興奮必至の驚くべきおもしろさ

半藤一利さんの対談シリーズの紹介をドンドンと進めていきたい。一気に5冊も読んだのだ。

第2弾は、出口治明さんとの対談である。

「明治維新とは何だったのかー世界史から考える」。中でも、これは本当におもしろくて、目から鱗の連続で興奮させられた。

正に我が意を得たり!と大いに賛同したくなる部分が次から次へと出てきて、時の経つのも忘れて一気に読んでしまった。

まるで良くできた推理小説を読んだ時のように、中々途中で止めることができず、寝るのも止めて最後まで読み切ってしまったことが忘れられない。

ブログで紹介した「明治維新とは何だったのか」の本の表紙の写真。半藤さんと出口さん二人の顔写真。
この表紙は結構気に入っている。半藤さん88歳、出口さん70歳の高年齢対談だが、エネルギーに溢れ、熱い対談が繰り広げられる。
紹介した本の裏表紙の写真。帯に本書で繰り広げられる主なテーマが書かれている。
本書で繰り広げられる主だったテーマが披露される裏表紙。

出口治明さんのこと

僕はこのブログの中で何冊か出口治明さんの本を紹介してきた。

先ずは「哲学と宗教全書」。そして「貞観政要」だ。

出口さんの経歴についてあらためて簡単に紹介しておこう。

日本生命で長く勤務してロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退職し、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、還暦で日本初のネットによる生命保険会社であるライフネット生命を開業。社長・会長を10年務め、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)の学長だ。

この人はとにかく本の虫。膨大な読書量と知識を誇り、正に新たな知の巨人である。

今まで知の巨人というと僕が愛して止まない立花隆であり、まだ若い佐藤優がそう呼ばれたり、あるいは知の怪物と呼ばれたりしているが、出口治明こそ現在の知の巨人と呼ばれるのがふさわしい稀有の人。 

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どんな本なのか

これはもうタイトルのとおりの本である。あの明治維新が何だったのか、という明治維新の本質について、「幕末史」で昭和史の専門だけではないことが広く知られることになった歴史探偵の半藤一利さんと、知の巨人、何よりも博識の人である出口治明さんとの明治維新の本質を巡っての徹底的な対談である。

世界史的な視点を意識して語られているのが特徴だ。

2018年5月に出版。ソフトカバーの約250ページ。少し大きめな本ではあるが、フォントが大きいのでスラスラと直ぐに読めてしまう。半藤さんはこの時、既に88歳になられていたが、余裕の矍鑠(かくしゃく)ぶりで頭が下がる。出口さんは半藤さんよりも18歳年下であり、この時、70歳ということになる。

紹介した本を立てて、横から写した写真。それなりの厚みがある。
それなりに厚みがあるように見えるが、紙が厚いせいか250ページ弱しかない。

二人に共通する明治維新の認識とは  

このことが非常に重要になる。半藤一利はベストセラーにもなった「幕末史」において、賊軍側の方に身を置いている。すなわちアンチ薩長、明治維新を推し進めた薩摩と長州に対して反感を抱いているということだ。半藤さんご自身が新潟県の長岡をルーツとする人で、長岡藩は戊辰戦争において最後まで薩長に対抗し続けた「賊軍」の出身である。

そのルーツが長岡だったということだけではなく、薩摩と長州の明治維新の進め方、その後の日本を支配し続けた藩閥政治、すなわち薩長による支配を批判的に見ている人だ。

実は、出口治明も薩長には批判的で、賊軍側に立っている。

そして、何を隠そう。僕も薩摩はまだしも、長州が大嫌いで、今日まで脈々と続く長州と山口県の政治的支配に我慢がならない人間なのである。

あの戦争(日中戦争・太平洋戦争)で日本を滅亡へと導いた元凶は薩長にあったのではないか、そう思われてならない。

本書の中でも「大日本帝国は薩長がつくって薩長が滅ぼした」と断言されている。

この二人による対談で、「薩長史観」に隠された幕末と維新の本質が様々な角度から暴かれる。全体を通じて薩長への手厳しい批判が満載で、僕も拍手大喝采となる。

本当におもしくてたまらない。そして何よりも溜飲が下がることこの上ない。

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グランドデザインを描いた阿部正弘の先見性と偉大さ

僕がこの本の中で認識を改めたのは黒船が来た時の老中首座の阿部正弘のこと。優秀でありながらも若くして亡くなってしまっており、それほどすごい人物だと思っていなかったが、半藤さんも出口さんも二人揃って、口を極めて大絶賛している。

