「存在のない子供たち」絶対に観てもらわなければ!

昨夜、すごいものを観てしまった。
ギンレイホール「存在のない子供たち」
何とレバノン映画。レバノンと聞いて、どれだけの人がピンと来るだろうか?話を先ずそこからスタートさせなければならない。レバノンという国の位置と歴史、そして今どのような国情にあるのか?ということをある程度は理解して映画を観てもらわないと、この映画の衝撃と感動が正しく伝わらない可能性がある。
先ずがそこからだ。

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先ずはじめにレバノンのこと

前回大絶賛した「風をつかまえた少年」の舞台はアフリカのマラウイだった。そのアフリカのマラウイに比べれば、中東のレバノンの方がずっと馴染みがあると思うが、どこまで理解してもらっているか、いささか不安である。

レバノンはあの凄まじい内戦を繰り広げていたたシリアの西隣り。そしてあのイスラエルの北側にある。首都はベイルート。これは有名な都市で、聞いたことがある人が多いだろう。

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実は、このレバノンという国は本当に大変な国であり、隣国のシリアとイスラエルを巡ってただの一日として平穏な日はないという凄まじい歴史を繰り返してきた。

そんな複雑を極める歴史もさることながら、我々日本人にとってはあの日産のカルロス・ゴーン被告が逃げた先というか、ゴーンを匿った国として、今年に入って一挙に知られることなった。あのゴーン節炸裂の記者会見もレバノンのベイルートからだ。

ちなみにそのカルロス・ゴーンはフランス人と思われているが、母親はフランス人。父親がレバノン人なのである。

始めて観たレバノン映画は

さて、映画に話しを戻す。僕のような世界中あっちこっちの映画を観ているシネフィルでも、レバノンの映画は未だかつて観たことがない。イスラエルの映画は、このところ何本かギンレイホールで上映されたので、少し馴染みがあった。

果たしてあれだけ政情不安定なレバノンで作られた映画がどんなものなのか、興味は尽きない。その初めてのレバノン映画、どんなものだったのか?

「存在のない子供たち」。これがそのレバノン映画のタイトルだ。

ものすごい映画だった。打ちのめされた。そして言葉を失った。

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ギンレイホールで僕が涙を流すのは、もうしょっちゅうのことで、珍しいことでも何でもない。だが、昨夜は特別。もう涙が次々に溢れ出してどうにもならず、滂沱の涙に鼻水も出て、グチャグチャ状態に。映画を観終わってから明るくなって人にその顔を見られるのが困る。もっとも僕の周囲はみんな大泣きしていて、肩を震わせている人も少なくなかったが。

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気軽に傑作などと言いたくない!

すごい映画だった。もう、名作だとか傑作だとか、数年、いや数十年に一本とか、そんなことは一切言わない。言いたくない。

そんな評価はこの映画にはふさわしくない。全く関係のない世界だ。
そんなありきたりの映画に関する評価は、この映画には失礼というもの。この映画をそんな尺度で観てはならない。

とにかくこのレバノンの実情、良く知られているであろう首都ベイルートの社会、そこで暮らす最下層の人々の生活。特にやたらと多い子供たちの生き様、生活ぶり。それを知ってほしい。

そのあまりにも悲惨な社会状況と、そのしわ寄せが最も弱い存在である幼い子供たちに直接向かってしまうことの悲惨さと理不尽さを知ってほしい。生きることに絶望している子供たちがいることを、この映画を観ることで、追体験してほしい。

願うのはただそれだけ。

僕は打ちのめされて言葉を失ったから、これ以上何も言うことはないのだが、映画の紹介として、全くストーリーに触れないのもないだろう。簡単に紹介する。

どんなストーリーなのか?

