森岡毅の凄さを実感させてくれる最高の書

やっぱり森岡毅は凄い!ということをここまで実感させてくれる本はない。

前回取り上げた「USJを劇的に変えた、たった一つの考え方 最高を引き寄せるマーケティング入門」ですっかり森岡毅の魅力にはまり、熱心なファンとなった僕が読んだ森岡毅の第2弾がこれだ。

実は、今回紹介する「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」(以下、「ジェットコースター」と表記)の方が先に書かれている、というよりも本書は森岡毅の最初の単行本、処女作なのである。

2冊目として書かれたのが、最初に紹介させてもらった「USJを劇的に変えた、たった一つの考え方 最高を引き寄せるマーケティング入門」(以下、「マーケティング入門」と表記)なのである。

紹介した文庫本の表紙の写真
これが表紙の写真である。

 

そういう意味では僕も森岡毅が書いた順番どおりに読んだ方が良かったのかもしれないが、それはもう今更やむを得ない。この2冊は兄弟のような作品であり、読む順番が逆になっても何ら差し支えないと思われる。 

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日曜日の初耳学の続編はどうだったか?

前のブログの最後に書いた、日曜日の初耳学の森岡毅の第2弾【続編】(2022.6.12放送)を見ていただいたろうか?

僕は前回ブログの冒頭にも書いたように日曜日の初耳学の森岡毅の最初のテレビ放送を見て、すっかり森岡毅に惚れ込んでしまっただけに、その続編に大変な期待を抱いて、ブログでも勧めたのだが、もちろん大いに感銘は受けたとは言うものの、残念ながら続編は最初に僕が見て感激した前編に比べると、明らかに見劣りした。

1回目(前編)は40分間。前回の後編は30分間で、この10分間の違いは明らかに大きかった。掘り下げ方がかなり違う。

それだけではなく、最初のテーマ「組織のトップが部下を厳しく叱れない、指導できない」という話しは森岡毅である必要はなかった。後段の「自分を売り込む極意」はやっぱり森岡毅ならではの非常に素晴らしい内容で、番組全体としては森岡毅の素晴らしさは十分に伝わってきたのだが。

やっぱり森岡毅が買いた本を読んでほしい!そう願わずにはいられない。

森岡毅の第1作「ジェットコースター」の魅力

今回読んだ森岡毅の第1作目「ジェットコースター」は、これまためちゃくちゃ面白い本で、これを読んで僕は益々森岡毅の虜になってしまった。「マーケティング入門」に勝るとも劣らない感動的な一冊であり、非常に役に立つ素晴らしい本だった。

読んでいて心から感動し、涙が込み上げるのを抑えることができなくなってしまう程だ。読む人の心をこれだけ高揚してくれる本も珍しい。僕の仕事である病院の改革にも非常に参考になった。

俄然やる気が膨れ上がってくるのである。

本書の基本情報:全体の構成とテーマ

平成28年4月25日初版発行。僕が購入したものは令和4年4月5日発行の20版である。相当売れているようだ。

角川文庫である。森岡毅の現在、唯一の文庫本。全245ページ。プロローグとエピローグ付きの全7章からなる。そこに詳細な「文庫本あとがき」が付いている。

それぞれのタイトルを表示する。非常に分かりやすいタイトルで、内容が一目瞭然。これもまた森岡毅の魅力に他ならない。

プロローグ 私は奇跡という言葉が好きではありません
第1章 窮地に立たされたユニバーサル・スタジオ・ジャパン
第2章 金がない、さあどうする? アイデアを捻り出せ
第3章 万策尽きたか! いやまだ情熱という武器がある
第4章 ターゲットを疑え! 取りこぼしていた大きな客層
第5章 アイデアは必ずどこかに埋まっている
第6章 アイデアの神様を呼ぶ方法
第7章 新たな挑戦を恐れるな! ハリー・ポッターとUSJの未来
エピローグ USJはなぜ攻め続けるのか?
文庫本あとがき 打ち上げられた「ハリー・ポッター・ロケット」

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どんな内容なのか

僕が最初に読んだ森岡毅第2作目の「マーケティング入門」と今回紹介する第1作目の「ジェットコースター」は、内容的には明らかに違う。

この2冊は立て続けに書かれた兄弟のような存在でありながら、内容的には重複する部分は意外に少なく、非常に良心的な作りになっている。

「マーケティング入門」は、タイトルどおりにマーケティングそのものの解説書。その森岡毅が解説するマーケティングの内容が非常に分かりやすいもので、僕は興奮を抑えられなかったのだ。

今回の「ジェットコースター」の方は、そういう解説書ではなく、森岡毅のUFJに転職するまでの経緯と、UFJ転職後にあの大ヒットの記念碑的な壮大なアトラクション「ハリー・ポッター」を完成させるまでの具体的な取り組み、特にハリー・ポッターを開設させるまでの過渡期を如何に成功に持ち込むかという、森岡毅が散々悩み抜いて、考え抜いた戦略と戦術への具体的な取り組みを赤裸々に告白した、言ってみれば森岡毅の自伝のような一冊だ。

