第3番と第4番の概要について

続いて第3番と第4番に入る。この2曲がまた凄いものだ。

バルトークは2曲の弦楽四重奏曲の傑作を作った後、いよいよ本格的な実験を始めるに至る。特に第3番は、バルトークの弦楽四重奏曲の作曲史にとって、極めて大きな意味を持つ重要作だ。

初期の2つの作品でバルトークは当時の音楽界の新しい潮流を盛んに吸収した。後期ロマン派、ドビュッシーの印象主義、そしてシェーンベルクの無調音楽。ストラヴィンスキーの原始主義の影響もあった。

そして、何と言っても朋友のコダーイ(ゾルタン・コダーイ)と一緒に採集した故郷ハンガリーの民族音楽や東欧、更にアラブの音楽も存分に吸収した。

そういう時代の最先端の音楽や民族音楽を自分の中に取り入れて、素晴らしい傑作を作り上げたが、それではまだ満足できなかったのだろう。バルトークという作曲家は、ベートーヴェンのように成長する作曲家だったのである。古くはあのモンテヴェルディがそうだったように。

第2番の作曲からちょうど10年の歳月をかけ、バルトークが新たに行った実験とその結果生み出された音楽の正体はどんなものになったのか。

それを確かめるのが第3番と第4番の2曲である。

ここに展開される音楽は、非常に激しいリズムを全面に打ち出したエネルギッシュな音楽で、その音楽はどこまでも刺激的である。半音階が駆使され限りなく無調音楽に近づき容赦のない不協和音のオンパレードとなる。

こうしてバルトーク独自の個性的な音楽が確立されることになった。

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第3番と第4番はセット

第4番が作曲された時期が非常に重要である。すなわちこの最高傑作とも言われる第4弦楽四重奏曲は、第3番からあまり間を置かずして作曲されている。第3番の翌年に立て続けに作曲されているのである。

これは非常に重要だ。ベルトークの6曲の弦楽四重奏曲は生涯に渡って作曲され続けたことが特徴で、それぞれの時代の代表作となっている。逆にいうと長い作曲家人生の生涯を通して6曲しか作られなかったということは、それぞれの作品の間に相当な期間があるということを意味している。

28歳で第1番を作曲した後、第2番までには7年。更に第3番はそこからちょうど10年後の作曲だった。ところが第4番は第3番の翌年に作曲されている。第4番の後、第5番が作曲されるのは6年後のことであり、最後の第6番は5年後といった具合。

第1番の作曲から最後の第6番までの足掛け年数はちょうど30年間となっている。30年間に6曲の弦楽四重奏曲を作曲し、平均すると5年になるわけだが、第3番と第4番の2曲だけが引っ付いていて、立て続けに作曲された。この2曲はセットのような存在となっている。

バルトークの写真。撮影1927年 バルトーク46歳。ちょうど第3番を作曲した当時の貴重な写真である。
バルトークの写真。撮影1927年 バルトーク46歳。ちょうど第3番を作曲した当時の貴重な写真である。

第4番で一度頂点に上り詰める

遂に最高傑作の登場となる。第4番はバルトークの弦楽四重奏曲の頂点、最高傑作である。第3番で築き上げた作風が、何の無理もなく、いかにも自然でその実りを存分に発揮した。

だが、ここから聞こえてくる音楽はもはや尋常なものではない。狂気の音楽といってもいいくらいの異常な熱とエネルギー、バイタリティに満ち溢れている。

この後、バルトークは第5番で更なる力を見せつけ、最後には更に深い感動を秘めた第6番という至高の名作を作曲するに至るのだが、とにかくこの第4番で行けるところまで行ってしまった感が強い。

全くこの作品は凄まじいものだ。

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弦楽四重奏曲第3番 Sz.85

第2番を作曲してからちょうど10年後の1927年の作品である。時にバルトーク46歳。最も脂が乗っていると言ってもいい中年期のバルトークの代表作である。

この10年間に弦楽四重奏曲は作曲されることはなかったが、パントマイムのための「中国の不思議な役人」2曲のヴァイオリンソナタ、更に非常に評価の高い「ピアノソナタ」、これまた名曲の「ピアノ協奏曲第1番」など数多くの傑作、名作が作曲されている。

