らなければならないので、再開までにはかなりの月日を要するものだと思われる。

一日も早い朗報を待っているところである。

それまでこの枯渇感を如何に癒すのか、あれだけ通い詰めていた熱心なファンとしては、本当に辛い日々が続くことになる。

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「モガディシュ 脱出までの14日間」ギンレイホール最後の貴重な思い出

閉館を目前に控えていた10月早々に観た「モガディシュ 脱出までの14日間」は言葉を失う程の大変な傑作だった。歴史に残る大傑作、偉大な映画と言ってもいい。

これは韓国映画である。今更言うまでもなく、韓国映画はこの20〜30年間程を通じて世界のトップクラスにあり、名作、傑作が引きを切らない。どれだけの傑作があるか、枚挙にいとまがない。

そんな「傑作の森」の中にあって、この「モガディシュ 脱出までの14日間」は、韓国映画の新たな金字塔を打ち立てたものと大絶賛したい。

この韓国映画の超傑作を、閉館が迫っていたギンレイホールで観ることができたことは、本当に幸せだったと嬉しく思っている。

紹介した映画のパンフレットの表紙写真
パンフレットの表紙の写真。
パンフレットの最初のページの写真
これがパンフレットの最初のページ。映画の概要の紹介ページとなる。

 

僕は実は、実際にギンレイホールで観てみるまで、この映画には何も期待していなかった。世評の高い作品だったので、それなりのものだろうとは思っていたが、まさかここまでの映画史に残る未曾有の傑作だとは夢にも思っていなかった。

一度観て打ちのめされ、深く感動させられた僕は、どうしてももう一度観たくなり、休みを取って、もう一度観に行った

10月初頭のホンの短期間に2回ギンレイホールで観たわけだ。これは忘れ難い貴重な思い出となった。

ギンレイホールの写真①
夜のギンレイホール。上映後に撮影した。閉館の10日程前である。
夜のギンレイホールの写真②
別れを惜しみつつ、スマホのシャッターを押した。

 

閉館までまだ2カ月近くあったが、最後の最後にまた忘れ難い感動的な映画に巡り会うことができ、休みを取ってまで通ったことがギンレイホールのかけがえのない思い出となって残ったことは、本当に嬉しい。

ちなみに、正確には僕はこの「モガディシュ」の後、ギンレイホールで3本の映画を観ている。以前紹介した「ベルファスト」はその中の1本だった、念のため。

ギンレイホールは、閉館間際の最後の最後に、本当に素晴らしい傑作を上映してくれたわけで、感謝するしかない。

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映画の基本情報:「モガディシュ 脱出までの14日間」

韓国映画 121分(2時間1分)

2022年7月1日 日本公開

監督・脚本:リュ・スンワン

出演:キム・ユンソク、チョ・インソン、ホ・ジュ、ク・ギョファン、キム・ソジン、チョン・マンシク 他  

撮影:チェ・ヨンファン

青龍映画賞(韓国で最も権威のある映画賞)5部門受賞 「作品賞」「監督賞」「助演男優賞」他

キネマ旬報ベストテン:来年度の対象作品扱い

紹介した映画のブルーレイのジャケット写真
こちらはブルーレイのジャケット写真。
ブルーレイの裏ジャケット写真
ブルーレイの裏ジャケット写真。ストーリー紹介は分かりやすくまとまっている。
紹介した映画のブルーレイのディスク本体
こちらはブルーレイのディスク本体。ハン大使とカン参事官。あまり見ないスチールがディスク本体に印刷されているのは嬉しい。

ストーリーの紹介

1991年。韓国は前年の1990年にソウルオリンピックを成功させながらも、未だに国連に加盟しておらず、「アフリカの角」と呼ばれるソマリアで、北朝鮮と競い合って国連の加盟招致運動をしていた。その韓国と北朝鮮の大使館が、その地で起こった非常に有名な「ソマリア内戦」に巻き込まれ、命からがら脱出するまでのサバイバルを迫力の映像でどこまでもリアルに描き尽くす。もちろん実話であるが、最近まで詳細は知られていなかったという正に隠れた歴史がクローズアップされた。

ライバル同士の両国が、とんでもない災難に共に巻き込まれた際に、どういう行動を取ったのか?
どんな方法で脱出しようとしたのか?果たしてた無事に脱出することができたのか?