紹介した文庫本の裏表紙の写真
これが文庫の裏表紙。非常に簡潔に本書の内容を紹介している。

 

この自伝の面白いこと。とにかく読んでいるこちらもハラハラドキドキさせられ、一緒に悩み苦しむのだが、そこから次々と素晴らしいアイデアを生み出し、それを現実化させる森岡毅の信じられない手腕と奮闘ぶりに、興奮を抑えられなくなってしまう。

「ジェットコースター」で森岡毅が読者に伝えたいこと

これはプロローグにハッキリ書いてある。

「アイデアは天才のひらめきではなく、ある発想法から生まれる」と強調。

森岡毅がUSJでの3年間に生み出したアイデアの数々は全て、ある発想法によって生産されているという。それは実は誰にでもできることで、森岡毅はそのアイデア発想法を「イノベーション・フレームワーク」と呼んでいる。そして、この「イノベーション・フレームワーク」を使えば、天才から凡人の手にアイデアを取り戻すことができるというのだ。

『何より皆さんに伝えたいのは、「アイデア」こそが最後の切り札になりうるということです。お金がなくても、コネがなくても、「アイデア」だけはあなたの頭の中に眠っているのです。あなたがそれに気づいていないだけなのです。それを呼び起こす方法を、包み隠さずお教えしたいと思います』
とプロローグを結んでいる。

ここまで言われて、冷静でいられるだろうか。プロローグを読んだだけで、いきなり期待に胸が高鳴ってしまう。

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森岡毅は何に取り組もうと悪戦苦闘したのか

森岡毅はUSJに転職後、「3段ロケット構想」を掲げる。

1段目のロケットは、USJの長年の弱点だった「家族連れ顧客(ファミリー)」を取り込むこと。
2段目のロケットは、遠方からゲストを集客できる「ものすごい何か」を作って関西依存の集客構造から脱却すること。
3段目のロケットは、会社のノウハウを複数の場所に展開して、会社を大きく飛躍させていくこと。

1段目と2段目の具体的な答えはこうだ。

先ず1段目のロケットは、小さな子供連れファミリーも長期にわたって集客に取り組める新ファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」を最速で建設し、2012年春までに開業させることとした。

2段目のロケットが、あの有名な「ハリー・ポッター」との位置付けだ。日本全国・アジアからも集客が可能となる「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の2014年度内での開業を目指すこととした。

USJの大改革の最大の目玉がこの450億円もかかる「ハリー・ポッター」開業であることは明らかであり、これの実現が本書のハイライトでもあるのだが、一番の読みどころであり非常に参考になるのは、実はこの「ハリー・ポッター」ではない。ここが本書の興味深いところなのである。

考えてもみてほしい。本書のタイトルには、こんなに長いタイトルだというのに(笑)、「ハリー・ポッター」のハの字も出てこない。ポイントはハリー・ポッターにはない。その点が最大のミソである。ここが面白く、読む者をワクワクドキドキさせる。

森岡毅はこう言っている。

『問題はむしろ、その450億円を投じる意思を固めた2010年からハリー・ポッターのテーマパークがオープンするまでの「3年間の道のり」にありました。「ハリー・ポッター」と新ファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」の2つのみに経営資源を集中しなければならない中で、「ハリー・ポッター」がオープンするまでの3年間(2011年度、2012年度、2013年度)をどうやって生きのびるのか?』

ということで、「ハリー・ポッター」がオープンするまでの3年間の悪戦苦闘が始まる。森岡が言う「9回裏二死ランナーなしの状態」からどうやって勝利に結びつけるのか?

非常に困難な状況の中、様々なアイデアを出しながら驚異のV字回復を達成するまでの悪戦苦闘ぶりを赤裸々に晒し出しながら、森岡毅が主張する「イノベーション・フレームワーク」の秘訣を解き明かしていく。

こうして生み出されたアイデアの数々

この3年間の悪戦苦闘がとにかく面白く、スリルに富んでいて勉強になる。

森岡毅はアイデアを考えるとき、まず目的を徹底的に吟味して定め、その次にアイデアが満たすべき「必要条件」を一番時間をかけて考えることの重要性を繰り返し述べている。具体的なアイデアを求められたときの「必要条件」がその都度本書でも示されるのだが、なるほどそのように考えるのか、と目から鱗の連続である。

価値を生み出すアイデアの切り口は、経験上ほとんどの場合は「消費者理解」の中に埋まっているという。

少し具体的に追いかけてみよう。

先ずは人気コミック「ワンピース」から始まる。既にUSJパーク内にあった「ワンピース・プレミアショー」をUSJの先端技術でショーの品質を更に向上させることとした。

そんな矢先にあの東日本大震災が起きて、全ての計画が頓挫してしまう。パークに人が来なくなる。そんな中で森岡毅は寝ても覚めても、「関西の自粛ムードを吹き飛ばす策」を考え続け、ここでも「必要条件」を設定して思わぬアイデアを生み出す。