特に「ピアノソナタ」と「ピアノ協奏曲第1番」は第3弦楽四重奏曲の前年に作られており、バルトークの旺盛な作曲意欲と才能の爆発を感じられる。

この「ピアノソナタ」と「ピアノ協奏曲第1番」、「弦楽四重奏曲第3番」の共通の特徴は、打楽器的な楽器の使用方法である。これがその後のバルトーク作品の最も重要な特徴と魅力となる。

(単一楽章) 約15分

全体は大きく前後2つからなり、細かくは緩ー急ー緩ー急と交互に曲想が変わる4つの部分から構成されているが、あくまでも単一楽章とされており、通して演奏される。

全曲通しての演奏という意味では、僕が熱愛している第1番と同様である。

バルトークの写真。いかにも賢そうなイケメンである。
バルトークの写真。いかにも賢そうなイケメンである。

Ⅰ Prima parte. Moderato‐attacca 約5分

冒頭の1分半程はどうもハッキリ、スッキリしない音楽だ。もやもやとした得体の知れない不気味な雰囲気が漂う。これは第1番の冒頭、例の「シュテフィのライトモティーフ」と同様にシェーンベルクの十二音音楽の導入はないものの、8度音程内の12の音全てが用いられているらしい。

調性がハッキリせず、浮遊感が漂って、いかにも不安定な感じがする。

それが少しずつ音が明確になって、動き始める。次第に激しいリズムが現れ、気が付くと激しい音の洪水の中にいることになる。ヴァイオリンの刺激的な音が恐怖を煽り立てるようだ。

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Ⅱ Seconda parte. Allegro‐attacca 約5分

これはかなり激しい音楽だ。ヴァイオリンの刺激的な音とピッツィカートで彩られる。いかにもバルトークらしい激しく動き回る挑発的なリズムが満載だ。

Ⅲ Ricapitulazione della prima parte. Moderato‐attacca 約3分

一見、静けさに満ちた平穏な音楽のように聞えるが、中々どうしてそんなに単純ではない。目に見えない色々な爆弾が隠されているような油断できない音楽だ。

Ⅳ Coda. Allegro molto 約2分

非常に短いものながら、第2楽章のエッセンスをそのまま再現し、興奮の坩堝に引きずり込む。

バルトークの写真を掲載したCDボックス
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僕にとっては・・・

この第3番、その音楽的価値や芸術性の高さは良く理解できるのだが、バルトークの全6曲の中では個人的にはあまり好きな作品ではない。

もちろん聴く度に感銘を受けるのは間違いないが、それほど好きな作品ではなく、まだ僕の中では消化し切れていないというのが正直なところだ。

いずれ違うことを言い出す可能性はあるだろうが(笑)。

僕は、第1番と第4番、第5番、そして最後の第6番がお気に入りである。

ピアノの前に立つバルトークの写真
ピアノの前に立つバルトークの写真

奏者にかなり高度なテクニックを要求

そんな僕でも、この曲が弦楽器の奏法にも特殊なものが要求されていることが伝わってくる。僕は弦楽器の奏法のことなど分かろうはずもないが、個々の走者にかなり高度なテクニックが求められているようだ。

ちょっと調べてみると、ダブルストップの色々な形、フラジョレット、トレモロ、長いグリッサンド、早いテンポでのトリル、アコードのピッツィカート、更にそれらのいくつかの同時組み合わせなどが次々と現れて、演奏者にはかなり大変なようである。

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弦楽四重奏曲第4番 Sz.91

第3番の1年後に作曲された第4番は、第3番で色々とやってみた実験の成果と呼ぶべきだろう。こうして最高傑作の誕生となる。

5つの楽章から構成されており、中央に置かれた第3楽章を挟んで、第1楽章と第5楽章、第2楽章と第4楽章がテンポ、拍子、形式などが類似しており、全体がアーチ構造のようにシンメトリカルになっているところが特徴だ。

ここで表現される極めて刺激的かつ挑発的な音楽はバルトークからの挑戦状と呼ぶべきか。

リズムの荒々しさに加えて、耳をつんざくような容赦のない激しい不協和音の連続となる。ちょっと暴力的な音楽と呼びたくなってしまう。その一方で、非常に音の少ない静謐な音楽もある。

バルトークが到達した空前絶後の音楽に黙って耳を傾けてほしい。

演奏も至難の業で、古今の弦楽四重奏曲の中でも屈指の難曲だと言われている。

第1楽章 Allegro 約6分

冒頭から強烈なエネルギーとバイタリティに溢れた音楽が怒涛の如くに押し寄せてくる。荒々しくもあって、これは相当の覚悟を持って聴かないと火傷をしてしまいそうな音楽だ。

