ラージャマウリの途方もない才能に驚嘆

一体全体、あのインドのラージャマウリ監督は何という才能の持ち主なのだろうか?もう開いた口が塞がらないのである。

「RRR」でとにかく度肝を抜かれた僕は、ラージャマウリ監督がその前に作った「バーフバリ」の2部作を観て、更に圧倒されてしまったわけだが、今回紹介する「マッキー」という映画は、「バーフバリ」2部作の更にその前に作った映画である。これでまた心を奪われてしまった

結果的に、僕はラージャマウリ監督が作った映画を、新しいものから一本ずつ前に遡って観てきたわけだ。

正確性を期するため、これら4本の映画を作られた順に並べてみる。

「マッキー」(2012年)監督・脚本
「バーフバリ 伝説誕生」(2015年)監督・脚本
「バーフバリ 王の凱旋」(2017年)監督・脚本
「RRR」(2022年)監督・脚本

となる。

「マッキー」の前にも何本も撮っているが、「マッキー」以降はこの4本だけであり、途中に他の作品があるわけではない。

紹介した「マッキー」のチラシ
「マッキー」のチラシ。非常に分かりやすいもの。

 

ラージャマウリは1973年生まれなので、「マッキー」を作った段階でちょうど40歳。「RRR」は50歳の時の作品。まだまだ十分に若いのである。

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「マッキー」は「ハエ」。ハエが主役の映画!

「マッキー」と聞くと、どうしても「ミッキー」を連想してしまうが、そんないいものではない。もちろんあのゼブラの油性ペンのことでもない。

インド語(タミル語)でズバリ、あの「ハエ」なのである。

原題はタミル語で「Eega」なのだが、映画の中でもハエのことを明確に「マッキー」と呼んでいる。

「マッキー」の映画の中のⅠシーンから。
映画の中のⅠシーンから。これが映画の主人公だ。

「ハエ」を描いた映画と言えば

「ハエ」といえばデヴィッド・クローネンバーグ監督が作った「ザ・フライ」という「蠅男の恐怖」をリメイクしたホラー映画があまりにも有名だが、このラージャマウリが作った「ハエ男」もすごいものだ。

 

「ザ・フライ」の1シーン
クローネンバーグの「ザ・フライ」の1シーン。

 

「ハエ」といってもバカにしてはいけない。よくぞ思いついたものだと思うが、この映画は「ハエ」が繰り広げる復讐物語なのである。

これが信じられない程めちゃくちゃおもしろく、感動的なのである。

これを観ていよいよS・S・ラージャマウリの奇想天外の天才ぶりに驚嘆するしかなかった。僕は益々この人を好きになってしまった。本当に驚いている。

リバイバル上映の際のチラシの裏面
日本でのリバイバル上映の際のチラシの裏面の解説。
「マッキー」のDVDのジャケット写真
DVDのジャケ写である。

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あまりにも作風が違い過ぎるのだが

そのラージャマウリ監督への驚嘆は、「マッキー」という映画が途方もなく変わった映画でありながらも涙を禁じ得ない感動作ということだけではなく、それ以降に作った映画とあまりにも作風が異なっていることだ。

「バーフバリ」2部作の途方もないスケールの大スペクタクルと、「RRR」の現代を舞台とした度肝を抜く大アクション。

複雑に絡み合うドラマと数え切れない程の登場人物。外に向かって大きく広がろうとする圧倒的なスケール感と規模の大きさ。主人公はいずれもマッチョな大男たちだった。

ところが「マッキー」ときたら、主人公は小さな昆虫。それも一匹の「ハエ」なのだ。

そもそも「ハエ」を主人公にどんな映画を作ることができるんだと普通は頭を抱え、尻込みしてしまいそうだが、ラージャマウリは、こともなげに誰が観ても夢中にさせられるとんでもない映画を作ってしまったのだ。

マクロに外に大きく広がっていく作品と、対照的にミクロに狭い世界に入り込んでいく作品。

そのいかにも正反対のテーマを持つ映画を、どちらも究極のおもしろい映画に作り上げてしまう剛腕ぶ。しかもいずれの映画も脚本をラージャマウリ自身が書いており、4本ともラージャマウリがほぼゼロから構築し、考え抜いた世界なのである。

