【前編】からの続き
目 次
「生産性と効率性」の向上・・経営改善の要
このような病院の経営難の時代にあって重要な発想は「生産性」と「効率性」の向上だ。
特に病院のそれぞれの現場で、我々ができる病院存続のためのキーポイントは、日々の業務推進の中で、「生産性と効率性の向上」を目指すことに尽きると僕は考えている。
【前編】で掲げたBSCとの関係で言えば、この生産性と効率性の向上は、「業務プロセスの視点」と「人材と変革の視点」(学習と成長の視点)に直結し、当然のことながらひいては「財務の視点」に強く影響してくるものである。
だからこそ、これが経営改善に繋がってくる。
それを実現させるために具体的にどう取り組むべきなのか、そこで僕が提唱したいのが「無減代」という発想なのである。
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「無減代」とは何か
APU(立命館アジア太平洋大学)学長だった出口治明さんが著書「いま君に伝えたい知的生産の考え方」の中で提唱している考え方だ。
出口治明さんが提唱する「無減代」とは
【無】・・・やらなくてもいいことはやらない 「無駄な業務をなくす」
【減】・・・完全になくせないのなら、できるだけ減らす 「無駄な業務を減少させる」
【代】・・・他のもっと効率性・生産性が高い業務に変更する 「他に振り替える」
このような発想で業務に取り組むことが、現代社会では極めて有用、かつてのようないたずらに時間だけをかけて仕事をすることを諫める真の働き方改革の提唱である。
仕事の効率性と生産性を高めるために、ただ時間をかけているだけではダメだという発想で、日々の業務から本当にしなければならない業務だけに絞り込んで、余計なことはやらないとする、言ってみれば真の働き方改革だ。
「時間もスタッフも無限大であり、努力をすればするだけ、いい成果が出る」という考え方は、根拠なき精神論の典型として、「無限大」という考え方を捨てて、これからは「無減代」にあらためるという発想だ。
病院という職場はとにかく生産性と効率性が低い。あっちこっちで効率性の低い業務をやっていて、超過勤務も非常に多く、それが経営にも大きく影響を及ぼしている。
僕は生産性と効率性の低さを改め、著しく向上させるための特効薬として病院の現場でこの「無減代」に取り組んでみたかった。
勤務した病院で実際に「無減代」を導入
僕はこの発想に深く共感し、自分が事務局長を務めていた某自治体病院に実際に導入してみた。
導入に当たっては、色々な工夫が必要だった。特に病院という他とは全く異なる独自の組織では特別な知恵と工夫が必要となった。
先ず僕は、無減代の対象を2分させた。
①自部署だけで完結できること
②自部署に関係のある他部署の困ったこと
病院はチーム医療と言われるようにどうしても他部署の業務と密接に結びついていることが多いことに鑑み、「自部署に関係のある他部署の困ったこと」を互いに出し合って、病院を挙げて無駄な業務と労働時間の短縮を目指した。
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「無減代」活動の具体的内容
僕が実際に勤務先の病院でやってみた「無減代」活動の内容を、少し具体的に示しておこう。
「無減代」は病院として全く初めての取り組みだった。推進役の僕も初めての体験で、戸惑うことも多かったが、その内容と狙いを良く理解してもらうために、僕が院内の全部署と丁寧な説明を含め、前後2回の丁寧なヒアリングを個別に行った。
いずれもかなり時間をかけて部署長やスタッフと熱心に意見交換した。

病院で実際に進めた無減代の具体的内容
1.何をやってもらうのか
①意味が乏しい、非効率な事務作業からの解放を目指す。無駄な仕事は、今後はしない
②病院を挙げて、院内から無駄な業務(生産性が低く、効率性に欠けるもの)を一掃
③院内に浸透している役所的な業務、役所的な発想の駆逐、排除
ア ハンコ文化の追放
イ 同じような書類を重複して求めない
ウ なくても済むものは、全て廃止
エ 正当な理由や根拠のない過去の流用、前例踏襲は原則禁止
④本当にその業務、その書類は必要なのか?もっと簡略化できないか?ダブっていないか?