有無を言わさずに押し寄せてくる音楽の洪水。どんどんピートアップしてくる音楽に苦しくなってくるほどだ。

バルトークの有名な写真
バルトークの有名な写真

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第2楽章 Prestissimo con sordino 約3分

この第2楽章は、僕には少し分からないでいる。con sordino(コン・ソルディーノ)は「弱音機を付けて」の意味である。

全体に音は控えめなのに、細かいリズムでちょこまかと激しく動き回る音楽の良さが、まだ理解できていないと正直にいっておこう。

第3楽章 Non troppo lento 約6分

曲の中央に置かれた大切なパート。ところがここにはいかにもバルトークらしい怒涛のエネルギーやバイタリティには無縁の音楽が展開される。

これは「夜の音楽」と呼ぶべきだろうか。

あまり音の数も多くはなく、それでいて高度の緊張感を強いられる。厳しい緊張感の中に怪しく(妖しく)動く音にじっと耳をそばだてたい。

バルトークはあれだけ激しいリズムとエネルギーを爆発させる作曲家でありながら、その一方で、静けさに満ちた静謐極まりない音楽も同時に書いた作曲家だった。動と静の対比が半端ない。

バルトークは激しいエネルギーとバイタリティに満ちた音楽と、対照的な静けさに満ちた静謐な音楽の両者を自家薬籠中の物とし、一つの曲の中に見事に共存させることができたのである。これがバルトークの最大の魅力と言っていいだろう。

僕が愛聴しているバルトークの弦楽四重奏曲の全集のCD。ジュリアード弦楽四重奏団とベルク弦楽四重奏団。
僕が愛聴しているバルトークの弦楽四重奏曲の全集のCD。ジュリアード弦楽四重奏団とベルク弦楽四重奏団。

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第4楽章 Allegro pizzicato 約3分

何と驚くことに、この楽章は冒頭から終わりまで徹頭徹尾、ピッツィカートだけで演奏される。非常に風変わりな曲である。但し、そのピッツィカートがまた一筋縄ではいかない極めて個性的なものだ。

普通のピッツィカートとは違って、「バルトーク・ピッツィカート」と呼ばれるより強く弦を引っ張って指板に激しく叩きつけるようなピッツィカートである。

誤解を恐れずに少し大袈裟に言うと、ピッツィカートで喧嘩をするような感じなのである。ここでもバルトークの音楽はどこまでも挑発的で、激しいリズムで聴く者に容赦なく襲い掛かる。

聴いていてこれ以上ハラハラさせられるピッツィカートはない。挑みかかってくるような挑発的なピッツィカート、それに興奮させられてしまう。

第5楽章 Allegro molto 約5分半 

冒頭から非常に荒々しい音楽に圧倒させられる

耳をつんざく激しい不協和音。ほとんど暴力的なまでの激しく荒々しいリズムと音の嵐。これが開始2分程で一旦は収まる。突然嵐が収まったような感がある。

やがてまた嵐が襲い掛かってきて、後はもう興奮の坩堝に突入するだけとなる。

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第4番には興奮が収まらない

この第4番がバルトークの弦楽四重奏曲の頂点であり、バルトークの全作品を通じても最高傑作となる。

本当にこの曲には圧倒させられる。有無を言わせぬ迫力とリズム乱舞のバイタリティ。聴く者の感性を完全にノックアウトしてしまうエネルギーとバイタリティに満ち溢れている。

これを聴いたら興奮しないわけにはいかない。いや、興奮が収まらなくなる。

一方で、第3楽章の緊張を強いられる静謐な音楽も魅力的である。

本当になんという音楽を作ってしまったのか。しかも弦楽四重奏曲という最も研ぎ澄まされた凝縮の粋たる音楽でこれをやってのけたバルトークの天才に脱帽するしかない。

血が逆流するかのような有無を言わせぬ圧倒的な音の洪水とエネルギー。ほとんど暴力的なまでの嵐のような音楽。その怒涛のバイタリティに打ちのめされてしまう。

音楽を聴くというよりも、これはもう一つの体験だ。弦楽四重奏曲がたどり着いた究極の音楽。その音とリズムに身を委ねればもうそれでいい。

聴く者を戦慄させずにはおかない弦楽四重奏曲がたどりついた頂点を、存分に味わっていただきたい。

【第5番・第6番に続く】

 

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