3月に読み終えていたが
高坂正堯が書いた歴史に関する本は、引き続き継続して読み続けている。
今回取り上げる「世界史の中から考える」は、僕にとって高坂正堯が書いた新潮選書の3冊目である。
実はもう半年以上前、今年の3月中旬に読み終えていたのだが、ブログ記事に取り上げるタイミングを逸してしまい、放置したまま今日に経ってしまった。
読み終えて7カ月以上経過してしまったので、今回改めて記事を書くに当たって、もう一度じっくりと読み返してみた。


これが実に素晴らしいのである。二度目の熟読に、少しも退屈しないばかりか、いよいよ深い感銘を受けることになった。
実に味わい深く、勉強になる。読めば読むほど、1回目では読み過ごしてしまったことにも新たな気づきがあることも度々で、読むほどに「なるほど、そういうことか」と歴史認識が深まってくる。
最高級の歴史エッセイを読む悦びを感じさせる貴重な1冊だ。
深い感銘と興奮が収まらなくなる。
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高坂正堯「世界史の中から考える」の基本情報
新潮選書。1996年11月25日発行。ちょうど発行から30年経っている。僕の手元の本は2023年11月10日の17刷である。
このような歴史エッセイが30年間に渡って読み継がれ、印刷も繰り返し行われていることに感動させられる。それほど内容の濃い名著ということだろう。
目次を含めて214ページ。
但し、高坂正堯の他の新潮選書にはあった解説がないのが残念。本書は京都大学の中西寛教授が校訂を務めているので、是非とも中西教授の解説を読みたかったものである。
本書は新潮社刊の月刊誌「FORESIGHT」誌上に1991年1月号から1994年11月号まで連載された記事をまとめて1冊にしたものである。元々高坂正堯との合意によって1巻の単行本にまとめる予定であったが、高坂の急逝により、京都大学法学部の助教授だった中西寛によって校定され、発行されたものである。


本書の全体の構成
月刊誌「FORESIGHT」に連載された読み切りの記事をまとめたものなので、本書にはほぼ同じ長さの歴史エッセイが集められている。
数えてみたら、全部で39本ある。1991年1月号から1994年11月号まで約4年間に渡って、基本的に毎月書かれてきたものとなる。
1回あたりの分量は、本書の紙面にして5ページが割り振られ、字数は1本あたり約4,000字前後となっている。
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1話読み切りだがシリーズも4本
月刊誌に連載された記事であり、全て1話読み切りとなっている。最初の13本は全て完全に読み切りだが、後半は同じテーマによるシリーズものが続く。

そのシリーズには2話だけのものを含めて4シリーズある。
1.太平洋戦争 2話
2.バブルで亡んだ国はない 5話
3.政治の良し悪し・近代初期イギリスの政治から 8話
4.日本政治史から考える 11話
特に高坂の専門である最後の2本のシリーズが、本書の白眉と言えそうだ。
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本の作りとして若干の違和感あり
但し、このシリーズ化された4つのテーマについては、本の作りとして僕には若干の違和感、いや抵抗がある。
もちろん高坂正堯が書いた文章の内容ではなく、あくまでも本のまとめ方に関してだ。
目次の表記のこと。本書の目次を見てもらう。


