「ターフェル・ムジーク」の後、次は何を聴くべきか?

忘れられた大作曲家テレマンの紹介をさせていただいた。しかしながら、このテレマン。4,000曲以上と作曲した作品数でギネスの世界記録の認定まで受けている膨大な量の作品を残し、この30年間でその掘り起しが急ピッチで進んでいるが、未だその全容が掴めていない有様だ。

そんな中で絶対的な最高傑作とされる「ターフェル・ムジーク」の次に何を聴くべきなのかは悩ましい問題だ。僕が特に気に入っている作品と演奏を、ザっと数えても7~8種類は直ぐに出てくるが、ここから何を選んで、第二に聴くべきものとして紹介するのは、中々難しい。さてどうしたものか?

いずれ他の傑作・名盤も紹介していくものとして、今回は先ずはラインハルト・ゲーベル指揮のムジカ・アンティクワ・ケルン(MAK)による「管楽器による協奏曲集」を取り上げることとしたい。

相当悩んだように書いているが、実はこれは当初から確定している一押しのCDなのである。テレマンの素晴らしさとその音楽の粋を1枚のCDで満喫しようとしたら、このCDしかない。自信をもってお勧めしたい。

これがCDのジャケット写真。輸入盤である。

テレマンの協奏曲と、このCDに収められた作品について

テレマンは4,000曲以上という途方もない作品を作曲したので、クラシックのありとあらゆるジャンルに膨大な数の作品がある。バッハに比べると声楽曲の大作が少ないような気がするが、受難曲だけで40曲以上も作曲したとされているので、オペラ作品を含めて、これら声を伴う作品の発掘はまだまだこれからとなるのだろう。

器楽作品では、ありとあらゆる楽器について、どのような演奏形体のものであっても、量産されている。実に様々な形体、楽器について膨大な作品が遺されていて、これらは日々新しい録音が発表されている状態だ。大オーケストラによる管弦楽曲、そこに1~3名の独奏楽器が加わる協奏曲、四重奏(カルテット)、三重奏(トリオ)などの室内楽。そして独奏楽器による作品まで、それそれのジャンルに傑作・名作がひしめいている。

どれを取り上げてもテレマンの素晴らしさが満喫できるが、特にテレマンが得意中の得意にしたのが、独奏楽器とオーケストラによる協奏曲、いわゆるコンチェルトだった。

協奏曲(コンチェルト)は、テレマンの最高傑作として有名な紹介したばかりの「ターフェル・ムジーク」の中にもそれぞれの曲集の第3曲目に入っていた。その3曲のコンチェルトの素晴らしさには驚嘆させられるばかりだが、今回紹介の協奏曲は、もちろんそれとは別の独立した協奏曲の寄せ集め(コンピレーション)CDである。ここには6曲の管楽器のための協奏曲が収められているが、いずれも甲乙つけがたいくらい見事な作品ばかりで、これを聴いてもらえれば、それだけでテレマンの魅力に魂を奪われてしまうに違いない。大変な名盤である。

協奏曲というのは独奏楽器ととオーケストラとの共演なので、普通はピアノやヴァイオリンが主流だ。但し、テレマンやバッハが活躍した18世紀にはまだピアノが存在しないので、主にヴァイオリンなどの弦楽器がメインとなるべきところ、テレマンは管楽器用の協奏曲も量産し、このCDではその中の飛び切りの傑作を6曲も集めている。ここがポイントだ。

管楽器には木管楽器と金管楽器と2種類あるわけだが、具体的に分かりやすくいうと、トランペット、オーボエ、ホルンなどを指す。最も人気のある管楽器はフルートであろうが、この18世紀には現代で用いられているフルートはまだ存在せず、古楽器としてのフルートとなる。この古いフルートはフラウト・トルヴェルソと呼ばれることが多い。テレマンはリコーダーを愛し、リコーダーのための作品も多い。

そんな管楽器はテレマンが最も得意とした楽器群で、テレマンが作曲した管楽器のための協奏曲は数え切れないほど残っているが、いずれも素晴らしい作品ばかりである。

テレマンの有名な肖像画を2枚、向き合うように並べてみた。これだけ繰り返し見せられると、読者の皆さんもテレマンの顔がしっかりと頭に入ったことだろう。

今回紹介のCDに収められた管楽器のための協奏曲は全部で6曲

① フルート協奏曲 ニ長調
② 3つのオーボエと3つのヴァイオリンのための協奏曲 変ロ長調
③ 2つのシャリュモーのための協奏曲 ニ短調
④ トランペット協奏曲 ニ長調
⑤ リコーダーとフルートのための協奏曲 ホ短調
⑥ トランペットとヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調

何とも魅力的なラインナップ。どんな音楽が聴こえて来るのか、想像できるだろうか?