多くの方が阿部伊勢守正弘という人物を正確に認識していないと思うので、ここで本書を引用しながら説明しておくと、何と25歳の若さで老中となり、老中に再任された天保の改革の水野忠邦と争って、水野を追い落して、27歳で老中首座に就いた。老中首座というのは今で言えば総理大臣であり、何と27歳の首相誕生だったわけだ。そして老中首座の阿部正弘が35歳の時に黒船がやって来たのである。

ペリーが来た時点でこの若い老中首座は、「開国」して産業を興し、交易を行って「富国」を実現し、そのお金で「強兵」を養う。この三つの柱でこの国を立て直すしかないと覚悟を決めた。その後の「安政の改革」で勝海舟、大久保忠寛(一翁)などの開明派を登用して、講武所(陸軍の前身)、長崎海軍伝習所(海軍の前身)などを矢継ぎ早に創設した。

明治維新の「開国」「富国」「強兵」というグランドデザインを描き、そのための準備に着手した阿部正弘は、明治維新の最大の功労者のひとりではないかと半藤さんから大絶賛されている。

攘夷などという馬鹿げたことを言わないで、開国を決め、民の意見を盛んに求めた稀有な人物であり、その後の日本の進むべき道、グランドデザインを全て描いていたと絶賛する。

老中首座阿部正弘の肖像画の写真
老中首座・阿部正弘の肖像画。

 

歴史は不思議だ。普通に教科書などで日本史を学ぶと、「水野忠邦の天保の改革」は広く知られているし、安政と言えば、「改革」ではなくて「安政の大獄」の方が前面に出て来てしまう。安政の大獄を行った井伊直弼の前に、これほどの開明性を持った優れた人物がいたことはむしろ隠れてしまっている。

ところが、異例の若さで大出世を遂げた阿部正弘は、何と39歳の若さで急逝してしまう。何とも皮肉だ。

「阿部さんがもっと長く生きていたら、幕末はずいぶん違う流れになっただろうと思います。この人が早く死んじゃったんで、幕末のゴタゴタがよりおかしくなっちゃうんですよ」と半藤さん。

明治維新における最大の功労者は誰かという本書の一番最後の問いに対して、出口さんは迷うことなく「阿部正弘だと思っているんです。阿部正弘の描いたグランドデザインを実現した大久保利通が、二番目の功労者ではないでしょうか」言い切っている。

それくらい、あの時代の幕府の中にあって、幕府が決めて250年間も続いていた鎖国を解いて、開国を主張し、富国強兵、つまり後々明治政府が唱えたことを、黒船がやって来た時点で唱えていたことに敬服するのである。

こういう認識は、お恥ずかしながら僕も全く持っていなかった。このことを認識できただけでも、この本を読んだ価値があったと断言できる。

吉田松陰の実態と警鐘

一方で実に手厳しいのが吉田松陰の評価。もうボロックソにこき下ろされる。

長州嫌いの二人に言わせればそうなってしまうのだろうが、本当に厳しい。

吉田松陰は、半藤さんに言わせると「大したことのない人物」であるが、伊藤博文や山縣有朋たちが、長州閥の自分たちを権威づけするために最大限に利用しただけだと。吉田松陰はむしろ危険な人物に過ぎないと断言している。

「松陰が獄中で記した「幽囚録」には、急いで軍備を整え、カムチャッカや琉球、朝鮮、満州、台湾、ルソン諸島を支配下におさめるべし、なんて書いているんです。これはものすごい膨張主義・侵略主義じゃないですか。そんな危険な思想家を、伊藤と山縣がうまく使った結果、いつの間にか日本でも最大級の思想家のようになってしまった」と相変わらず手厳しい。

