素晴らしい映画に出会った
素晴らしい映画を観た。「THE GUILTY/ギルティ」という作品だ。
この映画との出会いに心から感謝したい。本当に久々の極上の映画体験となった。こんな映画とは滅多に出会えるものではない。
これは珍しいデンマーク映画である。しかも上映時間も88分と非常に短い映画。それでいて観終わった後の満足感と高揚感は他のどんな大作映画と比べても遜色がない。


本当にいい映画を観たという一言に尽きる。
観終わった直後にも深い感動に襲われたが、観終わってから日数を経るにしたがって、余韻がいつまでも尾を引いて、ドンドン映画の良さが嵩じてくるという奇妙な感覚も味わっている。
実験映画と呼んでもいい変わった映画
この映画は普通の映画とは大きく異なっている。ほとんど実験映画と呼んでもいいレベルの特殊な映画である。耳で聞く映画。視覚的にはほとんど何もなく、ひたすら音だけで進行していく変わった映画。
警察の緊急通報指令室という外部からの緊急電話を受ける部署のオペレーターが主人公だ。
そしてカメラは、一歩も指令室の外へ出ることはなく、主人公のオペレーターの警官と外部からの通報電話だけで進行していく。それだけで88分。
だから、我々観客は主人公のオペレーターと外部との電話のやり取りだけをひたすら聞かされるだけなのである。もちろんオペレーター側から外部に電話をかけることも頻繁だ。
いずれにしても、ここに展開されるのは、オペレーターの警官の話し声と、オペレーターの耳に入ってくる外部の人間との電話でのやり取りだけだ。その電話でのやり取りを通じて、電話の向こうで何がどのように繰り広げられているのか、それを主人公のオペレーターと一緒に想像するしかない。


それが大変な緊張感を強いられ、極上のサスペンスを呼ぶ。
車で刃物を持った男に拉致されて脅かされており、助けてほしいとするささやくような必死のSOSから始まる。
緊迫の88分の始まりだ。
映画の基本情報:「THE GUILTY/ギルティ」
デンマーク映画 88分(1時間28分)
公開 アメリカ 2018年1月21日 デンマーク 2018年6月14日
日本 2019年2月22日
監督:グスタフ・モーラー
脚本:グスタフ・モーラー エミール・ニゴー・アルバートセン
出演:ヤコブ・セーダーグレン、(声のみ)オマール・シャガウィー、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、カティンカ・エヴァース=ヤーンセン他
【受賞】
サンダンス映画祭観客賞 ロッテルダム国際映画祭観客賞、ユース審査賞 シアトル国際映画祭監督賞 チューリッヒ国際映画祭審査員賞 他多数
第91回アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表
キネマ旬報ベストテン:2019年度 第93回 第43位


デンマークの映画について
この映画はデンマーク映画である。指令室でも首都のコペンハーゲンが頻繁に出てくる。
デンマーク映画と聞いてもピンとこないかもしれないが、映画作りはかなり盛んな国で、優秀な監督を多数輩出している。
何と言ってもビッグネームは、ドライヤーである。カール・テオドラ・ドライヤー。「裁かれるジャンヌ」「奇跡」などで知られる世界の映画史の中でも屈指の天才監督である。
他では「ダンサー・インザ・ダーク」などで知られるラース・フォン・トリアーが日本では良く知られている。このトリアーは、あまりも暗く救いのないうつ病のような映画ばかりを作っていて、僕は大嫌いな監督なのだが、世界的な大監督であることは間違いない。
注目は「ドライヴ」を作ったニコラス・ウィンディング・レフンだろうか。このレフン監督は僕のお気に入りの監督の一人である。
「 GUILTY/ギルティ」の監督・脚本は
今回取り上げた「THE GUILTY/ギルティ」の監督・脚本のグスタフ・モーラーは、何とこの作品が初めての長編映画だという。
初めての長編映画がこんな思い切った実験映画のような作品だというのは本当に凄いことだ。大した才能である。僕にはとんでもない天才のように思われる。
なお、 GUILTYという言葉の意味は、「有罪」「罪を犯した」という意味である。これは映画の核心に迫るキーワードであることは言うまでもない。
どんなストーリーなのか
過去にある失敗をやらかして、現在は緊急通報指令室のオペレーターに甘んじている主人公の警察官アスガー。交通事故の手配など些細な事件の窓口電話業務であり、明らかな左遷人事だった。
退屈な業務の中、ある日、今まさに誘拐されて車で拉致されていると悲痛な声で訴える女性の緊急電話を受ける。緊急通報指令室は電話を現場の警察官などに繋ぐだけの責務なのだが、元々現場の警察官だったアスガーはそれだけで済ますことができず、越権行為とも言える救済策に出る。