恐るべき才能にちょっと言葉が見つからない。

「マッキー」のブルーレイのジャケ写
ブルーレイのジャケ写。

それでいて感動は甲乙つけ難い傑作

スケール感などは全く異なるのだが、感動の深さはいずれも甲乙つけがたく、真の映画的な感動に満ち溢れている

僕は断トツで「RRR」を愛し抜いているが、「バーフバリ」2部作ももちろん非常に気に入っており、「マッキー」も大好きだ。こんなに甲乙つけがたい傑作ばかりを立て続けに作り続けるラージャマウリに開いた口が塞がらなくなる。

対照的な作品ながらも共通点も多い

スケール感は全く異なりながらも、共通する部分も非常に多い。

先ずはその類まれなアクションの多彩さ。いずれも過去に見たことのない驚異的なアクションを繰り広げられるという点では一緒であり、それも最新のCGを駆使して見せる(魅せる)圧巻のSFXというあたりも共通だ。

極めて狭い世界でも、途方もない巨大なスケールを誇る世界でも、観客の度肝を抜く奇抜なアクションと驚嘆すべきSFXは共通している。

このあたりがラージャマウリが、世界中の他のどんな映画監督も持ち合わせていない最大の強みというか、天才の証だと思われる。

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映画の基本情報:「マッキー」

インド映画 145分(2時間25分)【オリジナル版】
      125分(2時間 5分)【海外配給版】

公開 
2012年  7月  6日 インド
2013年10月26日 日本

監督・脚本:S・S・ラージャマウリ

出演:ナーニ、サマンタ・ルス・プラブ、スディーブ、アディンティア・メノン、タグボース・ラメシュ 他

音楽:M・M・キーラヴァーニ 

撮影:K・K・センティル・クマール

【受賞】 
第60回ナショナル・フィルム・アワード テルグ語長編映画賞 特殊効果賞 
トロント・アフター・ダーク映画祭 アクション映画賞 他9部門受賞

キネマ旬報ベストテン:第146位 笑うしかない。石頭の評論家共め!

どんなストーリーなのか

貧乏だが陽気で屈託のないジャニは、向かいのアパートに住んでいるビンドゥという美女に2年越しの片思いを続けていた。ジャニにそっけなく接するビンドゥも内心ではジャニに好意を寄せていたが、二人の恋は中々成就しない。一方で、世界中の女が自分にひれ伏すると豪語する富豪の実業家スディープはビンドゥに一目惚れするが、ビンドゥがジャニに心惹かれ、自分に興味を示さないことを恨んで、ジャニの殺害を決意。ジャニとヒンドゥが漸く愛を確認し合った直後に、ジャニはあっけなく殺されてしまう。

そこに奇跡が起きて、殺されたジャニはハエに転生する。ハエに転生したジャニは恋人をスディープの魔の手から救い出そうとするのだが・・・・。

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ハエが復讐を計画するファンタジー

とにかくぶっ飛んでしまうような奇想天外なSFコメディファンタジー。本当にあり得ない設定と展開とに呆気に取られながらも、やがて真剣に観入ってしまい、妙に感情移入させられて、ハエの大活躍に手に汗握り、ハラハラドキドキ、最後には得体の知れない涙が頬を伝わること必定だ。

本当にこんな映画は他にはない。

何といっても主人公は一匹の「ハエ」なのだ。どうしてハエという設定にしたのだろうか。

せめてハチくらいに設定しても良かったのではないかと思うが、この誰からも嫌がられ、殺虫剤やハエ叩きでいとも簡単に死んでしまうハエを主人公にするとは突拍子もないことを考えたものだ。

この設定の妙が最高。ハチではなくハエ。全く無力で汚らしいと忌み嫌われるハエが、愛した恋人の生まれ変わりなのだ。

「マッキー」の映画の1シーン。ハエの雄姿
映画の1シーンから。殺虫剤から身を護るため防護具をまとっていることに注目。
アメリカでのチラシ
アメリカでのチラシ。これがマッキーの雄姿だ。

 

良くぞやってくれたものである。本当にこれをこんな映画に仕上げてしまうあたり、ラージャマウリの想像を絶する天才ぶりに脱帽するしかない

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「ゴースト/ニューヨークの幻」を彷彿させる

人間がハエに変わってしまうという意味では、確かにクローネンバーグの「ザ・フライ」を思い浮かべることになるが、この映画の感動に一番近いものは、あのデミー・ムーア主演の大ヒット作「ゴースト/ニューヨークの幻」だ。