ちなみに③のシャリュモーというのは、バロックから初期の古典派の時代に用いられた現在のクラリネットの前身となった民族楽器のこと。古クラリネットと考えてくれればいい。

国内盤の曲の詳細情報。いずれの曲も極めて短いことが良く分かると思う。その短い曲の中に込めたテレマンの彫琢がすごい。
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指揮者のゲーベルとムジカ・アンティクワ・ケルンについて

ドイツを代表するヨーロッパ屈指の古楽器アンサンブルである。バロック・ヴァイオリン奏者のラインハルト・ゲーベルが1973年にケルン音楽大学の卒業生を集めて結成した古楽器アンサンブルである。元々17〜18世紀のドイツ音楽を演奏するために結成され、バッハ、ヘンデル、テレマンらを盛んに演奏してきたが、2003年、結成30周年を機に解散してしまったのが、残念でならない。

当初は室内楽というほんの数人だけによる音楽を演奏していたが、徐々に規模も大きくなり、協奏曲や管弦楽曲も演奏するようになった。

指揮者のラインハルト・ギ―ベル。CDの解説書から。
「ターフェル・ムジーク」を録音した際のMAKのメンバー。CDの解説書から。

彼らが最も得意としていた作曲家がテレマンだった。例の「ターフェル・ムジーク」を始め、テレマンの録音は非常に多く、その全てが屈指の名盤ばかりだと言っていい。テレマンの演奏で頭角を現し、不動の地位を獲得しただけに、そのテレマンは本当にどれを聴いても満足できるものばかりだ。その歯切れの良さと躍動感、個々の楽器の演奏技術の高さは他の古楽器アンサンブルと比較しても抜きん出ている。

ムジカ・アンティクワ・ケルンによるテレマン録音の集大成。上は10枚組。彼らのテレマンの主要録音はほとんど収納されている。下はタワーレコードから出た国内版。日本語の解説が嬉しい6枚組だ。

今回紹介のCDは、そんな彼らの演奏の素晴らしさを知るには最適であるばかりか、テレマンの音楽の素晴らしさもトコトン味合わせてくれる、願ってもないものだ。


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その傑出した演奏とテレマンの音楽の素晴らしさに酔い痴れる

冒頭のフルート協奏曲の出だしを1小節聴いただけでもうすっかりテレマンの魔術の中に身体ごと引き込まれてしまう。この聴く者を即座に惹きつける力はどこにあるのだろう。本当に魔法使いではないだろうか。冒頭から何とも愛くるしい表情を見せ、それがまたどこまでも優雅なのである。素朴ながらも軽妙にして流麗な古フルートの音色が絶品だ。音楽がまるで万華鏡のように目まぐるしく表情を変えていく。変幻自在というのはこのことだ。そしてどこまでも軽やかで、心がウキウキと軽くなって来る。

そして全体の中での最高の聴き物は終曲のトランペットとヴァイオリンのための協奏曲。その第1楽章の冒頭に釘付けになる。本当に気持ちのいい晴れやかな音楽。その軽快な乗りの良さは特筆もので、聴いていて、自然と身体が動き出してしまう。この愉悦感が最高だ。この魅力こそテレマンの真骨頂。

快活で生き生きとした生命感に満ち溢れた音楽。本当に心が浮き立ってしまう。


Telemann テレマン / Concertos For Wind Instruments: Goebel / Mak 輸入盤 【CD】

メンタルを病んだり、うつ症状のある方に最適な音楽ではなかろうか

聴いていてこれだけ心が晴れやかになり、幸福感に満たされるのだから、僕はつくづく思うのだ。

このテレマンの音楽はメンタルを病んだり、うつ症状のある人にとって、格好の清涼剤となるのではないか。これを聴いて、嫌なことはみんな忘れてしまいたい。そしてテレマンの音楽に無心に身を委ねればいい。そんな気にしてくれるテレマンのかけがえのない音楽がここにある。

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