こうして大震災の自粛ムードから解き放たれたUSJは、次に「ハロウィーン・ホラー・ナイト」を実現。これが大成功でスタートした時の森岡毅の日記が感動的だ。

次に森岡毅が目を付けたのは「モンスターハンター」だったが、これを実現させるためにカプコンのモンスターハンター・ブランドの責任者である辻本プロデューサーに突撃するエピソードが読み応え十分。

更にクリスマスシーズンを一層強化するために「世界一の光のツリー」を実現させる。

あの東日本大震災による震災自粛の衝撃によって、とことん追い詰められたUSJが4つの施策全てでホームランを打つことができたことから森岡毅は、『正しい目的であれば、追い詰められて駄目だと思っても、無理だと思わずに絶対に諦めずに執着し続けること、そして戦略的な発想方法があれば、その執念を苗床にしてきっと苦境を打開する「アイデアの神様」は降りてくる』と強調する。

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一難去ってまた一難、2013年を生き抜くために考え出したこと

次から次へと大成功を重ねながらも、「ハリー・ポッター」開設の前年に当たる2013年は三重苦の年と想定され、何としても新たなアイデアを生み出して成功させることが求められていた。

本書の中で森岡毅が一番苦しみ抜いて悪戦苦闘を繰り広げたのはこの年だった。お金をかけずに「リノベーションというマーケティング技法」を用いてアイデアを探すのだが、どうしてもうまくいかない。散々悩み抜いて、苦しみ抜いて漸くある日「アイデアの神様」が降りてきたのが、本書のタイトルにもなっている「後ろ向きに走るジェットコースター」だった。

本書の口絵写真からの一枚。後ろ向きに走るジェットコースターに乗っているゲストの表情と行列
本書の冒頭に掲載されている何枚かの口絵写真から、後ろ向きに走るジェットコースターに乗っているゲストの表情と行列の写真を拝借。実に楽しそう。

第5章が丸々この部分に当たるが、実に面白い。読んでいて本当にハラハラドキドキさせられる。読む側も森岡毅と一緒になって一喜一憂させられる本書の白眉。

巨額の金をかけての成功談(「ハリー・ポッター」)よりも、その前年の「後ろ向きに走るジェットコースター」の開発の方が感動が深い。本書の第7章とエピローグは「ハリー・ポッター」の成功話だが、それよりも前年のどちらかというと地味な、巨大な栄光の前で霞んでしまいそうな「後ろ向きに走るジェットコースター」の開発の方が感動的というのは興味深い。

森岡毅が本書のタイトルに「後ろ向きに走るジェットコースター」のことを掲げているのは、森岡毅としても、こちらの方が納得のいく仕事だったのかもしれない。

第6章でイノベーション・フレームワークを徹底的に学ぼう

読んで最高に面白いのは第5章だが、森岡毅がUSJでの悪戦苦闘からの成功に至った方法を非常に分かりやすく解説しているのは第6章の「アイデアの神様を呼ぶ方法」である。この部分は「マーケティング入門」のようなマネジメントの解説書。森岡毅が「イノベーション・フレームワーク」と名付けているアイデア発想法の解説である。

この部分は読者が会社などの組織で日々働くに当たって、直ぐに役に立つ重要なことが多くの図表を用いて、非常に分かりやすく書かれている。実際の例を引用しながら具体的かつ詳細に解説してくれているのがありがたい。僕は多くのことを学ばせていただいた。

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森岡毅の文章は非常に読みやすく、分かりやすい

本書の文章は森岡毅が黙々と一人で全部書いたという。数学が得意で文系は苦手だったという森岡は、文章を書くことも苦痛だったらしいが、とてもそうは思えない実に達者な文章である。飾らない誠実な文章で、非常に読みやすく、かつ分かりやすい文章だ。かなり上手な好感の持てる文章だと言っていい。

特にこの処女作である「ジェットコースター」は自伝的な色彩が濃厚なため、森岡毅ほどの成功者になると、ともすれば自慢話や手柄話が多く、鼻につく部分が散見しがちであるが、本書にはそんな点は全くない。森岡さんという人は本当にいい人だなということが文章の端々から自然に伝わってくる

本書はただの成功話ではない。ある目的のために外部から入ってきた一人の人間の悪戦苦闘と、それでも決して諦めずにマーケティング技法を駆使して、イノベーション・フレームワークを組み立てながら、自分の頭の中で必死でアイデアを出し続けた人間の成果の軌跡である。

ここから参考になることは無尽蔵。本当に勉強になることばかりである。

一人でも多くの方に読んでいただきたい。既に「マーケティング入門」を読まれた方にとってもこの2冊は相互に補完し合う兄弟のような関係。どうかこの2冊を合わせて読んでほしい。間違いなく役に立つとお約束する。

 

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