バルトークの音楽は本当におもしろい
バルトークの畢生の大作6曲の弦楽四重奏曲について詳細に紹介してきたが、バルトークの音楽は本当におもしろく、興味が尽きない。
作品数はかなり多く、様々なジャンルに傑作がある。6曲の弦楽四重奏曲が稀有な高みに達したバルトークの最高傑作であることは間違いないが、他にも名作はたくさんある。
但し、問題は、国内盤のCDが直ぐに廃盤となって、僕のお気に入りのディスクが紹介できないことだ。
僕が強くお勧めしたい大のお気に入りは、パントマイムのための舞台音楽「中国の不思議な役人」というオーケストラ曲。
この名作のCDが何と国内盤では入手できない。
「マンデリン」と呼ばれている「中国の不思議な役人」を聴けば、バルトークという作曲家が自分が描こうする音楽のために如何に奇抜で過激な表現を用いたのか、良く分かる。僕にとって「打ちのめされるようなすごい音楽」の筆頭に上がってくる音楽だ。
他にも「弦チェレ」こと、「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」というバルトークの最高傑作も、最も世評も高く、僕のお気に入りでもある演奏が廃盤だ。全く困ったことである。
国内盤が出ているCDでチョイスしたところ、浮上したのがピアノ協奏曲だった。
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バルトークのピアノ協奏曲(概要)
バルトークのピアノ協奏曲。これには名盤がいくつもあって、現在でも国内盤も含め入手可能だと判明した。これは嬉しい。
バルトークのピアノ協奏曲は全部で3曲ある。いずれも素晴らしい傑作である。



バルトークという作曲家の全体像を把握しようとした場合、6曲の弦楽四重奏曲と3曲のピアノ協奏曲を聴いてもらえば、その概略をかなり正確に把握することができるだろう。
【ピアノ協奏曲第1番】Sz.83 1926年8月~12月 45歳 3楽章 約24~25分
弦楽四重奏曲第3番の(Sz.85)の前年の作曲
【ピアノ協奏曲第2番】Sz.95 1930年8月~1931年9月 49~50歳 3楽章 約26~27分
弦楽四重奏曲第4番(Sz.91)の2年後、第5番(Sz.102)の3年前の作曲。
弦楽四重奏曲の最高傑作とされる第4番と第5番の中間地点で作曲された重大な作品。
【ピアノ協奏曲第3番】Sz.119 1945年 64歳 3楽章 約25~26分
弦楽四重奏曲第6番(Sz.114)の6年後の作曲。この作品はバルトーク最後の作品。
完成まで残りわずかまできて、急変により入院。作曲は中断され、4日後に息を引き取った。
第3楽章の最後の17小節は弟子がバルトークのスケッチやメモを基に補筆された。
いずれも3つの楽章からなり、演奏時間も約24~27分程度。3曲とも良く似た陣容であるが、音楽の内容、スタイルにはかなり違いがある。
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ピアノ協奏曲第1番 Sz.83
バルトーク45歳の時に作曲された最初のピアノ協奏曲。弦楽四重奏曲第3番の前年に作曲されただけあって、いかにもバルトークらしさが全面に打ち出された傑作だ。
弦楽四重奏曲第3番での実験を更にこのピアノ協奏曲第1番で早くも実践しているようなかなり前衛的な力強い音楽がこれでもかと展開する。
オーケストラ部分が極めて演奏困難な曲としても知られている。

初演は、アッと驚く顔ぶれであった。1927年7月1日、フランクフルトでの初演。ピアノはバルトーク自身が担当し、オーケストラは何とあの有名なフルトヴェングラーが受け持った。
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第1楽章:Allegro moderato- Allegro 約9分半
これはいかにもバルトークらしい激しく、エネルギッシュな音楽である。冒頭から不穏な響きが充満して、もの凄い勢いで迫ってくる。
一筆書きで一気になだれ込むような有無を言わせない強烈な音の流れ、その音の洪水に打ちのめされてしまう。シンコペーションを多用した裏打ちのリズムの激しさに先ずは圧倒される。
ピアノを徹底的に打楽器的に用いているのも、いかにもバルトーク。不協和音も頻繁に出てきて、挑戦的かつ刺激的な音楽のオンパレードとなる。
ピアノ部分はもちろんだが、オーケストラ部分が極めて演奏困難であることが良く分かる。初演のフルトヴェングラーもオケをコントロールできなかったと言われている。
第2楽章:Andante-Allegro-attacca: 約8分
これは典型的なバルトークの夜の音楽である。静謐な音楽でありながら、ピアノはあくまでも打楽器として用いられている。
徐々にクレッシェンドしてきて、終盤で突然、闇夜が切って落とされ、第3楽章に突入する。
第3楽章:Allegro-Allegro molto 約7分
激しく縦横無尽に動き回るピアノが印象的だ。激しいリズムに彩られ、ピアノはメロディを歌うことはなく、打楽器に徹しているように聞える。非常に細かいリズムが、これでもかとばかりに迫ってくる。
戦場を思わせるような音楽と言ってもいいかもしれない。
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ピアノ協奏曲第2番 Sz.95
6曲ある弦楽四重奏曲の最高傑作とされる2つのピーク、第4番と第5番の間に作曲されたピアノ協奏曲第2番は、この事実だけで内容の傑出さが保証されたようなものだ。
激しいリズムとピアノを徹底的に打楽器として用いる手法など、バルトークの魅力が全面に打ち出されたエネルギッシュな作品だ。
バルトークが50歳になる最も脂が乗った時期に丸1年かけて作曲された名作である。