電話だけを駆使して被害者の女性を助け出し、犯人を捕まえようと手を尽くす。元現場刑事による電話だけで誘拐事件を解決できるのか?誘拐犯人は殺人まで犯していることが明らかになる中で、被害女性を救い出すことはできるのか?
思わぬ展開が待ち受けている。
音だけで至高の映画体験
これは凄い。一刻の猶予もない緊迫した誘拐事件を指令室における電話だけで解決しようとする試みだ。映画はこの指令室の1室から全く動かない。途中で隣りの部屋に移動するだけで、あくまでも指令室の中の電話だけを通じて映画は進行していく。
正に実験映画と呼んでいいだろう。主人公のオペレーターと外線電話による音声だけで事件を描き出し、しかもその解決までも目指す。
その張り詰めた空気と全編を覆う緊迫感が半端ない。耳をそばだて、通話の声だけではなく周囲の音などにも注意を払い、見えない状況を想像しながら事件の真相に迫り、事件を解決させようとする試みだ。


良くぞこんな発想を思いついたものだ。徹底的に音にだけに拘って、アスガーは神経を集中させ、向こう側で起きている事件を想像しながら救済策を考え抜いていく。
これは本当に凄い映画となった。音だけによる至高の映画体験がここで繰り広げられる。
88分間は映画としてはかなり短いものだが、それが電話のやり取りと音だけによる展開となると、意味合いが全く変わってくる。
音だけで88分をつなぎとめるばかりか、手に汗握るハラハラドキドキ、最上級のサスペンスを実現した脚本と監督の手腕に驚嘆するしかない。
言葉だけで人生が変わる一瞬を描く
この映画の最大の山場は、その限定された条件によるサスペンスだけではなく、誘拐された女性を救い出すために、主人公のアスガーが自らの過去を語り始め、女性を説得して救おうと必死の試みを果たす場面だ。
電話でのやり取りを通じて、アスガーの過去の事件の真相が徐々にあぶり出されていく。その展開が見度の一語に尽きる。
断片的な電話での短い会話だけでお互いの人生が変わってしまう一瞬に立ち会うことになる。これには思わず感動させられる。
人を救うということは、こういうことだ。ここまでしなければ、人の心を動かすことはできないということだろうか。
説得を試みたアスガー自身の人生も確実に変わることになる。ちょっとそら恐ろしくなるような深い感動に襲われてしまう。
主演のヤコブ・ゼーダーグレンが絶品
主演のヤコブ・ゼーダーグレンは全く知らない俳優だが、絶賛したい。
電話の声と、その電話から聞こえてくる周囲の音を必死に聴こうとする姿、その張り詰めた表情と雰囲気が素晴らしいの一言。実に深みのある陰影に満ちた姿が、感銘を与えずにおかない。

気が短く、周囲のオペレーターや物に当たる人間的な弱さも、実にいい味で演じ切っている。映画の中で姿を現すのはこのアスガー以外には周囲のオペレーター数人だけだ。
つまり映画は、あくまでも電話でのやり取りと周囲の音、その電話で相手を説得し、指示を出して、相手の話しに耳を傾けるアスガーの姿だけが映されるのである。


映像としてはアスガー役を演じるヤコブ・ゼーダーグレンの姿しか映らない。自分が話し、相手の話しを聞くだけの姿。電話をしていないときは考え込むか、怒っているだけ。
これは俳優冥利に尽きる役だったに違いない。それを見事に演じ切った。凄い演技力だ。
ハリウッドでリメイクが作られた衝撃
この映画は3年後に何とハリウッドでリメイクが作られた。それだけ映画界に衝撃を与えたということだ。コンセプトも展開も全く同一のようだ。主演を演じるのは僕のお気に入りの俳優の一人、ジェイク・ギレンホールである。
ギレンホールのアスガー役もきっと素晴らしいものだろう。まだ観ていないが、こちらも非常に楽しみだ。
Netflix(ネットフリックス)で配信されている。


天才的な発想と出来栄えの完璧さ
初めての長編映画で存分に示されたグスタフ・モーラーの天才的な発想と、それを実際に完璧な映画にまとめ上げた手腕に最大限の賛辞を捧げたい。
世の中にはとんでもない才能の持ち主がいるもんだ、とあらためて驚かされた次第。
お見事の一言。
アマゾンプライムで見放題となっている。これは何としても観ていただきたい至高の映画だと強調しておきたい。