「ゴースト」の有名なチラシ
これが有名な「ゴースト」のチラシ。いかにも懐かしい。

 

悪者に襲われて命を落とし、失意に暮れる恋人のところに現れ、何とかして真相を伝えようとするのは、全く同じ設定。

「ゴースト/ニューヨークの幻」でハンカチを濡らした人なら、この「マッキー」でも間違いなく涙が止まらなくなることだろう。

「ゴースト」の1シーン
これもゴースト/ニューヨークの幻」の有名なシーンだ。
「ゴースト」の1シーンから
ゴースト/ニューヨークの幻」の感動シーン。

 

それにしても彷徨える幽霊ならまだしも、かつての恋人に会いに来るのがハエとは驚かされる。

恋人にどうやって変わり果てた自分の真相を伝えることができるのか、が最高の見どころの一つとなる点も全く一緒である。

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最後に喝采を叫べるのかどうか!?

ヴェルディのオペラ「リゴレット」などを観ると(聴くと)、本当に弱者がやられるだけやられてジ・エンド。そのストーリーにあまりにも救いがなくて、ひたすら落ち込んでしまう。

そんな時は決まって、見事に復讐を遂げるドラマとして色々な映画などを物色してみるのだが、それがどうしたものか、意外な程、見事に復讐を遂げる映画は少ないのである。

仕方がないので、「半沢直樹」なんかを引っ張り出してきて、渇きを癒すのだが、命を奪われたやり切れなさは、相手の命を奪ってしまわないと満たされない。復讐。そんな危険な思いに陥ってしまいがちだ。

そんな中に登場してきたのが、ラージャマウリの作品群である。これらはいずれも最後に喝采を叫びたくなるような復讐譚でもあるのだ。

「リゴレット」を観たやり切れなさと不愉快さを、ラージャマウリで癒そう!

今回の「マッキー」はそうは言っても一匹の弱々しいハエ。小さな嫌われ者の一匹のハエが、知恵を絞って権力と富を備えた憎っくきモテ男に、立ち向かっていく物語

見事に復讐を遂げられるかどうかは、観てのお楽しみと言っておこう。

「マッキー」の1シーン
「マッキー」の1シーン。
「マッキー」の1シーン
チラシにも用いられている「マッキー」の1シーン。

音楽は「RRR」「バーフバリ」と全く変わらぬあのもの凄い乗り!

「RRR」と「バーフバリ」2部作。そして今回の「マッキー」。あまりにも作風が違い過ぎるのだが、実はこの4本の映画、監督・脚本のラージャマウリの他の主要なスタッフが、何と4本とも全て一緒なのである。

撮影も編集も、そして音楽も。つまりラージャマウリ一家が総動員してこれら4本の映画を作り上げたわけだ。

特にキーラヴァーニが作る音楽が、この「マッキー」でも実に印象的である。その強烈な音楽は「RRR」と比べても全く遜色がない。

キーラヴァーニはラージャマウリの従兄である。キーラヴァーニの方が12歳、ちょうど1回り年上なのであるが。

作風が決定的に異なるのに、鳴り続ける音楽は同様な激しいもの。特に僕が「RRR」で仰天してしまった口ドラムの「コナッコル」が華々しく登場して思わず立ち上がってしまう程、感動させられた。

この驚嘆すべき「コナッコル」は「RRR」のような大スペクタクルにこそ相応しいと思われるのだが、このミクロな戦いを描く「マッキー」でも、見事にフィットするのである。

これが聴こえると本当に血が騒いでしまう

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騙されたと思って観てほしい

とにかく無条件で楽しめる最高の娯楽映画。アッと驚かされるばかりか、ハラハラドキドキさせられ、涙が止まらなくなる感動作でもある。

これはファンタジーであり、全くあり得ない奇想天外なストーリーである。にもかかわらず、時間の経つのも忘れて夢中になれるかけがえのないものだ。

どうか騙されたと思って観てほしい。「RRR」と「バーフバリ」でラージャマウリの魅力に開眼したファンは、また新たなラージャマウリの魅力に酔い痴れてほしい。

3時間を超えるメイキングなど特典映像満載のブルーレイを購入してもらってもいいのだが、実はこの「マッキー」は、あのAmazonプライムで無料でいくらでも観ることができる

これは非常にありがたいこと。観てもらうしかない。

 



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