ピアノの演奏が困難を極めることでも有名で、古今の数えきれない程のピアノ協奏曲の中でも最も演奏困難な曲らしい。
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第1楽章:Allegro 約9分半
非常に印象的な賑やかな音楽で開幕するが、この楽章で驚かされるのはオーケストラにヴァイオリンやチェロなどの弦楽器が全く用いられていないこと。その分、金管楽器が全面に出てくる。ブラスバンドとピアノによる賑やかなお祭りのようなイメージである。
トランペットを始めとする金管楽器がピアノと一緒になって、派手に暴れまわる。
だが、聴いていて、実に気持ち良く、開放感に包まれる。
第2楽章:Adagio-presto-Adagio 約11分半
静謐を極めた音楽で、耳を澄まさないと音楽が聞こえてこないくらい。これまた典型的な夜の音楽で、神経を研ぎ澄ましてしっかり聴きこまないと、音楽が分からない。遠くで鳴る稲妻のような弦楽器の音に、静かにピアノが響いてくる。
嵐を予感させる不気味な音楽が次々に迫ってくる様子が、ちょっと怖い。
この楽章では一変して、オーケストラでは弦楽器が中心となり、金管楽器は用いられない。
静謐な音楽がプレストに入って、激しさを増してくる。激しく動き回るバルトークならではの音楽がっこで展開される。
第3楽章:Allegro molto 約6分
ドーンという太鼓の音と共に、狂気にも似た音の饗宴が始まる。
極めてエネルギッシュで、激しいリズムに彩られた音の洪水。オーケストラは遂に弦楽器も金管楽器もフル動員され、音の洪水を大いに盛り上げる。
これはいかにも最盛期のバルトークの音楽だ。
その独特の激しいリズムを聴いていると、こちらまで身体が動き出してしまう。これぞバルトーク!
この強烈なリズムとエネルギーと底知れぬバイタリティー。圧倒される音の洪水に身を委ねてしまうのが正しい対処方法。
バルトークの真骨頂をここに聴くことになる。
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ピアノ協奏曲第3番 Sz.119
これは前述のとおり、実質的にバルトークの最後の作品。正にバルトークの「白鳥の歌」である。
ナチスドイツと、その傘下に入ってしまった故郷のハンガリーを嫌って、最終的にアメリカに亡命したバルトークは、アメリカの地に馴染めなかった。「オケコン」の名前で親しまれている「管弦楽のための協奏曲」などアメリカ時代にも傑作を残したバルトークだったが、プライドの高さも災いして、赤貧の生活を送る。
そんなバルトークの最後の作品。療養中の白血病の悪化による緊急入院で、作曲を中断され、厳密にいうと完成できなかったが、最後の17小節は弟子が補筆して現代に伝わる。
妻への誕生日プレゼント
この作品はピアニストとしても有名だった愛妻のディッタ(ディッタ・バーストリ=バルトーク)の誕生日祝いとして作曲されたものだった。

初演も本来はディッタによってなされるべきであったが、バルトークの急逝による心身のダメージで対応できず、バルトークが信頼していたピアノの弟子シャーンドル・ジェルジによって行われた。
その後、ディッタは1960年代に入って録音している。