レバノンのベイルートで暮らす12歳くらいのゼインは幼い妹や弟たちと悲惨な生活を送っている。12歳くらいというのは、親も誕生日すら知らず、出生届けの類も何もないからだ。一切の教育から遠ざかっているばかりか、一家の生活を支えるために激しい労働を強いられている。一つ年下の妹のサハルとは特別に仲が良く、サハルが生理が始まって服を汚した時も涙ぐましい献身ぶりで妹の面倒をみる。その妹が結婚することに。サハルを気に入っていた大家が僅かなはした金で、身売りされたわけだ。

強制的に連れて行かれるサハルを救い出そうとゼインば激しく抵抗するが、嫌がって泣き叫ぶ妹を救うことができない。

怒ったゼインは、家を飛び出して職探しをするが、中々上手く行かない中、赤ん坊を抱えたラヒルと出会い、赤ん坊の面倒を見る替わりに同居が認められた。ところがラヒルは元々エチオピア移民で不法滞在しており、レバノン政府によって逮捕され、刑務所に入れられてしまう。こうしてゼインは、乳飲み子を抱えて食べるものもない中、想像を絶する困難に直面してしまう。水が出ない水道管をひねって、「最低な国だな」とうそぶくゼイン。

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万策尽きたゼインは、ある衝撃的な事実を知って、妹を連れ去った大家を殺しに向う。だが、結局は少年刑務所に。その刑務所からテレビ局に電話をして、今の自分の置かれた境遇と子供が生きていけない怒りをぶちまける。そこで訴えた言葉が胸に突き刺さる。そして両親を裁判に訴えた。

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実は、映画はいきなり裁判から始まるのだ。

何の罪で親を訴えるのか?と問う裁判長に、「僕を産んだ罪」。こんな世の中に僕を産んだからと・・・。
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この映画を観たら、いたたまれなくなる

これはもうダメだ。世界にこんな悲惨な実態があるのに、自分はこんな恵まれた日本でノホホンとしていることにもういたたまれない。アメリカもヨーロッパももうどうでもいい。

レバノンのこの最下層の生活ぶり。自分を産んだことを呪う12歳の子供の言葉に、僕は言葉を失う。親への願いは子供を作るなと。もう言葉がない。

あの映画の前に、僕は言葉を失った。発する言葉がない。ただただ衝撃を受け、言葉を失った。

そうは言っても、一つ二つだけ、映画的な解説をさせてもらうと。

この映画の監督は?

先ずは監督だが、これが女性だ。ナディーン・ラバキー。脚本と監督。そして映画の中でもゼインの弁護士として少し登場。レバノンが生んだ最高の映画監督して注目されているらしい。2007年の『キャラメル』という初めての長編映画で監督、脚本、主演を務め、カンヌ国際映画祭でユース審査員賞を受賞し、世界60ヵ国以上で上映。以後の作品も軒並み大絶賛されている世界でも大注目の監督とのこと。

恥ずかしい。僕は全く知らなかった。この映画を観れば、彼女の力量がずば抜けたものであることを痛感させられる。

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主演のゼイン少年に大変な衝撃!!

もう一つは何と言っても、主人公のゼインを演じた少年のこと。この少年はすごい。大変なものだ。名前は何とゼイン。ゼイン・アル=ラフィーア。シリアで生まれた本人自身も映画の中のゼイン同様にまとまった教育も受けられず、10歳の時から家計を助けるために働いているという。

このゼインが素晴らし過ぎる。よくあんな少年を見つけ出したものだ。

あの悲しみと怒りを湛えた瞳と顔つき。その凛々しいばかりの美しさ。本当に信じられない程の美しさと悲しみを秘めた目力に圧倒される。

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このゼインをスクリーンに観たときの驚きと衝撃は、『エデンの東』であのジェームス・ディーンを初めて観たときの感動と限りなく近いものがあった。

もちろん青年と少年でまるで違うのだが。そのくらいのインパクトだったのである。

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パンフレットにも不満がある。ゼインの写真、あの彼の素晴らしい顔つきと表情がまともに写っていない。アップもほとんどない。残念だ。チラシの方がいいか。

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これはもう直接ご自分の目で確かめてもらうしかない。
ゼインのあの悲しみの表情が、脳裏に焼きついて離れない。

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