侵略主義の極めて危険な思想の持ち主で、その影響を受けた長州出身のダメな政治家たちが日本を間違った方向に導いたというわけだ。

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最後に残ったのが山縣有朋だったという悲劇

その際たる存在が山縣有朋である。この男が日本をぶち壊してしまったと。山縣有朋の権力欲と野心的な性格によって亡国の原因が作られてしまったという。

このブログの中でも何度も指摘してきた統帥権の独立と帷幄上奏権によって、シビリアン・コントロールを外してしまったことを言っている。

明治維新の実質的な推進者は薩摩の西郷隆盛と大久保利通の二人であり、この幼なじみにして深い絆で結ばれた稀有な二人が例の征韓論を巡る明治6年の政変で仲違いした後、西郷隆盛は西南戦争を起こし、大久保利通に制圧され、自刃。

その勝者であった大久保利通もその翌年に紀尾井坂で暗殺されてしまい、あっという間にこの明治維新の巨星二人が相次いで死んでしまった。

これが大きかったという。同じ頃、長州の大物であった木戸孝允も病没しており、その後は、薩摩は西南戦争の過程において、西郷隆盛と大久保利通に限らず、互いに潰しあって、目ぼしい人材は半分くらい消えてしまった。残ったのは長州だけとなってしまう。

西郷、大久保亡き後、後を継いだのは長州の小人物

そしてその後の日本を背負ったのは、長州出身の小人物であった伊藤博文と山縣有朋の二人だったのだ。

大久保利通の後を継いだのが伊藤博文であり、西郷隆盛の後を継いだのが山縣有朋という構図になる。

伊藤博文は、大久保利通とは比べ物にならないスキルの持ち主であったが、彼は大久保利通が進めようとした路線を忠実に献身的に推し進めたので、まだ傷は小さかった。

ところが、西郷隆盛の後継者となった山縣有朋は、人間的にも能力的にも西郷隆盛とは比べ物にならない小人物であった。

この男の歪んだ野心が全てを台無しにしてしまったという考え方だ。

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西郷隆盛は権力欲のない毛沢東

半藤さんは西郷隆盛は中々難しい人物で、どうもよく分からないという。僕も同感である。

これ以上魅力的な男はいないようにも思えるが、以前ブログに書かせてもらった鹿島茂の「ドーダの人、西郷隆盛」のように、陰ドーダで、あのように誰もが憧れ、焦がれる存在が、逆に人々を破滅に導く可能性があるというのも分からなくはない。

むしろ、もっと俗人で金にも欲にも目がない人間の方が良かったのかもしれないが、本当にこの人は自分自身の名誉・栄達を求める人間ではなく、政治的な権力にもあまり関心がないという立派過ぎたことが、却ってマイナスということなのだろう。

清廉潔白と言えるのかもしれないが、世界史上で清廉潔白で物欲がない人物というと、何と言ってもあのフランス革命で恐怖政治を断行したジャコバン党のロベスピエールやヒトラーを思い浮かべてしまうである。

西郷隆盛は明治維新という革命を起こしてせっかく新政府ができたのに、その新政府の担い手たちは自分の栄耀栄華を追い求めて腐っていったので、最後にまた立ち上がったわけだが、もう一度革命をやり直すという永久革命家で農本主義者で詩人という点では、毛沢東に似ていると出口さんは指摘する。

但し、ひとつ大きな違いがあって、毛沢東には権力欲があって、西郷さんにはそれがない、そこが大違いだと二人で意気投合。

歴史に興味のある人は必読

とにかく最初から最後までめちゃくちゃおもしろく読める一冊。本当にワクワクドキドキしながら、この先に何が書いてあるんだろうと期待に胸が高鳴ることがしばしばであった。

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幕末の志士たちの人物評が最高におもしろい

井伊直弼や坂本龍馬、桂小五郎、大久保利通、板垣退助などの幕末の志士たち人物評がとにかくおもしろい。幕末の志士でないが、半藤さんが愛して止まない勝海舟のことには熱が入る。最大の陰謀家とされる岩倉具視は滅多斬りだ。

幕末や明治維新に興味のある方にとってはこれ以上おもしろくて、夢中になれる本はないと断言したい

特段この時代に興味がなくても、歴史が大きく動いた大変革時に、どう生きるべきなのか?何を信じて行動すべきなのか?あたりに関心がある人にとっては、非常に参考になる一冊となるだろう。

これを読んでいるときの僕の味わった高揚感とワクワクドキドキ感を、一人でも多くの方に体験していただきたいと切に願う次第。

 

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