妻への誕生日プレゼントだったこともあって、バルトークらしからぬ古典的な美しさに溢れた親しみやすい名曲となっている。
実に穏やかな温厚な音楽を聴くことができるが、その音楽はどこまでも簡潔で無駄がない研ぎ澄まされたものだ。
その意味で、第1番と第2番に勝るとも劣らない人気を誇っている。
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第1楽章:Allegretto 約8分
いきなり印象的なピアノのメロディが流れ出すあたり、冒頭からこの美しい音楽にすっかり心を奪われてしまう。
リズムは強調されるが、若き日の激しい怒りに燃えたエネルギッシュさとは全く無縁な幸福感に満たされてしまいそう。
調性はハッキリとしていて、ホ長調。伝統的なソナタ形式になっている点もバルトークらしくない。非常に落ち着いた聴きやすい音楽である。
第2楽章:Adagio religioso 約11分
レリジオーソは「宗教的に・敬虔に」という意味の音楽用語で、静かに祈るような雰囲気で演奏することを意味する。その指示とおり、極めて印象的な美しい曲である。
バルトークが作曲した最も優美な音楽と言ってもいいかもしれない。美しいピアノが切々と聴く者の心の琴線に迫ってくる。
と言って、単に美しいだけの音楽ではない。そこには暗い陰影も加わり、故郷を追われ、アメリカという馴染めない土地で貧しさに喘いでいたいたたまれなさと深い絶望が悲痛な響きとなって鳴り響いてくる。
第3楽章:Allegro vivace 約7分
この楽章はバルトークらしい迫力やリズムが全面に出てくるが、ハンガリー時代のような激烈さや怒りとは無縁で、むしろ幸福感に満たされているように感じる。
研ぎ澄まされた簡潔さの粋。病魔と赤貧に戦い抜いて死んでいくバルトークがこんな澄み切った音楽を最後に残してくれたのは奇跡と言ってもいい。
まるでモーツァルトのようなバルトークがここにいる。
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いずれも傑作で優劣付け難い名曲
3曲のピアノ協奏曲はいずれも傑作であり、それぞれ優劣付け難い名曲である。
第1番と第2番は、いかにもバルトークの最盛期を代表する傑作として、バルトークらしい挑発的な激しいリズムと野性的なバイタリティーに圧倒される音楽だ。
この魅力には抗し難い。
一方で最後の作品となった第3番は、全く異なる音楽だ。極めて簡潔な無駄のない音楽で、古典的な名曲。バッハ、いやモーツァルトを思わせる音楽だ。
バルトークの最も美しい音楽で、これに親しむのももちろんバルトークの楽しみである。
3曲を通して聴くと75分以上、演奏によっては80分近くかかるが、これを聴くことはクラシック音楽ファンの最高の贅沢となる。
多様なバルトークの魅力を、1枚のCDで味わえるのはかけがえのない体験だ。
名盤に恵まれているが
この曲は昔から名盤に恵まれている。
僕は古い録音だが、ゲザ・アンダのピアノ、フリッチャイ指揮の演奏をずっと聴いてきたが、それも今は入手困難となっている。
他にもシフやポリーニなどの名盤があるが、現在、一番熱心に聴いているのが、ブーレーズ盤である。
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3人のピアニストによるブーレーズ盤が凄い
ブーレーズはフランスの著名な現代音楽作曲家にして、晩年は世界最高の指揮者に上り詰めた大音楽家である。特に現代音楽を指揮させてブーレーズの右に出る指揮者はいない。
バルトークも非常に熱心に録音しているが、中でもこのピアノ協奏曲が素晴らしい。


このCDのおもしろいところは、3曲のピアノ協奏曲を、それぞれ別のピアニストに演奏させていることだ。
実は、ピアニストを変えているだけではなく、ブーレーズはオーケストラも3つのオケを使い分けている。
第1番はポーランドの大ピアニストのツィマーマンとシカゴ交響楽団、第2番はノルウェーの気鋭のピアニストのアンスネスとベルリン・フィル。第3番はフランスが生んだ最高の女流ピアニストのグリモーとロンドン交響楽団となっている。


これが見事に大成功。
バルトークの音楽はハンガリーの民族色が非常に濃厚な音楽だが、このCDを聴くと、バルトークの音楽の普遍性が実に良く分かる。
これは必聴の1枚と言っていい。
これを聴いて、バルトークの魅力を存分に味わっていただきたいものだ。
☟興味を持たれた方は、どうかこちらからご購入をお願いします。
① ブーレーズ(指揮者)盤
1,588円(税込)。送料無料。
② フィッシャー(指揮)、シフ(ピアニスト)盤
1,100円(税込)。送料無料。
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WARNER CLASSICS NEXT BEST 100 52::バルトーク:ピアノ協奏曲全集 [ アンドラーシュ・シフ ]
③ アバド(指揮)、ポリーニ(ピアニスト)盤
1,504円(税込)。送料無料。
これは素晴らしいCDですが、第3番が含まれていません。第1番と第2番だけなら、最高の演奏です。