 

パンフレットとブルーレイのジャケット写真とディスク本体の写真
パンフレットとブルーレイのジャケット写真とディスク本体を並べてみる。

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事件の概要と時代背景

ソマリアの内戦は、世界中のあちこちで勃発した内戦の中でも一際悲惨な、想像を絶する過酷なものとして知られ、1988年に勃発して以来、様々な紆余曲折を経ながら、何と今日でも続いている未曾有の内戦である。

勃発以来、もう既に35年間も経つというのに、未だに解決しない悪夢のような泥沼の内戦が続いている。アメリカはもちろん、国連も介入したが、それらが更に問題を拗らせて泥沼化し、一旦解決したように見えても、また戦闘が再開されるという悲惨な内戦が継続している。

ソマリアとモガディシュの地図①
ここがソマリアと首都のモガディシュ。概要図。
ソマリアとモガディシュの地図②
ちゃんとした地図でソマリアとモガディシュを示す。ソマリアは「アフリカの角」と呼ばれている。

 

映画に描かれたのは今回が初めてではなく、このブログの中でも何回も取り上げてきたあのリドリー・スコット監督の渾身作「ブラックホーク・ダウン」が有名だ。あれを観てもらえば、ソマリア内戦の悲惨さと地獄のような戦闘ぶりが痛いほど理解できるだろう。

今回の韓国映画「モガディシュ 脱出までの14日間」は、ソマリア内戦が勃発と共に瞬く間に激化し、反乱軍が首都のモガディシュを制圧し、空港も封鎖され、通信網も遮断されるという未曽有の混乱の中、ソマリアでロビー活動を繰り広げていた韓国と北朝鮮の大使館員たちが、その紛争に巻き込まれてしまう姿をリアルに描く。

そこからの必死の脱出劇が目を疑うような迫力の映像に彩られながら、互いに憎しみ合いながらも、この困難な状況から嫌々ながらも協力し合うことになり、知恵を絞りながら、脱出に向けて奮闘する姿が感動的に描かれる。

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国連加盟のためにソマリアの支持が必要だった韓国と北朝鮮

1991年時点において、韓国も北朝鮮もまだ国連に加盟が認められていなかったことが、最も重要な点だ。韓国は前年にソウルオリンピックという国際イベントを成功に導きながらも、国連には加盟が認められていなかった。1991年は、昭和55年。この時点でオリンピックまで成功させた韓国が国連に加盟していなかったことにあらためて驚かされるが、紛うことなき事実である。

互いに相手よりも早く国連に加盟して、国際的な認知を取り付けようと必死のロビー活動を繰り広げていた韓国と北朝鮮。

国連加盟に必要になってくるのは国連加盟国の支持であり、当時はアフリカが続々と国連加盟を果たしており、そのアフリカ諸国の支持と承認が不可欠だった。

そのアフリカ諸国の支持と承認の鍵を握っていたのがソマリア。ソマリアの支持と協力が得られれば国連加盟がグッと近づくという背景があったのだ。ソマリアが国連加盟のキャスティングボードを握っているということで、韓国も北朝鮮も必死になって自国を売り込んでいた。

何だかおかしな話しだと思われるが、歴史的事実である。

韓国も北朝鮮もどちらかしか認められないだろうと踏んで、互いに足を引っ張り合いながら、売り込み合戦に余念がない

そんな中で、寝耳に水とばかりに降って沸いたソマリア紛争。これに韓国と北朝鮮が巻き込まれてしまったのだ。

北朝鮮が韓国に助けを求めるハメに

ソマリア内戦の被害をモロに受けたのは北朝鮮の方だった。大使館が襲撃され、小さな子供たちも含めて逃げ出すしかなかったが、外にも反乱軍が溢れていて、どこかに匿ってもらわないと全滅しかねない。

そんな彼らが頼ったのは、奇しくも憎むべき敵であり、ライバルであった韓国だった。歴史の悪戯と言うべきか。

ただでさえ憎しみ合っている両国。ソマリアでも政府を味方に付けるべく互いに足の引っ張り合いを続けていた因縁の相手だけに、助けてくれと言って全員で頼ってこられても、頼まれた韓国もさぞや困ったことだろう。

韓国大使館だっていつ何時、襲撃されるか分かったものではない。

受け入れたものの同舟異夢

韓国大使館は迷いに迷ったが、何とか北朝鮮を受け入れる。そうは言っても憎しみ合う両国。すんなり一致団結して協力し合おうとはならない。同舟異夢。このあたりの両国大使館員の心理的葛藤と、そんな中にあって、疑心暗鬼に陥り、衝突を繰り返しながらも、少しずつ理解し合い、助け合おうと歩み寄る姿に目頭が熱くなってくる。

こうして相互不信と疑心暗鬼を否めないまま、知恵と勇気を振り絞りながらのモガディシュからの必死の脱出作戦がスタートする。

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名作が目白押しの韓国映画の中でも屈指の傑作の誕生

これは本当に素晴らしい映画。これだけハラハラドキドキさせられながら、手に汗握るサスペンスフルな映画は、本当に久々に観た。

単なるアクション映画とか、サスペンスとは全く次元を異にするヒューマンドラマであり、政治ドラマでもある点が、観る者を感動させてやまない。

韓国にはこの数十年、日本が到底太刀打ちできないような名作、傑作が量産されていて、僕自身、感動させられた韓国映画を思い起こしても、たちまち10本、20本は直ぐに列挙できるのだが、今回の「モガディシュ 脱出までの14日間」は、それらの過去の名作、傑作群を遥かに上回り、歴代最高の韓国映画と言ってみたくなる稀有の傑作だと断言したい。