これは僕の感覚からいうと、シリーズのテーマ(タイトル)を頭にもってきて、その下に番号を付けて並べるべきではないかと思ってしまう。
例えば、
政治の良し悪し・近代初期イギリスの政治から
Ⅰ 大政治家というシジフォスたち
Ⅱ 幸運にして名誉ある革命
Ⅲ 野蛮な過去が生んだ議会主義 etc.
日本政治史から考える
Ⅰ 好提督・米内光政の失敗
Ⅱ 山本五十六の知られざる一面
Ⅲ ナショナリズムの必要性と危険性 etc.
こうしてもらった方が、ずっと分かりやすいし、思考の整理にもなると僕は考える。目次としての見た目もずっと美しい。
オリジナルはあくまでも月刊誌に連載された記事であり、毎回の雑誌の独立性を強め、オリジナリティを貫こうとすればこうなるのだろうが、単行本にするに当たっては、それなりに工夫してもいい、いや工夫すべきではないだろうか。
まあ、趣味の問題であって、高坂正堯の文章にも、本そのものには何の問題もない、念のため。
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東欧革命、ソ連崩壊という時代背景
この連載が、1991年の1月から始まったことが一つのポイントとなる。
1991年は世界史上のエポックメーキングの年である。あの超大国ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が消滅した年である。
連載が始まった時点ではまだソ連は存続していたが、ゴルバチョフによるペレストロイカを皮切りに、1989年の東欧革命によってベルリンの壁が崩壊し、東欧諸国から共産主義が消滅した時代であった。
東西ドイツが統一され、冷戦が終焉を迎える正に歴史上の未曽有の大激動期であった。
更にその延長線上で旧ユーゴスラヴィアの血で血を洗う悲惨な内戦も勃発する。
そんな時代だっただけに、この高坂正堯の連載にも否が応でもゴルバチョフや東欧革命、共産主義の崩壊が話題の中心になってくる。ソ連を巡ってはどうしてもスターリンに触れないわけにはいかず、そうなれば当然ヒトラーも登場してくるといった具合になる。
この近現代史で最も興味深い未曽有の大変革期を、高坂正堯がどう見つめ、どう評価し、そこから何を学び取ろうとしていたのか。
そのあたりが興味尽きないのである。
バブル崩壊と湾岸戦争も
更に日本のバブル崩壊が正にこのタイミングであった。一般に日本のバブル崩壊は1990~1992年頃と言われており、正に高坂の連載と見事にフィットしている。
本書の中にもバブル崩壊絡みの記事が頻繁に、それこそ繰り返し出てくる。例のシリーズでも「バブルで亡んだ国はない」をテーマに、5話も費やしている。
湾岸戦争も大きな話題となっている。湾岸戦争は1990年のイラクのフセインによるクウェート侵攻を発端に、1991年に多国籍軍がイラクと戦った戦争であり、これも完全にタイミングが重なっている。
これら歴史的な大事件ピッタリのタイミングで、素晴らしい連載を行ってくれたことに感謝するしかない。むしろこんな激動の時代だったからこそ、高坂正堯に連載の依頼がなされたのであろうが。
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示唆に溢れる名言の数々
本書には高坂正堯ならではの示唆に富む名言が山のようにある。歴史と現代社会を考えるに当たって、またとないヒントとサジェッションに満ち溢れている。
僕が特に感銘を受け興奮させられた名言をいくつか披露させてもらう。
「成功にはときとして挫折以上の苦い味がある。成功には長期的には失敗の種子を内包している。それが現実化するのは、あらゆる原則には例外があることを成功が忘れさせるからではないだろうか」
「成功は恐ろしいものであることを、つくづく思わされるこのごろである」
「大きな目標が達成された後、とくにそれが急速に達成された後、人間はそう幸せになれないものらしい」
「偉大な政治家は困難な状況が生み出すものと言えそうである。(中略)逆に大きく発展した国は、あまり大政治家を生み出していないのである。ここに政治の不思議さがある」
「一旦否定されたものが復活するとき、それは不吉な力を持ちがちである」
これらはホンの一例に過ぎない。後はご自身で実際に読んでみて感じ取ってほしい。
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含蓄に富む至高の歴史エッセイ
本書は高坂正堯ならではの非常に含蓄に富む第一級の歴史エッセイの集大成と呼ぶしかないものだ。
正に人類史上でも例をみない共産主義の偉大な実験が失敗に終わったという歴史的大事件の真っ最中に、最高の知性がリアルタイムで書き綴った珠玉の文章である。
貴重な文章を残してくれたものである。我々読者は大変な幸運に恵まれた。

熟読に値する高坂ならではの歴史観
それぞれの記事は4,000字程度のそれほど長いものではない。したがって未曽有の歴史的大事件を前に、学者ならではの縦横無尽の分析を行ったものではない。ここに書かれているのは専門的な歴史の分析ではなく、あくまでも歴史をテーマとしたエッセイである。
だが、その長くも短くもない4,000字と言う絶妙な文字量に込められた、稀代の政治学者にして歴史家の歴史の本質と真実を見抜く眼力が遺憾なく発揮されている。
しかも決して難しくなく、非常に読みやすいのが嬉しい。これが最高の魅力と言ってもいい。
極めて含蓄と示唆に富む珠玉の歴史エッセイ。繰り返し熟読に値する名著。
限られた文量の中で歴史の本質に鋭く迫る稀代の歴史家の本領が発揮され、高坂史観のエッセンスを心ゆくまで味わうことができる。
一人でも多くの方に読んでいただきたい1冊だ。
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