2.その目的と狙い
①医療職に医療に専念してもらう。事務作業に時間をかけることを改める
②時間外労働(超過勤務時間)と超過勤務手当の大幅な縮減
③医師だけではなく全職員の真の働き方改革の実現
3.BSC(事業計画・目標管理)との関係
「業務プロセスの視点」に直結し、「職員満足度」(人材と変革の視点)、更に「患者の視点」、ひいては「財務の視点」に及ぶものとしての位置づける
4.進めるに当たっての大方針(基本理念)
①些細な改善ではなく、抜本的な改革の断行。生産性と効率性が上がることは躊躇なく実行
⇒「患者サービスの向上」と「職員満足度」に結び付くことが大前提
②ターゲットは日々のルーティンワーク、定例業務
③ルーティン業務の全てが対象
※ 医療行為及び医療行為に関連する業務は対象外とした
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前後2回のヒアリングと結果の完全公開
医師については若干送らせてスタートさせたが、最終的にはドクターも巻き込んで、病院を挙げて取り組んだ。
先ずは各部署が自分たちで列挙した
①自部署だけで完結できること
②自部署に関係のある他部署の困ったこと
を提出してもらい、その取り組みが間違っていないか、それを進めることで大きな支障が起きないかどうかを、実際に活動をスタートさせる前に事務長職の僕がジャッジさせてもらった。判断が難しいものについては、その都度、病院長と相談し、了解を得て指導した。
そして実際に3カ月間の試行として進めてもらった。
その活動の結果、どうなったのか?成果は出たのか?職場は変わったのか?改善できたのか?
各部署にはそれぞれの部署での取り組みについて、自己評価を行い、それに対して再び僕が個別にヒアリングを実施して、一つひとつ丁寧に検証させてもらった。
成果を院内に完全公開し共有化
重要な点は、各部署の取り組みの成果を院内に完全にオープンとし、職員なら誰でもどこの部署の結果であっても、自由に読めるように公開したことだ。
これだけムダな業務等をなくし、減らし、あるいは他の簡単なものに振り替えたという具体的な内容、その結果、生産性と効率性がこれだけ上がったという成果を、院内に完全にオープンとし、イントラで公開し、各部署の取り組みの結果が他部署の参考となり、ひいては病院全体の財産となるように心がけた。
この完全公開は非常に意味があったと思う。
明らかに「無減代」の成果は出た
病院を挙げての無減代活動だった。
多くの部署でかなりの成果が出て、生産性と効率性は確実に向上したと自負している。明らかに改善して、無減代活動に取り組んだ効果が出たのである。
但し、一部の部署では、パンドラの箱を開けてしまったような混乱が起き、関係所属長は眉を顰め、「こんなことになって一体どう責任を取ってくれるんだ」と言わんばかりに詰め寄られたこともあったが、これぞ僕の狙ったことでもあった。
この機会に病院の現場にはびこる「膿」と「臭いもの」を白日の下に晒し、関係者が揃って、どう対応するべきなのか議論を尽くし、膿を全て出し切って病院の大改革を進める必要があった。
それこそ僕が「無減代」活動を病院に取り入れた真の狙いだった。
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「無減代」活動は非常に有効だった
「無減代」という出口さんの発想は間違いなく正しい。それを推進することは、今日の経営難を極める全国の病院にあって、起死回生の極めて有力な処方箋になり得るものだと確信している。
実際に大病院に導入して、効果が出た。病院が生まれ変わる絶好のチャンスとなるものだ。
優秀な看護師長が事の正否を決める
こんな活動も、事の正否は看護師が握っていると言っても決して過言ではない。病院の全職員の半数以上を占める看護師は何をやるにしても、キャスティングボードを握ることになるのだ。
看護師長に期待するところ大である。
僕が実際に無減代を導入した際も、前向きな看護師長たちがドンドン積極的に取り組んでくれた。実際に看護の現場には生産性と効率性が著しく低い業務がひしめき合っていたことも大きかった。そんな看護師長の頑張りとやる気が成功に繋がったと考えている。
看護師長が経営面で様々なことに覚醒してくれるかどうか。それが病院の存続を決めるといっても過言ではない。優秀な看護師長がいる病院は、どこでもその師長の存在で、病院が輝いていた。
そんな看護師長を目指してほしい。そんな師長が増えてくれば、きっと病院は救われ、生き残ることができる。