未だかつて観たことのない度肝を抜かれる大迫力のカーアクション

先ずは、観ていて空いた方が塞がらなくなるのは、終盤のかつて観たことのないようなカーチェイスというかカーアクション

反乱軍とソマリアの国軍が入り乱れて襲撃してくる中での、2台の車に便乗して脱出を図る韓国・北朝鮮両国の大使館員たち。激しい銃撃を浴びせられる中、決死の脱出を図るシーン。度肝を抜かされる大迫力のカーアクションに本当に言葉を失ってしまう

凄い。本当にこんなに激しく危険極まりないカーアクションは未だかつて観たことがない。

ハラハラドキドキさせられて、ギンレイホールで観ていたときも、思わず身を乗り出して、画面に見入ってしまった。そして、危機に直面する度に、大きな歓声を上げてしまうことがしばしば。

この臨場感と切迫感、高揚感は、前回取り上げだあの「トップガン マーヴェリック」を軽く凌いでしまう程

激しい銃弾が雨あられのように降り注ぐ中、普通の乗用車で逃げ延びるのは、最新のテクノロジーが結集した戦闘機で逃げるよりも、よっぽどリアリティが高く、観ていてハラハラドキドキさせらる。

パンフレットからの引用写真2枚
パンフレットから引用した写真。

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分断国家の底知れぬ苦悩と悲しみ

この映画を単なるアクション映画、類い稀なカーアクションに彩られたサバイバル映画だと思わないでほしい。

憎しみ合って互いの足を引っ張り合っていた韓国と北朝鮮の大使館員たちが、共通の命の危険に接して、戸惑い、疑心暗鬼に陥りながらも、最後には力を合わせて、互いに知恵を出し合って、一丸になって脱出を図る姿には、どうしたって感動させられてしまう。

そして、この映画の最大の見どころにして得も言われぬ感動に襲われてしまうのは、最後のシーンである。

これは本当に胸が詰まる。静かならがもどこまでも深い感動が押し寄せてきて、涙が止まらなくなること必至

分断国家の底知れぬ苦悩と絶望、悲しみに安易な感想など発せられなくなる。

パンフレットから引用した写真
これもパンフレットから引用した写真。

監督・脚本のリュ・スンワンに大喝采!

この映画を作ったのは、韓国映画界が誇る期待の俊英リュ・スンワン。本作では監督だけではなく、脚本も一人で書いている。どこからどこまでもリュ・スンワンの映画なのだ。

大したものだと思う。脚本が傑出しているし、それを度肝を抜かれる映像にまとめ上げた功績はどんなに評価しても評価し切れない。

まさに天才と呼ばれるべきだ。

青龍映画祭では常連で、過去「生き残るための3つの取引」(2010年)で作品賞と監督賞、「監督賞はベテラン」(2015年)で監督賞を受賞しており、今回は3回目の監督賞の受賞となる。

活きの良いアクション映画で世界的にも人気を博し、「韓国のタランティーノ」と呼ばれているが、今回一挙に大輪を咲かせた感がある。

まだ48歳と若く、これからの活躍が楽しみでならない。

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俳優陣も素晴らしいの一言!

俳優陣がまた素晴らしい。韓国大使館、北朝鮮大使館、その全ての俳優陣が実にいい味を出している。少しうだつが上がらない駐ソマリア韓国大使を演じたキム・ユンスクが実にいい味を出していて、感心させられた。その片腕としてハン大使を支える韓国大使館の若き参事官を演じたチョ・インスン。出世欲に駆られ、プライドが高く、何かと計算高くも、いざというときには的確な判断と決断力で、身を挺して危険に挑んでいく。その行動力に惚れ惚れとさせられた。実にカッコいい。

北朝鮮の大使館員を演じた俳優陣もそれぞれが非常に存在感があって、忘れ難い。

登場人物の全てが見事なアンサンブルを醸し出していて、これは本当に見応え十分だ。

彼らの深い悲しみを湛えた表情が忘れ難い

この映画が単なるアクション映画で終わらなかったのは、激しいアクションの中にあっても錯綜した複雑な思いをそれぞれが的確に演じてくれたことが大きく貢献していると思われてならない。

ちなみに両国の国連加盟はどうなったか

映画とは直接関係ないが、肝心の国連加盟はこの命からがらの脱出劇の後、同年(1991年)9月の第46回国連総会で、加盟159カ国の全会一致で、韓国と北朝鮮の国連加盟が同時に認められた、ということは伝えておきたい。韓国は盧泰愚(ノテウ)大統領のとき、北朝鮮はもちろん今の金正恩の父親である2代目の金正日のときである。

一人での多くの映画ファンに観てほしい

これだけ見応えのある映画はそうあるものではない。一人でも多くの映画ファンに観ていただき、今日の韓国映画の傑出したレベルの高さと、韓国と北朝鮮が辿った不幸な歴史と、それが現在に至るも少しも解決していないやりきれなさに思いを馳せていただきたいと、切に祈るものである。

声を大にして、推薦したい。

 

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